お礼メールと提案書を同時に下書きする — AIへの1回の入力で2文書の矛盾を消す
お礼メールと提案書を同時に下書きする — AIへの1回の入力で2文書の矛盾を消す
商談が終わった直後、営業が書かなければならない文書は2つあります。お礼メールと提案書です。多くの現場では、この2つは別々の時間に作られます。お礼メールは当日に20〜30分かけて書き、提案書は「落ち着いたらやろう」と後回しにして、2〜4時間の作業を数日先に抱えたままにする。その間に商談の勢いは切れていきます。
この記事では、商談メモ1つを入力にして、お礼メールと提案書の下書きを同時に作るプロンプト設計を紹介します。入力は1回、出力は2点。やることはプロンプトを貼ってプレースホルダーを直すだけです。
なぜ「同時」に作るのか
理由は3つあります。
理由1:入力が1回で済む。 商談の記憶が一番鮮明なのは直後です。お礼メールを当日、提案書を3日後に別々に作ると、そのたびに記憶を呼び戻す作業が入ります。メモを1回貼って両方を出させれば、この往復が消えます。
理由2:2つの文書が一致する。 お礼メールに「3年契約のご提案を準備します」と書いたのに、提案書には月額プランしかなかった——こういう事故は、2つの文書を別々の時間に作ると起きます。相手はメールと提案書を見比べます。出力元が同じメモなら文書同士は必ず一致し、その一致自体が信頼になります。
理由3:お礼メールが提案書の締切になる。 メールに「ご提案書は◯月◯日にお送りします」と書いて送ると、その日付は自分を縛る約束になります。ただし、下書きが手元にないままこの日付を書くのは不安です。同時に下書きを作る意味は、この日付を確実な約束として書けることにあります。
かかる時間で比べると、手作業ではお礼メールに20〜30分、提案書に2〜4時間。このやり方では、プロンプト実行2〜3分、お礼メールの修正10分、提案書の仕上げ30〜60分です。商談から24時間以内に両方の「形」が手元にある状態を、1時間弱で作れます。
前提:商談メモの行数が提案書の密度になる
入力は、5項目形式の商談メモです。①基本情報(日時・参加者・役割)②相手の状況と課題③相手の要望・条件④こちらが伝えたこと・約束したこと⑤宿題と次回予定。
ここで1つ強調しておきます。メモの行数が、そのまま提案書の密度になります。 メモに「月末締めの集計に手作業で3日かかっている」という1行があれば、提案書の課題の節はそれを根拠に書けます。メモが薄いと、AIは一般論で埋めるしかなく、どの会社にも当てはまる提案書が出来上がります。それは提案書として点数がつきません。
文書の質はプロンプトではなくメモで決まります。この原則は、この後の設計全体を貫きます。
コピーして使えるプロンプト
道具はチャットAIです。新しく何かを入れる必要はありません。商談の内容を貼るので、社内で使ってよいと認められたサービスを使います。次のプロンプトを貼ります。仕組みを理解する必要はなく、黒箱の道具として扱ってください。
あなたは法人営業の文書作成を支援する担当です。以下の商談メモから、
お礼メールと提案書の下書きを1度に作成してください。
【商談メモ】
[清書した商談メモをそのまま貼る]
【自社情報】
- 自社名:[自社名]
- 提供物の正式名称:[製品・サービス名]
- 送信者:[自分の氏名と肩書]
【文書1:お礼メール】
- 宛名、件名、本文、署名を含める
- 本文は300〜400字
- 含める内容は次の4点だけにする
1. お礼(1行)
2. 商談でうかがった相手の課題の要約(2行まで。メモの事実のみ)
3. こちらから約束したこと。提案書の送付予定日:[送付予定日を記入]
4. 次回日程と宿題の確認(1〜2行)
- 「貴社のますますのご発展」のような常套句は使わない
- 相手の課題に推測や誇張を入れない
【文書2:提案書の下書き】
- 最初に提案書のタイトル案を1つ出す
- 本文の構成は次の6項目
1. お客様の課題(メモから最大3つ。重要な順に)
2. ご提案の概要(3行以内)
3. ご提案内容の詳細
4. 期待される効果(メモに数字がない場合は[数字を記入]のまま置く)
5. 導入までの流れと次のステップ
6. お見積り([価格を記入]の空欄のまま)
- A4で2〜3枚に収まる分量にする
- メモにない機能・条件・サービス名・数字は書かない
【2つの文書の共通ルール】
- 数字、固有名詞、日付は商談メモにあるものだけ使う
- メモにない事実を補って文章をつなげない
- 効果を大きく見せる修飾をしない
投入前に直すのはプレースホルダー5か所です。商談メモ、自社名、提供物の名称、送信者、提案書の送付予定日。文中の[数字を記入]と[価格を記入]だけは消さないでください。 これはAIに対して「空欄を残せ」と指示する合図で、後で人間が埋める部分です。ここを消して「適切な数字を入れて」と頼むと、根拠のない数字が混入します。
このプロンプトの設計意図は3つあります。文書ごとに字数制限を設けているのは、お礼メールが長文化しAIが相手の課題を推測で膨らませるのを防ぐためです。効果の数字に空欄を残すのは、AIが「工数30%削減」のようなもっともらしい数字を捏造するのを構造で止めるためです。価格を空欄にするのは、価格が相手の予算感・競合の動き・社内の決裁ラインという3つの、どれもAIに見えていない情報の上に成り立つ判断だからです。
出力の使い方
出力は「文書1:お礼メール」「文書2:提案書の下書き」の順で返ってきます。
文書1は、検査を通したら当日中に送ります。 このメールには次回日程と宿題の確認が含まれるため、議事録メールと役割が重なることがあります。議事録メールをまだ送っていない案件なら、文書1に「認識に相違があればご指摘ください」の1行を足して、1通で両方の役割を果たします。すでに議事録メールを送った案件なら、文書1は送らず、課題の要約と次のステップの部分を、あとで提案書を送る際のメール文面に転用します。同じ相手に近い内容を2通送るのは、読む側の負担です。
文書2は、会社のテンプレートに貼り替えて仕上げます。 AIが出すのは中身であって体裁ではありません。自社のPowerPointやWordの決まった型に、項目ごとに移します。営業が手を入れるのは3点だけです。(1)テンプレートへの貼り付け、(2)価格の空欄を自分で埋める、(3)効果の数字を[数字を記入]のまま残すか、根拠のある数字に置き換える。
提案書はA4で2〜3枚で足ります。商談で課題を聞いた上で作る提案書は短くなるもので、聞いたことを全部詰め込むと、提案書は提案ではなく記録になります。
会社に定型テンプレがあるなら、プロンプトの【文書2】の構成指定を「次のテンプレートの各項目を、商談メモの内容で埋めてください。メモにない項目は[未定]のまま残す」の1行に差し替え、テンプレート本体を追加します。初回の差し替えに10分ほどかかりますが、一度作れば商談メモの行だけを貼り替えて何度でも使えます。部署で共有すれば、全員が同じ型の下書きから始められます。
出力をそのまま使わない3点検査
AIの出力をそのまま使ってはいけません。両文書に次の3点検査を通します。不備が見つかったら、該当箇所を削る形で直します。プロンプトのやり直しは1回まで。それでも文面が一般論のままなら、直すべきはプロンプトではなくメモです。
検査1:事実はすべてメモにあるか。 氏名、肩書、日付、曜日、金額、製品名。メモを横に開いて突き合わせます。AIは人名の推測で間違えます。名前が合っていても、役職を1段上に盛ることがあります。
検査2:話していない約束が入っていないか。 AIは営業文書を大量に読んでいるぶん、「導入後は専任担当が貴社をサポートいたします」といった、話してもいない条件を当然のものとして書くことがあります。提案書は契約書の隣に置かれる文書です。書いたことは受注後に守らされます。1文ずつ「これ、商談で言ったか」と確認するのがこの検査です。
検査3:効果の数字に根拠があるか。 メモにない「工数30%削減」といった数字が入っていたら、[数字を記入]に置き換えるか削ります。根拠のない数字は、次の商談で必ず相手に突っ込まれます。
1件の流れで見る
具体的な流れを1件で見ます。
システム会社の営業・田中さんは、部品メーカーの経理部長・佐藤さんと4月16日(水)14時に初回商談を持ちました。メモには「月末締めの集計に手作業で3日かかっている」「来期から管理会議を月次で開く予定」「4月中に概算が欲しい」の3行と、宿題、次回日程が入っています。
当日19時、帰宅後にプロンプトを回します。メモを貼り、送付予定日に「4月21日(月)」を入れる。数分で2点の下書きが出ます。3点検査を通し、お礼メールを10分で直して20時に送信。メールには「ご提案書は4月21日(月)にお送りいたします」と入れてあります。
4月18日(金)の午前、文書2を会社の提案書テンプレートに移し、価格を自分で入れ、効果の節は商談で話した数字だけに整えます。40分で仕上がります。4月21日(月)の朝、提案書を送付。お礼メールに書いた日付どおりです。商談から3営業日で提案書が相手の手元に届きます。 この速度は、案件の温度を保つ上でそれ自体が武器です。
運用の3ルール
最後に、回し方のルールを3つに絞ります。
ルール1:お礼メールの修正は10分で打ち切る。 完璧な文面より当日到着が効きます。3点検査を通ったら送ります。文面を寝かせて翌日に送るなら、この仕組みは半分しか機能していません。
ルール2:価格は人間が入れる。 プロンプトが価格を空欄で残す設計になっているのは、意図です。価格は相手の予算感、競合の動き、社内の決裁ラインという3つの情報の上に成り立つ判断で、このどれもAIには見えていません。「適切な価格を提案して」とAIに頼むのはやめてください。AIの守備範囲は「話したことを文章にする」までです。
ルール3:お礼メールに書いた送付日は必ず守る。 守れないと分かった時点で、先方に変更の連絡を入れます。黙って遅れるのが最悪で、案件はそこで静かに冷めます。
まとめ
- 商談メモ1つから、お礼メールと提案書を同時に下書きする。入力1回で2文書の矛盾が消える
- [数字を記入]と[価格を記入]の空欄は消さない。捏造を構造で止める合図である
- 文書の質はプロンプトではなくメモで決まる。メモが薄いと一般論で埋まる
- 3点検査は「事実」「約束」「数字の根拠」。該当箇所は削る形で直す
- お礼メールに書いた送付日は、そのまま自分を縛る締切として機能する
お礼メールと提案書の同時下書き、修正10分、提案書は3営業日以内。この流れが1本通ると、商談後の文書作成は「思い出す作業」から「メモを貼る作業」に変わります。メモを貼るだけの仕事になれば、それはAIに任せられる範囲の仕事です。
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