改善ループ — 商談が「どの関門」で落ちるかを突き止め、翌月の一手を1つだけ決める(道具54〜56)
私は営業15年目の速水拓真です。
前回(第47回)の週次商談レポートが「鏡」だとしたら、今日作るのは「検査台」です。週次の14分で週報が並ぶようになるだけでは、「成約率が上がらない」という悩みはたいてい解決に届きません。この悩みは、たいてい「診断」になっていないからです。「成約率4%を上げる方法」は世の中に無数にあって、そのほとんどは自分の案件には効かない。効く手が選べるのは、自分の案件が「どこで」落ちているかが分かった瞬間だけです。
前回までに、全案件の段を週1回一覧化する棚卸しの道具48(第45回)と、週次レポートを書き出す道具51(第47回)までが回るようになっています。月1回、貯まったこの記録を上から眺めて、「穴」を1つ見つけ、翌月の一手を1つだけ決める。この回転が、今日のテーマである改善ループです。
商談は一本道ではなく「5つの関門」だ
商談を「初回から成約までの一本道」と見ていると、出てくる対策は必ず「もっと頑張る」になります。代わりに、5つの関門を順に通る工程として見てください。私たちの商談タスクシートは、アポイントが決まった時点で案件を載せます(アポ成立までの流れは、第2作『見込み客をAIに探させろ』の道具が担う領域です)。そこから数えると、関門はこう割れます。
- 関門0:アポイント成立(初回実施前)
- 関門1:初回商談を実施した
- 関門2:2回目以降の商談を実施した
- 関門3:見積書・提案書を提出した
- 関門4:最終決裁者との面談を実施した
- 関門5:成約した
各関門の通過率は「その関門を通った件数÷1つ前の関門を通った件数」です。アポ成立100件で初回実施が80件なら関門1は80%、初回80件のうち2回目以降が44件なら、関門2は44÷80=55%。
通過率が「健康」かどうかの目安を、書籍『商談をAIに鍛えさせろ』の筆者の現場感覚で示します。業界と商材で変わる数値なので、絶対値を追うより、自分の月次の変化を見るのが正しい使い方です。
- 関門1(初回を実施):80%(直前キャンセル・ドタキャンが2割以内)
- 関門2(2回目へ継続):55%
- 関門3(見積を提出):60%
- 関門4(決裁者の前へ):50%
- 関門5(成約):70%
全部が目安どおりなら、アポ成立100件は80→44→26→13→9本と進み、成約9本。「初回が100本決まれば受かるのは10本前後」という法人営業の感覚と一致します。
では、関門4だけが20%に落ちている営業はどうなるか。100→80→44→26→5→3〜4本。たった1つの関門を30ポイント落とすだけで、受注は半分以下になる。逆に言えば、いちばん薄い関門を1つ標準まで戻すだけで、受注はほぼ倍になる。成約率を上げる最短距離は総合力ではなく、薄い1か所への集中治療です。
ちなみに、前回・前々回で設置した計器との位置関係を押さえておきます。商談から受注までの3段漏斗(初回→2回目以降→提示→受注)を設置したのが第46回です。今日の5関門は、同じ流れに「決裁者との面談」という刻みを1つ足して、さらに細かく数えられるようにした形です。また、商談より前(プール→接触→アポ)の発掘側を同じ週次レポートの形で数える話は、第20回で書きました。仕組みとしては同じで、数える場所が違うだけなので、発掘側でこの作法を回したことのある人はゼロからではありません。
道具54「工程別通過率カウンタ」— 累積の週報を貼るだけで数え上げる
道具51のレポートには案件ごとの行(案件名と段)が含まれています。前回から作っている「商談レポート累積」ファイルに、月4〜5回分がもう貯まっているはずです。道具54は、これをまるごと貼るだけで、各関門の通過率表にしてくれます。プロンプトの中身を読み込む必要はありません。黒箱のまま、貼って動く道具です。
あなたは営業のファネル分析の専門家です。私が貼り付ける商談レポートの
累積データから、案件が5つの関門をどこまで通過したかを数えてください。
[関門の定義](各案件の「段」は、その案件が最後に到達した段です)
関門1:初回商談を実施した
関門2:2回目以降の商談を実施した
関門3:見積書または提案書を提出した
関門4:最終決裁者との面談を実施した
関門5:成約した
[数え方のルール]
- アポイントが成立して初回がまだの案件は「関門0」に置く
- 失注案件は、その段が示す関門まで通過したものとして数える
(例:段が見積提出済なら関門3まで通過)
- 同じ案件が複数回出てきたら、最も進んだ段で1回だけ数える
- 通過率は「その関門の通過件数÷前の関門の通過件数」とする
[出力形式]
1. 関門0〜5の件数と、関門1〜5の通過率の表
2. 通過率が最も低い関門の番号と数値
3. レポートに氏名が含まれる場合は、人別の通過率の表も出す
4. いずれかの関門の入口件数が20件未満の場合は、その行に
「※件数不足」を付す
5. 数値の解釈や改善の提案は一切書かない。数値だけを出す
[商談レポート累積]
(ここに貼り付け)
出力の読み方 — 3つの約束
1つ目は、通過率はやや低めに出る、ということ。 進行中の案件は、今後さらに上の関門を通るため、数えた時点では「未通過」にカウントされます。だから、健康ラインとの差ではなく、先月の自分との差を見る。絶対値で一喜一憂しない。
2つ目は件数。 関門の入口が20件未満の月は、1件の増減で通過率が5ポイント前後動き、読みすぎの元になります。「※件数不足」の印が消えるまでは、2〜3カ月分をまとめて貼る。
3つ目は段名の合わせ方。 自分のシートの段名が本書の例と違う場合は、プロンプト冒頭の[関門の定義]だけを自分の段名に書き換えれば、そのまま動きます。あわせて運用の約束も1つ。失注した案件はシートから消さず、段は落ちた場所のまま、状態を「失注」として残す。この1行があるだけで、「どこで死んだ案件か」まで、1枚のシートから数えられるようになります。
「どこで」の次は「なぜ」— 道具55「失注理由タガー」
通過率は関門を教えますが、理由は教えません。関門4が薄い人のうち、価格で負けている人と、決裁者に会えないまま案件が消えている人では、打つ手がまったく別です。道具55は、落ちた案件に理由のタグを付け、関門別に理由を数える道具です。
対象は2種類。失注案件と、道具48の棚卸しで「3週間動きなし」と出た停滞案件です。どちらもシートの段=落ちた場所なので、該当行とメモ欄をそのまま貼ればよい。プロンプトはこちら。
あなたは営業の失注分析の専門家です。私が貼り付ける失注・停滞案件の
記録から、落ちた理由を次の8分類でタグ付けしてください。
[理由の8分類]
A:価格・予算
B:競合他社の採用
C:意思決定者に会えなかった
D:必要性・価値が伝わらなかった
E:タイミング(予算時期・社内事情)
F:自然消滅(連絡が取れなくなった)
G:提案内容と要件のズレ
H:不明(記録からは判断できない)
[ルール]
- 記録に書かれていないことを推測しない。判断材料がなければHにする
- FとHを混ぜない。Fは連絡が不通、Hは連絡は取れるが理由が不明
- 1案件にタグは1つ。複数当てはまる場合は主たる理由だけ
- 落ちた関門は、その案件の段の次の関門とする
(段=見積提出済なら関門4で落ちた)
- 各案件を「案件名/落ちた関門/タグ/根拠とした記述」の1行で列挙する
- 最後に「理由×落ちた関門」のクロス集計表を出す
[失注・停滞案件の記録]
(商談タスクシートの該当行とメモ欄を貼り付け)
ここで最も守るべきルールが、AIに推測をさせないことです。理由が記録に書かれていない案件は「H:不明」のまま残させる。ここを埋めさせると、AIはもっともらしい理由をでっち上げて、集計はきれいになるのに、実態から遠ざかる。「不明が3割」も立派な診断です。それが「打つ手は商談の工夫ではなく、記録の付け方にある」という発見になる。商談タスクシートのメモ欄に「断られたら理由を一言書く」の1行を足せば、翌月から直ります。
出力のクロス集計を受けたら、やることは1つ。「理由×関門」の表のうち、件数が最も多い1か所に丸を付ける。診断はそこで終わりです。
処方箋は1枚、打つ手は1つ — 道具56「改善処方箋メーカー」
道具54で「どこで」、道具55で「なぜ」が分かった。最後は、翌月にやる一手を1つだけ決めます。全部の関門を一度に直そうとする営業は、何も直せません。翌月の数字に何も反映されない。改善は「1関門×1手」で回します。
あなたは営業プロセス改善の専門家です。私が貼り付ける2つの分析結果から、
来月の「改善処方箋」をA4一枚分で作ってください。
[貼るもの1] 関門別通過率(道具54の出力。前月分と今月分)
[貼るもの2] 理由のクロス集計(道具55の出力)
[処方表](最も薄い関門×その関門の理由上位から、1つだけ選ぶ)
- 関門1で落ちる×F:初回前日までに接点を増やす(リマインド+事前資料)
- 関門2で落ちる×D:初回の冒頭5分と聞き方を変える
- 関門2で落ちる×F:初回直後のフォローを翌営業日までに短縮する
- 関門3で落ちる×G:2回目の提案の型に、冒頭の要件再確認を入れる
- 関門3で落ちる×C:2回目の前に、案件メモの意思決定者欄を埋める
- 関門4で落ちる×C:見積提出の場面で、決裁者の面談を次のアポとして
同時に取る
- 関門5で落ちる×A:価格提示の前に、価値を1枚にまとめた紙を足す
- 関門5で落ちる×E:初回から決裁の時期と判断者を聞いておく
[出力形式]
1. 最も薄い関門(前月比つき)
2. その関門の理由上位2つ
3. 来月やる一手(処方表から1つだけ。2行以内の具体的な行動で書く)
4. 再測定の日付と判定方法(翌月第1月曜に道具54で通過率を再測り、
前月比で判定する)
5. 根拠となった数値(2行)
一般論や自分の意見を足さない。貼られた数値と処方表だけから書くこと。
[分析結果]
(貼り付け)
道具56に埋め込んである処方表は、書籍の全工程の技術を1枚に圧縮したものです。事前準備、初回、2回目、見積、決裁、断られフォロー——どの関門でどんな理由で落ちても、打つ手はこの表のどこかに書いてあります。道具はこの表と、あなたが貼った数値だけから処方を出して、A4一枚にまとめます。
この1枚を印刷して、手帳の前ページに挟む。翌月の再測定日には、前月の表と突き合わせて、通過率の上がり下がりだけを見る。上がっていれば継続、下がっていれば手を変える。判断はこの2択で十分です。
毎月第1月曜、25分。ループの回し方
週次の14分(道具48→51)はそのままに、月1回だけ診断を足します。毎月第1月曜、道具51のレポートを作り終えた直後で、次の3ステップです。
- 前月分のレポート累積を道具54に貼る(8分)
- 失注・停滞案件の記録を道具55に貼る(10分)
- 2つの出力を道具56に貼り、処方箋を1枚もらう(7分)
合計25分。翌月の第1月曜に同じことをする。測る(週次)→数える(道具54)→理由を知る(道具55)→一手を決める(道具56)→また測る。この1周期が月次で回り続ける限り、商談の弱点は放置されません。
通しの例を見ます。産業用部品を売る営業・佐藤さんの3カ月分を道具54にかけたら、こう出ました。
- アポ成立62件→初回54件(87%)→2回目29件(54%)→見積18件(62%)→決裁面談5件(28%)→成約3件(60%)
薄いのは関門4の28%(目安50%)。道具55のタグを数えると、見積を出して決裁面談まで進まずに落ちた13件のうち、C(意思決定者に会えなかった)が8件。佐藤さんは見積を「送って終わり」にしていた——その事実が、数値で初めて見えたわけです。道具56の出た処方は「見積提出の場面で、決裁者の面談を次のアポとして同時に取る」の1つ。翌月の診断では、関門4は28%→44%。アポ成立に対する成約率は約5%から約8%へ。1つの関門に打った1手が、全体に1.6倍として返ってきました。
マネージャーは「薄り方の分布」を見る
チームの診断は、道具53(メンバーの週次レポートを部会用に束ねる道具)の出力を、そのまま道具54に貼るところから始まります。氏名つきの全員分を1回で通せば、人別の通過率表が1枚で出ます。ここから、2パターンに分岐します。
パターンA:全員が同じ関門で薄い。 これは個人の問題ではなく、営業の仕組みの問題です。その関門の工程で使う型を、全員分標準に切り替える。全員の関門2が40%台なら、初回の型そのものを差し替える。
パターンB:薄い関門が人によって違う。 これは個人指導のリストです。関門2で薄い人には初回の型を、関門4で薄い人には決裁面談の取り方を、それぞれ道具56で個別の処方箋を出させる。部会で「もっと頑張ろう」を全員に言うより、5分で出した1枚の関門表の方が、はるかに的確です。
部会の冒頭15分を、この表に当てます。前月の関門表を1枚見せて、今月全員で鍛える関門を1つ宣言する。「今月は関門2の月だ」と宣言できるマネージャーの部隊と、「数字を意識しよう」と言い続ける部隊の差は、四半期で必ず数字になります。
道具54が見つけるのは、失敗ではなく「伸びしろの座標」です。関門2が54%の月は、45%だった先月より良い。その差を作った行動を思い出す。数字が行動の記憶を引き出し、行動が翌月の数字を作る。商談を鍛えるのは道具ではなく、この回路を毎月25分回す習慣です。
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今日やること
- 「商談レポート累積」ファイルの直近4回分を道具54に貼ってテスト実行し、関門別通過率の表を保存する(実行8分)。段名が本書の例と違う場合は、プロンプト冒頭の[関門の定義]を自分の段名に書き換えてから貼る
- 失注案件と「3週間動きなし」の停滞案件の行とメモ欄を集め、道具55でタグ付けする(実行10分)。「H:不明」が3割を超えていたら、商談タスクシートのメモ欄に「断られたら理由を一言書く」の1行を加える
- マネージャーは、毎月第1月曜の部会カレンダーに診断の25分を入れる(手配1分)。道具53で集めた全員分のレポートを道具54にまとめて貼る役割を、自分とメンバーのどちらに置くか決める
今日はここまでで合格です。