速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
はてな

商談中のメモはほぼ書かなくてよくなる — 録音と文字起こしで、数字と条件と訂正を商談後に拾う

わたしは、営業を15年続けてきた速水拓真です。

前回(第33回)では、商談の冒頭1分を「訂正を引き出す」ために使う話を書きました。脚本をAIに組ませておき、自己紹介と仮説を60秒に収める。仮説が外れた相手は「いや、そこは違うんです」と訂正の言葉を返してくる。その訂正こそが相手の本当の課題で、次回の提案の芯になる——という話でした。

しかし、大事なのは引き出した「あと」です。冒頭で出た訂正、30分の間に口をついて出る数字と条件。それを商談の間にどう残すのか。本日はその答えを書きます。

結論から言うと、答えはメモ術ではありません。録音と文字起こしです。商談中のメモは、ほとんど書かなくてよくなります。

30分の商談に、9,000〜12,000字が流れている

まず、量の見当を付けておきます。日本語の会話は、1分あたり300〜400字流れます。30分の商談なら9,000〜12,000字。A4で5〜7枚ぶんの情報量です。

この量を、話を聞きながら手で拾うことは不可能です。だから現場のメモは「重要そうなところ」だけを拾う形になります。ここで失敗が起きます。「重要そう」という判定を商談中にやるのが間違いなのです。話の流れに追われている人間に、後から効く情報の見極めはできません。目の前では、今どんな質問を返すかで頭が一杯です。

判定は商談後、落ち着いてからやる。商談中にやるのは録音と、時刻のメモだけ。本日は、そのための道具を2本作ります。

思い出しながら書く議事録が、案件を弱くする

録音のない議事録は「思い出し」で書かれます。ここに2つの損があります。

1つ目の損は、時間です。 走り書きしたメモを読み返し、記憶をたぐり寄せて議事録を1〜2枚仕上げる。慣れた人でも1件45〜60分かかります。週4件商談に入る営業なら、月に12〜16時間が議事録だけで消えます。丸1日の稼働が約2日分です。

2つ目の損は、中身です。 思い出しながら書いた議事録は「自分が言ったこと」中心になります。自分のトークは構成ごと覚えている。一方で相手の発言は、流れて消えます。ところが、次の商談とフォローメールで本当に要るのは相手の発言です。

「予算は来期から」「今使っているのはB社」「最終判断は社長」——この3行が残っていれば案件は動きます。残っていないから、次の商談で聞き直しが発生する。相手は「前もお話ししましたよね」と冷めます。

第13回で、商談後メモを5分で議事録の形に変える型を紹介しました。あの型は、録音のない世界で「思い出しの時間」を減らす型です。本日の道具は、その土台ごと機械に任せてしまおうという話です。

数字は条件とセットで初めて意味を持つ

もう1つ、商談中の損があります。相手が数字を口にする瞬間は、決まって話の流れの途中です。

例えばこうです。「うちはだいたい月30万くらいを、それに保守が別で年間60万くらいかな」。切れ目ではなく、途中で出てきます。この一瞬にメモを取っていると、前後の条件が聞けません。「月30万」は拾えたのに、「保守は込みか別枠か」を聞き逃す。数字は条件とセットで初めて意味を持ちます。次の見積もりの精度を決めるのは、数字そのものではなくこの条件側です。

そして前回書いたとおり、冒頭の仮説が外れたとき、相手は訂正の言葉を返してきます。その訂正こそ、相手の本当の課題です。手書きのメモは、この一番値段の高い部分を落とします。本日の道具は、メモの負荷を商談中から全部取り去り、数字と条件と訂正を商談後に自動で残すための道具です。

道具14: 商談記録セット — プロンプトではなく「型」

最初の道具は、AIに渡すプロンプトではなく「型」です。印刷するか、メモアプリの定型文に保存して商談バッグに入れておきます。中身は4つの箱です。

■ 箱1:録音の断り文句(定型文)

本日のお話を議事録に正確に残すため、録音をさせていただいてもよろしいですか。音声は社内の議事録作成以外には使いません

■ 箱2:断られた場合の返し

承知しました。メモで取らせていただきます

言われたら即答して商談を始めます。以後、録音の話は蒸し返しません。

■ 箱3:ファイル名の規則

  • 形式は「YYYYMMDD_ 相手会社名_ 相手担当者名」
  • 例:「20260612_○○工務店_佐藤様」

■ 箱4:商談中の見出しメモ

1行目に開始時刻を書きます。あとは区切りが来たときに、「時刻+5文字以内のキーワード」を1行1個で足します。書く回数は3〜4回で足りるものです。

  • 開始14:00
  • 14:05 現状
  • 14:12 課題
  • 14:20 予算
  • 14:33 競合
  • 14:41 決裁
  • 14:52 次回

書く場所の答えも済んでいます。第32回で紹介した質問リストのA4には、最上部に前回の冒頭脚本が書き足してあるはずです。その余白に見出しメモを書く。商談中に参照する紙は1枚で足ります。

■ 商談後30秒の作業

終わった瞬間にやることは3つだけです。

  1. 録音ファイルに、規則どおりのファイル名を付ける
  2. 紙に書いた見出しメモを写真に撮る
  3. 録音できなかった場合だけ、5分ボイスメモを録る

録音は、たった一言で9割は通る

録音を断られることを怖がる営業は多いのですが、断られる原因の多くは言い方です。「念のため録音させていただいても……」と弱く言えば警戒されます。議事録に残すという目的を、主語をはっきり言って伝える。私の経験では、10商談の9はこれで通ります。

始める前の確認が1つあります。自社の規則や顧客との契約で、商談の録音が制限されていないか。金融や官公需向けの営業では制約を持つ会社もあります。運用を始める前に、自分の会社の規定だけ確認しておいてください。

断られたら粘りません。「承知しました」と即答して商談を始める。断られたあと、隠して録るという選択肢は最初からありません。録音の話を蒸し返すこと自体が信用のマイナスです。断られた場合の保険は、次の箱に用意してあります。

Web会議なら準備は3分です。Zoom、Teams、Google Meetはいずれも録画時に参加者へ自動で通知・許諾を求める仕組みを持つので、「録画の許諾を求める」をオンにする。対面ならスマホを机の真ん中に置きます。服のポケットに入れると音が布にこもります。オンラインか対面かで録音先が変わるだけで、この先の工程は同じです。

録音を断られたら「5分ボイスメモ」

録音できない商談でも、記録の8割は取れます。商談が終わって相手と別れたら、歩きながらかエレベーターの中で、スマホに向かって5分話します。声で5分なら800字前後になります。話す順は決めておきます。

  1. 相手が言った数字と条件
  2. 決まったこと
  3. 相手の宿題
  4. 自分の宿題

これを文字起こしして、後の道具15に通します。録音ありに比べれば精度は落ちますが、思い出しながら60分かけて書く議事録より、相手の発言が確実に残る分だけ上です。

文字起こしは「生のままでいい」

録音した音声は、ファイルを貼ると文字を返してくれるサービスに回します。よく選ばれるのはCLOVA NoteやNottaです。無料枠があるので、まず1件試す。月20商談ぶんなら、無料〜月1,000円前後のプランで足ります。30分の音声の処理は5〜10分。商談が終わって駅に着く頃には、文字起こしが並んでいます。

生の文字起こしは読めたものではありません。体感で9割方合っていますが、人名・社名・製品名が崩れます。それで構いません。この後の道具15は、生の文字起こしをそのまま処理する前提で作るからです。あなたが用意するのは固有名詞のリストだけ。プロンプトに「誤変換しやすい固有名詞」を書いておけば、AIが文脈で直します。

AIに入れてよくてもよい情報の約束を1つ。文字起こしと議事録の生成は、会社が契約したAI(企業・有料プラン)に限ること。無料の個人アカウントに顧客名・金額・契約条件を貼るのはやめます。企業プランなら入力データをAIの学習に使わない設定ができます。営業が守るべきはこの1行で足ります。

道具15: 議事録生成プロンプト — 生文字起こしをそのまま貼る

2本目の道具は、生の文字起こしを貼ると9項目の議事録を返すプロンプトです。【】の中身を商談ごとに差し替えて使います。

【道具15 議事録生成プロンプト】

あなたは営業の議事録作成担当です。以下の商談記録から議事録を
作ってください。

■ 商談情報
・商談日:【日付】
・相手:【会社名/部署/役職/名前】
・商談の種類:【初回/提案/デモ/見積提示/クロージング】
・話者:話者1=私(【自分の名前】)/話者2=【相手の名前】/
  その他は判断して設定
・誤変換しやすい固有名詞:【会社名・製品名・人名を列挙】
・次回予定:【日時と内容。未定なら「未定」と書く】

■ 文字起こし
【ここに貼る。生のままでよい】

■ 商談中メモ(時刻+キーワード)
【ここに貼る。なければ「なし」】

■ 出力形式(この見出し順で)
1. 商談概要(3行以内)
2. 相手の発言で残すべき事実(数字を含む。可能なかぎり相手の
   言葉のまま。時刻が分かれば末尾に(時刻)を付ける)
3. 決まったこと・合意したこと
4. 相手の懸念・ネガティブな発言(言葉のまま残す)
5. 私が約束したこと(期限付き)
6. 相手が約束したこと
7. 私の次のアクション(期限付き、最大5個)
8. 次回の予定と議題
9. 確認メモ:商談中メモの各見出しに対応する原文1文を
   「見出し→原文」で並べる

■ 注意
・誤字は文脈で直す。固有名詞リストを最優先に反映する。
・聞き取れない部分は(不明)と書く。推測で埋めない。
・相手の発言を要約しすぎない。数字・条件・名前はそのまま残す。
・商談中メモが「なし」なら、9は出力しない。

録音を断られた場合も、5分ボイスメモの文字起こしを同じ欄に貼れば同じ形で出ます。話者が1人でも9項目は作れます。

出力の9項目は、こう使う

各行の行き先を書きます。

  • 1. 商談概要(3行以内) — 日報と案件管理表にそのまま貼れる。
  • 2. 相手の発言で残すべき事実 — フォローメールの引用素材です。相手の言葉で書いたメールは、自社の言葉で書いたメールより返信が戻りやすい。
  • 3. 決まったこと・合意したこと — 次回の商談冒頭で使う行。
  • 4. 相手の懸念・ネガティブな発言 — 断られフォローの原材料です。きれいにまとめ直さず、相手の言葉のまま残す。
  • 5. 私が約束したこと(期限付き) — 商談の熱が引いた夕方には消える行です。この行だけは毎回読み返す。
  • 6. 相手が約束したこと — 次回の商談冒頭で確認する。前回の冒頭脚本に「宿題の確認」として組み込めます。
  • 7. 私の次のアクション(期限付き、最大5個) — 案件管理への写し先。
  • 8. 次回の予定と議題 — 当日中に日程が固まるかで、案件の温度が分かります。
  • 9. 確認メモ — 見出しメモと原文を照合する表です。ここだけは必ず2分読んでください。AIが数字を書き換える事故は、この照合でほぼ防げます。数字を相手に送る前に原文へ当たる。この1手順だけは手で守ってください。

議事録が当日に並ぶと、第14回で書いた「商談後24時間でフォローメールと提案書を下書きする」入力が、商談が終わった時点で全部揃います。「メモを書く」工程が消えたぶんだけ、商談後に打つ一手に時間が回ります。

数字と条件が、両方残る

生の文字起こしに、こう並んでいたとします。

話者1:では今の運用、おいくらで回していらっしゃいますか。
話者2:だいたい月30万くらいを、それに保守が別で年間60万
くらいかな。あ、保守は込みじゃなくて別枠ですね。

道具15は、こう返します。

2. 相手の発言で残すべき事実
・運用費は月30万前後「だいたい月30万くらいを」
・保守費は年間60万前後。込みではなく別枠
  「保守は込みじゃなくて別枠ですね」

見出しメモの「14:20 予算」の1行からここへ数秒で飛べます。9,000字の文字起こしを最初から読み直す必要はありません。手書きメモが拾いがちなのは「月30万」だけですが、次の見積もりで効くのは「込みではなく別枠」の条件です。この2行が両方残ること。それがこの道具の目的です。

全体の流れ — 当日で20分前後

時系列で並べます。

  1. 商談終了(0分)
  2. ファイル名を付けて文字起こしに回す(30秒)
  3. 帰り道に処理完了(5〜10分)
  4. 道具15で議事録生成(3〜5分)
  5. 確認メモで原文照合(2分)
  6. フォローメール送信
  7. 議事録の要点を案件ブリーフに書き戻す(3分)

合計は20分前後です。思い出し議事録の45〜60分と比べれば、1件あたり30分、月20商談で10時間の差になります。

7番目の「案件ブリーフ」は、前作『営業の仕事をAIに任せろ』で作った道具です。相手会社・課題・キーマン・進捗を1枚にまとめた1枚で、本作の商談準備はこのブリーフが土台になっています。商談のたびに議事録の要点を書き戻せば、次回の準備はゼロから始まりません。ブリーフを読むだけで済みます。

ここまでを、前の連載の流れに乗せて並べてみます。商談前のブリーフ、冒頭脚本の60秒、質問リスト、商談前メモ5箱。そして本日の録音と文字起こし。商談の前と中の部分が、全部繋がりました。残るは商談後の処理——フォローメールと次回の準備——を自動で回す部分です。その工程を回すのが、章のこの先です。

最後に、なぜ「当日」にこだわるのか。議事録とフォローメールの価値は、半減期で決まります。当日に届けば、相手の記憶が残っているうちに「決めたこと」を確定できる。翌日以降だと、相手の中で話が並び替わって、確定までの日数が伸びます。この一連の自動化の最大の利益は、正確さよりも速さです。商談が終わって一駅歩く間に文字起こしが並び、議事録の9項目が並ぶ。この状態が当たり前になると、商談後のあなたの仕事は「議事録を書く」から「次の一手を打つ」に変わります。

今日やること

  1. 道具14を印刷して商談バッグに入れる(5分)。 断り文句を自分の言葉に1回直し、声に出して読む(5分)。あわせて、自社の規則で商談の録音に制約がないかを今日確認しておく。次の商談から録音運用を開始します。
  2. 文字起こしの環境を1つ決める。 Web会議が主なら、録画と文字起こしの設定をオンにする(10分)。対面もあるなら、録音アプリかボイスメモのショートカットをロック画面に置く(3分)。複数を併用せず、1つで回します。
  3. 道具15を自分のAIに保存して、直近の商談を1件議事録化する(3分+15分)。 録音がなければ、思い出しながら5分ボイスメモを録ってから通します。出てきた9項目を読んで、自分の商談に不要な項目は削ってよい。議事録の形式は、使う本人が決めてよいのです。1件仕上げられれば、今日は合格です。

🎁 読者特典3点セット(無料)
- ① 提案書3層プロンプト — 40分で6枚の提案書を出す、貼って動く完全版
- ② 調査カード3分プロンプト — 1社30分の企業調査を3分に(5社まとめ処理つき)
- ③ 商談前メモ5箱テンプレート — 商談5分前に読める1枚(AI整形プロンプト+記入例つき)

メールアドレスだけの登録で3点すべてすぐ受け取れます(解除はいつでも)。
→ 読者特典3点セットを受け取る(無料)

📗 営業の仕事をAIに任せろ(Amazon・読み放題対象)

📗 シリーズ全3冊: 営業の仕事をAIに任せろ ・ 見込み客をAIに探させろ ・ 商談をAIに鍛えさせろ

📚 この連載の他の媒体: note(物語編) ・ Zenn(技術編)

営業×AI実践シリーズ 全3作

Kindle Unlimited 読み放題対象 — 追加料金なしで読めます

← 記事一覧へ

← 商談の冒頭1分は「訂正を引き出す」ために使う —…聞き漏らしの検出 — 「いい商談だった」ほど、漏… →