速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
はてな

商談の15分、質問は本当に「5個」で足りていますか — リストは「聞きたいこと」でなく「聞けること」で作る

こんにちは、営業15年目の速水拓真です。

前回(第31回)は、「商談前ブリーフ」— 相手の課題を3分で仮説化する道具(道具8・道具9)を作りました。ブリーフは1枚・600字・6項目、作成は3分。前日夕方か当日朝に作って、商談の最初の3分の「つなぎ」をどうするかまで決めておく、という話でした。

その末尾で予告していたのは「では、そのブリーフを持って商談に入ったあと、中で何をどう使うのか」という話です。今日はその答えの前半で、具体的には質問リストの設計です。

ブリーフに仮説はあっても、商談で使う質問が悪いと、全部が「確認作業の商談」に落ちます。今日作るのは、AIに組み立てさせた質問リストを、商談の場で本当に使える形に仕上げるまでの一式です(道具10:質問リスト組み立て、道具11:模擬商談)。

読み上げるだけの商談 — 典型の失敗

過去の商談で聞いたことを思い出し、ネットで「ヒアリング 項目 一覧」を検索して、A4に20個の質問を印刷する。商談では上から順に聞く。

  • 「御社の課題について教えてください」
  • 「現在ご利用のシステムは何ですか」
  • 「ご予算感はどのくらいですか」

相手は30分間、役所の窓口で手続きの確認をされる気分になります。帰り道で思い出すのは「あの人、何を売りに来たんだっけ」という感想だけ。これが読み上げるだけの商談です。

原因は怠けではありません。型を知らないだけです。質問リストは「聞く項目の一覧」ではなく「会話の設計図」ですが、この設計の型は会社の研修でも教わりません。だからこの設計の型の骨格をAIに組ませます。あなたの仕事は、口に出して自然かの確認と、取捨選択です。

聞ける質問は30分で5個 — まず数から決める

リスト作りの最初の作業は、項目を思いつくことではなく、数を決めることです。数を決めないとリストは必ず膨らみます。

30分商談の標準的な内訳はこうなります。

  • 挨拶と雑談: 3分
  • 自己紹介と商材の前説: 2分
  • ヒアリング: 15分
  • 商材説明、相手の質疑、次回の日程: 10分

ヒアリングに使えるのは15分です。相手は1つの質問に2〜3分は話します。うまくいっている商談では、1つの質問から5分以上話が続きます。15分を3分で割ると5個。つまり30分商談で聞ける質問の上限は5個、多くて7個。60分商談なら8〜10個です。

ここから、今日の最初のルールが決まります。

質問リストは「聞きたいこと」ではなく「聞けること」で作る。

聞きたいことが15個ある営業は珍しくありませんが、5個に絞った瞬間に商談の精度が決まります。私はこの「15個→5個」で毎回心が折れそうになります。しかし、5個に絞らない限り、どれも中途半端に聞いたまま商談が終わります。

質問は4層に配る

では、5個の質問を何に割り振るか。私は4層の型を使っています。

  • 層1 現状 — 聞くこと: 今のやり方、使っているもの、かかっている時間/型: 「今は〜をどうやっていますか」/例: 「シフトは今、どなたがどういう流れで組んでいますか」
  • 層2 課題 — 聞くこと: 困っていること、非効率だと感じていること/型: 「〜でいちばん大変なのはどこですか」/例: 「店長さんからの相談で多いのは何ですか」
  • 層3 影響 — 聞くこと: 課題が続いた場合に失う時間・お金・人/型: 「それが続くと、どうなりますか」/例: 「急な欠員のとき、現場はどうカバーしていますか」
  • 層4 理想 — 聞くこと: どうなりたいか、何を決め手にするか/型: 「もし直すなら何から変えたいですか」/例: 「どうなったら導入してよかった、になりますか」

層を守る理由は2つあります。

1つ目は、層1の役割です。 いきなり層2に入ると、相手には「今のやり方を否定される」予感がします。「今の運用でお困りですか」という質問は、受け取る側にはそう聞こえる。層1で相手に今やっていることを聞くと、相手は自分の仕事を説明できます。人は自分の仕事を説明しているときがいちばんよく話します。層1は、丁寧に聞くための層ではなく、相手に語らせる層です。

2つ目は、層3を飛ばすと商談が値段の話に落ちることです。層2まで聞いて「解決できますよ、料金はこれです」と進めると、相手が判断できる材料は金額しかありません。層3で課題の影響を確認できていれば、料金は「影響と比べて割に合うか」という比較に変わります。さらに、ここで出た数字は提案書の「期待効果」欄にそのまま使えます(第30回で書いた「小さい作業の束」に、この数字が材料として流れ込むイメージです)。

数字を聞くコツを1つ。質問に「だいたい」「くらい」を入れておくと、相手が答えやすくなります。「人件費はいくらですか」ではなく「だいたいどのくらいになりますか」。正確な見積もりを聞いているのではなく、規模感を聞くのが層3の目的だからです。

道具10: 質問リスト組み立てプロンプト

ここから道具づくりです。道具10は、道具8の出力(ブリーフ)を貼ると、4層に配った質問リストを出す道具です。 前回作ったブリーフがそのまま入力になります。道具9を通した文面はブリーフのきっかけ欄に反映済みのはずなので、ここではブリーフだけ貼ります。

以下をコピーして、いつものAIのチャット画面に貼ってください。本書の道具はどのAIでも動きます。中で何が起きているかは黒箱のままで構いません。

# あなたの役割
法人営業のヒアリング設計の専門家として、商談で使う質問リストを作ってください。

# 入力
【商談ブリーフ】
(前回の道具8の出力をそのまま貼る)
【商談時間】(例:30分)
【自社の商材】(名前と1行の説明)
【どうしても確認したいこと】(あれば1〜3個。なければ「なし」)

# 作り方
1. ブリーフの仮説を確認し、各仮説を検証するのに必要な情報を書き出す。
2. 質問を次の4層に分けて作る。
   層1 現状:今のやり方、使っているもの、かかっている時間
   層2 課題:困っていること、非効率だと感じていること
   層3 影響:その課題が続いた場合に失うもの(時間・お金・人)
   層4 理想:どうなりたいか、何を決め手にするか
3. 質問は「必須」と「予備」に分け、合計で10個を超えないこと。
   必須の個数は商談時間で決める(30分なら5個、60分なら8個)。
   予備は、仮説が外れたときの代替と、時間が余ったとき用の質問にする。

# 各質問の書式(この形を守る)
- 番号(必須か予備か)/層の番号
- 質問文:商談で口に出す口調で30字以内。yes/noで終わらない形にする
- 聞く理由:どの仮説の検証に使うかを1行で
- 深掘り:相手が短く答えたときに重ねる質問を1個

# 禁止事項
- 「〜について教えてください」で始まる尋問調
- 1つの質問文に2つ以上の用件を入れること
- いきなり層2や層4から始めること(必須の1個目は層1から選ぶ)

# 最後に
ブリーフの「商談のきっかけ」から必須の1個目へつなぐ、開始3分の導入の言葉を2文で添えること。

商談時間の入力を忘れないでください。入力欄が空だと、AIは何の制約もない15個のリストを出してきます。

出力例 — 外食チェーンの初回商談

入力のケース: シフト管理システムを、店舗12店・従業員約200人の外食チェーン本部へ提案。初回商談30分、相手は人事・労務担当の部長。きっかけは「店舗のシフト作成に店長が週5時間以上かかり、離職の一因になっている」という業界ニュースを見てのアポです。

ブリーフの仮説(前回道具8で作ったもの・要約): 仮説1「シフト作成が店長の負担になっている」/仮説2「本部は離職率を把握しているが、原因の分解まではできていない」/仮説3「紙とExcelの管理で、本部から現場の実態が見えていない」

道具10の出力から、必須5個のうち3個を抜粋します。

  • 必須1/層1「今のシフト作りは、各店の店長さんがそれぞれのやり方でやっている感じですか?」
  • 聞く理由: 仮説3の検証。全店で統一されていたら仮説3は外す
  • 深掘り: 「1回のシフト作成に、だいたいどのくらいかかりますか?」
  • 必須2/層2「店長さんからシフトまわりの相談で、よく来るのは何ですか?」
  • 聞く理由: 仮説1の検証。本部が現場の声をどこまで持っているかも分かる
  • 深掘り: 「それは毎月の話ですか?」
  • 必須3/層3「急な欠員でシフトが崩れたとき、現場はどうカバーしていますか?」
  • 聞く理由: 影響を時間と人件費に落とす。仮説2の離職の話にもつながる
  • 深掘り: 「その埋め合わせ、人件費で見るとだいたいどのくらいですか?」

出力の最後には導入の2文も付いてきます。「先日、業界ニュースで店長さんのシフト負担の話を拝見し、ご連絡しました。もし今のやり方を少し伺えたらと思うのですが、シフトは現状、どなたがどういう流れで組んでいますか?」——きっかけから必須1への橋が自動で架かるのが分かるはずです。

書式の「30字以内」は外さないでください。 この制約を外すと、AIは「貴社の現在のシフト管理業務における課題について教えてください」を出してきます。意味は通っていますが、口に出した瞬間に商談が面接になります。

出力はたたき台 — 削る・並べる・直す・足す

  • 削る: 自分の商材と関係ない質問、答えが分かりきっている質問を消す
  • 並べる: 必須1がブリーフの「きっかけ(業界ニュース)」からつながっているか。違えば層1の質問と差し替え
  • 直す: 言いにくい質問は口調だけ直す。「欠員のとき、現場はどうしてるんですか?」の方が言いやすいなら、そう直す
  • 足す: 相手の立場で絶対に必要な質問が足りなければ1個だけ足す。この例なら「部長自身がこの問題をどう見ているか」を聞く層4の質問が候補

そして、もう1個だけ必ずやることがあります。必須5個のうち最低1個を、あなたの言葉でゼロから書き直してください(2分)。 AIの質問は正しい日本語ですが、正しすぎて話しかけにくい。1個でも「自分が普段言いそうな言葉」の質問が混ざると、リスト全体が自分のものになります。

道具11: 模擬商談でリストを試す

リストは、読んでよしと判断した時点ではまだ完成していません。口に出して試すと、読んでいたときには気づかない欠陥が出ます。

  • 必須1と必須2で同じことを聞いていた
  • 必須3の後に必須4へ自然に移れない
  • 30字でも、口に出すと長い

試すのに本番を1回消費する必要はありません。AIに相手役をやってもらいます。 道具11は、隠し設定を持った相手役をAIに演じさせ、終了後に講評させる道具です。

隠し設定をAIに作らせる理由は明確です。隠し設定なしのロールプレイでは、AIがあなたの質問に都合のいい答えを返してしまい、何も試せません。相手の本音をあなたが知らないからこそ、リハーサルに意味があります。

# あなたの役割
これから私の商談相手を演じます。私が「終了」と送るまでは相手役を貫き、それ以降は講師に切り替わります。

# 入力
【商談ブリーフ】
(前回の道具8の出力をそのまま貼る)
【自社の商材】(名前と1行の説明)
【模擬商談の長さ】5分

# 相手役のルール
1. まず、私には見せない「隠し設定」をあなたの中で作る。
   - 相手が実は困っていること2個(うち1個は口に出しにくい本音)
   - 相手が警戒していること1個
   - 相手の予算感(大まかでよい)
2. 相手役の間、隠し設定を絶対に明かさない。
3. 私の質問が大雑把なら短く返す。具体的に深掘りしてきたら、少しずつ本音を出す。雑談には普通に乗る。
4. 私が「終了」と送ったら、隠し設定をすべて明かしたうえで、講師として次を出す。
   - 質問ごとの講評:相手が多く話した質問、そっけなく返した質問
   - 開始3分で私が相手を話し出させられたか(可か不可かと理由)
   - 質問リストの修正案3個(書き直した質問文つき)

では、商談の場面の最初の一言から始めてください。

進め方

  1. 道具11にブリーフと商材を貼って実行します(30秒)
  2. 相手役の最初の一言が返ってきたら、普通の商談のつもりで質問を打ち込みます。5分のタイマーを鳴らすと本番感が出ます
  3. 「終了」とだけ送ります。隠し設定、質問ごとの講評、修正案3個が返ってきます
  4. 修正案のうち納得できるものだけを、道具10のリストに反映します

講評の読み方は1つで足ります。 相手役が長く話した質問があなたの良い質問、そっけなく返された質問が直すべき質問です。模擬で3行以上返ってきた質問は本番でも機能します。「いえ、特には」と1行で返された質問は、yes/noで終わる形になっていないか、層を間違えていないかを疑ってください。

1回5分ですから、初回商談の前日に2回やる価値はあります。 3回目からは相手役の癖が読めてくるので、冒頭に相手の設定を1行足して(部長から現場寄りの役職へ、本音の内容を変える)使ってください。

完成基準は「聞けなくてもいい」こと

最後に、この節のアウトプットがいつ完成したかを決めます。

質問リストの失敗は「全部聞けなかったこと」ではありません。商談は会話です。相手が思いの外に話し出したら、リストの半分は聞かなくていい。むしろその商談は当たりです。だから完成基準はこう置きます。

  • 必須5個のうち3個聞けたら合格。3個聞けた商談は、たいてい層3まで数字が出ています
  • 会話が層2と層3で止まったまま層4まで行けなかったら、層4の質問は次回商談の最初の質問に回す
  • 予備5個は商談中に見ない。見るのは次回の準備を始めるときだけ

持ち込み方はA4一枚ルールで統一します。必須5個を上段、予備5個を下段に並べて印刷し、必須5個は商談までに暗記する。商談中にちら見するのは失格ではありません。読み上げるのが失格です。リストは戻る場所であって、進むレールではありません。(商談の直前5分の持ち込み方そのものは、第16回の「商談前メモ5箱」が担当です。ブリーフで前日までに、メモ5箱で5分前に。役割分担はこう分けています。)

なお、層3で相手が出した数字(時間・金額)は、次の商談と提案書の核になります。そのメモの取り方は次節で道具にします。

次節は商談本番です。開始3分のつなぎ方、相手の訂正を聞き逃さず拾う方法、商談中のメモの残し方を作ります。リストはここで完成です。本番で少し壊す前提で持っていってください。

今日やること

  1. 前回(第31回)の道具8ブリーフをまだ作っていなければ、先に作る(3分)。道具10にブリーフ+商談時間+商材を貼り、質問リストを作る(5分)。出てきた必須5個のうち1個を、あなたの言葉でゼロから書き直す(2分)。ここまでが今日のゴールです。
  2. 書き直したリストで道具11の模擬商談を1回(5分)。「終了」後の講評で、1行しか返されなかった質問があれば直します。5分が取れなければ講評だけ読み、修正は翌日でも構いません。
  3. 必須5個を上段、予備5個を下段に並べたA4一枚を印刷するか、メモアプリの一番上に貼る。当日はリストを見る回数を3回までと決めると、読み上げを防げます。

🎁 読者特典3点セット(無料)
- ① 提案書3層プロンプト — 40分で6枚の提案書を出す、貼って動く完全版
- ② 調査カード3分プロンプト — 1社30分の企業調査を3分に(5社まとめ処理つき)
- ③ 商談前メモ5箱テンプレート — 商談5分前に読める1枚(AI整形プロンプト+記入例つき)

メールアドレスだけの登録で3点すべてすぐ受け取れます(解除はいつでも)。
→ 読者特典3点セットを受け取る(無料)

📗 営業の仕事をAIに任せろ(Amazon・読み放題対象)

📗 シリーズ全3冊: 営業の仕事をAIに任せろ ・ 見込み客をAIに探させろ ・ 商談をAIに鍛えさせろ

📚 この連載の他の媒体: note(物語編) ・ Zenn(技術編)

営業×AI実践シリーズ 全3作

Kindle Unlimited 読み放題対象 — 追加料金なしで読めます

← 記事一覧へ

← 商談中の使い方 — ブリーフを「5個の質問」に変…商談の冒頭1分は「訂正を引き出す」ために使う —… →