速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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「道具が多すぎて、どれから始めればいいか分からない」に答える — 最初の1本の選び方

昨日の「おわりに」で、この連載は3冊の元になった章をすべて掘り終えました。その末尾に、「どの章の道具から始めたか、どこで詰まったか」をコメントで教えてください、と書きました。私は営業15年目の速水拓真です。連載も今日で55本目、ここからは読者のみなさんの質問や「ここで詰まった」という声に答える回が続きます。

コメント欄が動き出すのを待つあいだに、最初の1問を先回りしておきます。3冊を読み終えた人が最初にぶつかる壁は、書き手の私がいちばんよく知っているからです。

「道具が多すぎて、どれから始めればいいのか分かりません。結局、明日、何をすればいいんですか」

この質問が来ることは、分かっていました。第3作『商談をAIに鍛えさせろ』だけでも、道具は1番から72番まで並んでいます。第2作『見込み客をAIに探させろ』にも、第1作『営業の仕事をAIに任せろ』にも、それぞれ道具の山があります。3冊を読み終えた人が「全部を覚えて回らなければ」と感じてしまうのは、書き手の落ち度です。今日はこの質問に、3冊に既に書いてあることだけで答えます。新しい道具は、1本も出しません。

迷いの正体は「多さ」ではなく「物差しのなさ」

まず、なぜ迷うのか。原因は道具の数ではありません。「どれから始めるかを決める物差し」が、手元にないことです。

72本の道具が横一列に並んでいる絵を思い浮かべてください。リスト収集の道具、企業調査の道具、事前ブリーフの道具、議事録の道具、応答集の道具、週次レポートの道具。どれも「これで時間が戻ってきます」と書いてある。だから、どれから始めてもよさそうに見える。だからこそ、どれから始めるか決められない。

これは、3冊のあとがきに書いた「全部を一度に回そうとしない」と同じ場所でのつまずきです。パイプライン全部を一度に回そうとして挫折する人と、道具全部を一度に選ぼうとして動けなくなる人は、同じ理由で止まっています。選択肢が多いこと自体は悪いことではありません。物差しさえ決めれば、72本は「多すぎる」ではなく「明日の仕事に合わせて選べる」に変わります。

物差しは2つです。いちばん重い仕事。そして、明日の商談。

物差し1: いちばん時間を食われている仕事から選ぶ

道具は、読んだ順に使うものではありません。重い仕事に差し当たったとき、その場に1本差し込むものです。まず、自分の仕事のなかで「これに時間を食われている」という1つを思い浮かべてください。それで入口は決まります。

  • リストが尽きて、明日のアプローチ先に困っている人 — 入口は発掘側です。見込み客リストの収集は、丸1日かかっていた仕事を2時間にするところから始まります(第3回)。1社30分かかっていた企業調査を3分にする道具も、この線に置いてあります(第4回)。リストが貯まったら、朝にリストが増えていく定時実行の発掘パイプラインへ。こちらは週65分の設計で回ります。
  • リストはもうある。商談が増えるほど準備に追われている人 — 入口は商談側です。商談の前日に、相手の課題を仮説化する商談前ブリーフから。1枚600字、6項目の準備書です。商談が終わったら出口で60秒メモを取り、商談の記録から次にやるタスクを起こす仕組み(第45回)に乗せます。SFA(案件の記録を管理する社内システム)への入力が1件20〜30分かかっていた人は、第53回のとおり5分に変わります。
  • 提案書やメールなど、文面の仕事に追われている人 — 入口は文面側です。提案書を「書く」から「直す」へ変える型(第5回)。3時間かかっていた提案書が40分に変わります。

どの行を選んでも、やることは同じです。「明日ある仕事」に、道具を1本だけ差し込む。道具はコレクションではありません。重い仕事の現場に、一本ずつ打つくぎです。

物差し2: それでも迷ったら、正解は1本に決めてある

「自分がどの仕事に時間を食われているかも、実は分からない」。そういう人にも、答えは用意してあります。3冊のあとがきで私が書いた「本を閉じたあとの最初の一歩」です。迷った人の正解は、この1本です。

  • 明日の商談一本に、事前ブリーフ10分(相手の名前・自社の勝ち筋・聴きたい質問3つ)
  • 商談が終わったら、出口で60秒の3行メモ
  • 金曜の退勤前に10分、一週間の記録を読んで、指示文に一行足す

作り方そのものは第31回にあります。1枚600字・6項目、初回は10分、慣れれば3分です。

なぜ、この1本が正解なのか。理由は、「三つの土台」にいちばん早く繋がるからです。3冊のあとがきに書いた三つの土台——準備書・応答集・商談記録。この3つが回っていれば、パイプラインは死にません。

  • 事前ブリーフを書き続けると、それが準備書になります。前夜3分、朝15分で4件ぶんの準備が整う設計は第52回にあります。手作業で1件25分×4件=100分かかっていた準備が、前夜3分+朝15分の18分に変わります。
  • 出口の60秒メモを貯め続けると、それが商談記録になります。二週目には、先週の自分の記録が、今週の準備に遠回しにアドバイスを返してきます。
  • 「断られたとき、先方は何といったか」を記録し続けると、それが応答集になります。三週目には、「これは応答集に追記しよう」と思う瞬間が訪れます。

ここが大事なところです。この循環を「忘れずに続ける」という意志で回そうとすると、3週で廃れます——第53回に書いたとおりです。だから最初の一歩は、意志に頼らない作りにしてあります。商談がある日にだけ、商談にくっつけてやる。商談がなければやらない。72本の道具を全部覚える必要はありません。私自身がどんな順番で道具を回し始めたかは、第8回の「私の自動化ログ」に書いたとおりです。対話が勤務時間の8%しかない仕事だからこそ(第1回)、残りの時間は仕組みに任せる。最初は1本でいいのです。

今日やること

  • 明日の商談を1本選ぶ(今週に商談がないなら、来週の最初の1本で)
  • 前夜に、事前ブリーフ10分。1枚600字・6項目。仮説3つ、質問3つ
  • 商談が終わったら、出口で60秒の3行メモ
  • 詰まったら、この記事のコメントで教えてください。「どの道具で、どこで詰まったか」。それがこの連載の次のテーマになります
  • ほかの道具は、この循環が回り始めてからで遅くありません

明日、あなたがやるのは10分です。全部を一度に回そうとしない。72本の道具は、明日の1本を終えたあなたのほうへ、順番に来ます。

最初の1本を選べた今日は、ここまでで合格です。

この記事の元になった書籍では、今日使った「最初の一歩」と三つの土台を、3冊全体で商談の全工程に配置してあります。


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