企業調査 — 1社30分を3分にする
前回(見込み客リストの収集)では、リスト作りの丸1日を2時間に圧縮する手順を紹介しました。リストができたら、次に待っているのが「この会社、どこまで調べてから会いに行くか」という問題です。この判断をサボると商談で痛い目に遭い、詰め込むと夜が消える。多くの営業は、この2つの間で揺れ続けます。
私自身、現場時代は「調べた気になるだけの30分」を毎回やっていました。検索で会社名を打ち、HPを眺め、決算資料のPDFを開いて、数字を追えずに閉じる。訪問の往復の電車の中で「昨日のニュース、見た?」と先方の担当者に聞かれて頭が真っ白になったこともあります。その程度の詰め込みでは、調査した意味がなかったのです。
今回は、その30分を3分にする指示文(プロンプト)と、調査メモの型をそのまま示します。AIに任せる前に、なぜ従来の調査が弱かったのかを、まず数字で確認します。納得のない自動化は3日で続かなくなるからです。
まず数える — 「読んだ気」が積み重なる構造
1社ぶんの商談前調査で、営業が実際にやっていることを工程ごとに数えてみます。
- 検索で会社の基本情報(設立・資本金・事業内容)を拾う: 6分
- 会社のHPの「社長メッセージ」と「事業紹介」を読む: 5分
- 決算公告や有価証券報告書のPDFを開いて、数字を確認する: 8分
- 採用ページで人材の動きと社風を確認する: 5分
- 直近のニュースやプレスリリースを探す: 6分
合計30分。50社のリストのうち商談に行くのが週に5社なら、週2.5時間・月にして10時間です。しかもこの30分の実態は「読み」ではなく「拾い」です。数字を追わずに眺めて、何か決定的な情報を見落としながら、調べたという事実だけが積み重なる。担当者に会ってみると、こっちは何も知らない。この構造は、誠実な営業ほど苦しくなります。まじめにやろうとするほど時間を消費し、時間を節約しようとすると手を抜いた顔を商談で晒す。どちらに転んでも負けです。
「調べた気」の正体 — 確認が漏れる理由
調査の目的を、多くの営業はこう言います。「相手を知ってから会うため」。ところが実際にやっているのは「相手についての情報を眺めること」です。この2つは別物です。
知ってから会うためには、次の4つが確認できていなければなりません。
- 数字: 規模と体質。従業員数・売上の推移・直近の変化
- 課題: 経営がいまお金と人をかけていること。採用・投資・提携の動き
- 決め方: 提案の決裁がどこで通るか。中小企業なら経営者本人のことが多い
- 入口: 初回の会話で切り出す話題。担当者がいま関心を持っている事実
この4つが埋まらない調査は、どれだけ時間をかけても「読んだ気」のままです。逆に、この4つさえ埋まれば、30分かける必要はない。ここを人間が頑張るのではなく、AIに「埋める係」を任せます。
調査メモの型 — 紙1枚・5つの箱
AIに埋めさせる先は、紙1枚のメモです。商談の直前、3分で読み切れる形にしておく必要があります。私が実際に使っている型は、5つの箱が並んだものです。
- 基本: 会社名/従業員数/売上規模/設立/本社
- 事業: ここ1年で力を入れている事業と、それ以外に読み取れる経営の姿勢
- 課題: 採用・設備・提携・訴訟等、外部から見える変化の事実
- 決め方: 想定される窓口と決裁者
- 入口: 商談の冒頭で切り出す話題
5つ目が、調査メモと「読んだ気」を分ける最重要の箱です。調査の終着点はメモ欄ではなく、商談の最初の1分です。「御社の〇〇という取り組み、採用ページで拝見しました」と最初の1分で言えた時に、調査は初めて仕事になります。信頼の第一歩は、相手の時間を奪わないことから始まるのです。
AIに渡す指示文 — 空欄を埋めるだけ
では、この5つの箱を3分で埋める指示文を示します。以下をそのままコピーして、[ ]の空欄に社名と条件を入れて使ってください。
あなたは商談前の企業調査担当です。
以下の会社について、公開情報だけを使って調査メモを作ってください。
会社名: [ ]
商談の目的: [ ]
相手企業の規模感(例: 従業員100〜500人の製造業): [ ]
メモは次の5つの箱で出力してください。
1. 基本: 従業員数/売上規模/設立/本社所在地
2. 事業: 直近1年で力を入れている事業
3. 課題: 採用・設備・提携等、外部から見える変化の事実
4. 決め方: 想定される窓口と決裁者
5. 入口: 初回商談の冒頭で切り出す話題
制約:
- 各箱は3行以内
- 数字と事実には出典(ページ名かURL)を付ける
- 出典の確認できなかった欄は「確認できず」と書く
- 私はこのメモを商談3分前に読みます。読み切れる分量で
ポイントは制約の4行です。出典を強制するのは、AIが「たぶんこうだろう」と思い込みを書くのを防ぐためです。営業の調査で最も危険なのは、間違った事実を自信を持って商談で口にすることです。数字が間違っていた場合、先方との信頼はゼロからやり直しになります。出典が付いていない行は、私が自分の目で確認するか、思い切って捨てる。この線を引くことで、AIの調査は「速いが怪しい」から「速くて使える」に変わります。
商談の冒頭で効く — 入口の箱の使い方
5番の「入口」の箱は、AI任せにせず自分で仕上げます。AIが挙げてくれた候補の中から、商談の目的に合わせて1つを選ぶのです。
たとえばシフト管理のクラウドを売る場面なら、相手が直近で未経験可の採用を3件出していれば、入口は「採用を急いでいらっしゃるようですが、定着の面ではどのようなお考えですか」です。シフト管理の提案は、人手不足という相手の悩みの出口にしかなりません。入口の1分で相手が「この人はうちの事情をわかっている」と感じた時、その後の説明は半分の時間で済みます。
情報の取り扱い — 公開情報の線を越えない
前回と同じく、線の確認です。決算公告・登記・採用ページ・プレスリリースは、会社が自ら公開している情報です。AIに読ませる分には何の問題もありません。一方で、SNSで特定の従業員の投稿を追いかけたり、辞令的人事情のうわさを集めたりするのは、調査ではなく詮索です。公開情報で商談の入口を作れる。これが3分調査の到達点です。
今日やること
- 5つの箱のメモを1枚、手元に用意する(5分)
- 指示文の空欄を埋めて、次の商談先で試す(3分)
- 入口の箱を、商談の目的に合わせて自分で1つ選ぶ(2分)
- 商談後に、入口で切り出した1分の結果をメモに1行で書く(2分)
次回から
次回、第5回は「提案書を『書く』から『直す』へ — AI初稿活用の型」です。調査メモと商談の内容を元に、AIに提案書の初稿を書かせて、人間が直す工程で品質を担保する型を紹介します。私が現場時代に毎晩23時まで書いていた提案書が、なぜ「直し」に変えると速くなるのか、失敗例と一緒に説明します。
この連載は書籍『営業の仕事をAIに任せろ — 見込み客リストから提案書まで、1人で回す営業自動化』(Kindle発売中)の内容をもとに、加筆して公開します。
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