速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
Zenn

AIに任せていい工程の線を引く — 任せる3条件と、手を残す2か所

初出: Zenn

前回は、顧客に出す前の30秒を「工程」にする話を書きました(顧客に出す前の30秒を「工程」にする)。これで導入の3つの壁——「そのまま顧客に出せない」「学ぶ時間がない」「1人に固定される」——が揃って外れました。

運用が回り始めたチームで、次に必ず出るのがこの質問です。

じゃあ、どこまでAIに任せていいんでしょうか。

今回は、AIに任せる/任せないの判断線を整理します。任せられる工程の条件と、絶対に手を残す2か所を、線で引ける形にします。

「全部任せたい」と「全部怖い」の間で、線が個人に委ねられている

導入が回り始めると、チームに「任せ方」の差が出ます。同じ道具を渡されても、人によって任せる範囲がまるで違うのです。

  • 全部任せたい人:楽になりたい気持ちが先に走り、AIの出力をほとんど確認せずにそのまま使う。品質の事故が起きると、今度は一転して何も任せなくなる
  • 全部怖い人:出力を最初から最後まで読み直し、直す時間がかかって「AIのほうが遅い」という結論に着地する

どちらも極端です。そしてどちらも、同じ根っこの問題です。判断線が書かれていない。線が書かれていない職場では、任せる範囲はその日の度胸と気分で決まります。「1人に固定される」という3つ目の壁と同じ構造で、今度は「任せる範囲」が個人に固定されます。

線の引き方には、まず原則が1つあります。「工程」で線を引くこと。仕事単位でも人単位でもありません。

たとえば「提案書づくり」という仕事は、任せられるかどうかを1語で答えられません。その中身は工程の集まりだからです。過去提案からの構成の切り出し、価格の試算、顧客名の差し込み、印刷前の確認——それぞれで、任せられるかどうかが変わります。仕事単位で決めていると、ここで必ず詰まります。

任せられる工程の3条件

工程単位で線を引くとき、判定条件は3つに絞ります。

①入力が手元にある
AIが書けるのは、材料が手元にあるときだけです。商談メモ、リスト、過去メール、見積の履歴——事実が手元に残る工程は任せられます。逆に、手元に何もない状態で「いい感じの提案書を書いて」と頼むのは、人間に同じことを頼むのと同じで、材料の収集という別の仕事が始まってしまいます。

②出力の正誤がすぐ分かる
照合相手が存在するかどうかです。リストの住所は公式サイトと突き合わせられます。メールの日程はカレンダーと突き合わせられます。突き合わせる物がない出力は、正誤の確認自体が仕事になります。

③間違いのダメージが軽い
その工程の間違いが、社内で止まるか。訂正できるか。顧客に直接行く物か。ダメージが重い工程ほど、手を残します。

この3条件の組み合わせで、「任せ方」が3種に決まります。

  • 3つとも満たす → 全文任せ(出力をそのまま使う)
  • ①と③は満たすが②が弱い → 部品任せ(出力を材料として使う)
  • ③を満たさない → 手を残す(AIは案出しまで)

これを1枚の「任せ表」にまとめると、こうなります。

工程 ①入力 ②照合 ③ダメージ 任せ方
見込み客リストの1次抽出 〇 〇 〇 全文
商談メモの整形 〇 〇 〇 全文
提案書の構成案 〇 × 〇 部品
提案書の価格計算 〇 〇 × 手
初回メールの本文 〇 × × 手
日程調整の案内文 〇 〇 〇 全文

表にする意味は1つです。任せる範囲を「度胸」ではなく「条件の当否」で決める。新人でもベテランでも、同じ表を見れば同じ線になります。

手を残す2か所

条件で線を引いても、絶対に手を残す2か所があります。

①判断(選ぶ・決める・優先順位)
AIの役割は案出しまでです。3案並べさせて、選ぶのは人間。なぜなら、判断とは「自分の言葉で責任を取る行為」だからです。理由の分からない選択は、顧客に説明できません。AIに選ばせた案は、うまくいかなかったとき誰も守れないのです。

②顧客との言葉(関係が動く1手)
定型部品はAIで構いません。日程の案内、資料送付の一文、確認の催促。ただし「関係が動く1手」——商談を前に進める本文の1文、断られそうな場面で踏み込む1文——は人間が書きます。受け取り手は、その言葉が「自分のため」に書かれたものかどうかを、敏感に見分けるからです。

線の引き方を、1行で書いておくテンプレートを残します。

うちでは、事実を扱う工程はAIが全文で書き、判断と顧客への1文は人間が持つ。

この1行を共有フォルダに貼っておくと、「どこまで任せていいか」の質問にいちいち答えなくて済むようになります。

プロンプト本体 — 「任せ表」を1発で作る

自分の業務を列挙すると、3条件を判定して任せ方まで割り当てる表を出すプロンプトです。

あなたは中小企業の営業チームのAI導入アドバイザーです。
私が列挙する業務を「工程」単位に分解し、それぞれについて
AIに任せられるかどうかを3条件で判定して表にしてください。

# 判定条件
1. 入力: その工程に必要な事実(メモ・リスト・過去メール等)が手元に残るか(〇/×)
2. 照合: 出力の正誤を突き合わせられる相手が存在するか(〇/×)
3. ダメージ: 間違いが社内で止まり、訂正できるか(〇/×)

# 任せ方の基準
- 3つとも〇 → 全文
- 1と3が〇で2が× → 部品
- 3が× → 手

# 出力形式
| 工程 | ①入力 | ②照合 | ③ダメージ | 任せ方 |
|---|---|---|---|---|
工程は1業務あたり3〜8個に分解してください。
表のあとに「手」に分類した工程の理由を1行ずつ添えてください。

# 業務
- 見込み客リストの更新(週1回)
- 商談メモの整理(毎日)
- 提案書づくり(月4〜6件)
- 見積書づくり
- 顧客へのメール(初回・追跡・日程調整)
- 社内日次の進捗報告

出力サンプル(ダミー案件)

ダミーで「クラウド勤怠管理を製造業30社に売る営業1人」の業務を、このプロンプトに入れたときの返りのイメージです。

工程 ①入力 ②照合 ③ダメージ 任せ方
リストの1次抽出 〇 〇 〇 全文
抽出結果の点数付け 〇 〇 〇 全文
商談メモの5箱整形 〇 〇 〇 全文
提案書の構成案 〇 × 〇 部品
提案書の価格試算 〇 〇 × 手
初回メールの本文 〇 × × 手
日程調整の返信 〇 〇 〇 全文
日次の進捗報告 〇 〇 〇 全文

ここが重要なポイントです。「提案書づくり」という仕事は、任せ方1つに決まらない。構成案は部品、価格は手、というように工程で割れます。仕事単位で「任せる/任せない」を決めていたチームは、たいていここで詰まっています。

検算

表ができたら、1か月の運用で2つの数字を数えます。

  1. 全文に分類した工程のうち、実際に手を入れた回数 — 手を入れる回数が多ければ、②照合の判定が甘い証拠です
  2. 手に分類した工程の合計時間 — これが「人間が持ち続ける仕事」の総量です

目安を2つ置きます。全文の工程で手を入れる率が2割を超えたら、その工程は部品に格下げします。逆に、手の工程の合計が1日の2割を超えたら、その中に「実は③が〇」と見誤った工程がないか洗い直します。

所要時間の正体

任せ表づくりそのものは60〜90分で終わります。ただしその実体は「自分の仕事を工程に分解して眺める時間」で、AIが担うのは表の仕上げだけです。以後は週1回、新しい工程が増えたら1行足すだけで線は保てます。つまりこの1時間は、任せる範囲を毎日の度胸から条件へ移すための、最初で最後の固定費です。

まとめ

  • 線は「工程」で引く。仕事単位でも人単位でもない
  • 3条件(入力・照合・ダメージ)で、任せ方は「全文/部品/手」に決まる
  • 手を残すのは「判断」と「顧客との1文」の2か所だけ
  • 表を1回作れば、あとは週1回の1行追加で線は保てる

次回

判断線が決まったら、次は順番です。次回は、週10時間の削減目標に向けてどの工程から順にAIへ移すかの順番設計を書きます。削減時間の見積もり方と、最初の1週間で選ぶ工程の条件をまとめます。


この連載の続きは、はてなブログでも毎日書いています。

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