速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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新規着手と既存リストの二本柱をSOPにする — 台帳の運用を部署の手順書に落とし込む

私は営業15年目の速水拓真です。この連載では、営業の仕事をAIに任せて時間を取り戻すための型を、実際にやってみた結果の数字つきで書いています。

前回は、リストの鮮度を保つ仕組みを台帳に組み込みました。7つの列と6種類の状況で台帳を整え、月曜10分、金曜10分、着手のたび5秒、という週20分のサイクルを回す。眠っていたリストから5社が復活する台帳になりました。

ただし、前回までの話にはまだ穴が1つ開いています。その20分を回しているのは、誰でしょうか。私です。あなたです。台帳がいくら鮮度を保てるように変わっても、そのサイクルを回す手は1本、あなたの手だけのままです。

今日はこの穴を塞ぎます。発掘の仕組みを、部署の手順書に落とし込む話です。

あなたが1週間休んだら、月曜の10分は誰が回しますか

ここまで読んできた人は、いまの自分の発掘の機械を頭の中で持っています。第9回の点数で順番を決め、第10回の「リストは在庫」で必要社数を計算し、第20回の週次ファネルレポートで計器を見て、第23回の週20分で台帳を鮮度の保てる在庫にした。部品は揃っています。

そこで冷たい質問をさせてもらいます。あなたが1週間、社内を離れたら、月曜の10分は誰が回しますか。

すっと誰かの名前が出なかったなら、この機械はあなたの体と一緒に消える機械です。この状態を属人化と呼びます。

営業の現場で属人化が壊れるとき、型は決まっています。足の速い営業が異動になる。リスト300社と、「いつ、誰に、何を送ったか」という記憶がセットで持ち去られる。残されたメンバーはゼロから張り付き直しで、部の数字が2期続けて落ちる。本人の性格の問題でも努力の問題でもありません。仕組みが文書になっていなかった。それだけの話です。

断ち方も決まっています。文書を3つ作る。3つ以上は作りません。3つ未満では割り切れません。

3文書、合計6ページ以内 — 厚く作ると誰も読まない

先に上限を決めます。3文書の合計で6ページ以内。

文書化の失敗は、ほぼ1つの型に集約されます。厚く作って、誰も読まなくなる。50ページの営業マニュアルは、社内の誰も読破していません。読まれない文書は、存在しない文書と同じで、更新の手間だけを取り続けます。私はこの失敗を文書作りのたびにやってきました。6ページという上限は、だから「作りやすい数」ではなく「読まれるための上限」です。

3つに割る理由は、発掘の最中に迷うとき、その迷いの中身が必ず3問のどれかに落ちるからです。

  • 発掘フロー書 — 「何を、どの順で動かすか」への答え
  • 物差し定義書 — 「なぜ、そう判断するのか」への答え
  • 運用ルール書 — 「誰が、いつやるのか」への答え

順番を忘れたらフロー書を開く。スコア上位に変な会社が混ざったら物差し定義書を開く。自分のいる週を誰かに引き継ぐ話なら運用ルール書を開く。3文書を1冊に混ぜてしまうと、迷った人は「どこを見るか」から迷い始めます。割ってあれば、開くべき1枚が最初から決まっています。

置き場所は台帳と同じフォルダ。ファイル名は3つとも「発掘SOP_」で始めて、末尾に版番号を付けます。「発掘SOP」で検索すれば3文書が一括で拾える、ただしそのためだけの決めですが、効き目は大きいです。

文書1: 発掘フロー書 — 手順は8行以内、各行に4点セット

フロー書は1枚に収めます。手順は8行以内。そして各行に4点セットを付けます。

  • 使う道具の名前
  • 入力するもの
  • 出てくるもの
  • 所要時間

ここに「誰がやるか」は書きません。役割は文書3の領分です。手順と役割を1冊に混ぜると、担当が変わるたびに文書全体を書き直す羽目になります。手順は手順のまま不変で、変わるのは担当だけ。別々の文書に分かれていれば、書き直しは運用ルール書の1行で済みます。

私たちの機械をそのまま書き出すと、フロー書の第一版は7行で収まります。

  • 月次の第1月曜:新規リストの投入。第1作『営業の仕事をAIに任せろ』のリスト収集の道具で50社を集め、台帳の末尾に貼る。60分。
  • 同日:重複排除。第23回の道具31。入力は台帳の行番号・企業名・URL、出力は統合済みの台帳と「要確認」の行。10分。
  • 同日:スコアの更新。第22回の物差しで新規50社に点数を付ける。20分。
  • 毎週月曜:重複の掃除。道具31で重複行を統合し、「要確認」の行だけ目で確かめる。10分。
  • 毎週金曜:鮮度の整備と復活5社。第23回の道具32。入力は台帳と当日の日付、出力はしきい値を超えた行の整備と上位5社の行。10分。
  • 翌週月曜:アポ打ち。道具32が出した上位5社に、アポ取りの最初の1時間で接触する。結果は台帳の状況列へ。
  • 毎日:商談・電話の直後。動いた行の状況列をその場で直す。1件2分。

合計すると、月次分は約90分。第1月曜には週次の10分とアポ打ちの1時間が乗るので、月に1回、発掘に2時間半を充てる日と考えると分かりやすいです。それ以外の週は20分のまま。

書き方の規則は1つだけ。数字と固有名詞だけで書く。「適切に選定する」「状況に応じて判断する」という文を作りません。抽象語が1つ入った瞬間、読んだ人には再現できなくなります。「道具32で上位5社」まで具体化してある文だけが、読んだ人の手を動かします。

なお、この記事の執筆でも同じ規則を適用していて、手順と数字は表ではなくこのように縦の箇条書きで書いています。読みやすさよりも「正しく複製できる」のがSOPの値打ちです。

文書2: 物差し定義書 — 理由の書けない重みは「仮置き」

文書2は、第22回に決めた物差しを表の形にしたものです。列は3つ。

  • 項目(例:従業員数101〜300名)
  • 重み(例:+20)
  • 理由(例:決裁までの層が1〜2層で、当社の平均受注額500万円に届く)

重みの数字は第22回そのままを写します。あなたが足すのは「理由」の1列です。この1列の有無で、物差しの値打ちが変わります。理由の書けない重みは、自分がその物差しを説明できていない印です。すぐに理由が出ない重みには、無理に作らず「仮置き」と書いて、使いながら直します。

そして、文書2の本当の本体は表ではなく、末尾に作る例外録です。ルールは1つ。判断に迷ったら、その日のうちに1行で書き足す。

たとえば1月14日にこんな1行が入ります。

従業員18名のN社。スコア55でB枠入り。ただし決裁者が社長1人で、同型の直近3件はすべて失注。Cへ落とす。

発掘で迷う場面は、使い回しが効きます。新人が来月迷う場面は、ほぼあなたが昨年迷ったのと同じ場面です。この1行が50行たまった物差し定義書は、あなたがいなくても判断を続けられます。逆に、理由を書かずに点数だけが使われ続けた物差しは、あなたが外れた日に、ただの点数表に落ちます。

冒頭には用語の定義も2〜3行で付けておきます。台帳の状況列で使う語——未着手/アプローチ中/アポ済/見送り——を、どういう状態を指すのかを書きます。「見送り」と「失注」の使い分けが人によって違うだけで、台帳はもう部として読める数字を吐きません。第22回で物差しの定義を共有した話と、ここでつながります。

文書3: 運用ルール書 — 代行は「道具32を1回走らす」だけ

文書3は1枚で足ります。行は「やること」、列は担当・頻度・所要・不在時の代行。必要な行は最初、3つだけです。

  • 月次投入と週次サイクルの実行:自分。台帳のオーナーも自分。
  • 自分が3日以上離れる週:同僚1名が、金曜の道具32だけ代行。手順は文書1の5番に書いてあるので、台帳の共有リンクを渡すだけで回る。
  • 異動・退職が決まったとき:台帳と3文書と固定ページのURLを一式で渡す。受け取った側は、3文書を20分で読み、次の金曜に道具32を走らせる。これで発掘の1周目が回る。

ここが今日の一番です。代行を「道具32を1回走らす」だけに縮む。仕組みの全部をいきなり預けると、預かる側の荷が重すぎて、誰も預かってくれません。まず「今週の10分」だけを預けられる形にしておく。それであなたの休暇は、初めて機械を止めなくなります。

1人で回しているうちは文書3が要らない、という反論は私もかつて思いました。違います。文書があると、自分が決めたルールに自分が従う形になります。月曜の10分が「気が向いたらやる」から「書いてあるからやる」に変わる。第23回で自分に課した週20分を守り通す装置として、文書3はまずあなた自身に効きます。

末尾に四半期点検を1行だけ足します。年4回、15分。スコア上位100社の成約率を見て、物差しの重みを1つ変えるか変えないか決める。変えるなら文書2に1行追記して、3文書の版番号を上げる。この15分を文書に書いておかないと、点検は「やるつもり」のまま1年過ぎます。

書くのはあなたではない。道具33に書かせる

3文書と聞いて「書く量が」と心配したなら、その心配は要りません。あなたは書きません。道具33に書かせます。

道具33は、あなたの台帳と習慣から3文書の草案を出すAIのプロンプトです。入力は3つ。

  • 台帳の先頭20行
  • 毎月・毎週・毎日やっている発掘の作業を、箇条書き5〜8行で
  • 過去に迷って判断した例を2〜3件

ここに1つ、仕掛けがあります。AIは台帳に書かれた事実しかしらず、「なぜ」は読み取れません。そこで道具33は、理由が要る箇所に【要記入】という穴を開けた形で草案を返します。事実の整理と構成はAIが1分でやり、理由の1行だけをあなたが埋める。

文書化作業の9割は、実は事実の整理です。「なぜ」だけがあなたにしか書けない部分。9割を預けて1割を自分で書く。文書化が三日坊主になる理由のほとんどは、9割を自分でやろうとしていました。

道具33のプロンプトは、いつもの固定ページに貼って保存します。守るべきことは2つです。

  • 出力に出てくる所要時間や頻度の数字は、自分の実測と突き合わせて直すこと。AIはメモからそれっぽい数字を補ってくることがあります
  • 【要記入】を埋めずに保存して終わらないこと。草案は道具であって文書ではありません。理由が入って初めて文書になります

検査は「1人が止まる場所」を聞くだけ

3文書が揃ったら、確かめ方は1つです。同僚か入社2年目までの若手を1人捕まえて、3文書を渡し、10分で読んでもらう。そのあと、道具32を1回走らせてもらう。そして、どこで止まったかを聞きます。

止まった箇所が、文書に足りない1行です。その場で5分、直せば作業は終わりです。

「読んで分かる」文書を追いかけないでください。読んで分かる文書は、この世にほとんどありません。読んで再現できる文書だけがSOPです。1人が止まらずに道具32まで到達したら、その3文書は合格。あなたが1週間消えても月曜の10分が誰かに回せる状態。属人化を断った、とはこの状態を指します。

前回、台帳を部署の唯一の事実にしました。今日で、その事実を回す手順も部署に帰ります。これで発掘は、あなたがいなくても回る仕組みになります。次回は、この仕組みの数字を「部署の成果」に読み替えるところから始めます。

今日やること

  • 道具33を固定ページに保存して走らせる(20分)。台帳の先頭20行、習慣の箇条書き5〜8行、迷った判断の例2〜3件を入力。3文書の草案が出ます。このプロンプト全文・登録手順・実行例は、書籍『見込み客をAIに探させろ』8-3に収録しています
  • 【要記入】の穴に、物差しの理由を1行ずつ書く(15分)。思い出せない重みは「仮置き」で先へ。回っている文書は、完璧なまま止まっている文書に必ず勝ちます
  • 3文書を1人に読んでもらう(10分)。止まった箇所を1つ聞いて、1行足したら今日の作業は終わり。3文書は台帳と同じフォルダに置き、共有リンクを文書3に書き添えます

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📚 この連載の他の媒体: note(物語編) ・ Zenn(技術編)

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