速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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紹介が動いたあとの「裏の冷接触」を回し続ける設計 — 発掘KPIで月次の打ち方配分を決める

私は営業15年目の速水拓真です。前回は返信が来なかった会社への「次の一手」— 紹介の導線と再送の型の話を書きました。紹介が動き始めると、営業の打ち方はそちらに傾きます。時間あたりの商談化が冷接触の8倍になるからです。

ですが、この「8倍」は私の環境で出た数字であって、あなたの環境では別の数字になります。自分の数字を持たないまま配分を決めると、感覚で決めるしかなく、感覚は繁忙期に必ず狂います。

そこで今日は、発掘の結果を測る計器を据えます。計器は複雑にしません。段を3つ、率を2つ、基準ラインを3つだけ。この話が終わる頃には、金曜の15分で「来週どこをいじるか」が数字で決まるようになります。

アポ数だけ測っていると、処方が決まらない

私がAIに発掘を任せ始めた2か月目の失敗です。見込み客リストが800社を超えた月、月末の振り返りに「今月はよく回せた」と書きました。アポは0件でした。リストの行数が成果の顔をして、打ち口は1本も増えていない。この事故は、リストを伸ばす仕組みほど速く起きます。

月末にアポが0件のとき、原因の候補は少なくとも3つあります。

  • 発掘条件がズレていて、プール自体が商談化しない会社で埋まっている
  • プールは正しいが、接触に時間を割けていない
  • 接触はしているが、文面かターゲットがズレている

処方は3つで、まったくの別物です。1つ目には発掘条件の見直し、2つ目には時間設計、3つ目には初回メールの3層構造で書いた文面の改善が要ります。月末の「0件」という1つの数字からは、どの病気かが分かりません。だから上流に2つの数字を足します。プールと接触です。

3段漏斗 — 数える条件を固める

KPIとは「重要業績評価指標」の略ですが、要は仕事の調子を数字で見るための計器です。計器は定義が9割です。定義が曖昧なまま数字だけ追うと、数週間で記録シートが空欄だらけになります。各段で「何を数えて何を数えないか」を先に固めます。

第1段 プール — いつ接触してもいい状態の会社数

数える条件は3つ。確度判定を通過している(リストの精査と順番を点数で決めるで書いた点数付けで「高」が付いている)、担当者の連絡先が埋まっている、文面を書くのに必要な情報が揃っている。この3つを満たす行だけがプールです。

スプレッドシートに貼っただけの生リストは含めません。確度判定を通っていない会社は接触できないので、プールに入れた瞬間に数字が嘘になります。私の800社は、まさにこの生リストでした。

プールには「在庫」の性質があります。リストは在庫であると書いたときと同じ理屈で、接触とアポはその月に流れる量(流量)ですが、プールは手元に残る量(在庫)です。在庫が尽きた月、接触は理由に関係なく止まります。だからプールは月初と今日の2回数えます。

第2段 接触 — 新規見込み客への初回接触の社数

初回接触だけを数えます。2通目以降のフォローは数えません。この段は「打ち口の広さ」を測る指標で、フォローを入れると気分で数字が増やせて濁ります。1社につき1カウント。電話でつないでからメールを送っても1のままです。

紹介依頼はこの段に含めません。紹介依頼は既存顧客へのアクションで、見込み客への接触とは効率が1桁違うので、同じ母数に混ぜるとどちらの率も読めなくなります。紹介依頼の送付数は、前回書いた紹介のログのまま別枠で数えます。

第3段 アポ — 初回商談の日程が確定した件数

相手のカレンダーに日程が入った瞬間にカウントします。実施したかどうかは問いません。実施ベースにするとカウントが遅れ、週の判断に使えなくなります。当日キャンセルも1から引きません。キャンセルが続くなら、文面と実態のギャップという別の病気です。

アポには必ず「経由」を付けます。冷接触か、紹介か、展示会か。経由別のアポ数こそ、翌月の時間配分の根拠になる数字です。

率は2つだけ測る

3段の数字から作る率は2つです。

  • プール稼働率 = 月間接触数 ÷ 月初のプール在庫
  • 冷接触アポ率 = 経由「冷接触」のアポ数 ÷ 月間接触数

アポ率の分母は冷接触に限定します。紹介経由のアポを混ぜると、紹介の調子で冷接触の精度が読めなくなります。開封率と返信率は測りません。開封率は測定環境に左右されすぎて、判断の材料になりません。

私の直近の1か月はこうでした。

  • プール在庫(月初): 320社(確度「高」かつ未接触)
  • 接触: 100社(冷接触のみ)
  • アポ: 4件(冷接触2件・紹介2件)

稼働率は31%、冷接触アポ率は2.0%。この2つの率が週ごとに並ぶと、次にどの段をいじるかが決まります。その基準が3ラインです。

基準は3ラインで決める

KPIは「どの値を下回ったら何をするか」まで書いて初めて機能します。私は段を6つに分けた漏斗を試して2週間で回らなくなりました。2年生き残っているのは、次の3ラインです。

在庫ライン: プール在庫は月間接触数の3倍を下回らない。 根拠は、文面を改善して接触を増やしたとき、3か月分の在庫がないと改善のテストが途中で止まるからです。接触100社なら下限は300社。下回った週は、発掘バッチ(AIに条件を渡して見込み客リストを一括生成する仕組み)を週1回から週2回に増やします。

稼働ライン: プール稼働率は25%を下回らない。 25%未満が2週続いた場合、たいてい「リストを磨く時間が接触の時間を食っている」パターンです。処方は、1社の調査を第1作『営業の仕事をAIに任せろ』で作った企業調査の道具に丸投げし、自分の手を1社5分で打ち切ることです。

転換ライン: 冷接触アポ率は過去8週の中央値を下回らない。 平均ではなく中央値なのは、アポが月2件レベルの数字だからです。1件のブレで平均は跳ねますが、中央値(数字を並べ替えたときの真ん中の値)は跳ねません。8週分のログが貯まるまでは1%を仮置きし、貯まったら中央値に置き換えます。下回ったら文面か確度判定を見直します。

3ラインより増やさないでください。KPI表が1画面に収まらなくなった瞬間、週次の習慣は死にます。

同じ「アポ0件」でも、処方は正反対になる

3段に分ける意味は、失敗のパターンで一番はっきり出ます。次の2つは、どちらも月末アポが0〜1件です。

  • ケースA: プール620社、接触18社。稼働率3%。リストを磨くことが仕事になっている状態です。処方は接触時間の先取り確保。毎朝30分を接触に固定し、追加調査は1社5分で打ち切ります
  • ケースB: プール55社、接触52社。稼働率95%。発掘が接触に追いついていません。処方は発掘バッチを週2回に増やし、確度「中」で止まっている行を判定し直すことです

アポ0件への処方として「もっと接触しろ」と「もっと発掘しろ」は正反対です。段を3つに切った瞬間、病巣が1つに特定できます。これが漏斗(じょうご。上から入れた水が下に落ちるまでにどこで減るかを見る形)を設計する実益です。

目標は成約から逆算する — 4行の式

3ラインは「悪化に気づく」基準です。目標の立て方は別で、成約から逆算します。新規成約を月1件積みたい場合の例です。

  1. 成約: 月1件
  2. 初回商談→成約が25%なら、アポは月4件
  3. 内訳を紹介2件・冷接触2件と置くと、冷接触は月100通(平日5通)
  4. 冷接触100通の3か月分の在庫で、プールは300社。発掘は週1回のバッチで月80社

25%は自社の実績で置き換えてください。商談→成約が10%なら2行目が月10件になり、3〜4行目は2.5倍です。この4行が書けると、発掘バッチの月間回数まで数字で決まります。紹介2件ぶんの回路は、前回書いた紹介元の維持ルーチンがそのまま担います。

計器の回し方 — 金曜の15分

集計を手でやると15分かかります。AIに投げれば1分です。用意するデータは3つで、いずれもスプレッドシートの該当範囲をそのままコピーします。

  • データ1: 見込み客シート(会社名・URL・業種・従業員数・確度・理由・メモの7列)のうち確度「高」の行
  • データ2: 接触ログ(送信日・会社名・経由の3列)。過去ぶんをすべて
  • データ3: アポ一覧(会社名・確定日・経由の3列)

この3つを、次のプロンプトに貼って走らせます。

あなたは法人営業のKPI分析担当です。次の3つのデータから「プール・接触・アポ」の3段漏斗を集計し、指定の形式で出力してください。

【基準値】
- 稼働ライン: 25%
- 転換ライン: 1%(8週分のログが貯まったら自分の中央値に書き換える)

【データ1 見込み客シート(確度が「高」の行のみ)】
(ここに貼る)

【データ2 接触ログ(送信日・会社名・経由)】
(ここに貼る)

【データ3 アポ一覧(会社名・確定日・経由)】
(ここに貼る)

【集計期間】今月1日から今日まで

【出力形式】
1. プール在庫: 今月1日時点と今日時点の2行。数え方は「データ1のうち、会社名がデータ2に現れない行」
2. 月間接触数: 集計期間内に送信日が入るデータ2の行数(経由が「紹介」の行は除く)
3. 月間アポ数: 集計期間内に確定日が入るデータ3の行数を経由別に(冷接触/紹介/その他)
4. プール稼働率: 月間接触数 ÷ 今月1日時点のプール在庫(小数第1位まで%)
5. 冷接触アポ率: 3の冷接触ぶん ÷ 月間接触数(小数第1位まで%)
6. 3ライン判定。各「OK」または「要対応」と理由1行:
   - 在庫ライン: 今日時点のプール在庫 ≥ 月間接触数×3
   - 稼働ライン: プール稼働率 ≥ 25%
   - 転換ライン: 冷接触アポ率 ≥ 基準値
7. 来週やること: 「要対応」の中で最も上流(在庫→稼働→転換)の1つへの行動を1行

各数値の後ろに、根拠になった社名を最大3社まで添えること。データから数えられない数値は推測で埋めず「未入力」と表示すること。

出力の7番「来週やること」をメモに残す。翌週の金曜にもう1回走らせ、前週の推奨と実際の数字を見比べる。この見比べが、改善ループの入口になります。紹介の導線が動いても、この裏側の冷接触が止まっていないかを、金曜の15分で数字に聞く。それが月の打ち方配分を決める仕組みです。

今回の3段漏斗と計器の設計は、第2作『見込み客をAIに探させろ』の第7章にあたる部分です。次回は、この計器を週次の改善ループに接続します。「要対応」が出たとき、どの段をどう直すかの判断の型です。


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