速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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後輩が2日休むと分かった日の、引き継ぎが6行だった話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


前回は、「便利になりました」という月報の一文を、部長の「何と比べた」という返事を受けて、3行の数字に書き直した話を書きました。今回の場面は、その金曜の1日前、木曜の夕方の、たった1つの質問から入ります。


「来週の火曜と水曜、休みます」


木曜の夕方、後輩が上着を腕にかけたまま、帰り際に言いました。「来週の火曜と水曜、家の用事で2日間休みます。朝の選び方が私から離れますが、何か対応が必要ですか」


私は「毎朝6時のリスト集めは、時計が勝手に回るから大丈夫。あとは台帳のそばに置いてある4列の物差しの表を見ながらの10分だろうから、代わりを立てなくても回るでしょ」と答えました。後輩は頷いて、そのまま帰りました。


答えは、途中まで正しかった。夜になって、途中までしか正しくなかったことに気づきます。時計が集める部分は、休みのときも止まりません。止まるのは、時計が決められない部分です。その部分がどこに存在するのか、夕方の自分は説明できていませんでした。


15年前、私はリストと一緒に異動した


15年前の私は、異動の日の朝、引き継ぎを紙1枚で済ませました。名前と、そのとき手配中の案件3件。それだけでした。ほかの300社分は、私の頭の中に入ったまま、私と一緒に移動しました。各社ごとの「いつ、誰に、何を送ったか」という記録は、表に残っておらず、私の記憶の側に住んでいました。


その部は、直後の四半期と、その次の四半期で、数字を落としました。原因は後任の性格でも努力でもありません。リストと記録が、書類ではなく記憶の形で私の側に残り、仕組みの部品が1つ欠けたまま置かれたからです。当時は、引き継ぎが薄かったとは部の誰も言いませんでした。リストと記録が記憶に住んでいたことは、持ち歩いた本人ですら気づかなかったからです。


木曜の夜、紙1枚を思い出して、夕方の自分の即答を検算し直しました。集める部分を時計に預けたのは、本当です。けれども、部品の数え方が間違っていた。数えていなかったから、大丈夫と口に出せていました。


止まる場所を数えたら、6行しかなかった


後輩の不在の2日間を想像して、今動いている機械を朝から晩までなぞり、私と後輩の手しかない仕事を全部書き出しました。


  • 朝の10分、集まった行を読み進める順番

  • 重複と見送りの行を、その日のうちに直す決まり

  • 金曜の15分、しきい値を超えた行と復活の対象を整備する流れ

  • 点数の並び方が変なときに、物差しの表を開いて照合する場所

  • 月曜の接触を、台帳の上位の行から始める決まり

  • 迷った日、その判断を1行だけ残す仕方


全部で6行でした。長い引き継ぎの書類を想像していたので、数え上げれば、意外なほど薄い。引き継ぎを書けない理由は、書く量が多かったことではなく、何を数えればいいかが決まっていなかったことでした。厚さをページで測ろうとすると膨らむもので、止まり場所で測れば、6行です。


3枚に分けて、迷ったときに開く場所を決めた


金曜の朝、6行を3枚に分けて置きました。1枚ごとに、答えている質問が1つです。


順番の1枚は「何を、どの順で動かすか」。判断の1枚は「なぜ、そう判定するのか」。曜日の1枚は「誰が、いつ、不在のときはどうするか」。分ける理由は単純で、発掘の途中で人が迷うとき、迷いの中身は必ずこの3問のどれか1つに落ちるからです。順番を忘れたなら順番の1枚。点数の振れが変なら判断の1枚。休む週の段取りなら曜日の1枚。3つを1冊に混ぜると、読む人は「どこのページを見るか」から迷い始めます。分けてあれば、開く場所が最初から決まっています。


厚さには上限を付けました。3枚合計で6ページ。読まれない文書は、存在しない文書と同じで、更新の手間だけを取り続けます。厚く作ったことそのものが原因ではなく、読んでも動けないことのほうが原因です。


なお、今回の3枚は、以前に書いたAIへの指示文の安定の話ではなく、人に渡す側の書類の話です。曜日の1枚には、不在の2日間の代行について、機械の全部ではなく金曜の整備の1回だけを渡す、という1行を書きました。全部を預ける引き継ぎは、預かる側の荷が重くて動きません。今週の10分だけを渡せる形にしておけば、不在は機械を止めなくなります。


AIに草案を書かせる。私が埋めるのは「なぜ」の行だけ


自分で数えた6行に、台帳の先頭20行、毎日・毎週・毎月に分けた作業の箇条書き、迷って判断した過去の例2件を足して、AIに渡しました。頼んだのは、3枚の草案を整然とした形で出すことです。


ここで、AIの得意と苦手の置き場所がはっきりしました。台帳に書いてある事実を並べて、3枚の構成に組み立てる。この9割の作業は、AIが1分で終わらせます。ただし、AIは台帳に書かれていない理由を造れません。だから草案は、理由のいる箇所に穴を開けた形で返ってきました。あいた箇所に「なぜこの重みなのか」を1行、私が自分の言葉で書き込みました。すぐに出てこない箇所には「仮置き」と書いて先へ進みます。理由を出せないのは、書くことを放棄した印ではなく、その重みの説明がまだ完成していない、という宣言です。


書いた本人への効用が、思っていたより早く出ました。曜日の1枚を読み返したあと、月曜の10分を「気が向いたらやる」と抱えていた状態から、「書いてあるから月曜にやる」へ替わった。引き継ぎの文書は、書いた本人が従う形になるのが第一歩です。


1人に読ませて、止まり場所を聞いた


検査のやり方は、読んで分かるかどうかを聞くことではありません。金曜の昼前、部にいる別の1人に3枚を10分読んでもらい、金曜の整備を1回、代わりに回してもらいました。


結果は、その場で分かりました。止まったのは1箇所、「復活の対象はどこから5社出すのか」です。判断の1枚に足りない1行を書き足して、5分で治りました。「読んで分かりましたか」と聞くより、「どこで止まりましたか」と聞くほうが、欠けている行を正確に教えてくれます。この検査を通った3枚は、持ち主が1週間消えても、月曜の10分と金曜の整備が別の手で回る。この状態が、属人化を断った、ということです。


本当の検査は、来週の火曜と水曜に来ます。あの朝に台帳の行が止まったままでなければ、3枚は効いていたというわけです。


任せる線


書き出した6行を3枚の構成に組み替える作業、各枚の説明の下書き、穴あけの形に整える部分。ここはAIに渡ります。渡さないのは、穴に書き込む「なぜ」の1行を自分の言葉で出すこと、不在時に渡す仕事を1回だけに絞る判断、6行のうちどれが欠けたら機械が動かなくなるかを見極める順位の付け方です。AIは台帳の中の事実は読めます。けれども、不在のときに何を1つだけ渡すべきかの線は、台帳の外にある判断です。


今週、ひとつだけ試すなら


「自分が3日消えたとき、どの1行が止まるか」と、今の運用を1時間かけてなぞり、止まり場所を全部書き出してみてください。書き出した各行を、順番・判断・曜日の3問に分けて、3枚に置く。分けきれないなら、まず月曜の朝の分だけ書いて、隣の席の人に読んでもらい、その分の仕事を1回回してもらう。「どこで止まりました」という返事が、欠けている1行を教えてくれます。引き継ぎの厚さの目安は、ページではなく、止まり場所の行数です。


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