速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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台帳がひとりでに育つ — チャットの表を貼る仕事からも卒業する(自動追記と複数人の重複なし運用)

8時56分、席に着きます。台帳を開くと、昨日の28行が31行になっている。増えた3行には、理由が1行と裏付けURLが付いていた。ここまでは第25回で作った風景です。ただ、よく見ると前回とは勝手が違う。増えた行の「判定」「判定理由」「再チェック日」の列が、一部すでに埋まっている。誰が書いたのか。道具です。表がチャットに届いた後の「台帳へ貼る」仕事を、さらに道具に渡しました。こんにちは、営業15年目の速水拓真です。この連載の深掘りフェーズでは、第2作『見込み客をAIに探させろ』(Amazon)の内容を1節ずつ噛み砕いています。今日は9章の後半、本書の着地点です。

前回の終わりに、「チャットに届いた表を自分で貼る」部分をさらに外します、と予告しました。今日はその続きです。貼る仕事を外した先に何が見えるのか。そして、このパイプラインを1人で回す想定をやめて、複数人で回したら何が起きるのか。2つの話をします。

貼る仕事を外す — 自動追記の3つの方法

「表が届いたら、自分で台帳に貼る」。この2分は地味ですが、毎朝の仕事です。外し方は、使っている台帳の種類で3つに分かれます。

  • 方法1:AI側の保存機能を使う。ChatGPTなら「コネクタ」「GPTsの保存先」、Claudeなら「プロジェクトの知識」など、サービスが用意した永続的な保存先に表を書き出させる方法です。道具34の末尾に「結果は〇〇に保存してください」の1行を足すだけ。対応しているプランなら、これが最短です。
  • 方法2:スプレッドシート連携を使う。台帳がGoogleスプレッドシートなら、GPTなどのスケジュール実行とスプレッドシートを結ぶ自動化(zapierやmakeなどの接続サービス、またはGAS)で直接行を追記できます。設定に30分ほどかかりますが、一度作れば「チャットを開く」動作すら消えます。
  • 方法3:メールで追記する。多くの表計算サービス(スプレッドシートなど)には、特定のアドレスにメールを送ると1行を追記する機能があります。通知先をそのアドレスにしておけば、通知イコール追記になります。

どれも共通しているのは、「人間の目を通さない行」を1つも作らないことです。自動追記した行は「判定」の列が空のまま積み上がります。空欄の行は、翌朝あなたが選別するときにまとめて処理すればよく、溜め込むものではありません。自動追記は「貼る」を外すだけで、「選ぶ」は外しません。この線を守れば、道具の追加投資ゼロで、朝の関与は10分から8分に縮みます。

複数人で回す — 重複を防ぐ「1行のルール」

パイプラインが1人分ではなくなったとき、最初に起きる問題は重複です。あなたと同僚が、同じ会社に別々のアプローチメールを書いてしまう。先方が混乱し、部署の信頼が1回で削がれます。私も部署展開のときにこれをやってしまい、同じ食品メーカーの部長に、私と同僚の2通が3日差で届いたことがあります。先方の返信は1行でした。「社内で整理してから来てください」。

重複を防ぐのは、高度な仕組みではなく、1つのルールです。「着手した人が、その日のうちに台帳の行を埋める」。書くのは3つだけ。着手日付、着手者名、次の一手。この「着手のたび5秒」の原則は、第23回で設計した鮮度管理のルールと同じ形を、複数人版にしたものです。台帳の行は「誰かが動いている」ことを1行で伝えます。動く前に台帳を見る。これが重複ゼロの全てです。

朝の選別も分けます。当日の表のうち、A判定を書き込む人はその日の担当者1人に固定します。全員が選別に参加すると、「誰かがやるだろう」で空欄が溜まるからです。担当は週替わりで構いません。選別担当がAをつけた瞬間に着手済みの印をつけ、着手者が名前を書く。2人の間を結ぶのは台帳だけです。

紹介元つきの宛先は、優先レーンで扱う

複数人運用と同じ9章の節で、本書はもう1つ、重要な手を加えます。台帳に「紹介元」の列を1本足すことです。

この1本の列の意味は大きい。冷たい宛先と、紹介元つきの宛先は、強さが別物だからです。筆者の現場では、初回の電話とメールが通る率で約5倍の差が出ました。断りの最大の理由である「お前を知らない」が、紹介元つきの宛先では最初から消えています。だから道具34の末尾に1行加えます。「紹介元のある企業は、判定に関係なく毎朝通知してください」。判定の外にある、優先レーンです。

紹介の依頼の仕方そのもの(いつ頼むか、どう書くか)は、第18回で個別の型として扱いました。今日のポイントは、依頼の先にある受け取り側の設計です。紹介は「もらって終わり」ではなく、台帳の列に載った瞬間から、発掘パイプラインの優先レーンに入る。道具34が毎朝探す中に、紹介の力が組み込まれる。8章のSOP(第24回)と9章のパイプラインが、ここで1つに接続されます。

台帳は、宛先のリストから「資産」に変わる

ここまでの話を並べると、台帳の正体が変わっていくのが見えます。

使い始めた当初、台帳は「宛先のリスト」でした。判定理由と紹介元の列が埋まり、毎朝の自動追記で行が積み上がるにつれて、台帳は市場の質問と関係の記録に変わります。断りの理由は「今は繁忙期で手が回らない」ではなく「繁忙期のまま導入できる方法を知りたい」の裏返しです。判定理由の列には、市場が本当に聞きたい質問が、毎朝の通知のペースで蓄積されていきます。

1か月で20行前後。この20行は、次の一手の材料になります。次回は、この「断り理由を、買う側の疑問に変えて、記事のネタにする」話です。探す営業から、選ばれる営業へ。本書最後の節に進みます。

道具が毎朝6時に起きて、表を置き、台帳が育っていく。あなたの関与は、選別の朝10分と整備の金曜15分、1週間で65分のままです。手放したのは「貼る」の2分だけですが、朝の景色はもう、受注と紹介を待つ土俵のものに変わっています。

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📚 この連載の他の媒体: note(物語編) ・ Zenn(技術編)

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