速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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最後の価格で負けると思っていたら、9件はその前で終わっていた話

初出: note

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こんにちは。速水拓真です。


前回は、点を付ける作業をどう回すかの話でした。今日は場所を移して、商談の話をします。営業なら一度は聞かれる質問があります。「あなたの商談、どこで落ちますか」。この質問に、私は長いあいだ、正面から答えたことがありませんでした。答えはいつも、外のほうを向いていたのです。


「うちの客は、決裁が遅いんです」


15年前、当時の部長にこの質問をされました。私はこう答えました。「先方の決裁が遅くて、なかなか前に進みません」。部長は「ふん」と言っただけでした。それから何年経っても、私の答えは同じところを回っていました。商材が競合に比べて弱い。そもそも予算がない。全部、外のせいです。外のせいで語っているかぎり、直す場所は自分の中に一つも生まれません。


落ちる場所は、人によって決まっています。初回が終わると消えていく人もいれば、提案を送ったあとに沈黙する人もいれば、最後の価格で折られる人もいる。私が見てきたかぎり、負けと停滞の6割から7割は、特定の1つか2つの場所に集中します。本気で直すべき弱点は、たいてい1つです。


記憶は、いちばん鮮烈な負けに引きずられる


なぜ正面から答えられなかったのか。理由は単純でした。答える材料を、数えたことがなかったのです。


思い当たるのは、いつも鮮烈な1件でした。何年か前に、5回通った大口の案件がありました。最後の最後で、30万円差で競合に敗れた。帰りの電車の中で先方の決裁者の顔を思い浮かべながら、値段の言い方を何パターンも練り直した夜のことは、いまでも覚えています。それから私は「最後は価格で負ける」と信じ込みました。価格の話し方の本を読み、相場の調べ方を覚え、提案書の金額の置き場所まで気にするようになった。それでも、負けは減りませんでした。


あとから分かったことですが、人間の記憶は、いちばん鮮烈な敗北に引きずられます。1件の大きな負けが、9件の静かな負けを上書きしてしまう。記憶は、いちばん出来の悪い統計係なのです。


1年前、10件の経緯を書き出した


AIを使い始めて間もない頃、初めて数える作業をしました。過去1年に負けた案件と、2か月以上そのままになっている停滞の案件を合わせて10件。経緯を日付付きで書き出します。1件5分、10件で50分の地道な作業でした。負け7件と停滞3件を混ぜるのは、像が歪まないためです。負けだけでも、停滞だけでも歪む。


書き出してみて、まず気づいたことがありました。書けないのです。「そのあと、何をしたか」という行が、空欄のまま埋まらない。資料を送ったあと、電話を1本したあと、記録がぷっつり途切れている。書けないこと自体が、この時点での診断結果でした。経緯を書き出すのは人間の仕事で、数えるのは機械の仕事。この線は、最初の日に見えていました。


前に、負けの理由を1行の記録に残す話を書きました。理由を残すことと、落ちる場所を数えることは、別の仕事です。理由は「なぜ負けたか」に答え、場所は「どこで負けやすいか」に答える。後者は、理由をどれだけ溜めても出てきません。毎月の数字の流れを通過地点で読む話も書きましたが、あれは流れの話。今日の話は、私自身の落ち方の癖の話です。


数えたら、最後の価格は1件だけだった


10件の経緯を貼って、商談を7つの場面に分けて数えてもらいました。出会いから初回までの発掘、初回に向けた準備、初回の場面、提案と見積、先方の社内での検討、最後の決裁と価格、断られたあと。機械は各案件について、実質的に落ちた場所を1つだけ特定し、10件を場所ごとに数えて、落ちる場所の順位を出してきました。


結果は、私の信じ込みとまったく違っていました。最後の価格の場面までたどり着いていたのは、10件のうち1件だけ。残りの9件は、その前で終わっていたのです。内訳は、提案や見積を送ったあとの沈黙が7件。初回の翌週で音信不通になるのが2件。私が値段の言い方を磨いているあいだに、9件の商談は、値段を口に出す場面の前に全部終わっていました。


落ちは、4つの型しかなかった


数え上げを重ねていくと、落ち方の型は4つに絞られました。初回で終わる型。送って終わる型。最後で価格に潰される型。断られた案件から消える型。面白いのは、この4つが本人の目には、どれも「うちの客は決裁が遅い」に見えることです。でも、直し方は型ごとにまったく違う。だから、まず数えるのです。


直すのは、いちばん落ちる1か所だけ


順位が出ると、つい全部直したくなります。私はしません。落ちた件数のいちばん多い場所だけを直します。理由は単純で、全部直すと宣言した人は、3週間後には何も直っていないからです。1位を潰すだけで、負けの4割が減る計算になる。それだけの話です。


私の1位は「送って終わる」でした。直したのは、行動を1つだけ。見積を送ったあとの1通に、「社内ではどなたがお読みになる予定でしょうか」の1問を足すこと。送って48時間以内に出します。これ以外は直さない。2位以下の場所には、手を出しませんでした。


5問聞かれて、「わからない」がいちばんの収穫だった


数え上げの直後に、機械に問い直しをしてもらいました。機械は1回に1つだけ質問してくる。全部で5問、10分で終わります。外部の研修と違うのは、私の案件の経緯を持った状態で質問を組み立ててくる点でした。抽象論に逃げられない。


私は3問目で詰まりました。「見積を送ったあと、先方の担当者は、社内に何と言って検討を回す予定でしたか」。答えられなかったのです。何も言っていない。先方が社内を回せる準備を、私が整えていなかった。この「わからない」が、いちばんの収穫でした。答えられなかった質問を、そのまま商談メモに書き写す。そして次の商談で、その質問を先方にそのまま投げる。機械が私に聞かせてくれた質問は、先方にこそ聞くべき質問だったのです。


数え上げを頼むとき、「私を励まさない」と頼み文に書いておきます。褒められているあいだは、何も直らないからです。出力の最後の3行、いちばん落ちる場所、そこから読める根元、来週からやる直し。この3行だけを商談メモの先頭に貼っておく。読んで終わる診断は、読まなかったのと同じです。


先週の金曜、1位が入れ替わっていた


それから、四半期に1回、この数え上げを回す決まりにしました。先週の金曜の回で、初めて1位が入れ替わっていました。「送って終わる」は、10件のうち3件まで減っていたのです。代わりに1位に出てきたのは「初回で終わる」の4件。ほかは、断られたあとに消える2件と、最後の価格の1件でした。春から新しい事業部の案件を少しずつ持つようになって、商談の入口の風景が変わっていたのです。


落ちる場所は、直すたびに移ります。固定された弱点などありません。だから数え直すのです。書き出しの50分と、数える1分。この51分を四半期に1回払うだけで、私は自分の商談の今の弱さを、記憶でなく数から読めるようになりました。


任せる線


経緯を書き出すのは、人間です。書き出した10件を場所ごとに数えて、落ちる場所の順位と型を出すのは、機械です。問い直しの5問を組み立てるのも機械です。数え上げの3行を商談メモの先頭に貼るかどうか、直す場所を1位だけに絞るかどうか、答えられない質問を次の商談の質問に変えるかどうか。これらは人間の仕事です。記憶に聞いた弱点は、何年単位で間違え続けました。数に聞いた弱点は、四半期ごとに数え直せます。


今週、ひとつだけ試すなら


負けた案件と、2か月以上そのままになっている停滞の案件を合わせて、まずは5件で構いません。経緯を日付付きで書き出してみてください。1件5分です。書けない行があれば、それがこの時点でのあなたの診断結果です。私は1年前、10件のうち半分近くが書けませんでした。書き出しこそが人間の仕事で、数えるのは機械の仕事。この線を引いた日に、20年のあいだ誰にも正面から答えられなかった「どこで落ちますか」に、初めて数字で答えられるようになったのです。


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