速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
Zenn

週10時間の削減を順番で作る — 工程の移行順と最初の1週間の選び方

初出: Zenn

前回は、AIに任せていい工程の線を引く話を書きました(AIに任せていい工程の線を引く)。任せられる工程の3条件(入力・照合・ダメージ)が決まれば、任せ方は「全文/部品/手」に機械的に決まります。

次の質問は、ここから出ます。

じゃあ、どの工程から順に移していけば、早く時間が減りますか。

今回は、週10時間の削減目標に向けた移行の順番設計を書きます。「どれだけ減るか」の見積もり方と、最初の1週間で選ぶ工程の条件をまとめます。

「効果がありそうなものから」が失敗する理由

線が引けたチームが最初にやりがちなのが、派手な仕事から任せることです。提案書づくり、商談のシミュレーション、見込み客の分析——「これがAIでできたらすごい」と思える仕事です。

しかし削減される時間の総量は、こう決まります。

削減総量 = その工程の発生回数 × 1回あたりの所要時間

週1回の提案書づくりを40分から20分にしても、週20分しか減りません。毎日やっているリスト更新を15分から3分にすると、週60分減ります。地味な仕事のほうが、総量では勝ちます。「効果がありそうなものから」という順番は、削減の総量計算をすっ飛ばしているのです。

削減時間の見積もり方

前回の「任せ表」に、2列追加します。

工程 任せ方 回数/週 1回の時間 週あたり合計
見込み客リストの1次抽出 全文 1回 90分 90分
商談メモの整形 全文 10回 15分 150分
提案書の構成案 部品 4回 40分 160分
初回メールの本文 手 6回 20分 120分
日程調整の案内文 全文 8回 5分 40分
社内日次の進捗報告 全文 5回 10分 50分

回数は正確に数えてください。「だいたい毎日」ではなく「週10回」のように数値で。1回あたりの時間も、実際に計って1週間分の記録から拾います。記録がまだないチームは、まず1週間、各工程の終了時刻をメモに残すだけの週を1回入れてからで構いません。

見積もりの大事な点が1つあります。部品と手の工程は、削減時間を半分に数えること。部品は「出力を組み込む時間」が残り、手は「案出しの時間」しか減らないからです。全文の工程だけが、見積もりをそのまま削減に変えます。

移行順の2軸

見積もりが揃ったら、2軸で順番を決めます。

  • 縦軸: 削減総量(週あたり合計の大きいものが上)
  • 横軸: 移行コスト(手順の複雑さ。1週間で移行手順が書けるものが左)

右上(総量が大きく、コストが小さい)から順に移します。左上から順に1〜2個ずつ移すだけで、週2〜3時間がまず減るのが普通です。週10時間という数字は、こうして1週間の積み上げで作る数値です。一気に10時間を目指すと、移行手順が雑になり、品質の事故が起きて、全部手に戻る——導入の3つの壁の1つ目に逆戻りします。

最初の1週間で選ぶ工程の条件

1週目で選ぶ工程は、2つの条件を満たします。

  1. 週5回以上発生している(毎日近く回るので、効果を1週間で体感できる)
  2. 移行手順が30分で書ける(手順書1枚に収まらない工程は、2週目以降に回す)

1週目は「効果を実感する週」です。回数の多い工程ほど、1週間で削減を体感でき、回す意欲が保てます。逆に、1か月に1回の工程を最初に移すと、効果が出る前に疲れます。

プロンプト本体 — 移行順の1発作成

前回の任せ表(工程・3条件・任せ方)に時間を足して渡すと、削減総量を計算し、移行順まで出すプロンプトです。

あなたは中小企業の営業チームのAI導入アドバイザーです。
私が列挙する工程の表から、AIへの移行順を設計してください。

# 計算ルール
- 各工程の週あたり合計 = 回数/週 × 1回の時間
- 任せ方が「全文」の工程は、週あたり合計の70%を削減見込みとする
- 「部品」と「手」の工程は、週あたり合計の35%を削減見込みとする

# 移行順の基準
- 削減見込みの大きい順に並べる
- 同じ見込みなら、移行手順が30分で書けそうな工程を先にする
- 1週目の候補は「週5回以上発生」かつ「手順が30分で書ける」工程だけに絞る

# 出力形式
| 順位 | 工程 | 任せ方 | 週あたり合計 | 削減見込み | 何週目に移すか |
|---|---|---|---|---|---|
表のあとに以下を添える
1. 1週目で移す工程と、期待される週あたり削減時間の合計
2. 4週間全部を終えた時点の削減見込みの合計と、週10時間目標との差
3. 見込みが週1時間に満たない工程は「移さない」に分けて、その理由

# 工程の表
(前回の任せ表に「回数/週」と「1回の時間」を書き足したものを貼る)

出力サンプル(ダミー案件)

先ほどの6工程表を入れたときの返りのイメージです。

順位 工程 任せ方 週あたり合計 削減見込み 何週目
1 提案書の構成案 部品 160分 56分 2週目
2 商談メモの整形 全文 150分 105分 1週目
3 初回メールの本文 手 120分 42分 3週目以降
4 見込み客リストの1次抽出 全文 90分 63分 2週目
5 社内日次の進捗報告 全文 50分 35分 1週目
6 日程調整の案内文 全文 40分 28分 1週目
  • 1週目: 商談メモの整形+進捗報告+案内文で、週168分(約2.8時間)の見込み
  • 4週で全部を終えると週5時間。週10時間目標との差は5時間——差の分は、リスト抽出を週2回に増やすか、構成案を「部品」から「全文」に格上げするかで埋める

ここで注目すべきは、提案書の構成案が「総量1位なのに1週目ではない」点です。部品任せなので削減率が35%に落ち、1週目の条件(30分で手順が書ける)から外れる。総量1位を最初に据えるのが正解ではなく、総量×移行コストの積み上げが正解なのです。

検算

4週間の移行が終わったら、2つの数字を数えます。

  1. 実際の週あたり削減時間 — 移行した工程の「回数 × 1回の時間」を移行前後で比べる
  2. 見積もりとの差 — 差が3割を超えた工程は、任せ方の格上げ/格下げの見直し対象

差が大きく出る工程の大半は、移行手順が雑なまま1週目に入れてしまった工程です。順番を守らず先へ進んだサインなので、見つけたら1週だけ手順の作り直しに戻します。

所要時間の正体

見積もりと移行順の設計は、工程数15前後なら2時間で終わります。ただしその内の1時間は「1回あたりの時間を計る」ことに使います。以後は、新しい工程が増えたら2列を足すだけで順番は保てます。この2時間は「週10時間を1発で作る数字」ではなく、「毎週2〜3時間を確実に積み上げる台帳」の固定費です。

まとめ

  • 削減総量 = 回数 × 1回の時間。派手さで選ぶと総量計算に負ける
  • 部品と手は見積もりを半分に数える
  • 順番は「削減総量 × 移行コスト」の2軸で、1週目は週5回以上の工程から
  • 週10時間は一発ではなく、4週間の積み上げで作る

次回

順番どおりに移し終えたら、次は「本当に減ったか」を測る番です。次回は、1か月後の時点で削減効果をどう実測するかを書きます。見積もりと実測の差の読み方と、移行が停滞した工程の直し方をまとめます。


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