速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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商談を7つの局面に分解する — どこが「書ける作業」で、どこが「人の仕事」か

どうも、営業15年目の速水拓真です。前回は『商談をAIに鍛えさせろ』の入り口として、商談の勝敗が会う前に9割決まっている話をしました。今日はその中身に入ります。商談を7つの局面に分解して、各局面の合格条件を確認し、どこが文章とAIに出せる時間で、どこがどうしても人の仕事なのかを切り分けます。

「価格で負けた」と処理した失注の正体

私が営業担当だった頃、いちばん悔しかった失注の最後の電話で、相手の部長はこう言いました。「すみません。他社さんの方が安かったので」。私はこの案件を「価格で負けた」と処理し、案件簿の失注理由の欄に「価格」と書きました。

半年後、たまたまその部長と飲む機会があり、本音を聞きました。「安さじゃなかったんですよ。正直に言うと、あの時、君の提案をうちの上に説明する材料が、こっちにも無くて」。

この案件は価格交渉で死んでいません。決裁を待つ間、相手の担当者を放置した局面で静かに沈んでいました。部長の電話は、死の宣告であって、死因ではなかったのです。

失注理由は、たいてい最後の場面に置かれます。見積が高かった。決裁者が替わった。予算が凍結された。しかし失注の原因はもっと手前の局面にあることが多く、しかも本人はその認識を持てません。どこで負けたかが分からないと、直す場所も間違えます。価格で負けたつもりの営業は値引きの技術を磨き、決裁で負けたつもりの営業は上役を商談に呼ぶ動きを覚える。実際に直すべきは、初回商談の質だったりします。

商談の7局面

商談は一つ続きの時間に見えます。しかし実際には、性質の違う7つの時間がつながったものです。元ネタの書籍では表形式で整理されていますが、ここでは箇条書きで並べます。

  • 局面1 接触 — 見込み客へのメール・電話、紹介依頼、アポイント取得。アポ1件に5〜15回の接触
  • 局面2 事前準備 — 相手企業の調査、想定質問の作成、リハーサル、アジェンダ送付。30〜90分
  • 局面3 初回商談 — 相手の課題を聞き出す。60分
  • 局面4 提案 — デモ、提案書の提示、初回見積。60〜90分
  • 局面5 価格交渉 — 値引き要求への対応、支払・契約条件の詰め。商談1回+やり取り数回
  • 局面6 決裁・受注 — 相手企業の内部決裁。担当者が社内で説明を回す。2〜6週間
  • 局面7 断られ後のフォロー — 断られた理由の確認、時期を変えた再コンタクト。1回3〜15分

2点だけ補足します。

局面6は、7局面の中で唯一、あなたがいない時間です。あなたの商材が相手の社内で説明され、比較され、決められる。この局面が2〜6週間かかるのは、その間あなたにできることが限られるからです。限られる、のですがゼロではありません。ここを過ごす力が受注率を大きく動かします。

局面7は、多くの営業が案件簿から消す時間です。後で触れる数字の通り、私の受注の3割はここを通って生まれました。断られは商談の終わりではなく、7局面のうちの1局面にすぎません。

各局面の「合格条件」

各局面には合格条件があります。合格条件を満たさないまま次に進んだ商談は、必ずどこかの手前に引き戻されます。引き戻されている事実に、本人だけが気づきません。

  • 局面1(接触)の合格条件:アポイントが取れた。つまり相手に「30分割く理由」ができた
  • 局面2(事前準備)の合格条件:想定質問リストと冒頭5分の型が手元にある。これは前回のブリーフィングとリハーサルで固めました
  • 局面3(初回商談)の合格条件:相手が自分の課題を自分の言葉で話し、次回の日程が決まった
  • 局面4(提案)の合格条件:提案書の1ページ目に、初回商談で聞いた相手の言葉が載っている
  • 局面5(価格交渉)の合格条件:「いくら」の話が「いつ・どこまで・何と引き換えに」の話になっている
  • 局面6(決裁・受注)の合格条件:担当者が社内説明に使える材料(費用対効果、他社比較、リスク)をあなたから受け取っている
  • 局面7(断られ後のフォロー)の合格条件:断られた理由を、相手が答えてくれた

1つ、感覚を逆にしておきます。見積を見せた相手が「高いですね」と口にしたら、その案件は失敗ではなく合格です。見積を検討する段階まで到達した証拠だからです。恐ろしいのは「高い」ではなく、「社内で検討します」で消える案件のほうです。

勝敗はどこで決まるのか — 93件の案件から数えたこと

私の数字を開示します。営業担当として最後の年、私が動かしていた案件は93件、受注31件、失注62件でした。私は失注の連絡が来るたびに商談メモを最初から読み直し、「最初に崩れた局面」を記録する習慣を持っていました。

結果はこうです。

  • 失注62件のうち48件(77%)は、局面3(初回商談)より手前で崩れ始めていた。価格交渉(局面5)で負けたように見えた案件の大半は、初回商談で相手の課題を具体的に聞けないまま提案(局面4)に進んでいた
  • 受注31件の事前準備(局面2)の平均時間は86分。失注62件は27分
  • 受注31件のうち9件(29%)は、一度は断られ、局面7のフォローを通って受注した案件だった

次に時間の配分です。当時の私を含め、多くの営業は1案件をこう割り振っています。

  • 局面3〜5(商談のテーブルの上):約4時間(商談2回+提案書作成)
  • 局面2(事前準備):30分弱
  • 局面6(決裁待ちの間の働きかけ):ほぼゼロ
  • 局面7(断られ後のフォロー):ほぼゼロ

時間を最も注ぐのはテーブルの上、最も注がないのはテーブルの外です。ところが先ほどの数字は、商談の勝敗がテーブルの外で決まっていることを示しています。準備の86分と27分の差がそのまま受注率に現れ、局面6を放置した案件は静かに沈み、局面7を通らない営業は受注の3割を捨てています。

商談はテーブルの上では決まりません。テーブルの外で決まって、テーブルの上で確認されるだけです。

どこが「書ける作業」で、どこが「人の仕事」か

ここで、この連載の主題に接続します。7局面を「文章とAIに出せる時間」と「人の仕事」に分けると、こうなります。

  • 局面2(事前準備) — 調査・想定質問・リハーサルはすべて書ける作業です。企業調査は1社30分の調査を3分にする型で、想定質問は前回の道具1で。テーブルの外の時間を「書ける時間」に変換する、最も取り組む価値のある局面
  • 局面3(初回商談) — 相手が自分の課題を自分の言葉で話すことが合格条件。ここだけは人の仕事です。聞くことをAIに外包した瞬間、合格条件そのものが消えます。AIができるのは、聞くための準備と、聞いた内容を残す作業の両側です(商談後のメモは商談後メモを議事録に変える型で)
  • 局面4(提案) — 提案書の1ページ目に相手の言葉を載せる作業は、ほぼ書ける作業です
  • 局面5(価格交渉) — 「いつ・どこまで・何と引き換えに」への変換は条件判断なので判断は人、判断を整理して提示する材料づくりは書ける作業
  • 局面6(決裁・受注) — 社内説明に使える材料を先回りして作って渡すことは、完全に書ける作業です。あなたがいない2〜6週間に送り込む文章は、事前に用意できる唯一の武器
  • 局面7(断られ後のフォロー) — 理由の確認の切り出しと、時期を変えた再コンタクトの設計は書ける作業。1回3〜15分なので、仕組み化しないと消えます
  • 局面1(接触) — 前作『見込み客をAIに探させろ』の領域です。このブログでも深掘り済みなので、今日は深入りしません

見て取れるのは、勝敗を動かす数字(77%、86分対27分、29%)がすべて出ているテーブルの外の局面2・6・7に、書ける作業が集中していることです。人の仕事は局面3に集中している。つまり、AIにはテーブルの外を任せ、人はテーブルの上の「聞く」に集中する組み方になります。

商談は一直線に進まない — 誤診が最大の原因

7局面は、上から順に進む階段ではありません。案件は戻ります。戻ったことに本人が気づかないまま、違う局面のためのアクションを打ち続ける。この「誤診」が失注の最大の原因です。

典型は2つあります。

1つ目は「上役が入ってくる」パターンです。価格交渉の最中に、相手の部長が加わった。部長は初回商談にいなかったので、あなたの商材が相手の何をどう変えるのかを知りません。この瞬間、案件は局面5から局面3に引き戻されています。それでも値引きの話を続けると、部長にとっては「知らない商材の、いきなりの値段の話」です。

2つ目は「社内で検討します」パターンです。案件簿の上では局面6(決裁待ち)です。しかし返事に具体性がなく、期日も決まらない。実態は、局面4の提案が相手の中で通っておらず、断る理由を相手が言い出せないまま案件が腐っています。決裁待ちと誤診して何もしない営業が多いのは、この構造のせいです。

まとめると、勝敗は3つで決まります。

  1. 各局面の合格条件を飛ばして進まなかったか
  2. テーブルの外の局面(2・6・7)に時間を入れたか
  3. いま自分の案件がどの局面にいるか、正しく診断できているか

3つ目の診断に必要なのは、経緯を時系列に並べて、感情を抜いて読むことです。人間が最も苦手とし、AIが最も得意とする作業です。

道具3: 商談の局面判定

道具3は、案件の経緯を渡すと「現在の局面」「実際に停滞している局面」「48時間以内の次の一手」を出す道具です。プロンプトの中で何が起きているかは理解しなくて構いません。コピーして、案件情報を書き足して、実行する。それで道具として動きます。

あなたは法人営業のコンサルタントです。以下の案件の経緯を読み、
下記の7局面のどこにいるか、どこで停滞しているかを判定してください。

【7局面の定義】
局面1 接触:アポイント取得のフェーズ
局面2 事前準備:アポ取得後〜初回商談前の準備のフェーズ
局面3 初回商談:相手の課題を聞き出すフェーズ
局面4 提案:デモ・提案書・初回見積のフェーズ
局面5 価格交渉:価格や条件を詰めるフェーズ
局面6 決裁・受託:相手企業の内部決裁を待つフェーズ
局面7 断られ後のフォロー:失注後に案件を再生するフェーズ

【案件情報】
- 商材名・提案規模(金額・人数など):
- 相手企業(業種・規模、分かる範囲で):
- 関係者(役職・人数、分かる範囲で):
- 経緯(日付付きで時系列に書く。主観の印象も混ぜてよい):

【出力形式】
1. 現在の局面:局面番号・名前と、経緯のどこからそう判断したか
2. 停滞している局面:実際に詰まっている局面(現在局面と異なるときは理由も)
3. 危険信号:経緯から読み取れる負け筋を最大3つ
4. 次の一手:48時間以内に実行すべきアクションを1つだけ。
   メールなら文面案、電話なら切り出しの一文まで具体化
5. 追加質問:判定に必要な情報が足りなければ、私への質問を最大3つ

使い方の注意は4つです。経緯は「4/12 初回商談60分。担当者は前向き」のような一行ずつで、日付付きの時系列に書く。主観はむしろ書く(「担当者の反応は良かったが、部長の返事が素っ気なかった」で構いません。主観込みでないと、AIは沈黙の意味を読めません)。1案件ずつ実行する(複数案件を一度に貼ると判定精度が落ちます)。「追加質問」には正直に答える(甘い答えをすると診断も甘くなります。前回のリハーサル道具と同じ理屈です)。

実行例 — 「決裁待ち」に見えて実は局面3だった案件

架空の案件で回してみます。商材は勤怠管理クラウド(50名)、相手は製造業300名。経緯は、4/1に紹介メール、4/5にアポ獲得、4/12の初回商談で担当者が「残業集計が毎月手作業」と話し、4/19のデモで「部長にも見せたい」の発言、4/25に見積送付(月額15万円)、5/2に「部長に話します」、5/16のこちらの追伸に「もう少々お時間ください」のみで、以後2週間沈黙。

道具3の出力はこうでした。

  • 現在の局面:局面6(決裁待ち)。見積後、担当者が社内説明を約束し、以後あなたとの接点が止まっているため
  • 停滞している局面:局面3(初回商談)。部長が一度も商談に登場しておらず、部長の関心事が全く聞けていない。担当者が一人で社内を説得する構造になっている
  • 危険信号:①「もう少々お時間ください」に期日が無い ②5/2から2週間超の沈黙 ③「部長にも見せたい」が一度も実現していない
  • 次の一手:部長が疑問に持ちそうな3点(費用対効果、導入時の現場への負荷、他社との比較)を先回りして1枚にまとめ、担当者に送る。「お世話になっております。部長の方にご説明いただくにあたり、疑問に挙がりやすい3点を先回りして1枚にまとめました。ご説明のお役に立てば幸いです。もしよろしければ、15分だけでも部長同席の機会を頂ければ、こちらからご説明いたします」

案件簿なら「決裁待ち」と書く案件を、道具3は「実は局面3」と診断しました。この1枚は、道具1で作った想定質問を部長用に書き直すだけで作れます。前の道具がここで効いてきます。

判定を読むときの注目点は、「現在の局面」と「停滞している局面」の食い違いです。この食い違いこそ、あなたが見えていなかった負け筋です。納得できないときは、戦わずに聞き返してください。「なぜ局面6ではなく局面3と判断したのか、経緯のどこが根拠か」。聞き返しは、診断精度を上げる最短ルートです。そして毎週金曜に、進行中の全案件へ道具3を通します。1案件2〜3分で終わります。10件でも30分です。判定は商談メモに貼り、後から当たっていたかを確認する。前回始めた「5問中◯問」の記録と同じで、数え始めた数字は伸びていきます。

今日やること

  1. 進行中の案件を3件選び、道具3で局面判定してください。経緯は日付付きの時系列で、手の内に残っているものは全部書きます。1案件5分、3件で15分です
  2. 「現在の局面」と「停滞している局面」が食い違った案件があれば、その理由を商談メモに1行で書いてください。その1行が、あなたが今日まで見えていなかった負け筋です
  3. 停滞日数が最も長い案件1件だけ、出力された「次の一手」を48時間以内に実行してください。3件全部には手を出さない。1つです

局面の診断に才能は要りません。必要なのは、正直に書いた経緯と5分です。

次回は、「あなたの商談は、どの局面で落ちますか」を感覚ではなく数え上げで答える話です。落ちる場所は人によって決まっていて、本気で直すべき弱点はたいてい1つです。

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