速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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便利になりましたと書いたら、何と比べたと聞き返された話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


前回は、役員の3つの質問に、数字を別の言葉へ翻訳して通した話を書きました。今回の場面は、あの会議室の外、部の内側に戻ります。秋から道具を6人で回し始めて、後輩が最初の月報を書き上げた金曜の、夕方の短いやり取りから入ります。


「何と比べた便利ですか」と返ってきた


金曜の夕方、後輩がノートを抱えたまま、私の隣の椅子に座りました。後輩が書いた月報の一文は、「AIの道具を入れ替えて、準備が便利になりました」。道具を任せ始めて1か月、文面はそれ以上伸びなかったそうです。部長の返事は一行。何と比べた便利ですか。


後輩は答えられず、隣に来た。便利だと感じた記憶は確かにある。比べた数字は、どこにもなかったからです。


私は15年前の自分を思い出しました。15年前の私も、道具を替えるたびに便利と言っていました。文書化作業の道具、アドレス帳、ひな形。替えるたびに便利と言い、替えた理由の記録は1枚も残さずに終わっていました。便利という感想の言葉には、比べる相手が入っていない。だから後日「何が良くなったんですか」と聞かれたとき、理由はすぐ尽きます。理由を残さないまま道具を替えてきた15年でした。


受注で比べようとして、数字の到着を待った


15年前の私がいちばん先に比べようとしたのは受注でした。営業の道具を替えたなら、受注の側で示すのが筋だ、と。気づくのはそれからです。商談から受注まで、2か月から6か月かかるのが普通です。判断が正しかったかを受注で振り返ろうとすると、四半期が1個終わるのを待たなければなりません。


待っている間に何が起きるかというと、道具の運用が流れます。便利になった日の勢いのまま運用は動かされ、数字が届く頃には道具も運用も別物になっていました。後日、確かめの数字が届いても、戻る先が残っていない。「受注で後から確かめる」という予定は、15年前はほぼ毎回、その日のうちに流れたようです。


比べる数字は、確認したい日のそばにすでに届いているものから選ぶほうが強い。便利さの話なら、カレンダーの商談数、送信済みの提案の数、準備に使った時間です。これらは週単位で届きます。受注は、到着が遅すぎる。


合計の時間で比べた表は、頑張るほど悪く見えた


今年の春、道具をいちど整え直したあと、私は自分の数字を合計の時間で比べました。整え直してから最初の1か月がたったとき、週の合計の準備時間はほとんど下がっていなかった。むしろ前の月より増えていました。


表はそのまま閉じて放置しました。増えている数字は、誰に見せる形にもならなかったからです。しばらくして理由が分かります。商談の数が増えていた。合計の時間は、その分だけ足し上げられる。速くなったのに、合計では増える。表は間違っていなかったけれど、単位が問違っていた。


単位を1件あたりに変えると、改善が姿を出した


導入前の準備を思い出して、作業を箇条書きにして分数を振りました。1商談あたりでだいたい145分です。リスト作りと企業調査が60分、提案書の初稿が45分、見積もりが25分、事前打ち合わせが15分。


道具を任せてからは、同じ1件でだいたい43分。調査が3分、提案書の下書きが10分、見積もりが20分、打ち合わせの準備が10分。そしてリスト作りの時間はもう、私の月の中に存在しません。


同じ1件で並べると、145分が43分になります。


単位を1件あたりに揃えるのは、数字を良く見せたいからではありません。反論を消すためです。合計の数字は「時間が減ったのは、商談を減らしたからでしょう」という返しに無防備です。1件あたりに揃えておけば、商談が増えたこと自体が、速さの証拠に替わります。頑張った痕跡が見える数字を、頑張った分だけ悪く見える単位で出していると、半年続けてきた道具の運用が、1枚の表のところで止まります。


比べる数字は3行に絞り、受注は空行のまま置いた


読み手の側にも、読める量の上限があります。部長は忙しい。3か月後の自分は、当時の記憶をもう残していません。読み返えたのは、1枚の表と、その下の短い説明3行まででした。だから比べる数字は3行に絞ります。


  • 1商談あたりの準備時間(分) — 145分が43分。道具が本来やれることの行

  • 週あたりの商談数(件) — 4件が6件。速さが数に変わった行

  • 週あたりの提案数(件) — 1件が2件。増えた商談が空の商談ではなかった行


受注と売上をここに足したい気持ちは強い。ですが最初の表には置きません。受注は2か月から6か月かかる数字で、比べたい時点ではまだ存在しないからです。代わりに表の末尾に「受注(経過観察)」という空行を1行だけ残しておきます。数字が届いた月に、初めて埋まる。空行は隠しではなく、いつ数字が来るかを先に約束しておく行です。


比べる期間の取り方も、先に決めておきます。比較は導入前後の両側の4週でそろえる。片側にだけ繁閑の偏りが乗ったら、両側を同じ日数だけずらす。「導入前」は導入日の直前の4週に固定する。半年前の良い時期を持ってきてはいけません。都合のいい4週だけを切り取った数字は、見抜かれた日に、残りの全部の数字の信用を落とします。


導入前の工数だけは、推計と先に明言する


3行のうち、商談数はカレンダーの実数、提案数は送信した実数で埋まります。取りにくいのは導入前の工数だけです。導入前の準備を時間として残した記録が、15年前にも今年の春にも存在しなかったからです。だからこの1行だけは推計で組み、推計であることを表の近くに明書きにします。


これは隠すか言うかの問題ではなく、どこまで先に口にするかを自分で決めてしまう話です。黙って出すと、推計が後日突っ込まれたとき、そのほかの実測の数字まで一緒に疑われます。先に「工数の導入前だけは申告ベースの推計。商談数と提案数は実数」と言っておくと、突っ込まれる場所が最初から1箇所に決まります。指摘は弱点でなく確認に替わる。数字の弱い部分は、数字より先に自分から出します。


後輩の月報の一文は、この形で書き直りました。1件あたりの準備は145分から43分(導入前は推計)。週の商談は4件から6件、提案は1件から2件。受注は数字が届いたら上書きします。


部長からの返事は、今回も一行でした。この形で、来月も送ってくれ。


任せる線


導入前後の数字を集めて並べ替える計算、変化の幅、説明3行の下書き。ここはAIに渡ります。表にない数字が混ざっていないかを削り取る30秒の照合も、AIにやらせて構いません。渡さないのは、何と何を比べるかの単位を決めること、まだ届いていない数字を空行のまま置く判断、推計であることを先に明言する一言です。原因の断定も渡しません。「AIのおかげで商談が増えた」とは書かない。商談の増え方には季節の波も商材の動きも乗ります。表は事実までを述べて、理由への解釈は口で短く添える側に残す。


今週、ひとつだけ試すなら


「便利になりました」だけで終わっている文が手元にあるなら、その一文を3行に直してみてください。1件あたりの準備時間、週あたりの商談数、週あたりの提案数。導入前の側が無くても、商談数だけはカレンダーの過去4週を実数で数えられるはずです。便利が数字になると、来月も同じ形で続けられる道具とはどういう道具か、隣の人に1枚で見せられるようになります。


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