休んだ日に回らなくする — 共有プロンプトと手順書で「1人に固定」を外す
前回は、研修を1日15分×3日に分解して「時間がない」の壁を外す話を書きました(AIの出力が「使える」に変わる3日間)。3日目に本人を「教える側」に回すことで、研修をイベントから仕組みに変えるところまででした。
人数が増えると、次に必ず起きるのがこれです。
あのリスト、〇〇さんにしか作れないんでしたよね。〇〇さん休みの時は、誰がやるんですか。
前回までの取り組みは、ここで止まります。道具が1人に固定されると、その人が休んだ日・退職した日に、業務全体が止まります。今回は、導入の3つの壁の最後の1つ「1人に固定される」を外す話を書きます。共有プロンプトと手順書の2つを1枚にまとめて「誰が代わっても同じ出力が出る」を作る、カレンダーとテンプレートごと載せます。
なぜ「1人に固定」が起きるのか
まず、固定される原因を能力の差に置かないことです。「あの人はAIが上手いから」と置くと、対策は「あの人を見習う」になり、何も進みません。
実際の原因は、書き方が口承になっていることです。口承とは「毎回ゼロから説明するしかない状態」です。研修を3日間回しても、本人が直した指示の語は、本人のチャット履歴と本人の記憶にしか残っていません。工夫したプロンプトはチャット履歴の中で死ぬ——共有プロンプト集を作ったのは、このためでした(工夫したプロンプトはチャット履歴の中で死ぬ)。あの記事で作った7列カードは「見れば使える」備品です。備品は置けます。しかし、代わりの人がその備品で当日の業務を回せるかは、別の問題です。
休みの朝を想像すると分かります。代走の人は、共有プロンプト集を開いて該当の行を見つけ、プロンプト本文をコピーして、自分のチャットに貼る。ここまでは回ります。その直後に、必ず止まります。
代走の朝に止まる3箇所
① 「入力」に何を貼ればいいか分からない(メモの形が人によって違う)
② 出力が出たあと、どこに貼ればいいか分からない
③ 優先度のA/B/Cの判断が、自分の考えと違う気がする
この3箇所は、プロンプトの出来が悪いからではありません。工程の前後が口承のままだからです。つまり、固定を外すのに必要なのは道具ではなく、プロンプトの「前」(貼る物の形)と「後」(出力の使い方)を、1行の文字に落とすことです。
固定を外す最小単位は「プロンプト1本+手順1行」
共有プロンプト集の7列カードは、チーム全員の備品として作り込むものです。しかし「あの人が休んだ日に回らなくする」だけなら、ここまで大きくしなくて構いません。必要なのはもっと小さく、1工程について「プロンプト1本+手順1行」です。
- プロンプト1本:共有プロンプト集に置いた行(研修で育てた最初の1行で十分です)
- 手順1行:そのプロンプトの「前」と「後ろ」を書いた1行
手順1行の形は、こうです。
手順書の1行(工程ごとに1行ずつ)
工程: リスト更新(毎週月 9:00)
貼る物: 前週の顧客データをそのまま貼る(氏名・会社・最終接触日・前回の結果の4列。メモ書きでよい)
プロンプト: P-01(プロンプト集の行をそのままコピー)
出力の使い方: 出た表を週次リストのシートに貼る。「確認」の行だけ先に自分で調べて埋める
行の右端に「確認日と理由」の欄を付けるのは、共有プロンプト集の7列カードと同じ設計です(工夫したプロンプトはチャット履歴の中で死ぬ)。
もう1つのルールは、1週間で1工程ずつ移すことです。全部の工程を一気に手順化すると、書く側が3日で燃え尽きます。引っかかりログ(自動化を2週間で自分仕様に直す)で最初に直した工程から順に、週1工程のペースで移します。このペースなら、最初の1工程は今週中に代走可能になります。
4日間カレンダー — 休みの3日前からで間に合う
手順1行を「本当に回る」状態にするのが、次の4日間です。1日15分。前回の研修3日間と同じ作り方で、別枠の作業は1つも作りません。
固定を外す4日間(1日15分・対象は1工程だけ)
1日目(書き出す日): 15分
① 対象の工程を1つ選ぶ(最初は「リスト更新」など、毎週必ず回るもの)
② 手順1行を書き出す。空白を残さない。「たぶんこう」で埋めない
③ プロンプト集の行の番号を手順書に書く
2日目(回す日): 15分
① もう1名に手順書だけを渡す(口は出さない。質問はメモだけ取ってもらう)
② その人が、いつもの業務として1回やる
③ 止まった箇所を、その人が手順書の行に印を付ける
3日目(埋める日): 15分
① 印の付いた箇所を手順書に反映する(口答えを文字にする)
② 作った人と回した人で、反映後の1行を読み合わせる
4日目(代走日): 15分
① 作った人以外の2人目が、手順書だけで回す
② 2人目が止まったら、その箇所を手順書に足す。作った人は答えを言わない
③ 「確認」の行の扱いだけは、その場で口を揃えて確認する
見ての通り、2日目の「黙ってやってもらう」は、承認取りの2週間で回した第2週と同じ形です(承認を待つ2週間で手を止めない)。あのときは自分の仕組みをもう1人に渡しました。今回はそれを、休んだ日のことを想定した形で回します。
共有プロンプトの骨格 — この1本を貼る
手順書から参照するプロンプトの行は、研修1日目に渡した最初の1行を、そのまま共有プロンプト集に移したものです。骨格は、この5つに決まっています。
共有プロンプトの骨格(1工程につき1本)
① 工程名: どこの工程か(例: リスト更新)
② 貼るデータ: 何を・どんな形で貼るか(列まで書く)
③ 出力3列: 表の形(例: 会社名 / 優先度 / 次のアクション)
④ 基準: 判断を機械に渡す文(例: 最終接触日が30日超をA、31〜60日をB、それ以外をC)
⑤ 確認ルール: 判断に困ったら推測せず「確認」と書かせる
研修の3日間で育てた1行が、そのままチームの備品になる——ここが前回からのつながりです。個人が直した指示の語は、3日目の「教える側」のタイミングで共有プロンプト集に反映します。個人の引っかかりログが、そのままチームの行の更新履歴になる。手順書とプロンプト集は、別々の道具ではなく1セットです。手順書が「前と後ろ」を持ち、プロンプト集が「中身」を持つ。
代走テスト — 手順書だけ渡して、口を出さない
4日目の代走テストには、1つの鉄則があります。作った人は、隣に立たない。口を出さない。止まったら答えを教えるのではなく、その箇所を手順書に書き足す。引っかかった行は、手順書の穴だからです。
穴は、だいたい3種に決まっています。
- 入力の形が書いていない — 「商談メモを貼る」では、メモの形が人によって違います。「①商談の概要 ②相手の発言の引用 ③次のアクションの3パート構成」まで書く
- 判断の基準が口承 — 「常識で優先度を付けて」は、代走の人の常識と作った人の常識が違います。基準は1文で手順書に書く
- 確認のタイミングが書いていない — 出力のどこを、誰が、いつ見るか。「確認」の行を送る前の30秒で埋めると書いて、初めて手順になる
初回の代走に40分かかった工程が、穴を2つ埋めただけで2回目は15分、3回目は10分になります。穴を埋めるほど、次の代走が速い。この曲線を1回経験すると、手順書は「最初に書き上げるもの」ではなく「回しながら埋めるもの」だと分かります。
なお、代走テストは「本人がいなくても回る」ことを確かめる場であって、代走を頼まれた人を試す場ではありません。2人目が止まっても、引っかかりは手順書の穴に帰属させます。人ではなく手順書を直す——これを最初に言っておくと、代走を頼まれる側も気楽に引き受けます。
AIに任せる範囲と、任せてはいけない範囲
4日間のどこで線を引くか、明確にしておきます。
AIに任せる範囲:
- 引っかかった行の分類(上の3種の穴のどれに当たるかの仕分け)
- 手順書の行の整形(話し言葉を手順の言葉に直す下書き)
- 共有プロンプトの基準の文の言い換え案(1文3案に出させる)
人間がやる範囲:
- どの工程を先に代走可能にするかの選択
- 判断基準そのもの(優先度のA/B/Cは営業の判断です。AIが決めてはいけない)
- 手順書の言葉遣い
最後の1つが意外と効きます。手順書の言葉遣いをAIに任せると、「最終接触日から30日を経過した顧客」と書かれます。誤りではありません。しかし、代走する人が毎朝読むのは「1か月放置してるお客さん」のほうです。手順書は、誰が読んでも同じ行為に着手できる言葉で書く。その言葉は、現場で毎週その業務をやっている人しか持っていません。
まとめ
- 「〇〇さんにしか作れない」の正体は能力の差ではなく、書き方が口承になっていること。プロンプトの前後(貼る物・出力の使い方)が1行の文字になっていない
- 固定を外す最小単位はプロンプト1本+手順1行。週1工程のペースで移す
- 4日間カレンダー(1日15分)の中心は、2日目の「黙ってやってもらう」と4日目の代走テスト。作った人は口を出さない
- 引っかかった行は手順書の穴。穴を埋めるほど、次の代走が速い
- AIは穴の仕分けと整形と案出しまで。工程の選択・基準・言葉遣いは人間
導入の3つの壁(導入は3つの壁で止まる)のうち、これで「時間がない」と「1人に固定される」が外れました。残る最初の壁は「そのまま顧客に出せない」です。次回はこの壁に戻り、確認3点を「その人の手癖」から「30秒で回る工程」に設計し直す話を書きます。
この連載の続きは、はてなブログでも毎日書いています。
この記事の元になった書籍では、共有プロンプトと手順書の作り方、代走テストの回し方を、導入から運用まで通しで扱っています。
🎁 読者特典3点セット(無料)
- ① 提案書3層プロンプト — 40分で6枚の提案書を出す、貼って動く完全版
- ② 調査カード3分プロンプト — 1社30分の企業調査を3分に(5社まとめ処理つき)
- ③ 商談前メモ5箱テンプレート — 商談5分前に読める1枚(AI整形プロンプト+記入例つき)
メールアドレスだけの登録で3点すべてすぐ受け取れます(解除はいつでも)。
→ 読者特典3点セットを受け取る(無料)
📗 営業の仕事をAIに任せろ — 見込み客リストから提案書まで、1人で回す営業自動化(Kindle・読み放題対象)
📗 シリーズ全3冊: 営業の仕事をAIに任せろ ・ 見込み客をAIに探させろ ・ 商談をAIに鍛えさせろ
📚 この連載の他の媒体: note(物語編) ・ はてなブログ(実務編・毎日更新)