提案書の自動生成 — 商談メモから20分で初稿。見出しを打っては消していた半日を、1時間に置き換える
私は営業15年目の速水拓真です。この連載は、私の書籍『商談をAIに鍛えさせろ』の章立てに沿って、商談まわりの仕事をAIに配り直す手順を紹介しています。
前回は、提案を「課題・証拠・手数」の3層に組み立て直す話をしました(第37回「提案の3層構造」)。相手が「持ち帰って検討します」と言う正体は、提案の中身ではなく手数の重さにある。そして3層がそろった3行を書けるところまで進みました。今日は、その3行を含む商談メモから、提案書の初稿を20分で起こします。新しい道具は3つ、道具25・26・27です。前回の末尾で触れた「1枚目の資料をAIにそのまま作らせる」が、いよいよ本題になります。
提案書の作業で一番重いのは「書き始めの一歩」
白紙のドキュメントを開き、見出しを打ち、消して、別の見出しを打つ。私が営業現場で見てきた範囲では、この往復に1時間、本文に2時間、体裁に30分かける人が大半でした。合計で半日です。
原因は「何を書くか」を書きながら考えていることです。何を書くかは、商談が終わった時点でほぼ決まっています。それなら、並べ替える仕事はAIに渡す。この移動だけで、半日が1時間になります。
この連載でも第5回「提案書を『書く』から『直す』へ」で、書く仕事を直す仕事に置き換える考え方を書きました。ただ、受け皿となる道具がなければ、移動は口先だけの話です。今日の3つの道具が、その受け皿です。
材料は、商談が終わった時点でそろっている
前回の3層を振り返ります。課題は、先方が商談で話した言葉。証拠は、商談に出た数字。手数は、先方が行う工程とその担当者です。つまり3層の材料は、商談が終わった時点ですべて手元にあり、残っているのは並べ替えて文にする作業だけです。並べ替えは、AIが最も速い仕事の種類です。
私たちの仕事は2つに減ります。1つは、初稿の事実が正しいかの確認。もう1つは、口調と強調の調整です。20分は初稿まで、そのあとの仕上げに30分を見ておけば、提案書1本は1時間で終わります。
これは、商談を「書ける作業」に分解する第30回の考え方の延長線上にある話です。大きい提案を小さい作業の束に直して配る。今日は、「初稿」という1つの作業を丸ごとAIへ配りに行きます。
初稿20分の時間割
時間割は次のとおりです。
- 0〜5分: 商談メモと自社情報を貼る
- 5〜9分: 初稿を生成して、1回通読する(道具25)
- 9〜13分: 事実照合。根拠のない文を潰す(道具26)
- 13〜16分: [数字を入れる]を1つだけ埋める(前回の道具24と同じ穴)
- 16〜20分: スライド形式に変換して貼る(道具27)
初回だけ、道具の保存に3分×3が上乗せされます。2回目からは、このとおり20分で回ります。
商談メモは汚くていい。そろえるのは3点
道具25に入れるメモは清書不要です。第34回「商談中のメモはほぼ書かなくてよくなる」で紹介した録音の文字起こしをそのまま使っても動きますし、商談後に書き殴ったものでも動きます。ただし、次の3点がメモにないと、AIは「それらしい内容」を作って埋めてきます。作られた提案書は使えません。
- 先方の言葉 — 課題について先方が使った言い回し(例: 「集計が追いつかない」)
- 数字 — メモに残るすべての数字(時間・人数・件数・金額・時期)
- 工程と人 — 先方が行う作業と担当者、決裁者
書くのは商談が終わった直後の3分です。記憶が濃いままのメモは、汚いほど生きます。書籍の実例を1本載せます。
・部品の在庫管理、エクセルに手入力。担当は佐藤さんを含む2名
・集計に毎週6時間。月初はさらに忙しい
・納期遅れが月2〜3件。部品を納める先からクレームが来る
・来年4月から生産ライン増設、集計の人手が回らなくなるという話
・決裁は田中工場長。現場の話は聞いてくれる人
・予算は来年4月から。月20万円までは止められない雰囲気
読みやすく書こうとしないこと。メモは材料の記録であって文書ではありません。清書はAIの仕事です。メモがないまま道具25を走らせると、作話が大半を占める初稿が出て、事実照合だけで1時間かかります。メモがない日は、今日の作業は次の商談のあとへ回してください。
道具25: 商談メモから初稿を起こす(ここまで10分)
保存(3分)
次の全文をコピーして「道具25.txt」として保存します。保存した本文の[ ]を書き換えて、いつも使うAIチャットへ貼って実行します。中身の仕組みを理解する必要はありません。ブラックボックスのまま使う道具です。
あなたは法人営業の提案書作成担当です。商談メモから提案書の初稿を作成してください。
# 商談メモ
[書き殴ったメモをそのまま貼る。清書しない]
# 自社情報
- 商材名:[例:部品管理システム「在庫キャプチャ」]
- 主な機能(3つまで):[例:バーコード入力、毎晩の自動集計、在庫しきい値のアラート]
- 導入実績:[例:製造業を中心に150社]
- 価格:[例:初期費用50万円、月額15万円]
# 構成(この順で作る)
1. ■課題:メモにある先方の発言から課題を最大3つ抜き出す。先方が使った言葉をそのまま使う。言い換えない。
2. ■提案:課題のそれぞれに、主な機能のどれでどう解決するかを1文で書く。
3. ■効果:課題が解けた後の状態を1行ずつ書く。メモにない数字は[数字を入れる:調べる内容]とする。数字を作ってはいけない。
4. ■導入までの流れ:ヒアリング、契約、設定、稼働の4段階を表で書き、各段階の所要日数を入れる。
5. ■御社の作業:先方が行う作業を3行以内に絞る。各行に所要時間の目安を付ける。弊社が代行できる作業は「弊社が行います」と書く。
6. ■費用:初期費用と月額を書く。割引を入れない。
# 禁止事項
- メモと自社情報にない事実(数字・人名・会社名・時期)を書かない
- 「〜と思われます」「〜の可能性があります」を使わない
- 1見出しの中身を5行超えて書かない
# 出力形式
提案書本文のみ。見出しは「■」で始める。1行目に「御社の課題解決のご提案」とだけ置く。
入力して実行(5分)
[商談メモ]へはメモをそのまま、[自社情報]へは4行を貼ります。自社情報は商材ごとに1回だけ作れば、以降の提案書では使い回しできます。実行から20〜30秒で出力が返ります。途中で切れたら「続きを出してください」と送ると、最後まで出ます。
出力は600〜800字です。ここから先は、量を足す仕事ではなく、事実を削る仕事になります。通読は1回、2分。読みながら直さないこと。直すべき箇所の特定は道具26に任せたほうが、枠の中で処理が終わります。
出力例 — 冒頭、課題、効果、御社の作業
御社の課題解決のご提案
■課題
1. 部品在庫の集計に毎週6時間を手入力で費やしている(担当2名)
2. 納期遅れが月2〜3件発生し、納める先からクレームが来ている
3. 来年4月の生産ライン増設に伴い、集計の人手が不足する
■効果
1. 集計作業は週6時間→30分になります[数字を入れる:過去案件での集計時間の削減実績]
2. 納期遅れは月2〜3件→3分の1に減ります
3. 増設後も集計担当の増員は不要です
■御社の作業
1. 部品マスタの初回登録:弊社が設定を代行します(お伺い1回、2時間)
2. 決裁と契約書のご確認:田中工場長(書類の確認は30分)
3. 稼働後の現場への周知:佐藤様(約10分)
(■提案と■導入までの流れ、■費用の出力は省略しています)
先方の言葉がそのまま課題になり、手数は3行に絞られて出てきます。前回1時間かけて仕上げた3層の診断と修正が、貼って30秒で組み上がる計算です。「弊社が設定を代行します」の行は、前回の道具23(手数を弊社へ移す代行案を出す道具)と同じ発想です。道具23で選んだ代行案を、あらかじめメモへ1行書き加えておくと、初稿に入ります。
道具26: 初稿に混ざる「作られた事実」を炙り出す(ここまで13分)
道具25の禁止事項は効きますが、完璧ではありません。AIは、文脈のつながる文を組み立てる仕組みなので、メモにない数字でも「その場所に書かれそうな数字」を補うことがあります。出力例でいえば、■効果の2行目と3行目がそれです。先方の前で「この数字はどのデータですか」と突かれて止まると、初稿どころか信頼を失います。初稿の事実を1文ずつメモと照合するのが道具26です。
保存は道具25と同じ要領で「道具26.txt」へ。実行は3分です。
あなたは提案書の事実確認担当です。商談メモと提案書初稿を照合し、初稿の文を1文ずつ判定してください。
# 商談メモ
[道具25に入れたものと同じメモを貼る]
# 自社情報
[道具25に入れたものと同じ4行を貼る]
# 提案書初稿
[道具25の出力をそのまま貼る]
# 判定基準
- ○:メモに根拠がある。文の直後に(メモ:根拠となったメモの一文)を引用する。
- △:メモにはないが、自社情報として正しい(機能・価格・実績)。
- ×:メモにも自社情報にも根拠がない。数字・人名・会社名・時期は特に疑う。
# 出力形式
初稿の文の順に、番号、判定記号、その文を1行で並べる。
最後に、×の文それぞれに、メモと自社情報だけを使った書き直し案を1案出す。書き直せない文には「削除推奨」と書く。
出力の該当部分です。
8 ○ 集計作業は週6時間→30分になります[数字を入れる:過去案件での集計時間の削減実績](メモ:集計に毎週6時間)
9 × 納期遅れは月2〜3件→3分の1に減ります
→ 書き直し案:発注のし忘れを防ぐ仕組みを入れ、遅れの件数は稼働後に計測してご共有します
10 × 増設後も集計担当の増員は不要です
→ 書き直し案:増設後も入力は読み取り1回で済むため、集計作業を増やさない構造にします
9番は、メモに「月2〜3件」の記録はあっても「3分の1に減る」の根拠がありません。書き直し案は、数字を捨てて、仕組みと計測の約束に置き換えています。10番の「増員は不要」は、メモのどこにもない保証です。「不要」と断定する代わりに、構造の話へ落とします。
処理は3つだけです。
- ×は、書き直し案を入れるか削除する
- △は、自社の資料で裏を取ってから残す
- ○は、引用を確認したら読み流す
×が1つも出ないこともあります。メモの内容だけで初稿が組まれている証拠なので、そのまま次へ進みます。逆に×が5つを超える場合は、メモが薄いサインです。先方の言葉・数字・工程の3点を見直して、道具25からやり直すほうが、×を1つずつ潰すより速いです。
穴埋めは前回の道具24、流し込みは道具27(ここまで20分)
初稿に残る[数字を入れる]は、前回の道具24と同じ扱いです。道具24は、証拠に足りない箇所へ「何の数字を・どこから調べるか」まで書き出す道具でした。今回は道具25が穴の位置と調べる内容まで出してくれているので、道具24を走らせずに自分で調べて埋めます。
初稿の段階で埋めるのは1つだけ。優先は「御社の作業」に関わる数字です。先方の負担が小さく見える数字ほど、決裁を動かします。例の初稿なら、過去案件の「週6時間→30分」を1つ貼れば十分です。残りの穴は、初稿を先方に見せる前までに順次埋めます。
流し込みは道具27です。
以下の提案書本文を、パワーポイントで使うスライド形式に変換してください。
# 提案書本文
[道具25の出力のうち、穴埋めと×の処理が済んだものを貼る]
# 変換ルール
- 「■」で始まる見出し1つをスライド1枚とする
- 各スライドの本文は最大5行、1行は最大30字
- 数字は削らないで残す
- 各スライドに「読み上げ原稿」を2文で付ける。そのスライドを映しながら商談で話す内容とする
- 見出しは15字以内の体言止めに短くする
# 出力形式
スライドごとに「スライド番号」「見出し」「本文」「読み上げ原稿」の4項目をまとめて出す。最後に、番号と見出しだけの一覧を付ける。
貼り付けは手作業です。パワーポイントで新規スライドの「タイトルと内容」レイアウトを選び、見出しをタイトル欄へ、本文を本文欄へ移します。1スライド30秒、6枚で3分です。読み上げ原稿はノート欄へ貼ってください。商談中に先方の顔しか見られない場面でも、原稿が手元に残ります。なお、Word文書として送る場合は道具27を挟まず、道具25の出力をそのまま使います。
仕上げの30分 — 直すのは3種類だけ
20分で初稿が手元に残ります。仕上げの30分で手を入れるのは、次の3種類だけです。
- ×と数字の穴: 残った[数字を入れる]を、御社の作業→費用→効果の優先順で埋める
- 3層の診断: 前回の道具22に最終稿を貼る。手数層だけがAなら、初稿として先方に見せられます。B・Cが出たら、その層の行を1行だけ直して再実行します
- 読み上げ: 道具27の読み上げ原稿を声に出して1回通す。口が止まる行は、自分の言葉に置き換える
3種類が終われば初稿は出せます。完璧な初稿は存在しません。初稿の役割は、「どこを直すべきか」をあなたに考えさせる土台を20分で置くことだからです。
「商談後24時間」が、気合でなく計算で守れる時間になる
第14回「お礼メールと提案書を同時に下書きする」で、商談後24時間以内に両方の「形」を作る話をしました。このとき私は、提案書の初稿に2〜4時間を見ていました。だから24時間以内を守るには、ある程度の気合が必要でした。
今日の流れなら、初稿20分+仕上げ30分です。24時間という約束が、気合でなく計算で守れる作業になります。書く仕事の重さは、「何を書くか」を書きながら考えることから来ています。材料は商談が終わった時点でそろっている。並べ替えはAIへ。確認と調整が私たちの仕事。これを道具3本で形にしたのが、今日の話です。
今日やること
- 道具25を保存する(3分)。自社情報の4行を書き、直近の商談メモを貼って初稿を出す(実行3分+通読2分)。メモがなければ、この記事の例のメモと架空の自社情報で走らせてかまいません。道具がどう動くかを1回見ることが、今日の目的です。
- 道具26を保存する(3分)。初稿と、道具25に入れたのと同じメモと自社情報を貼って照合する(実行3分)。×が1つでも出たら、書き直し案を入れるか削除します。×をすべて潰すのは、今日の範囲ではありません。
- 道具27を保存する(3分)。穴埋めと×の処理が済んだ初稿を貼って、スライド形式を出す(実行2分)。出たら1枚目の読み上げ原稿を声に出して読み、口が止まる行を1行だけ自分の言葉に直します。
初稿づくりは、「書く1時間」を「直す30分」に置き換える仕事です。初稿1本、事実照合1回、読み上げ1回。ここまで終われば、今日は合格です。
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📗 シリーズ全3冊: 営業の仕事をAIに任せろ ・ 見込み客をAIに探させろ ・ 商談をAIに鍛えさせろ