速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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問い合わせフォームに送った営業メールは、3秒で消える話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


前回は「勘」の話を書きました。今日は、もっと地味な話です。営業が送るメールが、どこで消えるかという話です。


「送信しました」で、終わった気になっていた


営業のメールには、二種類あります。


ひとつは、相手の名前を書いて送るメール。もうひとつは、会社の問い合わせフォームから送るメールです。


若い頃の私は、後者が好きでした。理由は単純で、楽だからです。担当者の名前を調べなくていい。部署を推測しなくていい。フォームに件名と本文を貼れば、「送信しました」と出る。画面の前で、今日の営業がひとつ進んだ気になれます。


いま思えば、あれは営業ではなく、送信作業でした。


消える場所を、私は見たことがなかった


ある会社に、フォームから提案を送ったことがあります。小さな会社で、規模も業種も私の顧客層に合っていました。資料も丁寧に作り、本文も三回読み直しました。


二週間、返信はありませんでした。


たまたまその会社に、知人の紹介で別の用事があり、受付で名刺を出したことがあります。応対してくれた総務の女性が、こう言いました。「ああ、フォームのメールですね。あれは週に一度、まとめて見ているんですよ。営業のご案内は、だいたいその場で終わりですけど」


「その場で終わり」という言葉が、妙に残っています。


共有のアドレスに届いた営業メールは、誰かの仕事の合間に、まとめて処理されます。読まれていないのではありません。読んだうえで、三秒で捨てられている。私が三回読み直した文章は、三秒で終わっていました。


名前を調べる時間を、私は避けていた


では、なぜ私はフォームを選んでいたのか。


面倒だったからです。それは本当です。でも、それだけではありませんでした。


担当者の名前を調べるという行為は、名指しするという行為です。名指しすれば、断られるのも名指しになります。「速水さん、うちは必要ないです」と、人が私に向かって言う。フォームなら、その瞬間がありません。送信画面が出て、静かに終わる。


私は20年、その静けさを選んでいました。断られない方法を探すあまり、届く方法を捨てていたのです。


三秒で捨てられる文章を、私は作り込んでいた


もう一つ、書いておきたい失敗があります。


フォーム送信を選んでいた頃の私は、本文には人一倍時間をかけていました。件名を七回書き直し、構成を整え、会社の理念への言及まで入れる。読み手の心を動かす文章を、と本を何冊も読んだ時期もあります。


いま振り返ると、順番が逆でした。捨てる人しかいない場所に、捨てられない文章を書こうとしていたのです。誰が読むかを決めずに、どう読ませるかだけを磨いていました。文章の質は、宛先が決まってから初めて意味を持ちます。宛先のない文章は、どれだけ磨いても、磨かれただけの紙です。


あの二週間の沈黙は、相手が冷たかったのではありません。私が、読む人のいない場所に、全力で書いていただけでした。


宛先は、根拠の中に最初から書いてある


転機は、求人票でした。


ある会社の課題を探していて、求人票を読んでいたとき、ふと気づきました。「生産管理システム更改に伴うプロジェクトメンバー募集」という一行。これは、採用の告知ではありません。更改の予算がもう付いている、人が足りない、そして——この課題を持っているのは生産管理の近くの部署だ、という情報の塊です。


求人票を出した部署は、課題の持ち主です。決算短信に書かれた施策は、その予算を持つ部署が持ち主です。宛先は、探すものではなく、根拠から逆算するものでした。


私は20年、宛先を「名刺交換で得るもの」だと思っていました。手元にある材料を読めば、名前の手前まで来られる。それを知ったとき、少し悔しかったのを覚えています。


逆算の材料集めを、AIに渡した


逆算は、手作業だと骨が折れます。会社の規模、部署の実在の可能性、役職の呼び方、求人票の文言の裏読み。ひとつずつ確認していたら、一社に一時間かかります。


そこで、この材料集めをAIに渡しました。会社の情報と、根拠にした文書と、こちらが知っている手がかりを並べて、「この会社で課題を持っていそうな部署と役職の候補を、根拠と一緒に出してほしい」と頼む。すると、実在しうる部署の絞り込みと、その理由が、数分で文字になって並びます。


大事なのは、ここで終わらせないことです。並んだ候補は、候補です。私の仕事は、その中から「この会社ならこの人だ」と選ぶこと。20年で会ってきた会社の記憶と、文面から受ける印象を突き合わせて、一人に決める。この選択は、私にしかできません。


送る数は減って、返事は増えた


任せるようになって、送るメールの数は減りました。半分以下になった月もあります。


代わりに、返ってくる返事は増えました。当たり前の話でした。三秒で捨てられる場所に百通送るより、名指しで十通送るほうが、届くのです。


数を成績にしていた頃の私は、いちばん届かない場所に、いちばん多く投げていました。それは努力ではなく、努力の形をした回避でした。断られる瞬間から、目を逸らしていたのだと思います。


任せる線は、どこにあるのか


私がたどり着いた線は、こうです。


材料を集めること、部署と役職の候補を並べること、根拠を文書から拾うこと。ここまではAIに任せます。速さも正確さも、人間より上です。


誰に送るかを決めること、その人に向けた一文を書くこと。ここは人間です。同じ会社でも、誰に送るかで文面は変わります。20年分の、断られた記憶と、通った記憶。それが選ばせてくれるものを、私はまだ手放したくありません。


AIは、営業の数を増やしません。届く数を、増やします。


今週、ひとつだけ試すなら


あなたの送信履歴に、返信の来なかったフォーム送信がいくつか残っているはずです。そのうち一件を選んで、送った文面をもう一度開いてみてください。そして、その会社が最近出した求人票か、決算の資料を、一度だけ読んでみてください。


宛先の候補が、たぶん、見つかります。


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それでは、また。

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