速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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改善ループを1ヶ月回した後に見える「強い段・弱い段」 — 勝敗ログの頻度から構造的な弱点を割り出す

私は営業15年目の速水拓真です。前回は、毎週金曜16時に並べた3つの数字を改善ループに接続する回し方を書きました。今回はその続きです。ループを1ヶ月回したあとに見えてくる「自分の強い段・弱い段」の読み方を書きます。どこが構造的な強みで、どこに来週の工数を寄せるべきか。それは勘ではなく、4週分の勝敗ログの頻度から割り出せます。

「アポが取れない」は、3つの別の病気の総称

週次レポートで「今週のアポは0件」と分かっても、それだけでは何も直せません。アポが減るとき、原因はほぼ次の3つのどれかです。

  • そもそも、送る量が足りていない(プールが尽きている、送信できていない)
  • 送っているのに、誰も返事をくれない
  • 返事はくれるのに、アポになっていない

この3つは、治し方がまったく違います。量が足りないなら作業の設計を直す。返事が来ないなら文面を直す。返事が来ているなら対応を直す。最後の数字であるアポ数だけを見ていては、自分がどの状態なのか分からないのです。

川は4つの層でこぼれる

第19回では、発掘の流れをプール→接触→アポの3段の漏斗として、2つの率(稼働率とアポ率)で見ました。今回は、その真ん中に「返信」を1段挟んで、4つの層に細分化します。

層1 プール(送る相手の在庫)→ 層2 接触(届けた数)→ 層3 返信(反応の数)→ 層4 アポ(会う約束の数)

水は上から順にこぼれます。一番下の水かさだけを見ていては、どこで漏れているか分かりません。返信を挟む理由はここにあります。「アポが取れない」のが「返事すら来ていない」せいなのか「返事を取りこぼしている」せいなのかで、処方が全く変わるからです。

返信の数え方は単純です。金曜の締め処理の最後に、受信トレイを今週分だけ開き、初回メールへの返信(件名に「Re:」が付いた行)を手で数えます。返信をくれる相手は多くないので、5分で終わります。数えた数をKPI表の「初回接触」と「アポ」の間に足した「返信」の行に書き込みます。

各層の「正常の目安」と、2つのルール

判定には物差しが要ります。最初は世間の目安で始めます。

  • 層1 プール:残り社数÷週の接触数が、4週分以上
  • 層2 接触:週の送信数が目標(例:40通)を毎週達成
  • 層3 返信率:返信数÷接触数が、3%以上
  • 層4 アポ転換率:アポ数÷返信数が、30%以上

層3の「3%」の背景を書きます。法人への初回メールは、100通送って2〜8通返事が来るのが現実的な帯域です。1%未満まで落ちるのは、ほぼ例外なく、同文を大量に送る「一斉配信型」の文面のときです。逆に、相手に合わせて書いたメールが10%を超えることもある。3%は「文面が相手に届いてはいる」という最低ラインとして使います。

層4の「30%」は、返信10件に対してアポ3件という意味です。自分から返信してくる相手は最初から興味を持っているので、ここは層3より高くて当たり前の数字です。

この目安には、先に2つのルールを付けておきます。

分母が3に満たない週は、率を判定しません。 返信2件の週にアポ0件は転換率0%ですが、これは統計ではなく事故です。層4は返信が3件以上ある週だけ判定します。

1週だけ帯を外れても、直しません。 週40通の返信率は、返信1通の有無で2.5%動きます。1週の数字は運で、2週の数字が傾向です。帯域外が2週連続したとき初めて「異常」と呼びます。

道具28「層診断」— 数字を読ませる10分

第1作『営業の仕事をAIに任せろ』を読んでいない方に1行だけ書きます。第1作では、生成AI(ChatGPTなど)に日本語の指示文=プロンプトを貼り付けて営業の文書仕事をさせる「道具」を数十個作りました。本連載の道具も同じ仕掛けで、AIの中で何を計算しているかを理解する必要はありません。黒箱のままで使えます。

第19回の道具26は数字を「数える」道具でした。道具28は、数えた数字を「読む」道具です。率の計算、前週との比較、目安との突き合わせ、来週直すべき層の1つ選定までAIに任せます。営業が持つのは「提案された1箇所を直すかどうか」の判断だけです。

あなたは営業KPIの診断役です。次のデータを読み、層の診断をしてください。

【1週の目標接触数】( )通

【今週の数字】
プール在庫:( )社
初回接触:( )通
返信:( )件
アポ:( )件

【先週の数字】
プール在庫:( )社
初回接触:( )通
返信:( )件
アポ:( )件

【判定基準】
・層1(プール在庫):在庫÷接触数が4週分未満=要補充。2週ルールの対象外で、出た週に直す
・層2(接触数):目標接触数を下回る=帯域外
・層3(返信率):返信÷接触が3%未満=帯域外
・層4(アポ転換率):アポ÷返信が30%未満=帯域外。ただし返信3件未満の週は判定保留
・層2〜4は、帯域外が2週連続した場合のみ「異常」とする

【出力】
1. 層1〜4それぞれの数値・率・判定(正常/帯域外/判定保留)を1行ずつ
2. 来週取り組む層を1つだけ挙げる。層1が要補充なら層1。そうでなければ、異常の層のうち最も上流の1つ。該当しなければ「なし」とだけ出す
3. 取り組む層がある場合、来週の対処を「プール補充」「接触ペース」「文面改善」「返信対応」の4つから1つ選び、理由を1行で添える
4. 来週の金曜に確認する数字を1つ挙げ、今週の値を併記する

出力は、前回作った週次レポートの固定ページの下に追記します。在庫60社・接触40通・返信1件・アポ0件を入れると、道具28は「層1は1.5週分で要補充。層3は2.5%で帯域外だが1週目なので様子を見る。よって来週取り組むのは層1のみ」と返します。直感なら「返信率が低い、文面を変えよう」と反応するところを、道具は保留と出す。この「直さない」という判定こそ、自力で計測しているときに一番飛ばしやすい工程です。

直すのは一箇所だけ — 週一箇所ルール

診断で取り組む層が出たら、翌週に直すのは1箇所だけと決めます。理由は単純です。文面と対応とペースを同時に変えると、来週数字が伸びても「何が効いたのか」が分からなくなります。改善は実験であり、実験では一度に一つの変数しか動かしません。

例外が1つだけあります。プールの補充です。在庫切れは改善実験ではなく単なる在庫管理なので、どの週でもほかに並行して行います。実験は週1つ、補充は常時です。

順番にも原則があります。「上流優先」です。返信率(層3)とアポ転換率(層4)が同時に異常なら、層3を先に直します。返事が1通も来ていない状態で対応の仕方を磨いても、対象がいません。川の水は、下流ではなく上流からせき止めるものです。

層別レシピ — 指された場所だけ、翌週に直す

「プール補充」と出たら:翌週月曜の仕込みに間に合わせるため、金曜のうちに、本連載第3回〜第4回で作ったリスト生成と企業調査の道具を走らせ、出てきた100社をプールのシートに追記します。在庫は週の接触数×4週分(40通/週なら160社)を切ったら必ず足します。切れたまま週を送ると、2週後に接触数の急減として跳ね返ります。

「接触ペース」と出たら:接触数が2週続けて目標を下回るなら、問題は文面ではなく工数の確保です。月曜の30分で、初回文面の道具に1週分の下書き(40通ぶん)をまとめて作らせて保存します。火曜から金曜は毎朝10時に8通ずつ送るだけ。下書きがある状態での送信は1日10分で終わります。これでも下回るなら、目標そのものが合っていません。40通を30通に下げ、在庫ラインも4週分=120社に書き換えます。達成できない目標は2週で壊れ、壊れない目標が正しい値です。

「文面改善」と出たら:件名だけを半分ずつ変えます。返信率の大半は「開封されるかどうか」で決まるからです。週40通を20通ずつに分け、20通は現行の件名、20通は新しい件名で送り、本文は一切変えません。1週で結果を見て、返信率の高かった方を翌週の全送信に展開します。新しい件名の型は「御社の【公開情報】について」。相手の会社にしか書けない固有名詞を1つ入れる。その材料は、第4回の企業調査で既に集めてあります。NGは「新サービスのご案内」——受信した瞬間に削除対象だと分かる件名です。

「返信対応」と出たら:返信は24時間以内に返します。初回メールへの返信は木曜・金曜の夕方に来ることが多いので、木曜の16時15分に受信トレイを開く15分を定時に入れておきます。そして返すメールの末尾に3択の日時を必ず足します。「それでは、来週の火曜15時、水曜11時、金曜16時のいずれかで、15分だけお時間をいただけますか」。YESかNOかを聞く質問は先方の検討リストに載りますが、3択の質問は先方の予定表の話になります。資料を求められたら、送ったうえで同じ1文を足します。資料の送付だけで会話を閉じません。

1ヶ月回した後に見えるもの — 強い段・弱い段

ここからが今日の本題です。ループを1ヶ月(4週)回すと、改善ログに4行残ります。この4行の「指された層の頻度」が、そのままあなたの構造的な弱い段です。

たとえば4週のうち3週が「層1 要補充」なら、弱点は発掘の入口——リストの供給です。文面でも対応でもなく、在庫管理に構造的な甘さがあります。4週のうち3週が「文面改善」なら、リストは回っていて文面が構造的な弱い段です。同じ「アポが少ない」という顔をしていても、4週分の勝敗を並べると、人によって弱点の居場所が違う。1週ごとの数字は運を含むので読み違えますが、4週の頻度は傾向なので騙されません。

そして、一度も指されなかった段が、あなたの強い段です。強い段は直しません。守るだけです。弱い段に、レシピの1行と来週の工数を寄せます。私自身、チームの数字管理を始めたころは、集めた数字を眺めて「返信率が低いから文面を変えよう」と直感で反応してばかりでした。しかし振り返ると、直すべきは文面ではなくプールの供給でした。直感は「いちばん気になっている数字」を指し、頻度は「構造的に壊れている場所」を指します。この2つは、たいてい別の場所です。

1回の改善に2週かかります。4層を1巡するのに最長8週。この間、あなたの仕事は金曜の30分と、レシピの該当する1行だけです。

3ヶ月後、目安を「自分の基準」に書き換える

3ヶ月(12週)後、改善ログが12行になります。ここで道具28の【判定基準】を書き換えます。世間の目安(返信率3%、転換率30%)は出発点であって着地点ではありません。あなたの返信率の12週平均が6%なら、「3%未満=帯域外」を「5%未満=帯域外」に書き換えます。あなたの商材・リスト・文面に合った基準は、あなたの12行のログにしか書かれていないからです。

ループが回り始めると、KPI表の意味が変わります。第19回の時点では、数字は「見るもの」でした。今は「直すもの」です。悪い週が来ても、直す場所は1箇所、直し方はレシピの1行、検証は2週後と決まっています。空のリストに怯える営業と、原因と処方を持つ営業の差は、大体、この金曜30分の習慣を何十週続けたかで決まります。

次回は、この改善ループを回し続けた先で、月次の打ち方をどう変えるかを書きます。

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