速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
Zenn

自動化を2週間で自分仕様に直す — その場で直す前に『引っかかりログ』を1行書く

初出: Zenn

前回は、ノーコード連携が行数で止まる4つの壁をAPI連携で外す話を書きました(ノーコード連携が5,000行で止まる理由 — 4つの壁をAPI連携で外す)。

今回は、道具が動き始めた後の話です。自動化を回し始めて1週間。便利なはずの仕組みに、毎朝小さな「引っかかり」が積もります。絞り込み条件を毎朝打ち直している。件名の3案が全部同じに見える。過去ログの要約が長くて、読むだけで5分かかる。

この記事で扱うのは、直し方の順番です。結論を先に言うと、1週目は直さない。書くだけ。直すのは2週目から、1日1箇所。この順番を守るだけで、「直しきれていない仕組み」を人に渡す事故が減ります。

その場で直すと、何が壊れるか

引っかかった瞬間にその場で直したくなります。プロンプトに1行足せば済む話がほとんどだからです。しかし我慢して、まずはメモ1行にします。理由は2つあります。

1つは、工数のログが繋がらなくなるから。 直す前と直した後が1週間の中に混ざると、「1週目は平均17分かかった」というざっくりした数字しか出ず、どこが速くなり、どこが遅くなったか分からなくなります。

もう1つは、直しの検証まで手が回らなくなるから。 1日で3箇所直すと、どの直しが効いたのか分かりません。効いていない直しが混ざったまま2週間を終えると、人に渡すのは「直したつもり」の仕組みです。その落差は、渡した相手の初日の引っかかりとして戻ってきます。

道具はタブ1枚 — 引っかかりログの4列

新しい道具は要りません。比較レポートや工数ログで使い始めたスプレッドシートに、タブを1枚足すだけです。

  • A列:日付
  • B列:工程(リスト更新/アポメール/商談準備/提案書/フォローメール/日次ログの6択。プルダウンにします)
  • C列:起きたこと(1行。長文禁止)
  • D列:直すならどうする(1行。思いつかなければ空欄)

書くのは1日の終わり、工数ログを記入した直後です。3分で終わらせます。外回り中に書くのは難しいので、夕方にまとめて思い出してかまいません。大事なのは「1行で書く」ことです。長く書こうとすると書くこと自体が負担になり、3日で途切れます。

タブの追加とプルダウンは、スクリプトエディタに貼って1回実行するだけです。

function addHikkakariLog() {
  const ss = SpreadsheetApp.getActiveSpreadsheet();
  const sheet = ss.insertSheet('引っかかりログ');
  sheet.getRange('A1:D1').setValues([['日付', '工程', '起きたこと', '直すならどうする']]);
  sheet.getRange('B2:B300').setDataValidation(
    SpreadsheetApp.newDataValidation()
      .requireValueInList(
        ['リスト更新', 'アポメール', '商談準備', '提案書', 'フォローメール', '日次ログ'],
        true)
      .setAllowInvalid(false)
      .build());
  sheet.getRange('A1:D1').setFontWeight('bold');
  sheet.setFrozenRows(1);
}

比較レポートのタブと同じファイルなので、集計もA列・B列の並べ替えだけで済みます。

1週目 — 直さずに、引っかかりを全部書き出す

1週間続けると12〜15行たまります。私の1週目のログからの抜き出しです。

日付 工程 起きたこと 直すならどうする
4/7 リスト更新 絞り込み条件を毎朝打ち直している 条件をシートの固定セルに入れる
4/7 提案書 業界名を入れ忘れると空欄のまま出る 欠けたら空欄ではなく【要確認】
4/8 アポメール 件名の3案が全部同じに見える 件名の型を1つに決める
4/9 商談準備 過去ログの要約が長く、読むのに5分かかる 「3行で」と制約を足す
4/10 日次ログ 案件名を毎回コピペする B列と同じプルダウンにする

5行以下しかたまらないなら、本気で使っていません。1日5工程を回して1つも引っかからないなら、観察が甘いだけです。初見で便利なものほど、使い込んだ2週目に遅効の不便が顔を出します。

もう1つ、1週目のログには「最適化期間(実測には使わない)」とラベルを付けておきます。捨てると決めてある記録は、続きます。迷いのある記録は、途中で「直したい」という衝動に負けて消されます。

2週目 — 出現回数の多い順に、1日1箇所直す

1週目のログが15行たまっても、全部は直しません。B列の工程で並べ替え、同じ工程にたまった行数=出現頻度で順位を付けます。さらに2軸で優先度を付けます。頻度(毎日/週2〜3回/週1回)と、ダメージ(やり直しが発生する/単に時間がかかる)です。「毎日×やり直しが発生」の箇所を最初の3日で潰します。私なら「業界名が空欄のまま提案書が出る」です。空欄の提案書を客先に出しかねないのは、遅さとは次元が違う事故です。

2週間で直すのは合計6箇所で十分です。15箇所直すと検証が追いつかず、完成度では6箇所束ねたほうが上になります。

直し方は3種類しかない

足す。 指示に条件を1行足します。上の表の【要確認】ルールがこれです。

引く。 長すぎる指示を削ります。私の商談準備の要約指示は、前提説明込みで14行ありました。読むだけで1分かかります。これを「過去3回の商談ログを3行で要約。決定事項と未回答の質問だけを残す」の3行に削りました。指示が長いほど出力も長くなるので、出力のむだも一緒に消えます。

並べ替える。 手順の順番を変えます。毎朝必ずやるリスト更新を起動の1番目に固定し、考えることを減らします。

コピーしてそのまま使える形で、提案書の末尾に付ける制約を書いておきます。本体は仕組みごとに違いますが、この制約部分はほぼこの形で使い回せます。

以下の制約で文章を作ってください。
- ですます調、1文は40字以内
- 見出しは体言止め
- 金額・日付・人数は、私が渡す表の値だけを使う。自分で作らない
- 渡された情報に欠けがあるときは、空欄にせず【要確認】と書く

営業の方向けに言い直すと、これは「命令書ではなく、注意書きの付箋」です。中身を読み解く必要はありません。4行目の【要確認】だけ覚えておけば、成果物に【要確認】が出てきたとき「入力漏れだ」と分かります。それで十分に使いこなせます。

1日1箇所に制限する理由

1箇所直したら、翌日は必ずその工程を通し、工数ログの所要時間を見ます。「直す前は17分、直した後は9分」。この1組が取れて初めて、直しが効いたと言えます。6箇所を一気に直したくなる日は必ず来ますが、2週間の目的は速く終わらせることではなく、渡した相手が初日に引っかからない状態を作ることです。

検算 — 直し6箇所で、数字はこう動いた

この制約1行を足した結果、私の提案書のやり直しは週3回から0回になりました。やり直し1回は20分です。週60分、月4時間。時間単価5,000円なら月2万円です。比較レポートの事務工数の行に、そのまま1行分が生える計算です。

朝の起動も速くなりました。1週目は「今日はどの工程から始めるか」「件名は3案のどれにするか」「要約はどこまで読み込むか」の3つで迷っていました。2週目の終わりには、起動順は「リスト更新→アポメール→昨日のログ」に固定。件名は「企業名+用件+日付」の1型に固定。要約は3行制約で物理的に長くなりません。迷いが消えた結果、ログインから最初のアウトプットまでが、1週目の平均17分から9分に縮みました。

差は8分です。地味ですが、週5日で40分、月に換算すると2.7時間。勘違いしてほしくないのは、最適化とは「良い選択肢を増やすこと」ではない、ということです。選択肢が増えるほど朝の判断は重くなり、判断が重い仕組みは3週間で使われなくなります。2週目に直すときも「これは選択肢を増やす直しか、減らす直しか」を基準にしてください。件名を3案から5案にする直しは、たいてい逆効果です。

2週間を終えた日の合格判定 — 5項目

判定は感覚ではなく、ログと記録で行います。

  1. 起動から最初のアウトプットまで10分以内。 工数ログの最初の行で確認します。
  2. 引っかかりログの新規行が、直近7日で2行以下。 1週目の12〜15行と比べてください。
  3. 手順書を開かずに1日を回せた日が、直近5営業日のうち4日以上。 開いた日は工数ログに印を付けておきます。
  4. 工数ログが10営業日連続で欠けていない。 自分で2日欠ける人が、人に毎日書かせられません。実測の生命線です。
  5. 削減時間の合計が、最初の想定(週4時間)を下回っていない。 下回っていたら、直す優先順位がズレています。

5項目ともクリアで「渡せる」です。1つでも落ちたら2週目を1週間だけ延長します。延長は1回まで、と今日のうちに決めておきます。終わりの決まっていない「様子を見ながら」は、3週目で怠けに転びます。判定日は今日、カレンダーに入れてください。

やってはいけない3つ

2日で完成宣言する。 触り始めの2日は、新しい道具はどれも気持ちよく回ります。引っかかりはたいてい5営業日目あたりから出ます。案件が詰まった金曜の夕方、時間がない中で回したときに本当の粗が顔を出します。

品質を丸投げする。 最適化に気を取られて、事実確認まで任せっきりにするパターンです。私はフォローメールを全部生成に任せていた時期、案件名の1文字が違うまま送りかけました。それ以来、線を引いています。「事実は自分、文体はAI」。案件名、金額、日付、次回の予定の4点は、送る前に必ず自分の目で確認します。

15箇所一気に直す。 検証が追いつかず、効いていない直しが混ざります。速さを作るのは直しの数ではなく、直しと検証の往復です。

まとめ

  • 1週目は直さない。引っかかりを1行で書くだけ。行数が観察の精度です
  • 2週目は出現頻度とダメージで順位を付け、1日1箇所。直し方は「足す・引く・並べ替える」の3種類しかない
  • 判定は5項目のログで。クリアしたら仕組みは「渡せる」状態です

次回は、この2週間で育てたプロンプトを「個人の持ち物」から「チームの備品」に変える、共有プロンプト集の作り方を書きます。


この連載の続きは、はてなブログでも毎日書いています。

この記事の元になった書籍では、この2週間の進め方(引っかかりログの様式、直し方の判断基準、合格判定の5項目)を、プロンプト集の共有や導入の壁への対処と並んで通しで扱っています。

📗 営業の仕事をAIに任せろ — 見込み客リストから提案書まで、1人で回す営業自動化(Kindle・読み放題対象)

書籍の内容と読者特典については、https://takuma.yuenreach.com にまとめています。

営業×AI実践シリーズ 全3作

Kindle Unlimited 読み放題対象 — 追加料金なしで読めます

← 記事一覧へ

← 良い顧客の条件を書く前に、会わなくていい会社を決…Notion APIのレート制限で詰まった話 —… →