速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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商談が始まる前の5分で決めていること — 「何を聞くか」より「何を渡すか」を先に決める

私は営業15年目の速水拓真です。

朝10時の商談を思い浮かべてください。9時55分、あなたは会議室の前か、オンラインなら画面の前で、資料のタブを開いている。この5分間に読めるのは1枚までです。

この5分、何を決めますか。

多くの営業はここで「何を聞くか」を決めようとします。質問リストを見直す。トークの流れを頭の中でなぞる。悪くない習慣ですが、私は15年やってきて、「何を聞くか」より先に決めるべきことがあると考えています。

「何を渡すか」です。

商談の5分前、実は「渡すもの」がもう決まっている

誤解しないでください。「提案書を商談に持っていけ」という話ではありません。今日初回で会う相手に、いきなり提案書は要りません。

私が言っているのは、もっと小さな「渡すもの」です。

  • 商談が終わったあとに送るお礼メールの、あて先と件名
  • 商談の中盤で「これ、お渡しします」と言って差し出せる1枚の資料(調査メモの一部でも、自社サービスの説明1枚でもいい)
  • 「本日のお話を◯日までにまとめてご送付します」— 商談の最後で交わす、その約束の内容

つまり、商談が終わった後に相手の手元に何を残すか。これを商談の5分前に決めておくのです。

理由は簡単です。商談の中で本当に決めなきゃいけないことは、実はその場では決められないからです。

「その場で決める」のには限界がある

商談の本題で決めるべきことは、相手との対話の中でしか決まりません。相手の課題がどの方向に開くかは、話してみないと分からない。そこは臨機応変でいい。臨機応変にやるから商談です。

ところが、「終わったあとに何を残すか」は、相手がどう話そうと、ほぼ変わらない

  • お礼メールは、商談がどう転ぼう送る
  • 次のアクションの約束は、商談の雰囲気に応じて日程が動くくらいで、「何を送るか」の枠は動かない
  • 渡す1枚は、商談中の話題に合わせてどの部分を強調するかだけが変わる

つまり「渡すもの」は、商談前に決めておける要素の中で、最も商談の結果を左右するものです。5分前に決められることを商談中に考えようとすると、商談の最後の数分を「そういえば、終わったあとはどうしましょう」という思考に使ってしまう。ここがもったいない。

さらに、これを先に決めておくと、商談中に「何を聞くか」も自動的に決まります。お礼メールに書くべき「次の一手」を商談中に見つける必要があるからです。

私が商談の5分前に読む1枚 — 5つの箱

ここで、私の実際の運用をお見せします。前回(第13回)は商談後のメモを議事録に変える話を書きましたが、今日はその前段、商談前に読む1枚の話です。

この1枚は、5つの箱が並んだ25行の用紙です。私の著書『営業の仕事をAIに任せろ』の第4章で紹介しているテンプレート(商談前メモ5箱)と同じ型ですが、今日は「5分前の読み方」に絞って説明します。

【基本】
- 相手企業の規模・事業内容(3行以内・出所と年月つき)

【シグナル】
- 相手にいま起きている変化(5行以内・決算・人事・設備投資・ニュース)

【問い】
- 相手の状況を確認する質問(3個・自社商品の売り込み文は禁止)

【冒頭の話題】
- 雑談として口に出せる事実1行(「静岡の新工場、プレスを拝見しました」等)

【伏せないこと】
- 触れてはいけない話題1行(既存ベンダーとの比較・訴訟・業績悪化の報道)

この5箱を、上から順に読みます。読み時間は2分です。25行に収まっている限り、5分前でも読み切れる。これがこの1枚の唯一の存在理由です。

では、この5箱のどこで「渡すもの」を決めるか。

【問い】の3個を読んだとき、「この問いの答えを聞いたら、商談後に何を送るか」を1行、心の中で言える状態にしておく。これだけです。新工場の立ち上がりが問いにあれば、「竣工後の生産計画に関する公開情報」が送るものになるかもしれない。利益率の改善策が問いにあれば、「同業他社の改善事例のまとめ」が送るものになるかもしれない。

そして【伏せないこと】の1行は、「送らないもの」を決める行でもあります。既存ベンダーの導入事例が公表されている相手に、比較資料を送らない。この1行で、商談後の失敗を1つ潰せます。

「聞くこと」と「渡すこと」は、実は同じ1枚から生える

ここまでの話を、営業の時間の流れで整理します。

  1. 商談前:5箱の1枚を読む(2分)→【問い】から「商談後に何を渡すか」を1行決めておく(1分)
  2. 商談中:【冒頭の話題】→【問い】の順で口に出す。「渡すもの」に関係する話題が相手から出たら、そこは深掘りする
  3. 商談後:24時間以内にお礼メールと一緒に「渡すもの」を送る(前回・前々回の第14回の話)

つまり、「渡すもの」を先に決めておくと、商談の中の聞き取りが「漫然とした聞き取り」から「渡すものを仕入れる聞き取り」に変わる。これが私が「『何を聞くか』より『何を渡すか』を先に決める」と言う理由です。聞くことが、渡すものに奉仕するからです。

「そんなに上手くいかない」という声が聞こえます。実際、商談中に想定していた「渡すもの」が全部変わることもあります。それでも構いません。「渡すもの」の枠が変わるだけで、商談の最後に「では、◯◯をご送付します」という一文が自然に出てくる構造は同じです。ゼロから考えるのと、修正するのとでは、商談の最後の数分の質が全く違います。

AIに「渡すもの」候補を作らせておく

最後に、この運用をAIで速める方法です。5箱の1枚は、AIに原文を渡せば15分で整形できます(著書第4章のプロンプトをそのまま使えます)。

このとき、プロンプトの末尾に1行だけ足してください

6. 【問い】のそれぞれに、商談後に送れる情報(公開情報の範囲)を1行ずつ添える

これで、AIは【問い】に対応する「送れるもの」の候補も一緒に出してきます。新工場の問いの横に「竣工後の生産計画に関する公開情報(プレスリリース2025年4月)」が並ぶイメージです。営業はそれを見て「これは送る」「これは送らない」を判断するだけ。判断だけの仕事にしてしまう。これが私の15年で編み出した、AIの正しい使い方です。

もちろん、AIが出した候補は必ず原文に戻って突き合わせてください。出所のない行は削る。この4分は省かない(第12回で書いた通りの型です)。

今日からやること

  1. 次の商談の5分前に、読むものを1枚に絞る。 25行に収まらないなら削る。「商談の5分前に流し読みして、冒頭の一言と最初の質問が決まるか」。この判断基準だけを持ってください
  2. 【問い】を読んだら、「商談後に何を送るか」を1行、心の中で言ってから入室する。 商談の最後に「では、◯◯をご送付します」と言えたら成功です
  3. AIの5箱プロンプトに「6. 送れる情報を1行ずつ」を足す。 著書第4章のプロンプトをコピーして、1行だけ追加する。1回試せば、戻れなくなります

前回の第15回では、提案書を送ったあとのフォローアップと失注から作る「次の一手」を書きました。商談は1本で終わりません。前置きの1枚、商談後のフォロー、そして今日書いた「渡すもの」— この連載は、リスト収集からフォローアップまで、AI時代の営業の全工程を毎日1テーマで書いていきます。


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