速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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集めたリストのその先 — どこからアプローチするかを数字で決める

第8回(私の自動化ログ)で4領域の道具が揃い、第8回末尾で予告したとおり、今回からこの連載はもう一段深いところに入ります。題材は第3回(見込み客リストの収集)の続きです。第3回では、リストを集める時間を丸1日から2時間にする話を書きました。今回は、集まったリストを「どの会社から当たるか」の話です。第8回では50社の例で予告しましたが、50社でも2,000社でも、決めることは同じです。

リストが2,000社集まったとします。この2,000社は、並べてみると等しく重要そうに見えます。しかし実際に当たる確率は、条件が揃った会社とそうでない会社とで3倍以上違う。営業を15年やってきて、順番を「なんとなく良さそうな会社から」で決めていた時期が私にもありました。美徳のまま上から順番に当たっていると、確率の高い200社に触れる前に月末が来ます。今回は、順番を勘でなく点数で決めるやり方を書きます。

まず数える — 「順番がないリスト」で失うもの

順番を決めていないリストには、3つの汚れが混ざっています。

  1. 同じ会社が複数回入っている — 会員名簿の企業は展示会にも出るのが普通で、複数の情報源は同じ業界を眺めている
  2. 社名の表記がばらばらである — 「株式会社エービーシー」と「ABC株式会社」が同じ会社だと気づかないまま、同じ会社に同じ週に同じ文面が届く
  3. どこから当たるかの順番が付いていない — 2,000社が等しい重みで並んでいる

1と2は「整理」で直せます。表記を揃えて重複を数えるだけの単純作業なので、AIに丸投げできます(手順は書籍第3章に書きました)。書籍の実行例では、1,248社のリストに97社の重複がありました。整理を送信より先にやる理由は、重複の代償が確率ではなく信用だからです。御社を調べましたという一文が2通目で露見したとき、先方に起きるのは怒りではなく「無視」です。商談化率の統計に決して現れない損失です。

3だけは、整理では解決しません。順番は、点数で決めるしかない。今回はこの3つ目が中心です。

点数の元は「受注の共通点」 — 勘を記録に置き換える

順番を決めるときにやりがちなのは、「今月いい感じだった業界から」「名前を知っている会社から」といった勘です。勘が全部間違いだとは言いません。ただ勘には2つの弱さがあります。

  1. 根拠が残らない — なぜこの会社を優先したのか、1ヶ月後に自分でも説明できない。結果が出なかったとき、どこを直せばいいか分からない
  2. 人によって違う — 2人でリストを分けると優先順位が人ごとにばらける。同じリストなのに打ち方が違う

直し方は、過去の受注記録に共通点を数えることです。受注10件のうち7件以上に共通していた会社側の条件(業種・規模・地域など)は「必須」、4〜5件に共通した条件は「優先」。この1行を決めるのが、採点の前の人間の仕事です。

配点表をつくる — 人間が決めるのは3つだけ

配点表とは、条件表を点数に翻訳したものです。書籍第3章では、次の形にしています。

  1. 必須条件(3個) — 各20点。受注の7割に共通した条件
  2. 優先条件(2個) — 各10点。4〜5割に共通した条件
  3. 動き加点(最大20点) — 直近3ヶ月以内の求人掲載で10点、直近6ヶ月以内の拠点新設・事業拡大のプレスリリースで10点

満点は100点です。20対10という重さの根拠は共通率の差だけで、それ以上のものはありません。5件にしか共通しない条件を20点にすると、外れのAランクが増えます。重みの根拠を自分の言葉で説明できない配点表は作らない。 これが鉄則です。

ランクの線は3本引きます。

  1. A(70点以上) — 条件に完全一致し、なお動いている
  2. B(40〜69点) — かたちは合っているが、動いていないか、一致が1個欠ける
  3. C(39点以下) — 必須が2個未満。当たらない

もう1つ、点数の罠を書きます。「不明」を0点にしないこと。 従業員数を調べたのに確定しなかった会社と、そもそも調べていない会社を同じ0点にすると、調べた側が不当にCへ落ちます。必須条件に「不明」がある会社は、点数が70点を超えていてもBに置く。この1行の判断が、採点の品質を決めます。

AIに渡す指示文 — 受注記録から条件の案を出させる

配点表の元になる「受注の共通点」も、10件の記録を目で見比べて探す必要はありません。受注記録(商談メモで構いません)をAIに渡して、案を出させます。

あなたは営業リストの配点表づくりの補助です。過去の受注記録から、アプローチすべき会社の条件を抽出してください。

対象: 過去[ ]件の受注記録(商談メモ・議事録の貼り付けで構いません)

手順:
1. 受注に共通して見えた「会社側の条件」を最大5つ挙げる
2. それぞれの条件に「受注何件に共通したか」を数える
3. 受注の7割以上に共通した条件は「必須候補」、4〜5割の条件は「優先候補」に分ける

出力は「条件名、共通した受注件数、根拠にした記録の日付」の3列で。
記録に書かれていない条件を作らないでください。推測の条件は挙げないこと。

---
(ここに過去の受注記録を貼る)

肝は「根拠にした記録の日付」を出させる1行です。AIは受注の雰囲気から、それっぽい条件を作るのが得意です。日付を出させることで、後から「この条件はあの受注から出した」と検算できます。AIの案はそのまま使いません。各条件を1件ずつ受注記録と突き合わせてから採用し、必須3個・優先2個に絞り込む判断は人が持つ。ここまでが、配点表づくりの人間の仕事です。

実戦 — Aランクは「通過率」で回す

採点が終わると、リストはA/B/Cに分かれます。書籍第3章では、運用は3行にまとまっています。

  1. A — 今月中に全社へ初回メールを送る。1社も残さない
  2. B — 来月以降の在庫。「不明」だけ調べて再採点する
  3. C — アーカイブ。送らない

見る数字は1つです。Aランクの通過率(送ってから商談になるまで)。スコアなしのリストで通過率が10%(200社のうち20社)だったのなら、Aランクには最低でも15%を要求します。1.5倍です。

下回ったとき、直すべきは担当の頑張りではなく配点表です。原因の多くは動き加点の誤検出で、AIは求人サイトの古いキャッシュを掴んで「直近3ヶ月の求人」と誤判定しがちです。直し方は単純で、Aランクから10社を選んで根拠にしたURLを開くだけ。10社中3社以上で根拠が実在しなければ、動き加分は採点し直しです。

第8回に書いた「判断の起点が、記憶から記録に移った」という変化は、配点表でも同じことが起きます。今月どの会社に当たるかを思い出して決めるのではなく、点数の並びを見て決める。勘を捨てるのではなく、勘の中で検算できた部分だけを点数に残す。この順序の逆転が、リストの質を変えます。

情報の取り扱い — 採点の材料は公開情報だけ

採点に使ってよい材料は、会社のウェブサイト・求人票・プレスリリース・登記といった公開情報です。動き加点の「求人」と「プレス」も、先方が自社サイトに掲載したものだけを数えます。担当者の個人の連絡先、他社から受けた見積の内容、社内でだけ共有されている情報は、AIに渡す材料にしません。第5回・第7回と同じ線です。点数を付ける前に、渡す材料の線を引く。これが採点の前提です。

今日やること

  1. 受注記録を10件、1つの場所に集める(10分) — 商談メモの貼り付けで構いません。手書きのメモもそのまま写します
  2. AIに共通点の案を出させる(10分) — 上の指示文に記録を貼り、出てきた案を1件ずつ記録と突き合わせます
  3. 配点表を書き出す(5分) — 必須3個・優先2個・動き加点2種。重みの根拠(共通率)を1行添えます
  4. Aランク10社の根拠URLを開く(15分) — 採点を頼んだ後に必ず10社の検査。動き加点の誤検出はここで見つかります

次回から

次回、第10回は「リストは在庫である — 毎月必要な社数を先に計算する」です。今月のAとBでリストが何ヶ月持つかを、集めに行く前に計算する話をします。


この連載は書籍『営業の仕事をAIに任せろ — 見込み客リストから提案書まで、1人で回す営業自動化』の内容をもとに、加筆して公開します。

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