速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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想定質問を100個もらっても、商談で言葉に詰まる瞬間は消えない話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


前回は、宛先を根拠から逆算する話を書きました。今日は、その人が決まった後の話です。商談の、いちばん長い一時間について書きます。


準備は、かつてないほど厚くなっていた


商談の前日、私はAIに想定質問を作らせています。


会社の情報、これまでのやり取り、こちらの提案の骨子。それを並べて、「この商談で出てきそうな質問を、答えの下書きつきで出してほしい」と頼むと、質問がずらりと並びます。五十個、百個。初回訪問なら、たいてい百個を超えます。


若い頃の私は、この準備ができませんでした。質問を十個考えるだけで一時間。答えを考えるだけで、さらに一時間。だから当時は、ほとんど何も持たずに商談の席に座っていました。今は違います。百個の問いと、百個の答えが、前日の夜に手元へ揃う。


正直に言うと、最初のうちは、これで商談は負けなくなったと思っていました。


それでも、詰まった


ところが、百個の答えを持って臨んだ商談で、私は言葉に詰まりました。


相手は、こちらの説明を半分ほど聞いたところで、こう言いました。「提案の中身は分かりました。でも、うちの現場は、たぶんついてこないと思います」


想定質問の百個は、頭の中で一斉にめくられました。コストの話、導入の期間、他社との比較、セキュリティ、社内の決裁の段取り。どれも入っていました。でも、いま言われたことだけは、そのどれでもありませんでした。


私は、三秒ほど黙りました。その沈黙を、いまでも覚えています。


詰まるのは、答えがないからではなかった


その夜、私はこの三秒を、何度も思い返しました。


最初は、準備不足だと思いました。想定が浅かったのだ、もっと質問を増やせばよかったのだと。


でも、違いました。私は「現場」のことを、AIに調べさせていませんでした。会社の規模も、決算の数字も、経営の方針も、大量に集めていました。でも、その会社の現場で、人が一日をどう過ごしているかは、一文字も調べていませんでした。想定質問の百個は、私が想定した会社との会話でした。目の前の相手は、私の想定の外側から来ていたのです。


つまり、あの三秒は、答えがなかった時間ではありません。手元にない材料を探していた時間です。探して、なかった。だから黙った。


「詰まる」という現象を、私は誤解していた


ここで、20年やってきた営業として、ひとつ書いておきたいことがあります。


私は長いこと、「詰まらない営業」を目指していました。淀みなく話し、どんな質問にも即答し、その場を気持ちよく終える。そういう人を、できる営業だと思っていました。


でも、あの三秒を経て、考えが変わりました。


言葉に詰まる瞬間というのは、たいてい、頭の中の引き出しを探している時間ではありません。相手の顔を見ている時間です。こちらが何かを言った、その直後に相手の表情がほんの少し動く。その動きを読みながら、次に出す言葉を、いくつかの候補から選んでいる。詰まるのは、その選択の時間です。


だから、詰まらないように話すことは、実は簡単でした。用意した答えを、相手の顔を見ずに、順番に出すだけでいい。それは、詰まらないのではなく、相手を見ていないだけでした。若い頃の私は、それをやっていました。滑らかに話し終えて、帰り道に、何も決まっていないことに気づく。あの手応えのなさの正体は、これだったのです。


想定を厚くすると、想定の外で詰まる


ここからが、AIに任せる話の本題です。


想定質問というのは、それ自体は、とても良い道具です。私の準備は、以前の十倍以上の厚みを持ちました。これは任せて間違いのない部分で、いまも毎回やっています。


ただ、この道具には、使い方を間違えると落とし穴があります。想定を厚くするほど、想定の外に出たときの落差が大きくなるのです。


百個の答えを丸暗記して商談に入ると、百一個目の質問が出たとき、私は完全に止まります。暗記した答えを探しに行って、そこに何もないからです。逆に、答えを十個しか持っていない人のほうが、百一個目に落ち着いて向き合えることがあります。探す先が、ノートではなく、自分の記憶だからです。


私が最初にやっていたのは、前者でした。AIに任せて、準備の質は上がった。でも、任せ方を間違えて、商談のいちばん大事な瞬間から、私の20年分の記憶を遠ざけていました。


答えを覚えるのをやめて、知らないことを書き出した


いまの私は、手順を少し変えています。


AIに想定質問を作らせたら、答えを暗記するのはやめました。代わりに、その質問の横に、こう書き足すようにしています。「この質問に答えられないとしたら、私は何を知らないのか」。


たとえば「現場がついてこないと思う」という質問。答えは一つも書かせません。その代わりに、こう書きます。「私は、この会社の現場を、一日も見たことがない」。


これを書いておくと、商談の当日、答えを探す先が変わります。ノートではなく、目の前の人に「現場では、いまどんな一日なんですか」と尋ねる。尋ねることは、詰まることではありません。むしろ、想定の外に出た瞬間に、いちばん自然な一言です。


あの日の三秒は、いまなら、こう使えたはずです。


任せる線は、どこにあるのか


私がたどり着いた線は、こうです。


想定質問を作ること、答えの下書きを並べること、数字や用語を整理すること。ここまではAIに任せます。百個を数分で出す力は、人間にはありません。


相手の顔を見て、次に出す言葉を選ぶこと。答えを持っていない問いに出会ったとき、尋ね返すこと。ここは人間です。20年分の、詰まった記憶と、そこから戻ってきた記憶。それが選ばせてくれるものを、私はまだ手放したくありません。


大事なのは、詰まることを、失敗として消そうとしないことです。詰まる余地を残す。想定で埋め尽くさない。AIに任せるのは、私が詰まったときに、そこで初めて使える材料を取り出しやすくする準備までです。


AIは、詰まらない商談を作りません。詰まっても、戻ってこられる商談を作ります。


今週、ひとつだけ試すなら


次の商談の前に、AIに想定質問を十個だけ作らせてみてください。百個でなくていいです。そして、答えは一行も書かず、それぞれの質問の横に、「これに答えられないなら、私は何を知らないか」を一行だけ書いてみてください。


たぶん、書いている途中で気づきます。知らないことの多くが、資料の外側にあることに。


その一行を持って商談に行くと、詰まったときの三秒が、ちょっとだけ違う意味を持ちます。


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それでは、また。

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