朝にリストが増えている — 押す人から、選ぶ人へ(定時実行の発掘パイプライン・道具34)
8時56分、席に着きます。PCを開き、いつもの台帳を見る。昨日帰る時点で28行だったリストが、今は31行になっている。増えた3行には、それぞれ「なぜ今この会社なのか」の理由が1行と、裏付けのURLが付いている。コーヒーを飲みながら3行を読み、1行目に「A」、2行目に「B」、3行目に「C」と判定を書く。9時08分には、Aをつけた1社の深掘りに入っています。
これは遠い未来の話ではなく、今日の設計を最後まで通したときの、あなたの朝の見取り図です。こんにちは、営業15年目の速水拓真です。この連載の深掘りフェーズでは、第2作『見込み客をAIに探させろ』(Amazon)の内容を1節ずつ噛み砕いています。今日は9章「定時実行」の入り口です。
8章までの道具は、どれもあなたが押して動くものでした。前回(第24回)は、その回し方を3文書のSOPにまとめ、あなたが1週間消えても誰かが回せる状態まで持っていきました。今日は、その最後の「あなた」を外します。道具が決まった時刻に自分で起き、勝手に探し、結果を決まった場所に置いていく。あなたに残るのは、置かれた結果を選ぶ仕事だけです。
押す人から、外す人へ
手動と定時実行の差は、速さではありません。実行の判断を、あなたの手から時計に渡すことです。発掘は、やる気に左右されてはいけない上流工程です。商談が詰まっている週、リスト探しはまっさきに後回しになる。そして空いた週の金曜夜に、まとめて60分探す。この波こそが、空リストの正体でした。
定時実行は、この波を3つの手放しで断ちます。
- タイミングを手放す。「気が向いたとき」が「毎朝6時」になります。実行するかどうかの判断自体が消えるので、忙しい週も暇な週も、リストは同じ速度で増え続けます。あなたが夏休みでも同じです。帰ってきた日にまとめて選別すれば済みます。
- 入力を手放す。毎回プロンプトに貼っていた発掘条件を、固定ページに置きっぱなしにします。道具は毎朝それを読みに行く。あなたが触るのは、条件を変えるときだけです。
- 出力先を手放す。結果は決まった場所に届きます。朝にあなたが開くのは、そこだけ。探す・貼る・整えるという作業が消えます。
手放した3つの代わりに、あなたは1つだけ引き受けます。選別です。朝10分、置かれた表を読んで、アプローチする・様子を見る・いらないの3択を付ける。この役割分担が、今日作るパイプラインの骨格です。
パイプラインの4つの部品
パイプラインは4つの部品でできています。どれもこの連載と著書の中で、すでに手に入れているものです。
- 時計(トリガー):毎朝6時に道具を起こします。AIチャットの有料プランに備わったスケジュール実行機能(サービスによって呼び方は違います。ChatGPTでは「タスク」です)を使います。中でどう動いているかは知らなくて構いません。目覚まし時計の内部を分解できなくても、朝は起きられます。
- 条件(物差し):何を探すかの定義です。前の章までに作った発掘条件シート(理想の顧客を、業種・規模・地域・ホットサインの言葉に定義したもの)をそのまま使います。
- 足(情報源):ニュース、プレスリリース、採用情報を歩き回る力です。AIの検索機能が担います。検索のできないプランではこの道具は動きません。足がパイプラインの生命線なので、最初にプランの確認を済ませてください。
- 台紙(出力先):結果を受け止める場所です。いつもの台帳(第23回で鮮度管理の設計をした、候補リストを貯めている表)です。まずは「チャットに届いた表を、毎朝自分で貼る」形から始めます。
道具34は、この4つを1本につなぐプロンプトです。
道具34:朝リスト生成の定時プロンプト
第1作『営業の仕事をAIに任せろ』(Amazon)では、条件を与えると該当しそうな法人を列挙するリスト収集の道具を作りました。この連載の第3回がその話です。道具34は、あれを「誰も押さなくても毎朝走る」形に鍛え直したものです。コピーして固定ページに保存し、【要記入】の5か所を埋めてください。
あなたは法人営業のリサーチ担当です。次の発掘条件に合う見込み客を、
直近24〜48時間のニュース、プレスリリース、採用情報から探して、
表にして出力してください。
【発掘条件】
- 業種:【要記入 例「物流・倉庫業」】
- 規模:【要記入 例「従業員100〜999人」】
- 地域:【要記入 例「関東・中部」】
- ホットサイン:【要記入 例「拠点拡大、設備投資、採用強化の発表」】
- 除外:【要記入 例「人材紹介業、断り済みの会社」】
【出力形式】1日5〜10社、次の列の表で。
会社名 | 本社所在地 | ホットサインの要約1行 | 裏付けURL | 推奨する最初の一歩 | 確信度(高/中/低)
【ルール】
1. 裏付けURLの取れない会社は出力しない
2. 除外欄の会社・業種は、条件に合っていても出力しない
3. 該当が少ない日は無理に埋めず「本日は3社」と正直に書く
4. 表のあとに、発掘条件のうち根拠の薄いものを1行だけ指摘する
埋め作業は1回きりです。発掘条件シートから写して保存すれば、以後あなたが触るのは条件を変えるときだけ。4番目のルールには理由があります。AIは毎朝、条件の弱い箇所を1行ずつ指摘してくる。それが条件修正のヒントになり、パイプラインが週ごとに賢くなります。
15分の登録手順
スケジュール実行への登録は、道具34をそのまま送るだけで済みます。5工程、15分です。
- 【要記入】を埋めた道具34を全文コピーする(2分)。固定ページに保存してある状態のものをコピーします。
- 末尾に1文を足して送る(3分)。「この指示を毎日朝6時に自動で実行してください」と書き添えて送信します。6時は、9時出社の人が着席した瞬間に結果を読めるようにする目安です。出社に合わせて5時でも7時でも構いません。
- 登録の確認に承認する(2分)。AIが「タスクとして登録しますか」と返してくるので、承認します。平日だけの指定ができない場合は「毎日」で登録し、土日の分は月曜の朝にまとめて判定してください。
- 通知をオンにする(3分)。メールかアプリで通知を受け取る設定にします。通知には2つの役割があります。結果が届いたことを知らせることと、届かない朝=パイプラインが止まっていることを知らせることです。通知の来ない朝だけ道具34を手で走らせれば、その日は手動に戻るだけ。人間が見張る必要はありません。
- 翌朝の初回実行を確認する(5分)。通知が届いたら中を開き、表が出力されているかだけ確認します。出力されていれば、その日はもう何も触りません。
朝の10分:生成ではなく選別
登録が済むと、毎朝こんな内容の表が届きます。見本を1社1行で書き下すと、こんな形です。
- 〇〇運輸(神奈川県)— 厚木地区に新拠点、来春稼働と発表。裏付けURLあり。推奨する最初の一歩は「拠点立ち上げ期の業務設計の相談を切り出す」。確信度:高
- △△ロジスティクス(愛知県)— 物流エンジニアの採用を23名追加。裏付けURLあり。推奨する最初の一歩は「採用ページを根拠に、まず電話で現状を聞く」。確信度:中
- □□ホールディングス(埼玉県)— 中期計画で倉庫自動化に50億円投資と表明。裏付けURLあり。推奨する最初の一歩は「決算資料を読んでから提案メールを送る」。確信度:高
あなたの朝は3段階で回ります。
- 9:00 通知を開き、表をコピーする(2分)
- 9:02 台帳の末尾に貼り、各行に判定を付ける(6分)。A=今週アプローチ、B=1か月後に再チェック(再チェック日を書く)、C=不要(理由を1行書く)。台帳に既にある会社は新しい行を作らず、元の行に今日の日付を足します。
- 9:08 Aをつけた会社を、第1作の企業調査の道具(会社名を貼ると事業概要・直近の動向・想定課題を出してくれるもの)に貼って深掘りする
10分のうち、生成に使った時間はゼロです。人間の仕事は、もう作る側ではなく選ぶ側です。そしてCの「理由1行」を軽視しないでください。ここがパイプラインの学習装置になります。
金曜15分:「パイプラインの整備」
AIには、前の朝の記憶が残りません。だから最初の2週間は、同じ会社が何度も出ます。記憶の役割を担うのが、プロンプトの除外欄です。毎週金曜の15分、その週のC判定の理由をざっと読み、2〜3個を除外欄に足します(例:「人材紹介業は商談にならない」「子会社は窓口が必ず本社」)。整備が終わったら、除外欄を更新した道具34を送り直してタスクを作り直す。1分の作業です。翌週の月曜から、出てくる表からその類が消えます。
整備を続けた人とやめた人では、4週目に採用できる会社数に2倍以上の差が出るのを、私は何度も見てきました。道具は同じでも、選別の結果を条件に戻すかどうかで、道具の賢さが変わるのです。
数字で見る:時間はほぼ同じ、量は2.5倍、波はゼロ
私も手動でリストを拾っていた頃の記録が手元にあります。「朝のすき間でやろう」と思い、結局は金曜の夜にまとめて60分。月2〜4回、合計2〜4時間で、拾える会社は月40行前後。しかも疲れた金曜の夜に拾った40行は、月曜に自分で裏を取るところからやり直しになる。忙しい月には、そもそも実行がゼロの週がありました。
定時実行に切り替えると、こうなります。
- 設定:15分(一度だけ)
- 朝の選別:10分×20営業日=3時間20分
- 金曜の整備:15分×4回=1時間
- 月の合計:4時間20分。毎日欠かさず
時間はほぼ同じです。違うのは量と波です。列挙は月40行が月100行になり、整備を経て採用できるのは2〜3割の月20〜30行。1人の営業が本当に必要とする新規候補は、どんなに攻えても月10〜20行です。上流があふれている状態になる(この「在庫は常に多めに」の考え方の数字的な裏付けは、第19回の発掘KPIの話にあります)。この状態の一番の効能は効率ではなく、商談が途中で落ちた週に焦らずに済むことです。在庫のある営業は、電話の声が変わります。
初月に起きること(正直な話)
導入から4週間、以下は全部起きます。起きる前に知っていれば、誰も止まりません。
- 0件の日がある。検索には日ごとの当たり外れがあります。0件の日に「もっと探して」と追加で頼むと、裏付けの薄い会社が埋め合わせで混ざり始めます。0件の日は0件のまま受け取るのが正しい運用です。パイプラインの価値は、1日の出来栄えではなく20日間の平均です。
- 大きい会社ばかり出る。ニュースに載るのは規模の大きい会社です。規模の欄に上限(例:従業員999人以下)を入れると、3日で傾向は変わります。
- 裏付けURLは自分の目で開く。AIの要約の1行をうのみにしない。A判定した会社だけ開いて確認し、深掘りは調査の道具に任せます。1日3分の確認で、出どころのあやしい話を信じ込む事故はほぼ防げます。
- 除外欄に社外秘の顧客名を書きたくない場合。社内ルールで顧客名をプロンプトに載せられないなら、除外は朝の選別で行い、プロンプトには業種やグループ単位の除外を書きます。実務上はこれで十分回ります。
- 会社のアカウントを使うなら、最初に一言。公開情報だけを扱うので個人情報には触れませんが、毎朝自動で走るタスクが社用アカウントに登録されるので、契約管理をしている人に共有しておきます。トラブルの9割は、知らないことで起きます。
今日やること
- 道具34を保存して【要記入】を埋める(15分)。固定ページに道具34を貼って保存します。発掘条件シートを開き、5か所を写してください。除外欄には、手元の断り済みリストから業種単位で書けるところまで書きます。
- スケジュール実行を登録する(10分)。道具34を全文コピーし、末尾に「毎日朝6時に自動で実行してください」と足して送信、承認します。通知をオンにし、タスク一覧に道具34が載っていることを確認したら完了です。
- 台帳に3つの列を用意する(5分)。「判定(A/B/C)」「判定理由(1行)」「再チェック日」を台帳の右端に足します。金曜の15分も、カレンダーに「パイプライン整備」として入れておいてください。明朝6時、最初の通知が鳴ります。
道具が毎朝6時に起きて働く。あなたは結果を10分で選び、金曜に15分整備する。発掘への関与は、1週間で65分です。やる気の波にリストを運ばせる営業から、道具に運ばせる営業への交代は、この1本の登録で始まります。
次回は、この「チャットに届いた表を自分で貼る」部分をさらに外します。台帳への自動追記と、複数人で重複なく回す回し方です。届いたものを貼る仕事まで道具に渡したとき、あなたの朝は何を見ればいいのか——そこまで持ち込みます。
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📗 シリーズ全3冊: 営業の仕事をAIに任せろ ・ 見込み客をAIに探させろ ・ 商談をAIに鍛えさせろ