速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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値段を言う台本 — タイミングと言い方を設計する(道具31〜33)

私は営業15年目の速水拓真です。

前回は、商談の前日30分で想定質問と返しをAIに用意させる「反論の先読み」を書きました(反論の先読み — 想定質問と返しをAIに用意させる)。「ちょっと高いですね」と返されたときの守備範囲は、あの反論の防具で固めておきます。提案の3層構造(提案の3層構造 —「持ち帰って検討します」の正体は、手数の重さ)と、商談メモから20分で初稿を作る提案書の自動生成(提案書の自動生成 — 商談メモから20分で初稿)がそろって、提案と値付けの準備が整ったあとに、商談の中で最後に残る場所があります。

それが、値段を言う数十秒です。

値段を言うのは、商談の中で最も短い場面です。「月額28万円になります」の一瞬に、商談の行方がかかっています。金額そのものは提案書を作った時点で決まっている。それなのに、同じ金額を言っても、商談が進む人と止まる人がいます。差が出るのは金額ではなく、「いつ言ったか」と「数字の前後に何を置いたか」です。

今日は連載の元にしている著書『商談をAIに鍛えさせろ』の5-1を、営業の現場の言葉に直して紹介します。道具は3本。どれも生成AIのチャット画面に貼るだけで動き、中身は黒箱のままで構いません。

値段が「高い」と見えるのは、半分以上が言い手のせい

値段の高さは、金額と価値の引き算で決まります。価値が100万円分伝わっている相手には50万円は安く見え、価値が伝わっていない相手には10万円でも高く見えます。「高い」の半分以上は、金額ではなく、価値の積み上げと金額の順番の問題です。

現場の失敗は3つに分類できます。

  • 価値より先に言う。 挨拶から5分、まだ課題も聞いていない段階で「まず価格ですが」。以降どれだけ良い話をしても、相手の頭の中では先に聞いた金額が基準線になり、その後の話はすべて「あの金額に見合うか」の判定として聞かれます
  • 聞かれたのに答えない。 「そこはまだ……」とはぐらかす営業をよく見ます。聞いた側は「高い金額を隠している」と受け取ります。隠しているものは高い。人はそう判断します。信頼の失い方として、最も安上がりな失敗です
  • 裸の数字を置く。 「28万円です」。前後の何もない数字は、相手の頭の中で「値段」としてだけ存在します。何の金額で、何が含まれ、いつからいくら掛かるのか。その情報のない数字は、比較のしようがありません

金額を変えなくても、この3つを潰すだけで相手の反応は変わります。値段で落とされる商談の多くは、値段そのものではなく言い方が原因です。

例として、この連載で使ってきた架空の商談を続けます。食品メーカー(社員300名・3拠点)への勤怠管理システム提案、月額28万円・初期費用30万円(税別)。この数字で最後まで通します。

値段を言うタイミングは3択しかない

タイミングは次の3つしかありません。

  • タイミングA 先手で言う — 商談の前半、聞かれる前に出す。相手の検討期間が2週間以内、価格そのものが選定の最優先基準、複数社比較で先に相場を示して土俵を自社に寄せたい場面。提案型の商談では少数派です
  • タイミングB 聞かれたら言う — 「いくらくらいですか」の瞬間に即答する。基本はこれ。いつ聞かれても言える状態を作っておきます
  • タイミングC 最後に言う — 価値の説明をすべて終えた直後に、まとめとして出す。提案商談の標準です

中でも外せないのはBです。聞かれた瞬間に言います。言いにくい金額ほど後回しにしたくなりますが、遅らせた分だけ、相手の中で「高そう」という予感が育ちます。即答して、1文だけ価値に接続する。型はこうです。

「価格は月額28万円です。初期費用が別で30万円、いずれも税別。今日お話しした締め作業の削減と拠点間の管理まで含まれています」

即答は隠し事のない証明です。接続の1文で、数字は文脈に戻ります。ここで言い淀むと、値段は言ったのに価値から浮いたまま残ります。

どのタイミングかは商談の状況次第なので、判定はAIに任せます。

道具31: 値段タイミング判定

あなたは法人営業のコーチです。以下の商談情報から、値段を言うタイミングを判定してください。

【商談情報】
- 自社のサービスと金額: (例: 勤怠管理システム、月額28万円・初期費用30万円・税別)
- 相手の会社と立場: (例: 食品メーカー300名、人事部長)
- 商談の経過: (例: 1回目ヒアリング、2回目デモ、3回目で提案)
- 相手の発言メモ: (例: 「予算は四半期単位」「他社2社も見ている」)
- 決着の期限: (例: 相手の四半期締めまで3週間)

【出力】
1. 判定: A先手で言う/B聞かれたら言う/C最後に言う、から1つ
2. 判定理由: 3行以内
3. そのタイミングで値段に移る最初の一文: そのまま使える口語で1文
4. この商談で避けるべきこと: 1つ、理由込み

商談の前日に基本情報を入れて出します。判定がBなら、本番までに「いつ聞かれても言える」状態を作っておくこと。それがこの判定の実用上の意味です。

数字を言う型 — つなぎ、数字、3秒

値段を言う数十秒は、3部構成で設計します。食品メーカー例で通すとこうなります。

第1部 つなぎの一文。 数字の直前に、数字を提案に接着させる一文を置きます。

「お話しした3つの課題——締め作業の遅れ、残業の計上漏れ、拠点間の管理のズレ——を、この仕組みで一括で回していく前提でご説明します」

裸の数字は宙に浮きます。つなぎを置くと、数字は提案の一部になります。

第2部 数字を1回だけ、条件ごと完結で。

「金額は月額28万円、初期費用が別途30万円、いずれも税別です」

金額・別途費用・税の区別を1回で言い切ります。「28万円です。……あの、初期費用が別にあります」と2回に分けると、相手は1回目の数字だけで先に判断を始めます。同じ数字を言い直すのも避けます。「月額28万、えーと月に28万円で」は、自信のなさが漏れた最悪の形です。数字は1回、普段より1割遅いくらいの速度で、区切りを1つ置いて言います。

第3部 3秒、黙る。 言い終わったら止まります。頭の中で「いち、に、さん」と数える長さです。

この沈黙を埋めたがるのは、たいていこちら側です。埋めると損をします。この3秒の間、相手の頭の中では「聞いた金額」と「積み上がった価値」の比較が始まります。比較が始まって初めて、金額に高いか安いかの判断材料が揃う。比較の前に喋って比較を止めるのは、自分の値段を自分で下げる行為です。

沈黙の後、こちらから口を開くなら中身の確認です。

「この金額には、全機能とサポート窓口、月1回の運用面談が含まれています」

これは値下げの話でも言い訳でもありません。中身の説明なので、沈黙を破っても台本は崩れません。

数字の直後にやってはいけない3つ

  1. 「いかがでしょうか」を数字にくっつけない。数字の直後に同意を求めると、相手に残る返事は「高い」か「検討します」しかありません。質問するなら3秒の沈黙の後です
  2. 値下げを先に示さない。「状況によっては調整できます」の一言で、交渉の起点は定価より下に設定されます。値下げの話は、相手が求めてきた後に始めれば間に合います
  3. 謝らない。「恐れ入りますが」「お高くなってしまいますが」。謝る金額は、下げてほしい金額に聞こえます

この台本を丸ごと作らせるのが道具32です。金額の換算も一緒に作らせます。

道具32: 値段台本メーカー

あなたは法人営業のコーチです。値段を言う台本を以下の形式で作ってください。

【入力】
- サービス名:
- 金額: (例: 月額28万円・初期費用30万円・税別)
- 金額に含まれるもの: (例: 全機能、サポート窓口、月1回の運用面談)
- 相手の規模: (例: 社員300名、3拠点)
- 相手の課題: 3行以内
- これまで伝えた価値の要点: 3行以内

【出力】
1. つなぎの一文: 値段の直前に置く、提案に接着する一文
2. 数字の言い方: 金額・初期費用・税の区別を1回で言い切る形
3. 換算案を3種類: 人数割り、日割り、現在コストとの差額。計算過程付きで各1行
4. 3案のうち使うべき1つと、その理由
5. 沈黙の後の一文: 含まれる内容の説明
6. この商談で避けるべき表現: 3つ、理由付き

出てきた台本はその場で音読します。読んでいて「これは言わない」と分かる行は消します。台本は自分の口に合わないと本番で捨てられます。直すのは1文単位で構いません。

換算は3案作って、使うのは1つだけ

月額28万円は、そのままだと「28万円」という情報しか持ちません。換算を1つ添えると、数字が相手の実感に接続します。換算には3つの型があります。

  • 人数割り — 利用者で割る。280,000円÷300名=1人あたり月933円
  • 日割り — 営業日で割る。933円÷20日=1人1日47円
  • 差額 — 現在コストとの差で示す。今の担当者2名の手作業が月85万円相当なら、差し引き月57万円の削減

「1人1日47円」。缶コーヒーより安い水準に見える数字です。

ただし、ここに落とし穴があります。換算を2つも3つも並べると、安さだけが一人歩きします。高額商材ほど「1日たったの47円」を連発すると、金額と一緒に価値まで安く見えます。換算は1つだけ。選ぶのは、相手の課題に最も直結するものです。人が課題なら人数割り、手作業コストが課題なら差額。この選択を道具32に任せてあるのは、そのためです。

3段階プラン — 「入る/入らない」を「どれにする」に変える

提案する金額が1つだと、相手の選択肢は「契約する/しない」の2択です。2択の商談は半分の確率で消えます。金額を3段階に並べると、選択肢は「どれにするか」に変わります。

3段階の設計には型があります。

  • 上 — 欲しいが今は過剰。本気で売る気はあるが、選ばれなくても良い枠。標準の1.5〜2倍の価格帯に置きます
  • 標準 — 売りたいもの。3案の中で「普通」に見える構成にします
  • 下 — 安いが物足りない。標準との差が一目で分かるように中身を削ります。標準の0.6〜0.7倍の価格帯です

食品メーカー例に当てはめると、標準28万円に対して下18万円・上48万円。上にはデータ分析レポートと他システム連携を足し、下は運用面談を外してサポートをメールのみにします。

順序は上からです。「金額は3つご用意しました。上からご説明します」。先に上を見せると、標準が相対的に手の届く位置に見えます。逆に安い順で言うと、標準が高く見える。同じ3案でも、口にする順序で並びが変わります。

下のプランの削り方だけ注意が要ります。外し方を間違えると、下ばかり選ばれます。コツは「外したら相手が確実に困るもの」を外すこと。運用面談を外す、締め日の集中サポートを外す。困る要素を削って初めて、下は「安いが選ぶと痛い」案になります。

道具33: 3段階プラン設計

あなたは法人営業のコーチです。3段階の料金プランを設計してください。

【入力】
- 売りたい標準プランの内容と金額: (例: 全機能+月1回の運用面談、月額28万円)
- 外せる要素: (例: 運用面談、電話サポート、カスタム帳票、締め日の集中サポート)
- 上乗せできる要素: (例: データ分析レポート、他システム連携)
- 相手の課題: 3行以内
- 予算の様子: (例: 月20〜40万円の範囲で検討中)

【出力】
1. 3プラン(軽い/標準/上)の内容と金額: 標準が最も自然な選択に見える構成にすること。価格帯は標準の0.6〜0.7倍と1.5〜2倍に置くこと
2. 各プランの名前: 中身の伝わる日本語名
3. 上から順に説明する台本: 口語で
4. 標準に誘導する一言: 押し付けにならない1文
5. 上と下で迷われた時に返す質問: 1つ

出力を見たら自問します。「下のプランで満足されてしまったら、商材として本当に大丈夫か」。大丈夫なら完成です。不安が残るなら、外す要素を1つ替えて出し直します。

「高い」は台本の外 — 前回との線引き

値段を言い終わった直後の「ちょっと高いですね」は反論処理で、前回作った反論の防具の守備範囲です。今日の台本は「値段を言い終わるまで」を担います。線引きを明確にしておくのは、準備の範囲を限定するためです。前夜の30分で作るべきものが、「値段を言う数十秒の台本」と「その先を守る反論の防具」という分業で決まります。

商談前の5分で「何を聞くか」より「何を渡すか」を先に決めておく話を前の記事で書きましたが、値段でも同じです。「いつ言うか・数字の前後に何を置くか」を前日に決めておけば、本番では読むだけになります。

今日やること

  1. 道具31を保存する(3分)。直近の提案商談1件の情報を入れてタイミング判定を出す(実行5分)。判定がBなら、金額と条件を声に出して1回だけ確認し、いつ聞かれても即答できる状態にする。商談予定がなければ、この記事の食品メーカー例(月額28万円・300名)で走らせ、道具の動きを1回見る
  2. 道具32を保存する(3分)。台本を出し、音読3回。読みにくい行は1文だけ自分の言葉に直す(実行10分)。換算は3案から使う1つに絞り、本番までその1つだけ口に入れておく
  3. 道具33を保存する(3分)。3段階案を出し、下のプランを見て「これで満足されたら困るか」を自問する(実行5分)。作った値段台本を、前回作った模擬尋問に通し、値段を言う場面を1回だけ練習する

台本は3部構成、換算は1つ、プランは3段階。値段を言う数十秒は、商談のどこよりも短い準備で安定する場所です。金額は変えなくていい。変えるのは順番と、数字の周りの言葉です。

ここまで終われば、今日は合格です。

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📚 この連載の他の媒体: note(物語編) ・ Zenn(技術編)

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