提案書を「書く」から「直す」へ — AI初稿活用の型
前回(企業調査 — 1社30分を3分にする)では、商談前調査を3分で終わらせる指示文と調査メモの型を紹介しました。調査で集めたメモと商談で聞いた話は、次に「提案書」という形に変わります。そしてこの提案書づくりで、多くの営業は夜を消します。
私も現場時代は、提案書が溜まっている週は毎晩23時まで書いていました。正確に言うと、書くのが遅いのではありません。書き直すのが遅いのです。構成を変え、書き出しを変え、翌日読み返しては気に入らず全部を直す。1本に3時間かかった月もありました。
今回は、この3時間を「直す30分」に変える型を紹介します。AIに初稿を書かせて、人間は決まった4か所だけを直す。AIに任せる前に、まず3時間の内訳を数字で確認します。納得のない自動化は3日で続かなくなるからです。
まず数える — 提案書1本3時間の内訳
提案書の下書き1本あたり、営業が実際に使っている時間を工程ごとに数えてみます。
- 構成を考える(どの順で何を書くか): 30分
- 自社紹介・実績・価格表を写す: 30分
- 相手の課題を文章にする: 40分
- 費用の内訳と回収の計算を整理する: 30分
- 推敲する(読み返しては直す): 50分
合計3時間。週に1本なら月12時間、2本なら月24時間です。しかも2の「自社紹介・実績・価格表」は、案件が変わってもほぼ同じ内容を毎回書き直しています。案件ごとに本当に変わるのは、3と4の部分だけです。
つまり提案書の7割は「毎回同じ」で、3割だけが「その案件だけの内容」。この7割を含めて毎回ゼロから書き直しているのが、3時間の正体です。遅いのはタイピングではなく、同じものを繰り返し書く構造の方なのです。
「上手く書こう」とするほど遅くなる
「書く」が遅くなる理由は、もう一つあります。営業は推敲に時間を使いすぎます。私がまさにそうでした。書き出しの一文に30分かける。翌日読み返して気に入らず、全体を直す。提案書は「文章の出来」で評価されると信じていたからです。
ところが、先方の決裁者はそう読みません。決裁者が読むのは、冒頭の結論(いくらで、いつ、何を決めるか)と、外れた場合の条件。文章の上手さで提案書を評価する読み手は、ほぼいません。それなのに私たちは、上手さのために推敲を続ける。ここが「書く」の2番目の時間の穴です。
AIに初稿を書かせると、この穴が塞がります。文章の組み立てをAIが始めてくれるので、人間は「書く」場所から「直す」場所に立つことができます。ただし直し方を間違えると、また3時間に戻ります。
直すのは4か所だけ — 直していい場所の型
AIの初稿は「もっともらしいが、ところどころ間違った完成品」です。ここから人間が直すのは、次の4か所だけと決めています。
- 1枚目の結論 — 金額・開始時期・決めること。AIは数字を滑らかな文章に乗せてきます。合っているかを最初に確かめます
- 2枚目の事実 — 相手の現状を書く行。出所がついているか。商談メモの原話と一致しているか
- 5枚目の計算 — 回収期間の割り算。AIは文章が上手くて、計算が下手です。電卓で打ち直します
- 6枚目の条件 — 外れた場合の扱い。案外、AIがいちばん雑に書く行です。効果が出なかった時の話があるか
この4か所を選ぶ理由は単純です。決裁者が読む場所だから。前回の調査メモの5つの箱と同じ発想で、「読み手が見る場所」だけを人間が押さえます。
そして、この4か所以外の文章は直しません。「もっと良い表現はないか」と推敲を始めた瞬間、仕事は「直す」から「書く」に戻るからです。私はここを守るために、直しは最初の30分だけと決めています。時間を切ると、人間は自然と4か所の確認を優先します。
AIに渡す指示文 — 初稿を直させる型
では、初稿を書かせた後の「直し」をAIに任せる指示文を示します。以下をそのままコピーして、[ ]の空欄に案件の情報を入れて、初稿と一緒に送って使ってください。
あなたは法人営業の提案書レビュー担当です。
下に貼った提案書の初稿を、「正しい情報」に照合して直してください。
# 正しい情報
- 金額: [ ]
- 開始時期: [ ]
- 相手の現状の事実(出所つきで3行まで): [ ]
- 効果の元数字(削減前/導入後の見込み/換算の単価): [ ]
# 直し方
1. 初稿の数字を「正しい情報」だけに置き換える
2. 出所が付けられない事実は削除する
3. 計算は使った数字と計算式をそのまま文字で書く
4. 「革新的」「劇的」等の形容詞を削除する
5. 直した箇所は変更前と変更後を行で並べて見せる
# 絶対ルール
- 「正しい情報」にない数字は一切書かない
- 書かれていない事実を推測で足さない
- 文章の言い回しは直さない(私が判断します)
最後の「文章の言い回しは直さない」が、この指示文の肝です。AIは頼まなくても文章を整えてきます。それを任せると、直すべき数字の見通しが悪くなり、確認が二度手間になります。AIには事実と数字の整合だけを任せる。言い回しの判断は、4か所の確認を終えた後で、必要なら自分で行います。
なお、初稿そのものを書かせる3層構造の指示文は、私の書籍の第5章に全掲載しています。この記事はその先の「直す」工程の話です。
実戦 — 私の失敗2つ
この型に行き着く前に、私は2回大きな失敗をしました。
1回目は、AIの初稿をほぼそのまま出したことです。「生産性が大幅に向上します」という一文が入っていて、根拠の数字はどこにもありませんでした。先方の担当者に「この大幅は、どういう数字ですか」と聞かれて、その場で作り話をするわけにはいかず、「追ってお送りします」と言って持ち帰りました。提案書の信用は、その1点でほぼゼロになります。
2回目は、4か所を確認せずに推敲だけしたことです。文章は明らかに上手くなっていました。ところが5枚目の回収期間が「約2ヶ月」のはずが「約2年」になっていたのです。AIが計算を間違えたまま、文章だけが滑らかだった。電卓で打てば10秒で分かる間違いですが、推敲に夢中だった私は見落としました。以来、「推敲の前に電卓」を自分のルールにしています。
情報の取り扱い — 守秘の線を越えない
提案書づくりでAIを使う時、前回までと違う注意点が1つあります。相手の会社の情報を入力するときは、調査メモより慎重になるということです。
公開情報(決算・HP・ニュース)と商談で聞いた話は、社外秘の見積情報と分けて扱います。AIへの入力は、公開情報と「事実として確認できた相手の原話」に限るのが安全です。まだ確定していない見積の金額や、先方が「社内だけで」と言っていた情報は、入れません。初稿は、AIに渡した情報の水準でしか書けません。穴があれば、それは自分の商談メモで埋める。この順序を守ると、守秘の線を越えずに済みます。
今日やること
- 直しの4か所を、手元の提案書フォーマットに書き込む(10分)— 次に作る提案書の欄外に「①結論②事実③計算④条件」と控えを書くだけです
- 過去の案件の提案書で、直しの指示文を1回試す(30分)— 実案件でなくて構いません。初稿を出させて、直すまでを通します
- 5枚目の計算を電卓で打ち直す(10分)— 推敲の前に必ず
- 直しにかけた時間を1行メモする(2分)— 「書く3時間」から「直す何分」に変わったか。次の自分が読む記録です
次回から
次回、第6回は「フォローアップ — 『続かない』を仕組みで潰す」です。提案書を出して終わりでは、営業は前に進みません。相手の都合で止まった案件を、忘れず・しつこくならずに動かし続ける仕組みを、書籍4領域の最後の領域として紹介します。
この連載は書籍『営業の仕事をAIに任せろ — 見込み客リストから提案書まで、1人で回す営業自動化』(Kindle発売中)の内容をもとに、加筆して公開します。
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