速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
Zenn

導入効果を4週間で数字にする — 営業のAI化を「続ける理由」に変える比較レポート

初出: Zenn

「速くなった気がする」では、続けられない

AIに仕事を任せ始めて1ヶ月。体感では楽になったはずなのに、月額のツール利用料と、定時後に仕組みをいじった時間だけが残っていく——この状態が一番危ない。

理由は単純で、続ける理由を定期的に数字で示さないと、そのうち削減対象のリストに載るからです。上司に「これ、効果あるの?」と聞かれたとき、感想では持ちこたえられません。

この記事では、導入前後の比較を4週間で1枚の表にまとめる手順を書きます。使うのは、カレンダー・Gmail・スプレッドシート・Apps Scriptだけ。新しい記録は1つも増やしません。

表に入れる数字は3行に絞る

読み手は忙しい上司と、3ヶ月後の自分です。スライド10枚もブック5タブも読んでもらえない。読んでもらえる上限は1シート・表1つ・コメント3行です。

この制約を先に置くと、入れる数字も迷わず決まります。

項目 何を示すか
1商談あたりの準備工数(分) 自動化の主戦場
週あたりの商談数(件) 速くなった分、数を増やせたか
週あたりの提案数(件) 増えた商談が中身を伴っているか

受注額や売上は初回に入れません。商談から受注まで2〜6ヶ月かかるのが普通で、初回の時点でその数字がまだ存在しないからです。代わりに表の末尾に「受注(経過観察)」という空欄の行を1つだけ作っておきます。数字が揃った月に埋めれば、表が何も言わずに語り始めます。

もう1つ、工数は必ず「1商談あたり」で出してください。総工数で比べると、商談が増えた分だけ総量も増えて見え、改善が見えなくなります。単位を1件あたりにならす——これは反論を消すための処理です。

導入前の数字を集める

ログは導入と同時に始まっているので、足りないのは「導入前」の側です。行ごとに取り方が違います。

商談数 — カレンダーの過去4週間をGASで数える

カレンダーの商談タイトルに「商談」を含める運用にしていれば、過去分もそのまま数えられます。同じApps Scriptの画面に、次の関数を追記して実行します。

function countBeforeWeeks() {
  const ss = SpreadsheetApp.getActiveSpreadsheet();
  let sheet = ss.getSheetByName('週次集計');
  if (!sheet) sheet = ss.insertSheet('週次集計');
  const cal = CalendarApp.getDefaultCalendar();

  // 1箇所だけ書き換える:導入を始めた日の4週間前(例:2025/05/26)
  const start = new Date('2025/05/26');
  const msWeek = 7 * 24 * 60 * 60 * 1000;

  for (let i = 0; i < 4; i++) {
    const from = new Date(start.getTime() + msWeek * i);
    const to = new Date(from.getTime() + msWeek);
    const events = cal.getEvents(from, to, { search: '商談' });
    sheet.appendRow([Utilities.formatDate(from, 'Asia/Tokyo', 'MM/dd'), events.length]);
  }
}

書き換えるのは日付の1箇所だけです。エディタ上部のプルダウンから countBeforeWeeks を選んで実行すると、「週次集計」シートに導入前4週間の商談数が週単位で4行並びます。

:::message alert
getEvents(from, to, { search: '商談' })searchタイトルと説明文の両方を対象にした部分一致です。導入前に「商談」をタイトルへ入れる運用が徹底されていなかった場合、この数字は実際より少なく出ます。心当たりがあれば、カレンダーの検索窓で手動カウントしてください(多くて20件前後、10分で終わります)。少なく出た数字を黙って出すより、手で数えた実数を出すほうが有利です。
:::

提案数 — Gmailの検索式に期間を足す

提案メールを数える検索式があれば、先頭に期間を足すだけです。

after:2025/05/26 before:2025/06/23 subject:(提案 OR 見積) has:attachment

Gmailの仕様では after: の日は含まれ、before: の日は含まれません。つまりこの例は5/26〜6/22の28日分です。件数を4で割れば週あたりになります。

準備工数 — 推計で出し、明記する

ログが存在しない期間の工数は、正確には取れません。だから推計で出します。導入前に最後に関わった商談を1件思い出し、準備作業を箇条書きにして分数を振ってください。

リスト作成・企業調査:60分
提案書の初稿:70分
見積もりと事前資料:25分
事前打ち合わせの準備:15分
合計:170分(1商談あたり)

この数字を表の「導入前」欄に入れ、表の下に「導入前の工数は申告ベースの推計」と1行足します。推計であることを隠すと、表の他の数字まで信用を失います。明記しても、170分が96分に下がる事実の強さは変わりません。むしろ「数字に正直な人だ」という印象が残ります。

比較条件をそろえる

  • 期間の長さは両側とも4週間できっちり揃える
  • 連休・長期出張・期末の繁忙が片側にだけ偏っていないか確かめる。偏っていれば両側とも同じ日数だけ前へずらす
  • 「導入前」は導入日の直前4週間に固定する。半年前の好調な時期を持ってこない

表を組む — 貼るだけの式

ブックに「比較レポート」シートを新規作成します。1行目に見出しを4つ(項目/導入前(4週間)/導入後(4週間)/変化)、2〜4行目のA列に3つの項目名を入れます。数字は次のとおり埋めます。

B2(導入前の工数): 推計の170を手入力
B3(導入前の商談数): =SUM(週次集計!B1:B4)/4
B4(導入前の提案数): Gmailで数えた件数÷4を手入力
C2(導入後の工数): =SUM(活動ログ!B2:B29)/SUM(活動ログ!C2:C29)
C3(導入後の商談数): =SUM(活動ログ!C2:C29)/4
C4(導入後の提案数): =SUM(活動ログ!D2:D29)/4
D2(変化): =(C2-B2)/B2  → パーセント書式にしてD3・D4へコピー

式の意味は理解しなくて結構です。列の対応だけ合っていれば動きます。

C列は「28日分のログ=2行目から29行目」という前提です。ログが4週間を超えたら、月が替わるたびに範囲を28行ずつ下へずらします(2ヶ月目は B30:B57 の要領)。ログが28日分貯まるまではD列に #DIV/0! が出ますが、揃えば消えるので放置して構いません。

商談数の自動集計と突き合わせる

自己申告の工数と違い、商談数はカレンダーから機械的に取れます。日次の蓄積は次の関数で足せます。

function appendDailyMeetingCount() {
  const ss = SpreadsheetApp.getActiveSpreadsheet();
  let sheet = ss.getSheetByName('活動ログ');
  if (!sheet) sheet = ss.insertSheet('活動ログ');

  const cal = CalendarApp.getDefaultCalendar();
  const today = new Date();
  const from = new Date(today.getTime() - 24 * 60 * 60 * 1000);
  const events = cal.getEvents(from, today, { search: '商談' });

  // 活動ログの末尾行に商談数を書き戻す(準備工数・提案数は自己申告の値を保持)
  const lastRow = sheet.getLastRow();
  if (lastRow >= 2) {
    sheet.getRange(lastRow, 3).setValue(events.length);
  }
}

:::message
getLastRow() はシート内で値のある最終行を返します。この関数は当日の最終行に上書きする設計なので、日次で回す場合は行の追加とセットで運用してください。カレンダーの実数と自己申告が大きく食い違ったら、記録漏れか数え漏れのどちらかが起きています。どちらも直す価値のある発見です。
:::

表の下のコメント3行はAIに書かせる

自分で書くと「頑張りました」がにじみ出るので、AIに書かせます。次のプロンプトを保存してください。

以下は、営業のAI化の導入前後を比べた表です。上司への報告文を3行で作ってください。
条件は3つです。
1. 表にある数字だけを使う。表にない数字や割合を新しく作らない
2. 「画期的」「劇的」といった飾り言葉を使わない
3. 「AIのおかげで」のような、原因の推測を書かない

(ここに表を貼る)

出力例はこうなります。

1商談あたりの準備工数は170分から96分へ、44%減。週あたりの商談数は3.2件から5.8件へ、81%増。週あたりの提案数は1.3件から2.5件へ、92%増です。

貼る前に30秒だけ照合してください。 AIは頼まなくても余計な一文を足すことがあります。「受注率も向上しました」のような、表にない数字が混ざっていれば削ります。この照合を省くと、後日「この受注率はどこから出た数字ですか」と聞かれたときに答えに詰まります。

出し方は「1on1で画面共有、3分」に固定する

資料は読んでもらうものではありません。見せて、話すものです。月次の1on1で画面共有し、表を3分で説明します。事前にシートのリンクを1本チャットで送り「月曜に3分だけ説明します」と添える。それで十分です。メールで長文を送ると、読まれないまま3週間が経ち、掘り返されたときの印象が悪くなります。

突っ込まれる場所は先回りして1箇所にまとめておきます。工数の「導入前」だけが推計であることです。説明の最後に自分から「前の工数だけ申告ベースの推計です。商談数と提案数はカレンダーと送信メールの実数です」と言えば、指摘の余地がなくなります。

タイミングは、ログが4週間分貯まった週の1on1です。導入直後の数週間は習熟のコストが乗るため、この比較は甘くない数字になります。「習熟込みでこの結果」と言えるのが、このレポートの強みです。2回目以降は毎月範囲を28行ずらすだけ。同じ形で出し続けると、3ヶ月目あたりから「他のメンバーにもやらせてみよう」という話が自然に起きます。

やってはいけない3つ

1つ目、期間のつまみ食いです。 商談数が跳ねた好調な4週間だけを「導入後」に選ぶ。見抜かれなければ儲けものですが、見抜かれた場合、以後あなたのすべての数字が疑われます。期間は「導入開始から連続した4週間」と機械的に決めて、選ぶ余地を自分から捨ててください。

2つ目、原因の断定です。 「AIのおかげで商談が増えました」は言い切らない。商談数の増加には季節の波や商材の動きも含まれます。表に書くのは「この4週間ではこうなった」という事実までです。断定した瞬間、原因を巡る反論の土俵に乗ります。事実は表が述べ、解釈は口頭で短く添える——この規律をレポートにも適用します。

3つ目、評価への転用です。 比較レポートが査定の材料に使われ始めると、翌月から数字はきれいな方向に曲がります。最初の1on1で上司に一言伝えておいてください。「この表は改善の共有用で、査定には使わない前提です」。この一文があるだけで、推計も翌月以降のログも正直なまま保たれます。

まとめ

  • 比較する数字は1商談あたりの準備工数・週あたりの商談数・週あたりの提案数の3行だけ
  • 導入前の商談数はGASで過去4週間を集計、提案数はGmail検索式に期間を足す、工数は推計+推計であることの明記
  • 工数は必ず「1商談あたり」で出して、商談増による総量増加と切り離す
  • コメント3行はAIに書かせ、表にない数字が混ざっていないか30秒照合する
  • 出し方は1on1で画面共有3分。期間のつまみ食い・原因の断定・評価への転用の3つを避ける

数字が1枚に揃うと、AI化は「なんとなく続ける取り組み」から「続ける理由を説明できる仕組み」に変わります。そして説明できるようになった施策は、次の打ち手を選ぶときの判断材料にもなります。

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