速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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初回メールは「3層」で書く — 「いい文章」より「返信の方法」を先に決める

私は営業15年目の速水拓真です。この連載では、リストを作り、精査し、調査して、いよいよ「送る」段階の話をしています。今回はいよいよ初回アプローチメールそのものの書き方です。

今までの連載で、見込み客リストを集め、点数を付けて順番を決め(第9回)、リストに書いておく情報を決め(第12回)、1社3分の調査カードで「冒頭の話題」まで揃えました。ここで多くの営業がつまずくのが、いざ書く段階です。「AIにメールを書かせれば速い」と材料だけ渡して「この人宛に初回メールを書いて」と一任する。それで出てくるのが、次のような文章です。

はじめまして。アークソフトの速水と申します。貴社のますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。私どもは創業以来20年、製造業の業務効率化を支援してまいりました。これまで1,000社を超える導入実績がございます。貴社のお役に立てるものと確信しておりますので、ぜひ一度お話を伺えれば幸いです。ご多忙のところ恐縮ですが、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

私の経験では、これに返信はほぼ来ません。しかもこの見本には、さらに怖い欠陥が隠れています。「1,000社」という数字は、材料として渡した覚えのない数字なのです。一任した出力には、それっぽい実績の埋め合わせが混ざります。先方が1回検索して事実でなければ、その会社との商談はそこで終わります。

敗因は3つ、すべて「構造」の問題

このメールのどこが悪いか。悪いのは文章力ではなく、3つの欠落です。

  1. 相手のことが一行も書かれていない。 冒頭から祈りと自社の話。読む側は「自分に関係ある情報」を探しながら読みます。3行探して見つからなければ捨てます。
  2. 自社の話が3文続いている。 創業何年・実績何社・支援しています。これは書いた側の都合で、相手が知りたいことではありません。
  3. 返信の方法が書かれていない。 「ご検討のほど」で閉じたメールは、先方に「何と返事をすればいいか」を考えさせて終わります。

原因はAIの性能ではなく、依頼の混ざりです。「メールを書く」という1つの指示の中に、性質の違う3つの仕事——相手を説明する、自社を説明する、依頼をする——が入っています。混ぜて投げると、道具は無難な部分から埋めていき、全体が薄くなる。

だから私は、初回メールを3つの層に分けて書いています。層の設計は次のとおりです。

  • 相手層 — 「自分宛だ」と思わせる。60字以内。入れるのは公開情報に根拠のある事実1つ
  • 自社層 — 自分が誰で、何をしているか。60字以内。事業内容1文+実績の数字1つ
  • 依頼層 — 返信の方法まで書いた小さな依頼。60字以内。具体案+返信の手段

順序は相手→自社→依頼で固定です。自社紹介から入るメールは冒頭3行で捨てられます。冒頭の挨拶は「突然のメールを失礼します。〇〇の△△と申します」の1文に固定。初对面の相手に「お世話になっております」は事実としておかしいので、初回には使いません。

相手層 — 事実を1つ、言い切らない

第4回で作った調査カードの「冒頭に使えそうな事実」がここで効きます。使ってよいのは公開情報に根拠のある事実だけ。型は「拝見して、ご連絡しました」です。

貴社の採用ページを拝見し、経理担当を募られていたのでご連絡しました

「経理が忙しいはずだ」という推測を、採用ページという事実に置き換える。「御社は経理に負担がかかっているはずです」のような断定は、当たっていても押しつけになり、外れていれば即削除されます。

自社層 — 1文と数字1つ

自社層は、足すほど減点だと考えてください。

アークソフトは製造業150社の経費精算を紙からクラウドに移す仕事をしており、月次締めを平均2.3日短くしています

「誰に・何を・どれだけ」の3点で足ります。実績の数字は毎回、自分でAIに渡すこと。 ここが「1,000社」事故の防止策です。AIに自由に書かせると、それっぽい数字で穴を埋えてきます。数字はあなたが決めて固定する。これはメールに限らず、第16回で話した「AIに渡す材料は自分で確定させる」という原則と同じです。

依頼層 — 返信の方法まで書く

ここが一番の失敗ポイントです。「お時間をいただけますと幸いです」は依頼ではなく希望です。先方は「何と返せばいいか分からない」ままメールを閉じます。依頼は次の3型から1つに決めます。

  1. オンライン15分型 — 「15分だけ、御社の経費精算の現状を聞かせてください。返信は『火曜か木曜』など候補の曜日を1行書くだけで結構です」
  2. 一問一答型 — 「現在の経費精算は紙とシステムのどちらで回っているかだけ、返信で教えていただけますか」
  3. 資料送付型 — 「同業種の事例資料2枚をお送りしてもよろしいでしょうか。『結構です』の1行だけで結構です」

どの型でも、返信に必要な文字が1行で済むことが条件です。初回で商談は頼みません。頼むのは「話を聞いてもらう15分」まで。

出来上がりの見本

確度「高」の製造会社・経理部長宛で書くと、こうなります。

件名:みなと工作 経理締めのご負担について(アークソフト)

経理部 部長 岡田様

突然のメールを失礼します。アークソフトの速水と申します。

貴社の採用ページを拝見し、経理担当を募られていたのでご連絡しました。

うちは製造業150社の経費精算を紙からクラウドに移す仕事をしており、月次締めを平均2.3日短くしています。

もし紙の精算書が残っているようでしたら、15分だけオンラインで現状を聞かせてください。返信は候補の曜日の1行だけで結構です。

現状で問題なければ、返信は不要です。

本文は約190字。悪い見本より短いのに、すべての行が相手と返信に関係しています。最後の「返信は不要です」の一文は、私が「引きの一文」と呼んでいるものです。入れると丁重なお断りの返信が増えますが、返信ゼロより断りの返信のほうが価値は上。断り文には名前と現状が書いてあり、半年後の再送と電話の2手目に使えます。

AIの使い方 — 書かせるのではなく「組み立てさせる」

道具としてのAIの使い方を、ここで整理します。私の指定はシンプルです。

  • 宛先情報(会社名・業種・氏名・気にしているはずのこと・根拠の引用)をそのまま貼る
  • 自社情報(事業内容・実績の数字1つ)は自分で固定して渡す
  • 依頼の型は3つから1つに決めて番号で指定する
  • 制約として「各層60字以内・本文250字以内・禁止語(ますますのご発展/ご多忙のところ恐縮ですが/ご検討のほど)」を明記する

こうするとAIの仕事は「文章の組み立て」だけになります。材料の捏造の余地がなくなり、しかも書き直しが層単位で済む。依頼層だけ直したければ「依頼層だけ60字以内にして」と指示する。全文をやり直させないこと。合格している層まで壊れます。

仕上げに、宛先の会社名・氏名が合っているかだけは必ず自分の目で確かめます。宛名を間違えた初回メールは即ゴミ箱行きだからです。2社目以降は自社層を使い回して宛先情報だけ差し替えれば、1社あたり10分。手書きで1通40分かかっていた時間が、5社で1時間足らずに収まります。

初回メールの目的は「売る」ことではありません。返信を1行もらうことだけです。そのための構造が3層です。


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