提案書を送ったあとに放置を生まない — 3日後の確認メールと、失注から作る「次の一手」
私は営業15年目の速水拓真です。いちばん長くやっていたのはフォローアップです。新規開拓の合間に、過去案件のフォローを回す。華やかな仕事ではありません。ただ、このフェーズを疎かにする営業は、いずれリストを集め直すところからやり直します。
前回(第14回)は、商談が終わったら24時間以内にお礼メールと提案書の下書きを同時に仕上げる話をしました。今回はその先です。提案書を送って、お礼メールを打った。ここで何もしなければ、案件は自然に冷えていきます。この記事では「送ったあと」の2つの動き——①3営業日後の確認メール、②失注したときの記録の型——をお伝えします。
提案書を送ったら、カレンダーに「3営業日後」を書く
提案書を送った瞬間が、いちばん油断しやすい。書類を出し切って息をつく。この息の長さが、案件の温度を下げます。
私が決めているのは、提案書を送ったその場で「3営業日後」の確認をカレンダーに書くことです。書くのは1行だけ。「〇〇社・提案書送付の確認」。それだけです。この数字に深い理由はありません。早すぎると先方にプレッシャーを与え、遅すぎると冷える。私の経験則では、3営業日で温度がちょうど保てます。
3営業日後に送るメールは、短いほうがいい。私が使うのは3段落です。
- 提案書が届いているかどうかの確認
- 質問や不明点があれば、いつでも対応するという一言
- 次の打ち合わせの希望を尋ねる一文
これに「本題と関係のない世間話」を足してはいけません。温度を保つためのメールで雑談を挟むと、むしろ先方は「営業が来た」と察して身構えます。
返事が来ない案件の「打ち切り」は、数字で決める
ここで正直に書きます。提案書を送っても、返事が来ない案件は出ます。いくら良い提案書を出しても、です。
私は若い頃、返事の来ない案件を全部「まだ検討中」としてリストに置いておきました。毎週眺めて、今週こそ返事が来るかと待つ。半年経って分かったのは、返事の来ない案件の大半は、返事が来ないという形で答えが決まっていたということです。
そこで私が決めたのが「3回ルール」です。提案書送付後、3日後・10日後・1か月後の3回フォローを打つ。この3回で返事が来なければ、その案件は「失注扱い」として記録し、リストの外に置きます。ただし外に置いただけでなく、この後で書く失注ログに1行残します。
大事なのは、3回ルールは案件を捨てるためのルールではないということです。捨てるのは「待つ時間」だけです。案件の情報はログに移して資産に変える。待つのをやめることと、記録することは別の仕事です。
失注は、いちばん質の高い営業データである
さて、ここからがこの記事の本題です。
フォローアップを3回打って受注に着地すれば祝杯です。着地しなければ失注です。多くの営業は、失注の連絡を受けた日のうちにその案件を忘れます。私もそうでした。
ただ、冷静に考えると、失注は営業が手にするデータの中でいちばん質の高いものです。時間をかけ、交通費をかけ、先方の本音に触れるところまで行った結果が「負け」という形で判明している。実験が終わっているのに、その結果を記録せずに捨てている。それが失注直後の営業の姿です。
「価格で負けた」——失注の連絡でいちばんよく聞く言葉です。ただ、この言葉を額面どおり受け取ってはいけません。私が過去の失注案件を振り返り、先方や同じ業界の人間に確認してきた範囲では、表向き「価格」と聞いた案件の7割に、後から別の事情がありました。
同じ「失注」でも、記録すべき実態はまるで違います。
- 本当に価格で負けた → 次に打つ手は、提案の範囲と値段の再設計
- 決裁者が最後まで出てこなかった → 次に打つ手は、初回商談で決裁者を確認する質問
- 既存の運用や関係業者を続ける空気があった → 次に打つ手は、移行の負担を減らす提案
失注を記録する目的は、負けを数え上げることではありません。理由ごとに「次に打つ手」を変えることです。
聞き取りは判明から3日以内。たった4問
失注理由の鮮度は命です。結果が判明して1か月たつと、先方の記憶もあなたの記憶も整理されすぎて、きれいな理由しか残りません。聞き取りは判明から3日以内、できれば当日にします。
聞くのは次の4問だけです。電話でもメールでも構いません。
- Q1:今回ご判断の際、いちばん大きかった理由をお聞かせください
- Q2:他社様をご選択の場合、決め手となった点は何でしたか(見送りの場合は、その理由)
- Q3:弊社に足りなかったものを、具体的にご指摘いただけますと幸いです
- Q4:またご連絡してよいタイミングは、いつ頃でしょうか
4問目が実務上いちばん重要です。失注した会社は、受注した会社と同じだけ、あなたとあなたの商材を知っています。次の予算計上の直前に戻ってこられるかどうかは、この答えを記録しているかどうかでほぼ決まります。
聞き取りのルールは2つです。
ルール1:理由を聞くだけで、反論しない。「価格が高かった」と言われて、その場で値引きを切り出すのが最悪です。案件は戻りませんし、聞き取りがそこで終わります。
ルール2:値引きや再提案の打診があっても、即答しない。「一度社内で確認してご連絡します」と返し、そのやり取りごとログに記録します。失注直後にその場で値段を下げると、次の商談の値段を永続的に下げます。
失注ログは「9列1行」。書くのは3分
記録が続かないのは性格の問題ではなく、設計の問題です。失注は精神的に嫌な出来事なので、記録に3分以上かかる仕組みは誰にも続きません。私はスプレッドシート1枚に、1案件1行で書いています。列は9列です。
- 記録日
- 会社名・案件名
- 業界
- 金額(万円)(不明なら0)
- 失注ステージ(1〜5)
- タグ(後述の10種から1つ)
- 表向きの理由(先方の言葉を1文)
- 本音の推測(あなたの観察を1文)
- 再接触時期(Q4の答え)
失注ステージは、案件がどこまで進んだかの番号です。1がアポ前、2が初回商談まで、3が提案書送付後、4が見積提示後、5が最終決裁待ち。押さえてほしいのは、ステージ4と5の失注は授業料がいちばん高いということです。見積を作り、調整に時間をかけた案件ですから、ここで負ける理由を潰すと勝率がいちばん大きく動きます。
タグの選び方は、迷ったら「失注が決まった最後の局面で先方が何について話していたか」で決めます。最後まで値段の話が残っていたら「価格」、誰も最終判断に出てこなかったら「決裁者不在」。
9列のうち、8列目の「本音の推測」が、このログの心臓部です。書き方を比べてください。
- 悪い例1:「価格が高かった」……先方の言葉の復唱で、追加の情報がゼロ
- 悪い例2:「自分の説明が下手だった」……自責で終わっていて、次の一手に出られない
- 良い例:「部長は前向きだったが、決裁の専務が既存業者継続を指定・価格は表向き」
3分で書くコツは、悪い例2のような自分への評価を書かないことです。評価ではなく観察を書く。観察は事実なので書くのが苦痛ではなく、後で読み返したときに打つ手が立ち上がります。
なお、この「メモを1行にまとめる」工程はAIに投げています。商談メモと聞き取りの内容をそのまま貼るだけで、9列1行に整形してくれる。私がやるのは、出てきた1行をスプレッドシートに貼ることと、AIの推測を読んで「これは違う」と思ったら30秒で直すことだけです。AIの守備範囲は、話したことを文章にするまで。あなたが直した1行が正です。
10件たまったら集計する。そして次の商談の動作を1か所だけ変える
1行の記録は、10件たまって初めて意味を持ちます。集計のタイミングは「10件、または3か月」のどちらか早いほうです。
表の読み方は、次の4つです。
- タグ別件数の1位:いちばん大きい穴です。ここを直すと、勝率がいちばん動きます
- 業界×タグの表:特定の業界に偏った負け方が見えます。「製造業だけ競合機能負けが集中している」なら、製造業向け提案書に機能比較表を足す、という次の一手が決まります
- 失注ステージ別:見積を作り、調整に時間をかけたステージ4と5の失注は、授業料がいちばん高い。ここで負ける理由を潰すと勝率がいちばん大きく動きます
- 1位と2位以下の差がない:タグの付け方が雑になっています。1案件1タグに絞り直します
そして、集計結果を読んで「なるほど」とうなずくだけなら、集計は趣味です。ログが次の商談であなたが使う部品のどこかを書き替えて初めて、失注は「ナレッジ」になります。書き替える場所は、実務上3か所しかありません。
- 商談メモの項目。「決裁者不在」が最多タグなら、商談メモの形式に「決裁者とその関心事」を1行加えます
- 初回商談の質問リスト。「予算未計上」が上位なら、初回商談の最後に「この検討は、いつの予算に乗る想定ですか」を必須の1問に加えます
- 提案書の1枚目。「伝わり不足」が上位なら、1枚目を自社紹介から「先方の課題の復元」に差し替えます
1回の集計で書き替えるのは1か所だけにしてください。全部直すと、何が効いたか分からなくなります。この一周が回り始めると、失注は負けではなく、商談を回す改善サイクルの燃料になります。
まとめ
- 提案書を送ったその場で「3営業日後」をカレンダーに書く。確認メールは3段落で短く
- 返事が来なければ3回ルールで打ち切り。ただし捨てるのは「待つ時間」だけで、情報はログに移す
- 失注は質の高い営業データ。聞き取りは判明から3日以内・4問だけ。反論しない・即答しない
- ログは9列1行・3分で書く。8列目の「本音の推測」は評価ではなく観察を書く
- 10件たまったら集計し、次の商談の動作を1か所だけ変える
提案書を送って終わり、ではなく、送ってからがフォローアップです。そして失注した案件も、1行のログにすれば資産になります。次回は、こうして積もったログと月次の数字をにらんで、営業の動きを振り返る型について書きます。
(第6回(フォローアップ — 「続かない」を仕組みで潰す)、第14回(お礼メールと提案書を同時に下書きする)、第13回(商談が終わったら、メモを放置しない)、第9回(集めたリストのその先 — どこからアプローチするかを数字で決める)でも、フォローアップと記録の仕組み化を扱いました。あわせて読んでいただくと、この記事がより立体的に見えます。)
🎁 読者特典3点セット(無料)
- ① 提案書3層プロンプト — 40分で6枚の提案書を出す、貼って動く完全版
- ② 調査カード3分プロンプト — 1社30分の企業調査を3分に(5社まとめ処理つき)
- ③ 商談前メモ5箱テンプレート — 商談5分前に読める1枚(AI整形プロンプト+記入例つき)
メールアドレスだけの登録で3点すべてすぐ受け取れます(解除はいつでも)。
→ 読者特典3点セットを受け取る(無料)
📗 シリーズ全3冊: 営業の仕事をAIに任せろ ・ 見込み客をAIに探させろ ・ 商談をAIに鍛えさせろ