見込み客リストの収集 — 丸1日の作業を2時間にする
前回(どの業務から手を付けるか)は、1週間の業務ログから順番表を作る方法を説明しました。多くの人の順番表で1位になるのが、見込み客リストの作成です。手作業で50社ぶんのリストを作ると、検索、Excelへの入力、社内データとの突き合わせで丸1日、8〜10時間。毎月1〜2回発生する業務に、毎回1日を丸ごと持っていかれる。
今回は、この丸1日を2時間まで圧縮する手順を、そのまま使える指示文(プロンプト)と一緒に示します。AIはまだ使っていなくて構いません。まず、今のリスト作りがなぜ遅いのかを、数字で確認します。納得のない自動化は、3日で続かなくなるからです。
まず数える — リスト作りは月32時間の「見えない仕事」
リスト作りにどれだけの時間が消えているか、1社ぶんの工程で数えてみます。「関東に工場を持つ、従業員100〜500人の製造会社」を1行、リストに載せるまでの作業です。
- 検索で会社を見つける: 2分
- 会社のHPで事業内容を確認する: 3分
- 決算公告やIRで規模感を確認する: 3分
- 採用HPで人材の動きを確認する: 2分
- 電話番号、できれば窓口のメールアドレスを探す: 5分
- 表に転記する: 2分
1社あたり約17分。20社で5時間40分。毎月100社を作れば57時間。月の実働の3割超がリスト作りに消える計算になります。この計算をしたことのある営業は、ほとんどいません。やりたがらない理由も単純で、答えが出るからです。数字と自分の持ち時間を比べれば、「このままだと目標が達成できない」ことが確定してしまいます。
さらに悪いことに、この時間は「見えない」。商談はカレンダーが守り、提案書には締め切りが付く。ところがリスト作りを守る仕組みは、どこにもありません。測られない仕事は削られもしない。ただ細切れにされて、空いた時間の隅に追いやられます。細切れは集中を殺します。2時間続けてやれば20社仕上がる作業が、15分×8回に割れると半分もいきません。
「いい顧客」を言葉のまま持っているうちは、誰にも任せられない
ここで、多くの人が最初につまずく壁があります。「どんな会社を探せばいいですか」と聞くと、たいてい「人手不足に悩む会社」「課題意識が高い会社」という答えが返ってきます。この答えには3つの欠陥があります。
- 探せない。検索ツールに「課題意識が高い」で検索できる欄はありません
- 任せられない。判断基準があなたの頭の中にあるので、同僚にも部下にもAIにも引き渡せません
- 毎回ブレる。疲れた日のあなたは別の会社を選びます。再現性がありません
試しに、同僚と2人で「人手不足の会社」を10社ずつ挙げてみてください。重なるのは1〜2社程度のはずです。次に「関東の運送業で、従業員30〜300人、直近90日以内に未経験可の求人を出している会社」を別々に挙げてください。今度はほぼ同じ会社が並びます。
この差が、任せられるかどうかの分かれ目です。あなたが頭の中でやっている選別を、外に出して条件に書き直す。 それがこの2時間作業の最初の30分に当たります。
条件表を作る — 必須3個・優先2個まで
材料は、過去12ヶ月の受注10件と失注10件です。それぞれを「業種/従業員数/所在地/決裁者/提案のきっかけ/提案から決定までの日数」の6欄に書き出します。受注10件のうち7件以上が共通する欄に印を付ける。その印が条件の種です。失注の記録は、除外条件を教えてくれる、理想像の境界線です。
拾った条件は、1枚の表にまとめます。区分は2種類だけです。
- 必須: 1つでも満たさない会社はリストに入れない。3個まで
- 優先: 満たす数が多い会社を上に並べる。2個まで
例を挙げます。シフト管理のクラウドを売る営業なら、こんな1枚です。
| # | 条件 | 判定方法(どこを見るか) | 区分 |
|---|---|---|---|
| 1 | 業種: 一般貨物自動車運送業 | 会社概要・産業分類 | 必須 |
| 2 | 従業員30〜300人 | 会社概要・求人票 | 必須 |
| 3 | 本店が東京・埼玉・千葉 | 登記・会社概要 | 必須 |
| 4 | 直近90日に求人掲載3件以上 | 求人サイト | 優先 |
| 5 | 求人票に「未経験可」の文言 | 求人票 | 優先 |
大事なのは3列目の「判定方法」です。どこを見て判定するか決まっていない条件は、あなたもAIも、そのたびに別の場所を見ることになります。欄を増やしたくなったとき、それは条件ではなく願望です。
もう一つ、ここが肝の考え方です。営業が本当に知りたいのは「課題を抱えている会社」ですが、課題そのものは外から検索できません。そこで、外から見える形に翻訳します。人が足りない会社なら「求人掲載が常時3件以上」「未経験可・ブランク歓迎の文言」。なぜ求人票なのか。求人票は、会社が費用を払って自社の弱点を書く広告欄だからです。人手不足かどうかを、担当者に会うより先に、電話を1本もせずに確認できます。
AIに渡す指示文 — 「まず10社」が肝
条件表が1枚できたら、AIに渡す指示文の空欄を埋めます。以下をそのままコピーして使ってください。
あなたは法人営業のリスト作成担当です。
以下の必須条件をすべて満たす会社を探してください。
【必須条件(1つでも満たさなければリストに入れない)】
1. 業種: [ ]
2. 従業員数: [ ]〜[ ]人
3. 所在地: [ ]
【優先条件(満たす数が多い会社を上に並べる)】
4. [ ]
5. [ ]
出力は表で: 会社名/所在地/従業員数/
優先条件4の該当根拠(見たページのURL)/
優先条件5の該当根拠(URL)
まず10社だけ出してください。条件の解釈が正しいか私が確認してから、
続きを指示します。
いちばん大事なのは最後の1文です。黙って投げると、AIは条件の解釈を勝手に決めたまま100社分を作ってきます。最初の10社を自分の目で判定し、ズレを直すのがいちばん安く済みます。根拠のURLを出させるのは、AIの思い込みを検査するためです。URLが出ない会社は「該当根拠なし」として扱います。
10社を見て、ズレていれば「条件2は300人までだが100人未満は除外して」と直します。合っていれば「同じ条件で50社まで増やしてください」。ここまでが30〜40分。1社17分で50社を作る手作業の8時間とは、ここで早くも差が付きます。
残りの1時間半 — 穴埋め・重複・仕上げ
50社の表が返ってきたら、3つの仕上げをかけます。
- 欠けた項目の穴埋め。「表の電話番号とURLの空欄を、公開情報から調べて埋めてください。見つからない欄は『不明』と書いて空欄のまま残さないで」と指示します。「不明」と「未着手」が区別できる表は、翌日のアプローチで行き止まりません
- 重複の統合。「会社名の表記ゆれ(株式会社の前後、略称)を正規化して、重複する行を1行にまとめてください」
- 並べ替え。「優先条件の該当数が多い順に並べ替え、上位20社には該当根拠のURLを再掲してください」
電話番号が違っていれば誰でも一目で分かる。正誤の確認が誰にでもできる業務だからこそ、AIと組む練習の最初の一歩に最適なのです。前回の順番表で1位に置いた理由がここにあります。
情報の取り扱い — 線は引きながら使う
1つだけ、始める前に決めておくことがあります。リスト作りで扱う社名・資本金・住所・事業内容は、登記や決算公告に載っている公開情報です。伏せる必要がなく、むしろAIに読ませる主材料です。一方で、窓口担当者の個人名とメールアドレスは個人情報です。うちの会社では入力規定がある、という人は、その線を最初から条件表の脇に書いておいてください。「公開情報の範囲でここまで組める」——これが2時間リストの到達点です。
今日やること
- 受注10件(実績が浅ければ「いちばん早く決まった」5社)を6欄に書き出し、印を付ける(20分)
- 必須3個・優先2個の条件表を1枚作る(20分)
- 指示文の空欄を埋めて投げ、「まず10社」を自分の目で判定する(40分)
- 合っていれば50社まで増やし、穴埋め・重複・並べ替えの3指示を出す(60分)
次回から
次回、第4回は「企業調査 — 1社30分を3分にする」です。商談前の決算短信・採用ページ・業界ニュースの横断読みを、紙1枚の調査メモに落とし込む指示文と、商談で最初に切り出す質問まで含むフォーマットを掲載します。
この連載は書籍『営業の仕事をAIに任せろ — 見込み客リストから提案書まで、1人で回す営業自動化』(Kindle発売中)の内容をもとに、加筆して公開します。
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