どの業務から手を付けるか — 投資対効果で順番を決める
前回(営業の時間は「準備」に食われている)では、法人営業の勤務時間の4割近くが、顧客と対話しない「準備」に消えている話をしました。では、今日からいきなりAIを使い始めるのか——というと、そうではありません。前回の末尾で「次回は、このログを自分の手で出すところから始める」と書きました。最初の一歩は、AIを触ることでも道具選びでもなく、自分の仕事を1週間記録することです。
今回は、その記録の取り方と、記録から「どの業務から手を付けるか」の順番を決める方法を説明します。
なぜ記録から始めるのか
「投資対効果で順番を決める」と言っても、ほとんどの現場は、自分の時間の使い方を数字で持っていません。「リスト作りにどれくらいかかっているか? 正直、あいまいです」という返事が返ってくるのが普通です。
あいまいなまま順番を決めると、2つの失敗が起きます。
- 派手な業務から手を出して挫折する: 提案書など目立つ業務から始めて、精度が出ずに「うちの営業にAIはまだ早い」という先入観を社内に残してしまう
- 削減効果を証明できない: 一番時間を食っている地味な業務を後回しにするので、どれだけ時間が浮いたのか誰にも示せない
どちらも「数字を持っていない」ことに起因します。だから最初の1週間は、AIはまだ使わず、準備業務の記録だけを取ります。
業務ログの取り方 — 終業時5分、3行でいい
フォーマットは何でも構いません。手帳の余白でも、メモアプリでも、スプレッドシートでも。私が勧めるのは、終業時の5分で、その日の「準備業務」だけを書くことです。商談や移動、顧客との対話の時間は入りません。形式は、前回お見せしたこの形です。
[2026-09-02 09:05] A社向け商談前調査(決算短信・採用ページ確認)所要35分
[2026-09-02 14:10] 来月分の新規開拓リスト10社追加 所要80分
[2026-09-02 16:30] 提案書v2修正(見積表・事例ページ差し替え)所要90分
1週間続けると、こんな形で積み上がります。
[2026-09-03 09:40] B社・C社の下調べ 所要55分
[2026-09-03 11:00] 商談後フォローメール6通 所要50分
[2026-09-04 10:20] D社向け提案書の初稿 所要3時間10分
[2026-09-07 09:15] 見込みリストの精査・電話番号補完 所要2時間
[2026-09-08 09:05] E社商談前調査 所要30分
約束は3つだけです。正確でなくていい(25分は30分と書いて構わない)、埋まらない日があっても続ける、記録するのは準備業務だけ。完璧なログより、7日分の粗いログがはるかに価値があります。
3つの物差しで順番表を作る
ログが揃ったら、業務ごとに時間を足し、次の3つの物差しで評価します。
- 総時間: 1ヶ月で積み上がる時間。これが削減できる量の「上限」になります
- 頻度: 毎日起きるか、週1か、月1か。頻度が高い業務ほど、一度作った型を何度も使い回せます
- 型の決まり具合: リスト作りは「社名・URL・電話番号・代表者名」と穴埋めの連続です。提案書は相手によって構成が変わります。型が決まっているほど、AIに渡す指示文(プロンプト)が書きやすく、導入の手間が小さくなります
この3つを掛け合わせたものが投資対効果です。効果(削減できる時間)÷ 投資(型を作り込み、慣れるまでの手間)。この数字が大きい順に手を付けます。
先ほどのログを1ヶ月に換算すると、こんな順番表になります(あくまで一例です。あなたの1週間分から、自分の数字を出してください)。
- 見込み客リストの作成: 月あたり約16時間・頻度は月1〜2回・型は◎ → 1位
- 商談前の企業調査: 月あたり約12時間・頻度は週5〜8件・型は○ → 2位
- フォローアップメール: 月あたり約8時間・頻度は毎日・型は○ → 3位
- 提案書作成: 月あたり約12時間・頻度は週1本前後・型は△ → 4位
いきなり提案書から始めない
ここで必ず湧く反論があります。「時間で言えば提案書も大きいし、一番直したいのは提案書だ」。その気持ちは正しい。ですが、最初の一歩にはおすすめしません。理由は3つです。
- 提案書は成果の判断が主観的で、「速くなった」と数字で示しにくい
- 一番見られる文書なので、失敗したときの社内への印象が最も悪い
- 型が決まっていないため、AIの初稿の精度が出るまで練習が要る——つまり投資が一番大きい
一方、リスト作りは、電話番号が違っていれば誰でも一目で分かる。正誤の確認が誰にでもできる業務は、AIと組む練習の最初の一歩に最適です。最初の成功体験を、一番作りやすい場所で作る。勤務時間の4割を削る旅は、この順番で進むのが一番早い。
最初の10日間の進め方
- 1〜5日目: 業務ログを取る(AIはまだ使わない)
- 6日目: 業務ごとに時間を足し、3つの物差しで順番表を作る(30分)
- 7〜8日目: 1位の業務で、AIに最初の初稿を出させる(第3回で、手順とそのまま使える指示文を掲載します)
- 9〜10日目: 同じ業務をもう一度回して所要時間を測り直す。浮いた時間が数字で出たら、それがあなたの最初の投資対効果です
一つだけ守ってください。順番表の1位と、自分が「一番直したい」業務が違っても、まず1位から始める。最初は成功体験が要るのです。
次回から
次回、第3回は「見込み客リストの収集 — 丸1日の作業を2時間にする」です。50社ぶんのリスト作りを、AIとの対話で2時間まで圧縮する手順と、そのまま使える指示文を掲載します。
この連載は書籍『営業の仕事をAIに任せろ — 見込み客リストから提案書まで、1人で回す営業自動化』(Kindle発売中)の内容をもとに、加筆して公開します。
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