商談記録からタスク — 次のアクションを自動で起こす(道具46〜48・毎週月曜の棚卸し)
私は営業15年目の速水拓真です。前回(第44回)は、断られたあとの型の話を書きました。断りが届いた瞬間がその案件の次の開始日で、3つの文面を用意しておけば失注を次に繋げられる、という話です。今日はその反対側、前向きに終わった商談の話をします。うまくいったはずの商談のほうが、実はその後が放置されやすいのです。
商談が終わったあと、何も起きない
コンサルで入った現場を観察していると、商談が終わってから次のアクションを打つまで平均3日かかる営業がざらにいます。本人に聞くと「翌日の朝には送っているつもり」でした。つもりと実行の間に3日入っている。
3日後の相手の記憶には、商談の熱が半分も残っていません。1週間後なら2割です。「商談はうまくいったのに、その後が音沙汰なし」という案件の大半は、やる気の問題ではなく、初動の遅れで沈んでいます。これを私は営業の最大の機会損失だと考えています。
前節(断りの話)と同じ思想を、前向きに終わった商談にも持ち込みます。商談が終わった瞬間が、次の開始日です。そして開始日にやるのは、感想でも反省でもありません。タスクを立てて、最初のメールを打つことです。
この記事では、商談中の殴り書きメモを貼るだけで期限付きのタスク表が出て、そのまま初動メールまで打てる状態を道具3つで作り、最後に毎週月曜の棚卸しまで回します。あなたが新たに入力するのは、商談メモだけです。
タスクが動かないのは、性格の問題ではない
フォローの遅れを「あの人はルーズだから」で片付けるなら、その見方は捨ててください。現場を観察すると、遅れは次の3つの構造で起きています。
- タスクがメモに埋まっている。「田中部長に見積送る」と書いてあるだけ。いつまでに、の情報がありません
- 期限がないまま眠っている。TODOリストには入れたが日付がないため、「まだ間に合う」という錯覚の中で数週間眠ります
- 初動が重い。タスクは立ったのに、最初のメールの文面を考えるのが面倒で着手のハードルが上がり、手つかずになります
逆に言えば、タスクが動く条件は2つだけです。「動詞・期限・相手」の3要素が揃っていること。そして最初の一歩が軽いこと。性格は問われません。構造の問題なので、構造で潰します。
なお、商談の記録を議事録形式に整理する道具をすでにお持ちの方は、その出力をこの記事の道具の入力にそのまま使えます。商談後の殴り書きメモを議事録に変える話は第13回で、商談を丸ごと録音して文字起こしまで機械にやらせる話は第34回で書きました。どちらの形式でも、道具46は読み取れます。お持ちでない方は、商談中に取った生のメモで構いません。汚くても、箇条書きでなくても読み取れます。
道具46: 商談メモを期限付きタスク表に変える
道具46は、商談メモから3要素が揃ったタスクだけを抽出し、期限をルールに沿って割り振った表を出します。黒箱で構いません。貼って、出てきた表をコピーするだけです。
あなたは営業チームのタスク管理担当です。商談メモから、次のアクション(タスク)をすべて抽出して表に出力してください。
【タスクの条件】
- 「動詞」「期限」「相手」の3要素が揃うものだけを出力する
- 「検討する」「そのうち」など動作が曖昧な表現は除外する
- 相手の発言に期日や「いつまで」が含まれる場合、それを期限に使う
【期限の割り当てルール】(メモに期日がない場合のみ適用)
- 議事録・資料の送付: 商談日の翌営業日
- 見積・提案書の提出: 商談日+3営業日
- 日程調整の再連絡: 商談日+3日
- 相手の社内確認・稟議・上長確認の進捗の見極め: 商談日+7日
- 紹介・情報提供の依頼: 商談日+14日
- どのルールにも当てはまらないタスクは期限を「要確認」とし、理由を元の発言欄の末尾に書く
【出力形式】
| No | タスク | 期限 | 相手 | 元の発言 |
【商談日】[例: 2025年7月15日(火)]
【商談メモ】
(ここにメモを貼る)
使い方は1つです。商談が終わったら15分以内に、メモを貼って実行する。15分にこだわる理由は記憶の鮮度です。メモに「稟議が心配」と殴り書きしてあったとき、15分後のあなたはなぜ心配だったかを思い出せます。翌日は半分、1週間後には消えています。商談直後の5分でお礼メールを打つ話(第43回)と同じで、商談後の処理はすべて鮮度勝負です。
実行例
次のメモを貼ったとします。
A社 第三回 7/15 14時〜Zoom 田中部長、佐藤さん(初参加)
- 現行システムは3月にリプレースしたばかり。乗り換えは来年度予算で検討とのこと
- 田中部長「見積のイメージが見たい」簡易版でいいので
- 佐藤さん、来月から導入担当になりそう。セキュリティ要件の資料はまだ見ていない
- 次回は佐藤さんの上長(情シス鈴木さん)も入れてほしい。8月上旬希望
- クレジット決済は必須ではない。請求書発行の運用がメイン
出力はこうなります。
- No.1 セキュリティ要件資料を送付する — 期限: 7/16(水) — 相手: 佐藤さん — 元の発言: 「セキュリティ要件の資料はまだ見ていない」
- No.2 簡易見積を送付する — 期限: 7/18(金) — 相手: 田中部長 — 元の発言: 「見積のイメージが見たい」
- No.3 次回商談(鈴木さん含む)の日程を提案する — 期限: 7/18(金) — 相手: 佐藤さん — 元の発言: 「8月上旬希望」
- No.4 鈴木さん向けの説明資料を準備する — 期限: 要確認 — 相手: 自分 — 元の発言: 「上長も入れてほしい」
- No.5 予算検討の進捗を確認する — 期限: 7/22(火) — 相手: 田中部長 — 元の発言: 「来年度予算で検討」
ポイントは2つです。
1つ目は、タスクにならない情報が1行も出ないことです。メモの半分近くは事実の記述(「リプレースしたばかり」「請求書発行がメイン」)で、そこから何も出ないのが正解です。全部をリストに放り込むTODOは、2週間で誰も見なくなります。
2つ目は、期限の根拠が弱い行だけ「要確認」と出ることです。上の例ではNo.4の1行だけです。ここだけあなたが判断します。「8月上旬の商談に間に合わせるなら、準備は1週間前の8月1日でいい」と手で直す。5行のうち手を入れるのは1行で済みます。
「要確認」が半分を超えるなら、メモが淡泊すぎます。商談中に「いつまでに」という言葉を1つでも引き出せば、その行は自動で埋まります。期日を口に出して確認する営業の案件が動きやすいのは、この後処理の構造からでも説明がつきます。
道具47: タスク表から初動メールを即生成する
道具47は、道具46の出力を貼ると、タスク1行ごとに送信可能なメール文面を出します。商談が終わって30分で、全タスクの初動が打てます。
あなたは営業担当のメール作成担当です。以下のタスク表から、送信するメールを1行ずつ作成してください。
【ルール】
1. 1タスクにつき1通。件名+本文(80〜150字)
2. 本文は元の発言に一言触れてから、送付・依頼・報告に入る
3. 相手に待つアクションがある場合は、期限の日付を本文に書く
4. 自分が納品するタスクは「〇月〇日までにお送りします」と日付で宣言する
5. 「ご検討ください」「よろしくお願いいたします」で終わらせない。最後の一文は具体的な次の一手(返信期日・日時の提示など)にする
6. 相手が自分自身の行(資料作成など)はメールを作らず、「カレンダー登録: 〇月〇日 ○○を準備」という1行に置き換える
7. 署名は[署名]の1行に置き換える
【商談日】[例: 2025年7月15日(火)]
【自分】[氏名・会社名・サービス名]
【タスク表】
(道具46の出力を貼る)
実行例
No.1(セキュリティ資料)なら、こう出ます。
件名: セキュリティ要件資料のご送付
佐藤さん
本日はありがとうございました。商談でご関心のあったセキュリティ要件の資料をお送りします。データの保管場所、通信の暗号化、アクセス権限の3点を1枚にまとめてあります。7月18日(金)までに不明点をご返信いただけると、見積とあわせて整理してご用意します。
[署名]
No.3(日程調整)なら、こうです。
件名: 次回打ち合わせの日程ご提案(8月上旬)
佐藤さん
本日はありがとうございました。鈴木さんにもご同席いただける方向で、次回の日程を3つご提案します。
・8月4日(月)14:00〜15:00
・8月6日(水)10:00〜11:00
・8月8日(金)16:00〜17:00
いずれもZoomで60分です。ご都合の良い日時をご返信ください。
[署名]
No.4のような自分向けの行からはメールが出ず、「カレンダー登録: 8月1日(金) 鈴木さん向け説明資料を準備」と1行で返ってくるだけです。これを見たら、その場でカレンダーに45分のブロックを入れます。自分の準備は文面では進みません。ブロックを入れられた日だけ進みます。
出てきた文面を全部今日送る必要はありません。期限が今日と明日の行だけ今すぐ送り、先の日付の分はメールソフトの下書き保存か予約送信に入れます。送った行から、次のシートに記録します。
タスクの置き場は1枚、6列
置き場は前節(第44回)の失注リストと同じ作り方です。スプレッドシートに1枚、シート名は「商談タスク」。列は6つです。
- 案件名
- タスク
- 期限
- 相手
- 元の発言
- 状態
運用のルールは3つだけです。
- 状態は「未送」「送信済」「完了」の3語だけを使います
- 道具46の出力を貼り、No列の代わりに案件名列を入れる(10秒)
- 完了した行は削除せず「完了」にします。月曜の棚卸しで眺めるためです
全案件を1枚に縦に足していきます。案件ごとにシートを分けないのは前節と同じ理由で、分けた瞬間に見る枚数が増え、誰も見なくなります。
道具48: 月曜10分の棚卸し
タスクは立てるより閉じる方が難しい。最後の部品は、開いたままのタスクを毎週月曜に一括で処理する道具です。
あなたは営業チームの週次レビュー担当です。以下のタスクリストを月曜の棚卸しとして処理してください。
【処理内容】
1. 「状態=未送」かつ「期限が今日以前」の行を表で抽出する
2. 「状態=送信済」かつ「期限から10日以上経過」の行を表で抽出する
3. 1と2の各行について、進捗確認のメール文面(件名+本文80字以内)を1通ずつ作る
4. 「未送」かつ「期限が7日以内」の行を表で抽出し、文面がまだないものだけ作る
5. どの条件にも当てはまらない行は出力しない
【今日の日付】[例: 2025年7月28日(月)]
【タスクリスト】
(スプレッドシートの「未送」「送信済」の行をコピーして貼る)
月曜の朝、手順は3ステップです。
- シートの未完タスク(「未送」「送信済」の行)を範囲選択してコピーし、道具48に貼る(実行2分)
- 出てきた表を見て、すでに返事が来ている行など不要なものを除外する(実行3分)
- 文面を送り、状態を「送信済」に書き換える(実行5分)
合計10分です。この10分を月曜の最初の会議の前に置いてください。棚卸しを3週間続けた現場では、商談後の初動が平均3日から当日〜翌営業日まで縮まりました。縮めたのは意識ではなく、「月曜に全部が1枚で見える」構造です。
催促文面の例
例えば、7月18日に簡易見積を送ったまま返事がない行は、7月28日の棚卸しで「送信済+10日経過」として拾われ、こう出ます。
件名: 簡易見積のご確認
田中部長
先週お送りした簡易見積について、ご確認いただけましたでしょうか。前提で違う点があれば、そのままご指摘ください。来年度予算の検討に間に合わせるためにも、8月上旬の次回打ち合わせまでに方向が見えていると助かります。お手すきの際にご一報ください。
[署名]
催促は書くのが苦手な人が多い。しかし文面の9割は「送ったこと」「確認したいこと」「次の一手」で構成されており、この3つは道具が埋めます。あなたは案件の事情を知っている1文を足すだけです。
そしてこの表には、居場所のない行が出ません。3回送っても動かない案件は「送信済のまま10日超」の行として自力で姿を現します。そこまで動かない行は、断り直後のフォローと再点火メールを生成する道具42〜44(前回の第44回)に引き渡して、失注リストへ移します。断られる前のタスクから、断られたあとの再点火まで、1枚のシートの上で閉じるのです。
今日やること
- 直近の商談メモを1本、道具46に貼ってタスク表を出す(実行5分)。「要確認」の行だけ手で期限を入れる
- 期限が今日〜明日のタスクを道具47で文面化し、今日中に送る(実行10分)。先の日付の分は下書き保存か予約送信にする
- スプレッドシートに6列の「商談タスク」シートを作り、道具46の出力に案件名列を足して貼る(実行5分)。来週月曜の朝、道具48で初めての棚卸しを10分やる
ここまでやれば、今日は合格です。商談が終わった瞬間が次の開始日。開始日の仕事は、感想ではなくタスクと初動メールです。
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