商談の練習をAIに採点させたら、直すのは1点だけだった話
こんにちは。速水拓真です。
前回は、届いた断りの次の日の返信の話でした。今回は逆に、商談が始まる前の話です。AIに相手役を演じてもらって商談の練習をする話は、このnoteの最初のほうで書きました。今週からその練習のあとに、採点を頼むようになりました。点数が出るようになって初めて、20年間の「練習」の仕方を間違っていたことに気づいたので、その話を置きます。
20年間の練習は、勝てる条件だけの練習だった
私が20年やってきた「商談の練習」は、実は頭のなかでの再生でした。前夜、明日の商談の進め方を思い浮かべる。冒頭のあいさつ、課題の確認、提案の順番。想定問答も、うまくいったときの会話をもとに作る。相手も質問も想定どおりに来る商談を、1回ずつ再生していた。
再生する商談は、いつも順調です。順調な商談を再生して、何が悪いと言うのだろう。20年、この問いを自分に出していませんでした。そして今週、本番の商談で、冒頭の1分で全部が崩れました。崩れたのは相手の態度ではなく、自分の用意してきた時間の使い方でした。
「今日、10分しか取れなくて」と言われた商談
先週の商談です。既存の工場の窓口に、新しい提案を持ち込んだ30分の枠でした。着席した瞬間、相手の一言。「今日、実は10分しか取れなくて」。
用意していたのは、30分の筋書きでした。冒頭の1分、課題の確認を15分、提案を10分。この筋書きのどこにも、冒頭で10分に切断されたあとの段取りは書いていませんでした。動揺して、2枚目の資料が開けない。相手は待ってくれない。「で、結局いくらなんですか」と価格を聞かれ、用意した価値の話を飛ばして、金額だけを先に言ってしまいました。10分が終わったとき、私は用意した話を1割しか話せていませんでした。
帰り道、同僚にこの話をしたら、一言返ってきた。「お前の練習って、話を聞いてくれる相手ばっかりじゃないか」。その通りでした。頭のなかの商談教室には、短時間通告してくる生徒は1人もいませんでした。
相手役に、モードを2つ足した
AIに商談の相手役を演じてもらうやり方は、もう知っています。商談先の設定を貼って、「では商談を始めます」と送るだけです。今週からここに、モードの1文を足しました。
モード1(標準):設定どおり。忙しいが、話は聞く
モード2(値切り):価格を聞いたら「これ、30%は下がらないと話にならないですね」と要求する。金額以外の価値の説明には「うちは予算が決まっていますので」と返す
モード3(門前払い):商談の冒頭で「今日は実は10分しか」と告げて、前置きを遮り「で、結局いくらなんですか」と聞いてくる。納得がいかないと「じゃあまた今度で」と打ち切る
どのモードを出すかは、何が起こりそうな商談かで決めています。初回の面談ならモード3。短時間通告は初回でいちばんよく起きます。見積を提示しに行く商談ならモード2。値切りはその場所の定番です。
もう1つ、練習を役に立たせている工夫があります。一般論の値切り役は練習になりません。過去に負けた言葉を、設定にそのまま足します。「うちのような規模には大げさすぎる」と断られた前例があるなら、その1行を相手役の設定に足しておく。同じ3回の練習でも、自分が負けた言葉の練習と、一般論の練習とでは、残るものが別物です。回数よりも、照準のほうが大事でした。
採点は5項目。直せるのは、1点だけ
練習が終わったら、そのまま同じチャットで採点を頼みます。書いておくのは5項目で、各10点、計50点満点です。
聞き出し:こちらから投げた質問が、会話全体で5回以上出たか。3回未満は減点
拾い直し:相手が口にした悩みや数字や固有名を、そのあとの会話で引用して拾えたか
価格対応:価格を先に聞かれたとき、金額だけ答えて話を終えていないか。金額の前に、聞くべきことを聞けたか
懸念の深掘り:「検討します」という曖昧な返しに対して、本当に不安な箇所まで聞けたか
着地:次の具体的な予定。日時、出席者、何を決めるかまで口にできたか
読み方も決めています。40点以上なら本番へ。30点台なら同じ設定でもう1回。30点未満が続くときは、注意が来ます。これはプレーの問題ではなく、相手役に貼った顧客情報が薄い合図です。3行の情報で練習を続けても、存在しない相手と話しているのと同じになってしまう。設定には、前回商談の結末と、相手の口調と、現場の切実な事情を2行足す。
先週の練習は44点でした。このとき出された「直すべき1点」は、価格を先に聞かれた場合の返し方でした。モード3でその1点だけを意識してもう1回通すと、金額の前に「まず、今の保守の運用で一番手が増えている場所はどこですか」と出せるようになりました。採点で面白いのは、直すべき箇所を5つ出してもらっても全部直せないことです。1回の練習で直せるのは、常に1点だけ。だから出してもらうのも、1点だけにしてもらうことにしています。
点数は、捨てずに置いておく
せっかく出た点数は、案件ファイルに1行貼って残しています。「本番前、練習2回・最終44点」のような1行です。受注と失注が確定したあとで、この行の表を並べ替えると、練習した案件と練習しなかった案件で、結果がどう違うのかが半年で読めます。練習という名の行為は、何も記録しないと、20年続けても1回も終わっていないのと同じでした。点数が残るようになってから、さぼりも減りました。
任せる線
相手役を演じるのはAI。採点をして点数を出すのもAI。でも、どのモードを出すか、直す1点をどれにするか、そして1点を直して本番に立つかどうかを決めるのは、人間です。
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それでは、また。
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