リストは在庫である — 毎月必要な社数を先に計算する
第9回(リストの精査と順番を点数で決める)で、集めたリストを点数で並べ、Bランクを「来月以降の在庫」と書きました。今回は、その「在庫」という言葉を正面から扱います。第3回(見込み客リストの収集)では、リストを集める時間を丸1日から2時間にする話を書きました。しかし、どれだけ速く集められるようになっても、「毎月どれだけ集める必要があるのか」「今あるリストは何ヶ月持つのか」を計算していなければ、集め方は変わっても集める量は変わりません。必要数を知らないまま倉庫に仕入れを続けるのは、経営とは呼びません。今回は、集めに行く前にやる1行の計算の話をします。
まず前提を確かめる — リストは資産ではなく消耗品である
リストは、1回作れば終わりの書類ではありません。3つの理由で、毎月補給し続けないと枯れます。
- 送って終わりではない — 今月アプローチして返事が来なかった会社は、翌月すぐには使い回せません。冷却期間が要ります
- 行は静かに死ぬ — 4月の人事異動で担当者の欄は半年で古くなり、移転・社名変更・グループ再編で行そのものが動きます
- 死んだ行の送信は実害になる — 廃業した会社への送り続けは笑い話ではなく、送信ドメインの評価を下げます
つまりリストは在庫です。在庫なら、管理の最初の仕事は数えることです。「毎月どれだけ減るか」「今どれだけ持っているか」。この2つを計算して持っている営業は、私の見てきた範囲でもほとんどいません。
毎月の必要社数は、1行で出る
毎月の補給量は、次の1行で出ます。
受注目標(月◯件)× 1件の受注に必要な社数 = 毎月の必要社数
書籍の例で通します。受注目標が月2件、1件の受注に100社必要な通過率なら、2 × 100で毎月200社の新規が必要です。通過率が分からない人は、過去3ヶ月の送信数と受注数を並べて割り戻せば出ます。第9回で書いたAランクの通過率(10%だったら15%を要求する)が月ごとに取れていれば、その数字を使えばいい。
この計算をしたがらない理由は、単純です。答えが出るからです。1社ぶんのリスト作りに17分かかるとすれば、200社は約57時間。1ヶ月の実働の3割超がリスト作りに消える計算になります。数字と自分の持ち時間を比べた瞬間、「このままだと目標が達成できない」ことが確定します。確定したくないから、計算しない。しかし、確定して初めて対策の順番が決まります。ここは第2回(投資対効果で順番を決める)と同じ構図です。見ない数字は、無くなりません。
在庫の数え方 — リストが何ヶ月持つか
毎月の必要社数が決まったら、次は手元の在庫を数えます。第9回のA/B/Cで言えば、今月使うのはA、来月以降の在庫はBです。
(Aの残り社数 + Bの社数)÷ 毎月の必要社数 = リストが持つ月数
この式は、集めに行く前に通します。毎月200社必要なのに、AとBを合わせても60社しかなければ、月末の地獄はすでに確定しています。逆に、この式に条件を効かせると、「どの条件で集めれば何ヶ月持つか」を集める前に設計できます。
書籍の例で通します。関東の運送業を相手に、母数をさしあたり2万社と置きます。必須条件「従業員30〜300人」で6,000社。さらに「本店が東京・埼玉・千葉」で2,400社。毎月200社なら、2,400 ÷ 200 = 12。この条件で集めれば、リストは1年戦えます。
答えの読み方 — 3つのパターン
計算の答えは、3つに分けて読みます。
- 8ヶ月以上 — 合格です。四半期ごとの条件見直しに対して、2周分の余裕があります
- 3ヶ月未満 — 必須条件が1個強すぎます。必須を1個、優先に格下げして再計算します(第9回の配点表と同じ考え方です)
- 60ヶ月(5年分) — 条件が緩すぎます。優先を1個必須に格上げするか、必須の幅を狭めます。「誰にでも売れそう」なリストは、誰にも売れません
最後に、運用の規律を1つだけ。条件表を書き換えてよいのは、四半期の末日だけです。商談が不作だからと翌週に条件を変える営業がいますが、月200社のうち20社にしか当たっていなければ、失敗の原因は条件ではなく速度です。四半期末に、新しい条件で作ったリストの通過率を前の条件と比べ、良ければ差し替え、悪ければ戻す。比べられない条件表は、ただの好みの記録です。
AIに渡す指示文 — 在庫の棚卸しを数えさせる
在庫の棚卸しは、AIに数えさせれば数分です。リスト表(エクセル等の貼り付けで構いません)を渡します。
あなたは法人営業のリスト在庫管理の補助です。私が貼るリスト表から、次を数えてください。
対象: リスト全体(会社名・ランクの列を含む)
出力:
1. A・B・Cそれぞれの社数
2. AとBの合計社数
3. 毎月の必要社数[ ]で割った「リストが持つ月数」
4. Bのうち、評価欄に「不明」が1つでも含まれる社数
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(ここにリスト表を貼る)
肝は4番目です。第9回で「不明を0点にしない」と書きました。Bの中の「不明」は、調べればAに浮上するかもしれない半端な在庫です。何社あるか数えておかないと、「来月はリストが足りない」と慌てて集めに行った先で、足りない分が実はすでに手元にあった、ということが起きます。
数えるのはAIですが、読み取るのは人間です。3ヶ月未満なら必須の格下げ、60ヶ月なら格上げ。この判断は、第9回の配点表と同じく、人間の仕事です。
情報の取り扱い
在庫の計算に使うのは、リスト表の社数とランク、過去の送信・受注の件数だけです。第5回・第9回と同じ線で、AIに渡す材料は社内の記録と公開情報に限ります。
今日やること
- 毎月の必要社数を1行で計算する(5分) — 受注目標 × 1件に必要な社数。通過率が分からなければ過去3ヶ月の送信数と受注数から割り戻します
- AとBの社数を数え、在庫月数を出す(10分) — 上の指示文にリスト表を貼って、AIに数えさせます
- 答えを3つのパターンで読む(5分) — 3ヶ月未満なら必須の格下げ、60ヶ月なら格上げ。決めたら四半期末まで固定します
- 結果をリストの先頭に1行で書く(2分) — 「この条件表は◯年◯月時点で◯ヶ月分」。在庫は、見える場所に書いて初めて管理されます
次回から
次回、第11回は「母数を数える — 見込み客は業界に何社あるか」です。今日は母数を「さしあたり2万社」と見積もりで置きました。次回は、この見積もりをAIと実際に数える話をします。在庫計算の分母は、勘ではなく数字で決まります。
この連載は書籍『営業の仕事をAIに任せろ — 見込み客リストから提案書まで、1人で回す営業自動化』の内容をもとに、加筆して公開します。
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