速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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商談が終わったら、メモを放置しない — 商談後メモを議事録に変える型

商談を終えて駅へ向かう途中にメモ帳を開いたら、自分の字が読めなかった。営業をしている人なら、全員が通る道です。翌朝にはメモの半分が思い出せなくなり、3日後には8割が消えます。一緒に消えるのが約束です。「見積を来週送る」「デモの日程を調整する」「追加資料を送る」。案件が止まる原因の多くは、競合でも価格でもなく、こうした小さな約束を2週間放置したことにあります。

この記事では、商談メモをAIに渡して「お客様に送る議事録メール」と「自分用の宿題リスト」を1回で作る方法を紹介します。1件あたりの所要は10分。道具はチャット画面1つだけです。なお、この連載ではこれまでリストの集め方(第6回・フォローアップの仕組み化)や提案書を「書く」から「直す」へ(第5回)を扱ってきました。議事録は、この2つをつなぐ位置にある作業です。

議事録を送る商談は動き、送らない商談は忘れられる

議事録メールには3つの効用があります。

1つ目は、認識の食い違いを早い段階で潰せることです。「相違があればご指摘ください」と添えて送ると、「見積は税込みでお願いします」「デモは来月の第2週でお願いします」のような返事がその場で返ってきます。条件の食い違いは、契約段階で見つかれば致命傷です。議事録の段階なら、訂正メール1通で済みます。

2つ目は、お客様側にも「やること」があると認識してもらえることです。次回の日程を先方に調整してもらう案件なら、議事録にその1行があるだけで、相手のタスクとして動き始めます。

3つ目はスピードの印象です。商談当日に議事録が届く営業は、実は少数です。案件が接近戦に入ったとき、「この営業は動く」という印象の差になります。

そして、同じメモから自分用の宿題リストを1枚。議事録はお客様が読む文面なので、「見積の数字を誰に確認する」「上司の承認をいつ取る」といった社内のやることまでは書けません。外向けの議事録と内向けの宿題リスト。1つのメモから、この2枚を1回で出すのがこの記事の型です。

入力は「5項目メモ」に固定する

出力の質は、入力するメモでほぼ決まります。AIはメモにないことを、それらしく書きます。これを防ぐ一番手っ取り早い方法が、メモの形式を固定することです。商談中に手帳でもスマホでもいいので、次の5項目で取ってください。

  1. 日時・場所・参加者(肩書まで。「K部長」ではなく「K部長(製造部)」)
  2. 話したこと(順番はどうでもいい。思いついた順)
  3. 決まったこと
  4. 決まらなかったこと・持ち帰ったこと
  5. 約束(誰が、何を、いつまでに)

3〜5が商談中に空欄のまま終わっても構いません。空欄は「その項目を決めるために次回が要る」という意味なので、次回の議題にそのまま使えます。

文字数の目安は300〜800字です。録音して文字起こしした全記録をそのまま貼るやり方も世の中にはありますが、ここでは勧めません。理由は2つ。2,000字を超える原稿は検査に3分では足りず、全体が手書きより遅くなること。そして雑談まで拾って、議事録が読みにくくなることです。

「A社と話し。良い感じ。来週連絡」というメモからは何も出ません。どれだけ整えたプロンプトでも、出ないものは出ません。逆に、5項目が埋まっていれば、プロンプトは次の1本で十分です。

コピーして貼るだけのプロンプト

以下をそのままコピーして、チャット画面に貼ってください。中身を読む必要はありません。黒い箱のままで構いません。触るのは[ ]の4か所、自社商品・お客様の業種と規模・商談日・メモ本文です。1度動いたら「議事録」という名前でメモアプリに保存します。2件目からは、開いて貼るだけです。

あなたは法人営業の事務サポート担当です。以下の商談メモから、
成果物を2つ作ってください。

【成果物1:お客様宛ての議事録メール】
・件名:「Re: [商談日] 打ち合わせの件([自社名] [自分の姓])」
・本文の構成は次の通り。
  1. ごあいさつ(1行)
  2. 現状として確認したこと(箇条書き2〜4行)
  3. 決定事項(箇条書き)
  4. 継続して確認する事項(箇条書き)
  5. 次回の予定(未決なら「改めてご相談させていただきます」)
  6. 「認識に相違がございましたらご指摘ください」の1行
・丁寧な敬語で、全体を400字前後に。
・メモに書かれていない事実・効果は、一切書き加えないこと。

【成果物2:自分用の宿題リスト】
・次の4列の表で出すこと。
  宿題 / 相手 / 期日 / 具体的なやること
・メモ中の「送る」「確認する」「調整する」「持ち帰る」「話を聞く」を、
  すべて宿題として拾い上げること。
・期日がメモにないものは「要調整」と記入すること。

【入力情報】
・自社の商品:[例:クラウド型勤怠管理システム]
・お客様の業種と規模:[例:製造業、従業員300名]
・商談日:[例:10月17日(木)]
・商談メモ:
[ここに5項目メモを貼る]

出力サンプル:1つのメモから2枚が出る

入力するメモの例です。A社への勤怠管理システム商談という設定で読んでください。

1. 10月17日14:00〜15:00、A社応接室。S様(管理部)、K部長(製造部)
2. 現在はタイムカード。集計は人事の担当者がやっていて月3日かかる
   打刻漏れが毎月20名ほど出る
   K部長は現場の入力負荷が心配。打刻から修正までの流れを見たいと言っていた
   他社(B社)にも話を聞いている
3. 決まったこと:見積書を送る。次回はデモを見せる
4. 決まらなかったこと:料金(見積を出してから)。導入時期は
   来年4月希望だが、先方の上の承認待ち
5. 約束:見積書は来週金曜まで/デモ日程の候補は月末までに連絡

このメモから、議事録メールと宿題リストの2枚が一度に出ます。議事録メールは「本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございました」というごあいさつ1行に始まり、現状の確認事項・決定事項・継続して確認する事項・次回の予定が箇条書きで並び、「認識に相違がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです」の1行で締まる、400字前後の文面です。

宿題リストは4列の表です。見てほしいのは、この下の2行です。メモには「他社(B社)にも話を聞いている」「先方の上の承認待ち」としか書いていません。AIがこれを「競合の整理」「承認の状況確認」という宿題として拾ってきました。1人で回しているときにやりがちな「競合を気にするだけで何もしない」「承認待ちの案件をそのまま放置する」を、リストが先に見つけてくれます。

2枚を1回で出す理由もあります。別々に頼むと、議事録に書いた決定事項と自分の宿題がずれることがあります。1回で出せば、ずれようがありません。

宿題リストの運用に迷ったら、先に書いたフォローアップを仕組みで潰す話(第6回)と組み合わせてください。宿題リストをスケジューラに転記するところまでが、その回の仕組みの入り口です。

送信前の3点検査

出てきた原稿を、そのまま送ってはいけません。送信前に3点だけ検査します。所要3分です。

1つ目、日付と曜日です。AIは「月末」「来週」を具体的な日付に直したがりますが、曜日が1つずれることがあります。「10月31日(木)」とあれば、カレンダーで1秒だけ確認します。曜日の違う議事録を送ると、返信の1行目が日付の指摘で始まり、本題は2行目からになります。

2つ目、数字です。人数・金額・日数の桁です。メモの「20名」が「200名」になる事故は、目を通せば必ず見つかります。金額は円なのか万円なのか、単位まで確認します。

3つ目、固有名詞とマスク戻しです。社名・人名をA社・S様に置き換えて投入した場合は、出力後に本名へ戻します。ついでに商品名も見ます。AIは「勤怠管理システム」を「勤怠管理クラウド」のように勝手に言い換えることがあるので、正式名称に直します。

4つ目があります。「盛り」です。プロンプトに「書き加えるな」と指示しても、良い話に見せようとして「集計工数が大幅に削減される見込み」といった効果を足してくることがあります。見つけたら削ります。根拠を聞かれて即答できない効果は、書いた分だけ不利になります。

所要10分の内訳

手順と所要時間の内訳は次の通りです。

  • メモの清書(5項目に整える):3分
  • [ ]の4か所を直して投入・実行:1分
  • 出力2点の3点検査と修正:3分
  • マスク戻し・送信・宿題の転記:3分
  • 合計:10分

2件目からは清書が2分ほどに縮み、合計は8分前後になります。週4件の商談を回している人なら、議事録と宿題リストの整備に使う時間は週35分。月にして3時間弱です。

手で書いていた頃の私はこうでした。議事録メール1通に25〜40分。だから「大事な案件だけ」送る。つまり、送られなかった案件の約束は忘れ、忘れられた案件は静かに止まりました。全件から議事録と宿題リストを出せるようになると、案件の仕分け基準が「大事そうか」から「進んでいるか」に変わります。後者の方が正確です。この「進んでいるか」で仕分ける発想は、見込み客リストを点数で順番づける話(第9回)と同じ理屈です。

回し方のルールは3つ

ルール1:商談後30分以内に清書まで。 商談が終わったら30分以内に、メモを5項目形式に整えます。帰りの電車でスマホの音声入力に向かって話せば、清書の3分は1分に縮みます。このルールを破って翌日に回したメモは、記憶が戻らず、ほぼ書き直しになります。全体で一番の効き目がこのルールです。

ルール2:社名・人名はマスクして投入。 AIに貼る前に、社名・人名をA社・S様・K部長に置き換えます。出力後に本名へ戻すだけなので、手間はほぼ増えません。顧客情報を外部のAIに貼ってよいかは、会社によって規定が分かれます。最初に1回だけ、自社の規定を確認してください。マスクしておけば、多くの会社でこの運用は通ります。

ルール3:宿題リストは当日中にスケジューラへ。 出てきた宿題は、当日中に期日付きで自分のスケジューラやタスク管理に転記します。期日が来週の宿題にも、着手日として今日の1枠を入れておきます。リストだけ作って放置すると、「AIに任せた気」だけが残って、案件は動きません。宿題リストは、転記して初めて道具になります。

まとめ

  • 案件が止まる原因の多くは、小さな約束の放置にある
  • 商談メモは5項目形式で固定する。形式が固定されれば、AIのプロンプトは1本で足りる
  • 1つのメモから、議事録メール(外向け)と宿題リスト(内向け)の2枚を1回で出す
  • 送信前の3点検査(日付と曜日/数字の桁/マスク戻し)+「盛り」の削除を通してから送る
  • 商談後30分以内の清書が、全体で一番効くルール

次回は、議事録を送った後の話——お礼メールと提案書の下書きをAIに1回で作らせる型を扱います。


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