速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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22時の10分だけのブリーフが、翌朝の30分を奪い返す話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


前回は、空のリストの1行目に根拠を書く話でした。リストの並びは、見つけた順でなく、理由のある順にする。その流れの先に、今週は「会う前夜」の話を置きます。商談は朝に始まるのに、勝負がつくのは前夜22時だという話です。


20年やってきた私の商談前夜は、正直言うと何もしていませんでした。翌日の資料を印刷して、地図を確認して、早めに寝る。準備というより、儀式でした。それをある夜、10分だけ組み替えたところ、翌日の商談の持ち帰りが変わった。その10分について書きます。


30分の準備は、1度も続かなかった


世の中には「商談は準備で決まる」という教えがあって、私も若い頃は真面目に取り組みました。相手のWebサイトを読み、決算資料を開き、プレスリリースに目を通す。30分かけて調べて、私は翌朝、その話をほとんどしませんでした。


読んだ知識の9割は、商談で一度も出てこないからです。商談で創業何年かの沿革を話すことなんて、基本ありません。30分の調査が1商談につき、週に10商談なら、私の手元では月に20時間がそのまま蒸発していました。しかも消え方に再現性があって、翌月も同じ場所で蒸発する。続かなかったのは、根性が足りないからではなく、この仕事に終わりが見えないからです。準備に終わりがない仕事は、続かないのです。


それでも準備はやめられませんでした。やめてしまったら、質問は「御社の課題は何でしょうか」に戻る。この質問をされた相手は、たいてい「色々ありまして」と濁します。濁された私は、逃げるように自社の説明を始める。準備ゼロの商談の終わりは、決まってこの形でした。


22時、10分、1枚600字


組み替えた夜の話をします。その日は翌朝に、飲食チェーンの本社管理部との初回商談が入っていました。きっかけは紹介で、届いた文面には「シフト作成の工数を何とかしたい」という1行が書かれていた。昔の私なら、この文面を印刷して終わりです。


その夜、私は代わりに10分だけ使いました。やったことは3つだけです。まず文面をAIに渡して、「表の用件」と「裏に読めること」を分けてもらう。1行の文面の裏から、「検討が社内で前に進んでいる」「窓口の先に話の主がいる」「いま価格比較になっている」の3つが返ってきました。次に、その裏読みをきっかけの欄に入れて、仮説を作ってもらう。「シフト作成の発言があるため、店長が手作業で組んでおり、現場離れの原因になっているはず」。仮説は断定に寄せるのが決まりでした。最後に、紙の余白に1行足します。これはAIに書かせません。「同規模のチェーンのA社は、店長のシフト作成が月20時間を超えていた」。


ここまで10分でした。600字の1枚になっていたので、印刷して眠りました。


読んでの通り、これは「商談の前夜の勉強」ではありません。前夜の組み立てです。調べる作業ではないので、終わりが見えます。10分の終わりに1枚の紙がある。この「紙になった」感覚が、毎晩続けるための仕掛けでした。


仮説は当てるものではないと、20年目に知った


この1枚の芯になっているのは、仮説に関する発想の切り替えです。仮説は、当てるために持つものではありません。相手に話してもらうために持つものです。


「御社の課題は何ですか」と聞いた夜はありません。一方、「80店舗規模ですと、シフトは今も店長さんが手作業で組んでいらっしゃるんですか」と言った朝はあります。相手は少し笑って、「分かりますねえ」と話し出した。ここから30分で出たのは、本社が店舗別人件費を月末まで握れていないという話でした。私の紙には、この「話が出た事実」を書く欄がない。そこで帰りの電車で、私は紙の裏に1行書いたのです。「仮説2は外れ。本社の見える化の話が出た」。


仮説が外れると、悔しいが、実は得をします。丸聞きで1時間話しても出てこない情報が、外れた瞬間にくれます。外れた仮説は訂正され、訂正は情報です。もし全部当たっていたら、私は何も聞いていないのに話が終わっていて、それはそれで怖い。


この切り替えができると、前夜の10分は「正解を探す10分」から「検証の札を並べる10分」に変わります。当たるかどうかは相手が決めることなので、前夜に私がやることには元々入っていません。私は3つの仮説のうち1つに印を付けるだけ。印は「一番当たっていそう」でなく「はじめに検証する」を選んだ1つです。30分の商談で全部は確かめられません。まず1つを確かめると決めておくと、商談中の話はそこから外れなくなる。


任せる線


まとめます。


前夜にAIがやるのは、文面の裏読みと、仮説と質問の下書き、600字への圧縮です。人間がやるのは、断定に寄せる最後の直しと、余白に1行足すこと、印を付けることです。翌日の商談中は、印の1つだけを検証します。外れたら、訂正をメモに残す。ここまでが、前夜10分の仕事の箱です。


ブリーフの鮮度は1商談ぶんだけです。1週間前に作った紙は、前夜の10分で作り直します。作り直しも10分で終わるので、積み残しは出ません。


今週、ひとつだけ試すなら


今週の商談を1つ選んで、前夜の10分を「組み立て」に使ってみてください。文面の裏読み1回、仮説3つ、印1つ、持ちネタ1行。紙になったら明日はその1枚だけ持って行く。


私の商談は、前夜22時に1枚できて、翌朝30分で直されます。直された紙は、その日の夜には次の紙の材料になっている。


書籍『商談をAIに鍛えさせろ — 事前準備から断られフォローまで、商談の全工程をAIで強くする』(速水拓真)では、この10分のブリーフを貼って動く形にしたプロンプトを、商談中のメモの取り方とセットで書いています。


それでは、また。


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