見積もりと実測の差を読む — 削減が止まった工程の直し方と任せ方の格下げ
前回は、週10時間の削減を順番で作る移行設計を書きました(週10時間の削減を順番で作る)。見積もり列どおりに4週間の移行が済んだら、次は「本当に減ったか」を測る番です。
ここで必ず出るのが、この質問です。
見積もりは週5時間と言ったのに、実測は週2時間しか減っていない。この差は、どこを読めばいいのか。
今回は、工程ごとの見積もりと実測の差の読み方と、削減が止まってしまった工程の直し方を書きます。差は「失敗の証拠」ではなく、移行を軌道修正するための信号です。読み方を決めておけば、1か月目の見直しは1時間で終わります。
実測列は「移行順表の同じ行に」足す
前回の移行順表(工程・任せ方・週あたり合計・削減見込み)に、1列足すだけです。
| 工程 | 任せ方 | 削減見込み | 実測(4週平均) | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 商談メモの整形 | 全文 | 105分 | 95分 | −10分 |
| 社内日次の進捗報告 | 全文 | 35分 | 30分 | −5分 |
| 提案書の構成案 | 部品 | 56分 | 20分 | −36分 |
| 初回メールの本文 | 手 | 42分 | 0分 | −42分 |
実測を集めるとき、3つの約束を守ります。
- 移行後の4週間だけを数える — 移行前の数字と混ぜない。移行した週から数える
- 記録から拾う — ヒアリングでは都合のいい数字が出る。「だいたい減った」は数値にならない
- 4週平均にする — 良い週と悪い週を平均して1列にする。1週間だけだと、その週の繁忙がノイズになる
記録の仕組みがまだないチームは、先に効果測定は3指標で回すで設計した「終業時3行メモ」を1週間回してから、この表に取りかかってください。実測列の集計は、その記録の使い回しで済みます。
差の3パターン — まず分類、それから処方
差は大きさそのものより、パターンで読みます。全工程を次の3つに振り分けます。
- パターンA(差が小さい) — 見込みの±30%以内。見積もりの誤差の範囲。放置してよい
- パターンB(実測が見込みを超える) — 予想以上に減っている。任せ方の格上げ候補。ただし品質が保てているかを確認してから
- パターンC(実測が見込みの30%未満) — 削減が止まっている停滞工程。直しの対象
重要なのは、パターンAをいじらないことです。±30%の差を全部潰そうとすると、表の保守に時間を食われ、台帳が回らなくなります。差の管理は「3割を切った工程だけ」と割り切ります。
パターンCの直し方 — 停滞工程の3容疑
削減が止まった工程には、たいてい次の3つの原因のどれかがあります。この順に疑います。
容疑1: 任せ方が名ばかり
「全文のはずが、AIの出力を毎回全部書き直している」。設定上はAI任せでも、実態では人が書いている状態です。
- 診断: その工程の1回を実際に観察して、出力のどの行を書き換えたか数える。書き換えが半分を超えるなら「全文」の設定が誤り
- 処方: 「全文→部品」に格下げし、書き換えが起きる行だけをAIに任せる形に変える
容疑2: 手順書が雑
手順のどこか1ステップで毎回詰まっている。詰まるたびに手が止まり、削減が相殺されます。
- 診断: 該当ステップを本人に聞く。聞けないなら、手順書を別のメンバーに渡してやってもらう——詰まる場所がそのまま出ます
- 処方: 該当ステップにだけ例を1つ足す。手順書全体を書き直さない
容疑3: そもそも回数が減った
工程自体の発生回数が、見積もりを計算した週より減っています。移行は成功しています。
- 診断: 回数列を見る。見積もりの計算に使った週の回数と比べる
- 処方: 見積もり列を更新するだけ。移行の失敗ではない
3容疑のうち、容疑3は「何もしなくていい」、容疑2は「15分の直し」、容疑1は「任せ方の再設計で2時間」です。安い容疑から疑うのが直しの順序です。
プロンプト本体 — 差の分析と処方の1発作成
移行順表に実測列を足したものを渡すと、パターン分類と処方まで出すプロンプトです。
あなたは中小企業の営業チームのAI導入アドバイザーです。
私が貼る表から、工程ごとの見積もりと実測の差を分析し、処方を出してください。
# 分類ルール
- 差が削減見込みの±30%以内 → パターンA「放置」
- 実測が見込みを超過 → パターンB「格上げ候補」
- 実測が見込みの30%未満 → パターンC「停滞」
# パターンCの処方の優先順
1. 発生回数が見積もり時より減っていれば「見積もり更新」(移行は成功)
2. 手順書の特定ステップで毎回詰まるなら「手順書への例追加」
3. それ以外は「任せ方の格下げ」(全文→部品、部品→手)
# 出力形式
| 工程 | パターン | 差(分/週) | 処方 | 処置の所要時間 |
表のあとに以下を添える
1. 直す順番(差の大きい工程から。ただし手順書の直しを先にまとめて実行)
2. パターンBの格上げは、品質確認の方法をセットで提案
3. 4週後に再実測すべき工程と、その理由
# 表
(工程・任せ方・回数/週・削減見込み・実測4週平均を貼る)
出力サンプル(ダミー案件)
冒頭の4工程表を入れたときの返りのイメージです。
| 工程 | パターン | 差(分/週) | 処方 | 処置の所要時間 |
|---|---|---|---|---|
| 商談メモの整形 | A | −10分 | 放置 | 0分 |
| 社内日次の進捗報告 | A | −5分 | 放置 | 0分 |
| 提案書の構成案 | C | −36分 | 手順書「証拠貼り付け」ステップへ例追加 | 15分 |
| 初回メールの本文 | C | −42分 | 手→部品へ格下げ(冒頭文だけAIに) | 120分 |
- 直す順番: 構成案の手順書(15分)を先に。メールの格下げ(120分)はその週の後半に回す
- 構成案の停滞は、手順書の「証拠貼り付け」ステップで毎回詰まっていたため。例を1つ足せば見込み56分に戻る可能性が高い
- メールの実測0分は「手」の任せ方で案出しだけ減る設計だったのに、メンバーがAI出力を信用せず全部手で書いていたことが観察で判明。冒頭文だけをAIに書かせる「部品」に変える
検算 — 差の8割は手順書
1か月の実測差の原因を分類すると、たいてい8割は「手順書」に帰着します。任せ方の設計ミスは残り2割です。したがって差を見つけたら、まず手順書を疑うのが順序です。
直し終わったら、4週後に同じ表をもう1回作ります。見直すのは処方を打った工程だけ。差が±30%に入れば完了、入らなければ容疑1(任せ方の名ばかり)へ進みます。2回直しても戻らない工程は、いったん手に戻して、移行候補から外すのが正解です。無理に任せ続けると、その工程だけ不信が残ります。
所要時間の正体
差の分析は工程数15前後なら60分です(表を作る40分+処方を読む20分)。実測列のもとになる4週間の記録は、効果測定3指標の回で設計した終業時3行メモがそのまま使えるため、追加の固定費は0分。この60分は「移行をやり直す時間」ではなく、「4週間の積み上げを壊さない点検」の固定費です。点検を飛ばすと、停滞工程がそのまま2か月目以降も残り、週10時間の設計が静かに崩れます。
まとめ
- 実測列は移行後4週平均。記録から拾い、ヒアリングで拾わない
- 差は±30%以内なら放置。まず分類、それから処方
- 停滞の3容疑: 名ばかり任せ方→格下げ / 雑な手順書→例追加 / 回数減→見積もり更新
- 安い容疑から疑う。手順書は15分、再設計は2時間
- 2回直しても戻らない工程は手に戻す。不信を残すより安い
次回
差を直して見積もり通りに回り始めると、メンバーの週に数時間の余白ができます。次回は、この余白を守る設計を書きます。減った時間は放置すると雑務に吸われて元に戻るため、「何に使うか」を先に決めておく方法をまとめます。
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