週次商談レポート — 数字はもう書いてある(道具51〜53)
私は営業15年目の速水拓真です。前回は、商談から受注までの3段漏斗という「速度計」を設計して、商談タスクシートに4カウント(初回数・段移動数・受注数・失注数)の行を1本足しました。今回は、その計器が回り始めた後に飛んでくる、あの一言への備えです。
金曜の夕方、部長からこう頼まれます。
「月曜の部会に、今週の数字をまとめといてね」
この頼まれ方をされたとき、営業パーソンの週報作りは2パターンに分かれます。
ひとつは作文型です。「A社とは良好な関係を築けています」「B社は引き続き前向きに検討中です」。それらしい文章は並ぶけれど、数字はゼロ。部長は何も判断できず、結局1人ずつ個別に聞き回ることになります。
もうひとつは集計型です。初回商談◯本、進行中◯件と数字を並べる。方向は正しい。ただ、その数字を出すのにメールボックスと手帳と記憶を総動員して40分かかる。月曜の午前が溶けて、翌週もまた同じ作業をします。
どちらも根は同じです。商談の記録と、週報の数字が別々の場所にある。だから毎週同じ数え直しが発生する。 今回はこの二度手間を潰します。前回までに整えた記録の上に、プロンプトを1本足すだけで数字が自分で並ぶようになります。
週報の数字は、もう書いてある
まず手元の記録を確認してください。商談タスクシートと道具48の棚卸しを作った回の整理だと、シートは1行1案件で、案件名・段・次のアクション・期日を管理する台帳です。毎週月曜の棚卸し(10分)で最新の状態に戻ります。前回、このシートへ4カウントの行を1本足しました。棚卸しの最後にこの1行を埋める。ここまでが現在地です。
この状態で、週報に必要な数字がどこにあるか並べてみます。
- 今週の初回◯本・受注◯件・失注◯件 → 4カウントの行
- 段別の在庫 → シートの段列を数える
- 停滞している案件 → 段列と期日列の組み合わせ
- 来週の予定 → 期日列の来週分
全部、書いてあるのです。棚卸しの終わった月曜の朝の時点で、週報は9割完成している。残り1割は「抜き出して、決まった形に並べる」作業です。これは人間の仕事ではなく機械の仕事で、機械のなかでもAIがいちばん得意な仕事です。
だからレポートは書きません。吐き出させます。 ここが今回の芯です。
道具51:週次商談レポート生成
道具51は、シートの中身をそのままAIに渡して、週報の形に組み直させるプロンプトです。この連載のいつもの扱いと同じで、中身の理解は不要です。コピーして、貼って、動かす。
入力は3つ。そろえるのに1分もかかりません。
- 商談タスクシートの全行。範囲選択してコピーし、そのまま貼ります。Excelでもスプレッドシートでもメモ帳でも、1行が1案件の形になっていれば動きます。段の数が3つでも5つでも、段列の値をそのまま数えるだけなので同じプロンプトが使えます
- 今週の4カウント(初回数/段移動数/受注数/失注数)と、受注があればその合計金額
- 必要週次初回ライン。前回の道具50で、3ヶ月の受注目標から逆算した「週◯本」の数字です
道具50の数字を入れておくと、初回数が「今週いくつやったか」ではなく「目標に対して足りているか」の判定材料に変わります。週報の価値が1段上がるのは、この1行のおかげです。
以下をコピーしてください。
あなたは営業レポート作成アシスタントです。入力のデータから、今週の週次商談レポートを作成してください。
# 入力1:案件データ(商談タスクシートの全行)
[ここに貼り付け]
# 入力2:今週の4カウント(初回数/段移動数/受注数/失注数)と受注合計金額
[例:4/2/1/0、受注280万円]
# 入力3:必要週次初回ライン
[例:4]
# 出力形式(5部構成、全体で400字以内)
1. 今週の数字:初回◯本/段移動◯件/受注◯件・◯万円/失注◯件
2. 段別の在庫:各段の件数。2週以上同じ段にとどまっている停滞案件は案件名つきで列挙
3. 注目案件トップ3:各1行、注目する理由つき
4. 数字の注意点:入力3との差、在庫の偏りなど、入力から読み取れる事実のみ2行
5. 来週の予定:案件データの期日から、来週の初回とフォローの予定本数
# 絶対遵守
- 悪い数字をぼかさない。「伸びしろ」等の慰め言葉は禁止
- 数字は入力から正確に数える。入力にない案件・金額を作らない
- 評価、感想、励ましは一切書かない
出力はこうなります。
【6月第2週 商談レポート】
1. 今週の数字:初回4本/段移動2件/受注1件・280万円/失注0件
2. 段別の在庫:段1=3件/段2=5件/段3=2件
停滞(2週以上):C商事(段2、14日目)
3. 注目案件トップ3
・A食品(段3):来週見積提出。決裁の部長に2回目で面会済み
・B不動産(段2):予算確認済み、期日6/25
・D物流(段1):初回で課題の緊急性が高いと判明
4. 数字の注意点:必要初回ライン4本に対し今週4本で達成。
ただし段3が2件で前週から1件減。来月の受注枠が薄い
5. 来週の予定:初回3本(火・木・金)/フォロー4件
読みどころは4の「数字の注意点」です。AIは、あなたなら書きたくない事実を平然と並べます。「段3が2件で、前週から1件減」。自分の週報にこれを書ける人はほとんどいません。数字に顔を貸さない機械に書かせるからこそ、書ける。
プロンプトの後半に「絶対遵守」を置いたのはこのためです。AIは初期設定ではやわらかい生き物で、悪い数字のあとに「しかし前向きな兆しも見受けられます」と付けたがります。これを封じる指示がないと、週報は1週で作文型に逆戻りします。
400字という制限にも意味があります。上司は長い週報を読みません。1分で読めるものだけが毎週読まれる。毎週読まれて初めて、週報は週報として機能します。会社指定のフォーマットがある場合は、この5部構成をそのフォーマットに貼り替えてください。数字の部分はそのまま使えます。
最初の3回だけ、出力の段別在庫を自分の手で数えた件数と突き合わせてください。ズレが出た場合、原因はほぼ必ず案件行のコピー漏れです。3回続けてズレがなくなったら、以降は手で数える必要がありません。手で数える時間のほうが、機械の間違いを疑う時間より、はるかに高くつきます。
出力先は「商談レポート累積」という1本のファイルに決めてください。メモ帳で十分です。毎週、新しいレポートを下に追記します。上司へのメールもチームチャンネルへの投稿も、このファイルからコピーして行います。このファイルはあなたの記録の元データであり、この後の道具52の入力にもなります。
4週溜めると点が線になる — 道具52:推移リーダー
道具51のレポートは強力ですが、1週分だけでは「点」です。点からは読めないものが、4週並ぶと読めます。初回4本→3本→3本→2本。この並びを見れば、来月の数字が下がることはその場でほぼ確定します。前回の道具49は過去の案件から3つの転換率を出す道具でした。道具52は同じ理屈を「今まさに進行している悪化」に適用します。悪化は週次の数字にまず現れ、月次の数字は1ヶ月遅れて結果として現れる。だから週次で捕まえる意味があります。
あなたは営業データ分析アシスタントです。過去4週分の週次商談レポートから、推移レポートを1通作成してください。
# 入力:過去4週分のレポート(古い順)
[累積ファイルから4回分を貼り付け]
# 出力形式(全体で300字以内)
1. 4週推移:初回数/段移動数/受注数を週ごとに「◯→◯→◯→◯」で並べる
2. 良い傾向2つ:数字の変化を根拠として書く
3. 悪い傾向2つ:同じ形式で
4. 来週の重点1つ:来月の受注に最も効く数字の改善
# 絶対遵守
- 精神論と励ましは禁止。数字の変化のみを扱う
- 重点は実行可能な行動1つに限る。「頑張る」「意識する」の類は禁止
出力はこうなります。
1. 4週推移
初回:4→3→3→2/段移動:2→1→1→1/受注:0→1→0→0
2. 良い傾向
・受注1件(第2週・280万円)は段3在庫から発生。最終段階の詰めは機能している
・失注が4週間で0件。無理な案件を抱え込んでいない
3. 悪い傾向
・初回数が4→2へ減少。必要ライン4本に2週連続未達
・段移動が2→1へ低下。段1→段2の作り込みが弱い
4. 来週の重点:初回数の回復。既存の受注・段3取引先2社への紹介依頼を来週中に2件
注目すべきは4の「来週の重点」です。「初回数を増やしましょう」は行動ではありません。「紹介依頼2件」は行動です。「頑張る」「意識する」を禁止したのは、重点が必ず来週実行できる形で出るようにするためです。
道具52を回すのは月1回、累積ファイルに4週分が溜まった時点で十分です。実行5分。月末に「今月どうだった?」と聞かれたら、記憶を漁る代わりにこの300字を渡せば話は終わります。
全員分を放り込むだけで部会が変わる — 道具53:チーム週次集約レポート
ここからはマネージャーの話をします。メンバー5人の週報を集めて取りまとめる作業は、部会前の静かな残業を作ります。しかも集まった週報が作文型なら、取りまとめた先も作文です。
メンバー全員に道具51を使ってもらってください。各自の負担は月曜の数分です。集まってきたレポートをそのまま道具53に放り込みます。
あなたは営業マネージャー支援アシスタントです。メンバー全員分の週次商談レポートから、チーム週次レポートを作成してください。
# 入力:メンバーの週次商談レポート(全員分)
[ここに貼り付け]
# 出力形式(全体で400字以内)
1. チーム合計の数字:初回◯本/段移動◯件/受注◯件・◯万円
2. メンバー別の表:名前/初回数/受注数/停滞案件数(各自のレポートに列挙された停滞案件を数える)
3. 個別フォロー対象(最大2人):どの数字が弱いかを数字で示す
4. 対象者ごとに1on1で使う質問1つ:最も弱い数字に踏み込む質問
# 絶対遵守
- 人格評価と励ましは禁止。数字のみを扱う
- フォロー対象は必ず2人までに絞る。全員には付けない
出力はこうなります。
1. チーム合計:初回11本/段移動3件/受注2件・530万円
2. メンバー別
佐藤:初回4/受注1/停滞0
鈴木:初回4/受注0/停滞1
田中:初回3/受注1/停滞3
3. 個別フォロー
鈴木:4週間で受注0。段3在庫1件で初回数は充足。最終段階の詰めが壁
田中:停滞3件はチーム最多。初回数はライン達成も、2回目以降の設計が弱い
4. 1on1質問
鈴木:段3の1件、決裁者は商談に1度でも出ていますか
田中:停滞3件はどの段で止まっていますか。3件に共通する場面を1つ挙げてください
道具53の効き目は「フォロー対象は2人まで」の指示です。AIは初期設定で全員に良い点を付けたがります。2人に絞らせることで、今週誰と個別に話すべきかが自動的に決まります。マネージャーの指導計画は、この2人から逆算して組み立てられます。
4の質問は、前回書いた「段別の病気には段別の処方」がそのまま出た形です。鈴木さんは最終段階の詰めが壁、田中さんは2回目以降の設計が壁。同じ「もっと頑張れ」を2人に投げるのは処方の放棄です。数字が並んでいるから、処方が分かる。
部会も変わります。冒頭5分、このレポートを画面に映すだけで、部会は数字から始まります。「今週の感想をひとつずつ」が消え、「チームの段3在庫が計5件。来月の受注ラインに足りないのは何か」から始まる。感想の部会に1時間かけているなら、数字の部会は20分で終わります。
なお、見込み客を探す側にも同じ発想の週次レポートがあります。発掘ファネルの数字を毎週並べた回と今回の商談側の仕組みは対になっています。リストの入口から受注まで、毎週数字を見る習慣で覆うイメージです。
月曜14分で、月次の見える化まで買える
仕組み全体を時間で整理します。
- 現場:月曜の棚卸し(道具48)10分 → 道具51実行3分 → 累積ファイル追記1分
- 月1回:道具52実行5分
- マネージャー:月曜午後、メンバー分を集めて道具53実行5分
現場1人あたりの月間コストは、14分×4週+5分=61分です。手集計の週報に週40分かけていた人は、その40分から解放されます。年50週では約29時間、8時間勤務に換算して丸3日分が商談の時間に戻ります。
ただ、時間の節約は副産物です。本体は別のところにあります。数字を並べるコストが月曜の数分になった結果、あなたは毎週、自分の数字を見ることになります。 四半期に1回まとめる数字は飾りです。毎週目に入る数字だけが行動を変える。初回が2本に落ちた週に、2週間後の在庫が心配になり、紹介依頼のメールをその場で書く。この短い回路が、月次と四半期の数字を作ります。
週報は上司のためのものではありません。まず自分のための鏡です。商談を鍛えるのは商談の中だけではありません。外側の記録と報告を鍛えれば、毎週の商談の中身も鍛え直せる。その鍛冶場が、月曜の14分です。
今日やること
- 商談タスクシートの現時点の中身をコピーして道具51に入れ、テスト実行する(実行5分)。4カウントが未記入なら、今週の記憶から仮の数字を入れて形を確認する。「商談レポート累積」ファイルを新規作成し、第1回分を貼り付ける(実行2分)
- 出力の段別在庫の件数を、自分の手で数えた件数と突き合わせる(実行3分)。ズレていれば貼り漏れ案件を探して再実行する。ズレなければ、来週月曜の棚卸し直後に道具51を回す運用を手帳の週ページに書く
- マネージャーは、メンバーに道具51のレポート提出を依頼する(1人あたり伝達1分)。来週月曜に全員分を集めて道具53の初回実行を予定に入れ、部会の冒頭5分をこのレポートに当てると決める
今日はここまでで合格です。月曜の朝、棚卸しの直後に道具51を1本回す。それだけで、あの「数字をまとめといてね」は怖くなくなります。
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