速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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リストを部署の唯一の事実にする — 二重着手と眠るリストを週20分で防ぐ設計

私は営業15年目の速水拓真です。

前回(第22回:改善ループを部署の資産に変える)は、どの企業に当たるべきかを決める「物差し」を部署で1本にそろえる話をしました。今回は、その物差しを通ったあとの始末です。リストをどこに置くか。着手をどう残すか。放置をどう拾うか。地味な3点ですが、ここが崩れると、せっかくAIで自動収集したリストの効果は半分以下になります。

二重着手は、1回で信頼を殺す

私が現場にいた頃に先方から頂いた言葉で、今も忘れられないものがあります。「先週も御社の方から、同じ資料をいただきました」。展示会で名刺を交換した企業に電話をかけたら、5日前に別のメンバーが同じ提案書を送っていたのです。その企業からの返事は、その後一度も来ませんでした。先方にとって我々は「自社の誰が何をしているか分かっていない会社」に変わってしまった。これは商品の欠陥ではなく、印象の欠陥です。商品は直せますが、印象は直りません。

逆の病気もあります。半年前にAIで集めた300社のリストが、共有フォルダの中で一度も開かれずに眠っている。リストが生まれる仕組みは作ったのに、生まれた先が引き出しでは、自動化の意味が半分に消えます。

この2つ、二重着手と眠るリストは、原因が同一です。リストが「1つの台帳」ではなく「複数のファイル」として散らばっていて、着手が記録に残らない。だから直し方も1つで足ります。台帳を1本立てて、着手を書き、放置を規則で拾う。今日はそれを週20分で回すところまで作ります。

鮮度が落ちる3つの原因

リストは鮮度の生き物です。AIが自動で集めた直後が鮮度100で、以後は毎日落ちていきます。獲れたての魚を氷にも入れず3日放置すれば、獲る苦労が無駄になるのと同じ構図です。鮮度の低下そのものは、誰にも止められません。こちらに決められるのは、落ちる前に着手の順番を決めることと、着手の記録を1箇所に残すことだけです。

壊れ方は、いつも同じ3パターンです。

原因1:リストが「ファイル」として存在する。「展示会2024.xlsx」「購入リスト.csv」「AI収集_0407.csv」。同じ企業が3つのファイルに載っていても、開けて突き合わせる人がいない限り、誰も気づけません。

原因2:着手が記録されない。誰がいつ何をしたかは、担当者の頭と手帳の中にだけある。月曜にAが電話をかけても、火曜にBが同じ企業へ電話をかける。

原因3:「終わり」が定義されていない。断られた企業が「未着手」のまま行に居座る。翌年、担当の変わった別のメンバーがまた電話をかける。これは先方から見れば、立派な二重着手です。

1分でできる健康診断を1つ。手持ちのリストを開いて、「誰が・いつ・何をしたか」が行ごとに書いてある行を数えてください。書いてある行が2割に満たなければ、この記事はあなたのために書かれています。

基本形は「台帳1本 × 7列 × 6状況」

まず台帳を1本立てます。すべてのリストを1枚のスプレッドシートに集約し、以後「新しいリストファイルを作る」は禁止です。第3回(見込み客リストの収集)で作った収集の道具で増えた分も、例外なくこの1枚の末尾に追記します。置き場所は共有フォルダです。他のメンバーが読めない場所にある台帳は、台帳ではなく隠しリストです。隠しリストは二重着手の在庫です。

列は7つ、増やさない。

  • 企業名 — 登記上の正式名称(例: 株式会社サンプル商事)
  • URL — 会社サイトのアドレス(例: sample-shoji.co.jp)
  • 状況 — 6種類のどれか1語(例: 着手中)
  • 最終更新日 — 行を追記した日、または状況が変わった日(例: 2025-05-12)
  • 次のアクション — 次にやることを1文(例: 担当者に事例資料を送る)
  • 担当者 — 手を付けている人の名前(例: 速水)
  • 備考 — 自由記述(例: 経理部が窓口・決算期に興味)

列をこれ以上増やす誘惑に負けないでください。増やしたい情報はほぼすべて備考に書けます。列が増えると更新の手間が増え、手間が増えると原因2に逆戻りします。

状況は6種類、自由記述にしない。放置してよい日数(最終更新日から)まで決めて、表に書いておきます。

  • 未着手(まだ誰も手を付けていない)— 90日
  • 着手中(アプローチ済み・返事待ち)— 60日
  • 商談中(先方の担当者とやりとり中)— 30日
  • 保留(先方の都合で止まっている)— 90日
  • 見送り(断られた・案件が動かなくなった)— 180日
  • 失注(決着して負けた)— 365日

受注した行は台帳から外して、顧客管理に移します。これで「終わり」が定義され、原因3が消えます。しきい値の数字そのものは商材のサイクルに合わせて変えて構いません。大事なのは、数字を決めて表に書いておくことです。「だいたい半年たったら」という判断は、忙しい週には必ず飛びます。飛ばないのは、表に書いた数字だけです。

核は「着手した瞬間に更新する」という1動作です。電話を切ってから台帳を開くまでを1セットにする。ここさえ回れば、台帳は「今、どの企業を誰がどこまでやっているか」を全員に見せる唯一の事実になります。台帳が1枚できると、前回の物差しとの連結が効いてきます。物差しは「どの層に当たるべきか」を決め、台帳は「その個々の企業が今どうなっているか」を持ちます。だからAIへの指示は「未着手の行を、物差しの条件に当てはまる順に10社」と書ける。着手の判断に人の記憶が介在しなくなる点こそ、この連載の目指すところです。第9回(リストの精査と順番を点数で決める)の点数と合わせれば、着手の順番まで決まります。

道具31 — 重複を掃除するAI(月曜10分)

300行のリストから重複を目で探すには1時間かかり、それでも3割ほどは見落とします。見落としの正体は表記ゆれです。「株式会社サンプル商事」「サンプル商事(株)」「sample-shoji.co.jp」は、目には3社に見えます。道具31は、この3行を1社として拾い上げます。

あなたは営業リストの重複チェック担当です。1列目に行番号、2列目に企業名、3列目にURLの表を貼ります。
[行番号・企業名・URLの3列をここに貼る]

手順は次の通りです。
1. 企業名から「株式会社」「㈱」「(株)」「有限会社」「(有)」を外して比較する
2. スペースの有無、旧字体と新字体の差、カタカナ・英字表記の差は、同一企業の可能性が高いと扱う
3. URLからドメイン(co.jp や com で終わる部分)を抜き出し、ドメインが一致する行は同一企業と断定する

重複している組み合わせだけを、次の形の表で出力してください。
| 行番号 | 企業名 | 重複相手の行番号 | 根拠(ドメイン一致/名称一致) | 推奨処置(統合/要確認) |

この道具は黒箱で構いません。中で何が起きているかを理解する時間を、営業は1秒も使わなくていい。表を貼って、実行して、出てきた表を上から読む。道具との付き合い方はそれだけです。

処置は2択です。

  • ドメイン一致(統合): 最終更新日の新しい方の行を残す。消す方の備考は残す方へ移し、「◯行と統合」と書いてから削除する。
  • 名称一致のみ(要確認): 自分の目で2つのサイトを開いて確かめる。同一企業なら統合、別企業なら備考に「類似名・別社」と書いて残す。

5秒ルール — 二重着手の最終防衛線

道具31は毎週月曜の大掃除です。毎回の点検は、5秒ルールで補います。電話やメールの前に、台帳を社名の一部で検索し、状況と担当者を5秒眺める。「サンプル商事」で検索したら「着手中・担当者=Bさん」の行が出た。そのまま進まず、Bさんに「今、この会社に切り出そうとしている」と一声かける。30秒です。未着手の行なら、何も聞かずに進んで構いません。この5秒が二重着手の最終防衛線です。週1回の大掃除と毎回の5秒、二段構えにしておけば、冒頭の事故は構造的に起きなくなります。

道具32 — 眠っている行を起こすAI(金曜10分)

眠るリストの正体は3種類です。

  • 熟睡 — 追記したまま、誰も手を付けていない未着手
  • 冷凍 — 断られたまま、忘れられた見送り
  • 音信不通 — 商談中のまま、先方の担当者と途絶えた行

この3つは、状況と最終更新日が行に入っていれば、規則で機械的に拾えます。道具32は、前出のしきい値を超えた行を、超過の日数が長い順に出します。

あなたは営業台帳の鮮度チェック担当です。今日の日付は[[今日の日付]]です。次の表に台帳を貼ります。
[台帳の全行をここに貼る]

次の条件に当てはまる行を抽出してください。
- 状況「未着手」で、最終更新日から90日以上経過
- 状況「着手中」で、最終更新日から60日以上経過
- 状況「商談中」で、最終更新日から30日以上経過
- 状況「保留」で、最終更新日から90日以上経過
- 状況「見送り」で、最終更新日から180日以上経過
- 状況「失注」で、最終更新日から365日以上経過

出力は次の形で、経過日数が長い順に並べてください。
| 企業名 | 状況 | 最終更新日 | 経過日数 | 当てはまる条件 | 復活の最初の一歩 |

「復活の最初の一歩」の欄は、状況ごとに次の観点で1文にしてください。
- 未着手:自社商材と相手の事業の接点を1つ挙げ、最初のアプローチの角度を示す
- 着手中・保留:催促ではなく、資料や事例を1つ足す形の連絡にする
- 見送り:担当交代や年度替わりを理由に、挨拶からやり直す一手にする
- 失注:1年越しの近況報告という位置付けで再開する一手にする

金曜の夕方10分で実行します。出力の上位5社を、翌週のアポ取りの最初の枠に入れてください。この10分で「眠るリスト」は仕様上いなくなります。放置は「見落とし」ではなく「規則どおりの復活待ち」に変わるからです。

冷凍庫の行は、半調理済みである

最後に、着手の順番の話をします。新しい50社を掘って当たるのと、眠っていた5社を起こして当たるのと、同じ1時間ならどちらに投じるか。私の経験では後者です。かつて手を付けた企業は、社名の読み方が合っている、電話がつながる、商材と相手の事業の接点が備考に残っている。冷凍庫の行は半調理済みなのです。新規収集をやめる話ではありません。収集の道具が毎週生む新規の行は台帳の末尾に積まれ、鮮度の高い順に消費される。その合間を、道具32の復活5社が埋める。新規と復活の二本柱が組めば、着手の順番はあなたが席にいなくても決まります。第10回(リストは在庫である)で書いた「必要社数を先に計算する」視点も、この二本柱が前提になって初めて回ります。

週20分の運用サイクル

  • 5秒ルール(着手前の台帳検索) — 着手のたび・5秒
  • 道具31で重複を掃除 — 月曜の朝・10分
  • 道具32で眠りを拾い、復活5社を翌週の枠へ — 金曜の夕方・10分
  • 状況別の社数を眺める — 月1回、マネージャーと・10分

月1回の棚卸しは、前回の持ち寄り会のメンバーと、状況別の社数を眺めるだけです。「商談中が3社」「未着手が400社」。この2つの数字が出ただけで、次の4週間に誰の支援に回るべきか、会議を開かなくても分かります。物差しが「誰に当たるか」を決め、台帳が「誰がいつどこまでやったか」を持ち、道具32が「今週起こす行」を指す。リストの鮮度管理に、あなたの記憶も根気も要りません。

今日やること

  1. 台帳v0を作る(20分)。手持ちのリストを1枚のスプレッドシートにコピペします。列は7つ。状況の分かる行だけ埋め、分からない行はすべて「未着手」、最終更新日は今日の日付にします。きれいに整える必要はありません。今日は1枚に重なっていれば合格です。
  2. 道具31を保存して走らせる(15分)。いつもの固定ページに道具31を貼って保存します。台帳に行番号の列を足してから、行番号・企業名・URLを貼って実行。ドメイン一致の行は新しい方を残して統合し、「要確認」の行だけ自分の目で確かめます。
  3. 道具32を保存して走らせ、復活5社を決める(10分)。同じ固定ページに道具32を貼って保存します。台帳を貼り、今日の日付を入れて実行。出力の上位5社を、明日のアポ取りの最初の時間に入れてください。来週から月曜10分と金曜10分、計20分で、あなたのリストは鮮度を保ち続けます。

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