速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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商談で読み上げた数字が、ひとつだけ古かった話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


前回は、想定質問を百個持っていっても商談で言葉に詰まる話を書きました。今日は、その反対側の話です。詰まった話ではなく、調べたことを丸ごと信じてしまった話を書きます。


「この会社のこと、調べておいて」


数年前のある案件で、私はAIにこう頼みました。


会社名をひとつ入れて、「この会社について、商談に使える情報をまとめておいて」。それだけです。


出てきたものは、驚くほど立派でした。会社概要、事業の柱、直近のニュース、設備投資の計画、そして財務の数字。私が半日かけていた調査が、十分ほどで私の手元に並びました。読み込んで、そのまま自分の商談メモに移し替える。準備は、これで終わったつもりでした。


当時の私は、これを「任せた」と思っていました。いま振り返ると、これは任せたのではなく、丸投げでした。


商談の冒頭で、私は数字を読み上げた


当日、私は資料の冒頭でこう切り出しました。


「御社が進めている設備投資の計画を拝見しました」と。調べた痕跡を見せたかったのです。前回書いたように、初回の接触では、最初の数行に「知った上で来た」という印が必要です。そのために集めた材料を、私は嬉々として使いました。


相手の手が、少し止まりました。


「それ、去年の中期計画ですね。いまは、だいぶ変わっています」


私は、すぐに訂正できませんでした。数字が間違っていたからではありません。手元に、元の資料がなかったからです。AIがまとめた文章しか持っていなかった私は、その場で立ち往生して、あとは「そうですか、失礼しました」とだけ言いました。


家に帰って、出典を探した


帰宅して、AIの出力を最初から読み返しました。


立派な文章でした。数字も、社名も、年号も、疑う余地のない書き方で並んでいます。ところが、どの数字の後ろにも、出典がありませんでした


「調べて」とだけ頼んだのは、私です。「出典を付けて」とは、一言も言っていませんでした。


だからこれは、AIが嘘をついた話ではありません。古い計画が混ざっていることに、私が気づける形で出させなかった。検算の設計を、私が捨てたという話です。


「任せる」と「丸投げ」は、何が違うのか


ここは、少し立ち止まって書いておきます。


私は20年、営業の現場で準備をしてきました。いまAIに任せている作業は、その準備の大部分です。ただ、任せ方には線があります。そして、その線は指示文の長さでは引けません


長い指示を書いた人ほど、任せ方が上手いわけではないのです。


私がたどり着いた物差しは、2つだけです。ひとつは、あとから検算できるか。もうひとつは、間違えたときに、痛手がどこまで届くか


あの調査は、どちらも落としていました。数字にたどり着いた道筋を残していなかったので検算ができず、その数字を私が自分の口で商談の場で読み上げたので、間違いは相手の前で露見しました。痛手は、私の信頼に直撃しました。


この2つを確かめずに投げることを、私は丸投げと呼んでいます。任せるとは、この2つを確かめたうえで投げることです。


私が変えたのは、AIへの指示ではなく、私の側の一行


対策として指示文に足したのは、たった2行でした。


「出典のURLを必ず付けてください。分からないことは、不明と書いてください」


たったこれだけです。


でも、本質は「AIへの指示が2行増えた」ことではありません。私の側に、仕事が1つ戻ってきたことです。出典のURLを、1本だけ開く。その1本を見て、数字が生きているかを確かめる。たった1本で構わない。開く習慣が戻ると、AIの出力は「答え」ではなく「案内」として扱えるようになります。


案内なら、私は案内された先を自分の目で見てから商談に出られます。


あの日の商談は、それで終わったのか


終わりませんでした。


後日、訂正の連絡を入れました。担当者は気にした様子もなく、「資料を見てから来てくれたんだね」と言って、いまの計画の話をしてくれました。商談は一度振り出しに戻りましたが、戻った先は、前より正確でした。


古い数字を読み上げた私が残したものは、たぶん、恥だけではありません。手元の資料に責任を持つという姿勢は、訂正の一通で少しだけ伝わったと、いまは思っています。


材料を集めるのはAI、事実を確かめるのは私


私のなかで、線はこうなりました。


材料を集めること、表に並べること、出典の候補を挙げること。ここまではAIに任せます。人が半日かけていたものが、十分で形になる。この速さは手放せません。


その材料を、自分の口から出してよい事実に変えること。ここは、私の仕事です。商談の席で数字を読み上げた責任は、どこまでいっても私に残ります。AIは、代わりに謝ってはくれません。


20年やってきた営業として、この線だけは、いまも動かしていません。


AIに任せるというのは、任せた後の責任まで手放すことではありません。


今週、ひとつだけ試すなら


すでにAIに調べさせた資料を、ひとつ見返してみてください。そこに、出典のURLが付いているかどうかを確かめます。


付いていなければ、「出典のURLを必ず付けてください」と2行だけ足す。そして、返ってきたURLを、1本だけ開いてみてください。


たぶん、開いた1本で、あなたの資料の解像度が変わります。読み上げても怖くない数字と、読み上げてはいけない数字が、分かれて見えてくるはずです。


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それでは、また。

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