速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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あなたの商談は、どの局面で落ちますか — 感覚で語る弱点診断を、AIに数え上げさせる

私は営業15年目の速水拓真です。この連載では、営業の定型業務をAIに渡して自分の時間を取り戻す方法を、書籍『商談をAIに鍛えさせろ』の内容に沿って書いています。昨日の前回の記事では、商談を7つの局面に分解して「どこが書ける作業で、どこが人の仕事か」を切り分けました。今日はその先にある問いです。

「あなたの商談、どの局面で落ちますか」

この質問に、あなたは今すぐ答えられますか。答えられるなら、直す場所はもう決まっています。答えられないなら、今日の記事がその答えの出し方です。

「外のせい」で語っているかぎり、何も直らない

法人営業の人にこの質問をすると、答えは決まっています。

「先方の決裁が遅いんです」

「商材が競合に比べて弱くて」

「そもそも予算がない」

全部、外のせいです。そして面白いことに、この3つを語る人は、次の月も次の四半期も、同じ場所で同じように数字が止まっています。外のせいで語っているかぎり、直す場所が特定できないからです。

落ちる場所は、人によって決まっています。初回商談が終わると消える人。提案や見積を送ったあとに消える人。最後の価格で折られる人。私が支援してきた営業チームでこの数え上げをきちんと回すと、失注と停滞の6〜7割が、特定の1〜2局面に集中します。つまり、本気で直すべき弱点は、たいてい1つです。

昨日の記事で紹介したとおり、準備に90分かけていた人の商談歴は、20分の準備に絞っただけで3倍になりました。直したのは「準備のやり方」1つです。全部直す必要はありません。落ちている1つを直せば、数字は動きます。

感覚で語る弱点診断は、当てになりません

ただ、ここに落とし穴があります。人間の記憶は、鮮烈な敗北に引きずられるのです。

人材サービスのAさん(営業歴6年)は、「最終の価格交渉で負ける」と語っていました。直近の記憶にあるのは、商談5回をかけた大口案件が競合に30万円差で敗れた苦い1件。そこで、過去1年の失注9件と停滞4件を書き出して数えてもらいました。

結果は、局面6(最終決裁)で落ちたのは1件だけ。残りの9件は、局面5(先方の内部検討)での沈黙でした。

Aさんは、鮮烈な1件の記憶を、9件の淡々とした敗北で上書きされていたのです。だから、価格交渉の研修をいくら受けても失注は減りません。負けている場所が違うからです。研修を変えても、直す場所が違えば何も直りません。

記憶は最悪の統計係です。数え上げだけが嘘をつきません。

商談の7局面(復習)

弱点は、この番号で特定します。昨日の記事でお出ししたものの再掲です。

  • 局面1 見込み客発掘:見込み客の特定からアポ取得まで
  • 局面2 事前準備:初回商談に向けたリサーチと仮説作り(リサーチと仮説のAI化は第27回)
  • 局面3 初回商談:仮説の提示と課題の深掘り
  • 局面4 提案・見積:具体案と金額の提示
  • 局面5 内部検討:先方の社内検討・稟議への伴走
  • 局面6 最終決裁:価格交渉と契約締結
  • 局面7 断られ後のフォロー:見送った案件の再構築

局面1は前作『見込み客をAIに探させろ』の守備範囲で、リストの組み立てからアポ取得までを道具群で回す話でした。本書『商談をAIに鍛えさせろ』の主戦場は局面3以降、そして多くの営業さんが「ないもの」として取り扱っている局面7です。

落ちは、4つの型に分かれる

数える前に、落ち方の典型を4つ、頭に置いておいてください。

  • 型A「初回で終わる」(局面3):初回商談後に音信不通。記録には自社説明とデモしか残っていない
  • 型B「送って終わる」(局面4〜5):見積や資料を送ったあとに沈黙。打っているのは「お待ちしております」の定型メールだけ
  • 型C「最後で価格に潰される」(局面6):金額が話題に出るのは最終回のみ。価値を合意しないまま価格の段階に入り、値下げか撤退を迫られる
  • 型D「断られた案件から消える」(局面7):断られた瞬間に案件を消し、先方の予算が付いた瞬間に連絡する仕組みを持たない

この4型、本人の目にはどれも「うちの客は決裁が遅い」に見えます。しかし、直し方は型ごとに全く違います。だから、まず数える。感覚ではなく、数で。

道具4:敗因パターン分析 — 失注10件を貼ると、落ちる局面が数で出る

ここからが本題。昨日導入した道具3(前回記事・案件の経緯を貼ると「現在どの局面にいるか」を出してくれる羅針盤)は、1案件ずつの「今どこにいるか」を見る道具でした。今日の道具4は、同じ処理を「負けた案件」にまとめて向ける道具です。

失注と長期停滞の案件を10件並べて貼ると、局面別の落下数の集計と、共通する敗因パターンが返ってきます。

第1作からずっと繰り返しているとおり、プロンプトの中身を読み解く必要はありません。黒箱です。〇〇の部分を埋めて貼るだけ。ChatGPTでもClaudeでもGeminiでも動きます。

準備に50分

  • 対象を選ぶ(10分):過去1年の失注案件と、2か月以上連絡がない停滞案件を合わせて10件。失注だけ、停滞だけでは像が歪みます。「失注7件+停滞3件」くらいの混ぜ方が安定です
  • 経緯を書く(40分):1案件5分、10件で約50分。手の内に残っているものは全部書く。昨日道具3を回した3件の経緯はそのまま流用できます。そのとき書いた「食い違いの理由1行」は、案件の末尾に添えておく
  • 貼って待つ(1〜2分)

1案件の書き出し例は、こうなります。

案件3:食品卸・従業員120名(経費精算クラウド・想定年間60万円)
- 3/6 展示会で名刺交換。翌週、お礼メールのみ
- 3/14 初回オンライン商談(経理部長)。デモ中心で質問はほぼこちらから
- 3/21 帳票サンプルと概算見積を送付。返信なし
- 4/3 電話。「上長と検討中なので待ってほしい」
- 5/20 以降、音信不通(停滞)

ここで「記録がなくて書けない」となったら、それが最初の診断結果です。書き出しことがあなたの仕事で、集計はAIの仕事です。

道具4のプロンプト(コピーして使う)

あなたは法人営業の勝敗分析の専門家です。私の失注・停滞案件を分析し、「私がどの局面で商談を落としやすいか」を診断してください。

[商談の7局面の定義]
1. 見込み客発掘:見込み客の特定からアポ取得まで
2. 事前準備:リサーチと商談仮説
3. 初回商談:仮説の提示と課題の深掘り
4. 提案・見積:具体案と金額の提示
5. 内部検討:先方の社内検討・稟議への伴走
6. 最終決裁:価格交渉と契約締結
7. 断られ後のフォロー:見送り案件の再構築

[私の基本情報]
- 商材:〇〇(例:中小企業向け経費精算クラウド)
- 想定単価:〇〇万円
- 平均商談期間:〇か月
- 主な競合:〇〇、〇〇

[案件]各案件は日付付きの時系列で、末尾に「失注」か「停滞」を記載
案件1:〇〇(業種・規模)
- 〇/〇 〇〇
- 〇/〇 〇〇(失注)
(以下、10件分)

[依頼事項]
1. 各案件について、商談が実質的に落ちた(停滞が始まった)局面を1つ特定する
2. 全体を局面別に集計し、落下数の多い順にランキングを出す
3. 落ちた局面に共通する敗因パターンを最大3つ、該当案件番号を証拠として挙げる
4. 最後に次の4点を、各3行以内で出力する
   - 私の弱点局面(落下数1位)
   - 私の記録から読める根因
   - 来週から実行できる修正行動(1つ)
   - 2位以下の局面に着手すべきでない理由

[注意]
- 私を励まさない。慰めの言葉は不要
- 私の記録に書かれていないことを根拠に使うときは「推測」と明示する
- 「先方が悪い」「競合が強い」という結論は、記録に根拠がない限り出さない

出力の読み方

実行例から、要点を抜きます。

■ 局面別 落下数(10案件中)
1位 局面5(内部検討):4件 — 案件1,3,5,8
2位 局面3(初回商談):3件 — 案件2,6,9
3位 局面6(最終決裁):2件 — 案件4,7
(局面7:1件 — 案件10)

■ 敗因パターン(証拠つき)
1. 「送って終わる」:案件1,3,5,8はいずれも、送付後に先方の社内で誰が動かすかを確認していない。沈黙のたびに打っているのは定型の確認メールのみ
2. 「初回がデモになる」:案件2,6,9の初回商談の記録に、先方の課題や数値が1つも残っていない
3. 「最終回まで金額を話さない」:案件4,7は、金額が登場したのが商談の最終回のみ

■ 弱点局面:局面5(内部検討)
■ 根因:提案の送付後、先方の社内で推進してくれる人を特定する行動を取っていない
■ 修正行動:見積送付後48時間以内に「社内ではどなたにご確認いただく予定か」を1つ質問する
■ 2位以下に着手しない理由:落下数の半分近くが局面5に集中。弱点は1度に1つしか直せない

読み方は単純です。落下数1位の局面が、あなたの弱点。2位以下には、今回手を出しません。

「着手すべきでない理由」まで出力させているのには理由があります。診断を受けた営業さんの大半は「全部直します」と宣言して、3週間後に何も直っていない。1位だけ潰すと、失注の4割が減る計算になります。全部直す人ほど、何も直せません。

もう1つ。出力にあった「送って終わる」「初回がデモになる」といったパターン名は、そのまま商談メモで使えるラベルです。行動を変えるには、変えるべき瞬間にそれへ気づく合図が要ります。「見積を送ろう」という瞬間にこのラベルが浮かべば、送る前に1つ質問を足せる。ラベルは、それだけのためにあります。

道具5:敗因インタビュー — 「なぜ、そこで落ちるのか」を5問で掘る

道具4で「どこで落ちるか」はわかりました。残るのは「なぜ、そこで落ちるか」です。

局面5で沈黙するのにも理由があります。聞き方が悪いのか。提案のあとに先方を動かす発言を何も言っていないのか。そもそも案件の選別から間違っているのか。場所の特定だけで、仕事は終わりません。

道具5は、この根因をAIとの対話で掘る道具です。AIが1回に1つ質問し、あなたが答える。質問は全部で5つ、各質問は「実際にあった商談の具体例」を要求してきます。所要10分です。

外部の研修と何が違うのか。研修は抽象論で終わりますが、道具5は、あなたの案件の経緯を持った状態で質問を組み立てる。だから、抽象論に逃げられません。

道具5のプロンプト(コピーして使う)

あなたは法人営業のコンサルタントです。私の商談の「弱点の根因」を突き止めるため、インタビューを行ってください。

[ルール]
- 質問は1回に1つだけ。私の回答を受けて次の質問を組み立てる
- 質問は全部で5つ。各質問で、実際にあった商談の具体例を要求すること
- 回答が曖昧なら「具体的には、いつ・誰に・何を言いましたか」と掘ること
- 5問が終わったら、次の3点だけを出力する
  1. 根因 — 私の回答に含まれる事実のみから。推測は「推測」と明示する
  2. その根因が悪さをしている局面
  3. 来週から実行する修正行動(1つ、3行以内)
- 私を励まさない。慰めの言葉は一切不要

[前提]
- 弱点局面と敗因パターン:【道具4の出力から「弱点局面・根因」の2行を貼る】
- 対象案件の経緯:【落ちた案件1〜2件を日付付きで貼る】
- 商材と想定単価:【〇〇/〇〇万円】

それでは、1問目から始めてください。

「わからない」が、最良の診断結果になる

回すコツは1つです。「わからない」「覚えていない」と、答えてもいい。 むしろ答えてください。

道具5を回すと、多くの人は3問目あたりで詰まります。よくある質問はこれです。

「見積を送ったあと、先方の担当者は社内に何と言って検討を回す予定でしたか」

答えられないなら、その答えられないこと自体が診断結果です。あなたは、見積を先方の社内で回してもらうための一手を打っていない。先方が動かないのではなく、動ける準備を整えてもらっていない。 この違いに自分で気づくと、打ち手が変わります。

そして、ここに道具5の一番現場向きな使い方があります。インタビューで「わからない」と答えた質問を、そのまま商談メモに書き写してください。それが、次の商談で先方に投げるべき質問の原案です。

道具5を回した直後の営業さんは、誰もがその質問をしたくてたまらなくなります。その勢いで、次の商談で口に出すだけです。

診断を無駄にする3つの罠

数え上げの仕組みは、ここまでで揃いました。ただ、せっかくの診断を無駄にする動きが3つ、決まって出ます。

罠1:AIの励ましに乗る

チャットAIは、利用者さんを褒めようとする性質があります。「素晴らしい商談ですね」という前置きから始まった出力は、読み飛ばして結論だけ拾ってください。読めなかったら「依頼事項4だけを、前置きなしで再出力して」と送り直す。プロンプトに「励まさない」と書いたのは、この罠のためです。

罠2:弱点を2つ以上直す

診断が出ると、2位の弱点も3位の弱点も気になり始めます。無視してください。道具4を回し直すのも、1位の根因を潰し終えるまで不要です。全部直す人は、結局何も直しません。1位を潰すだけで、失注の4割が減る計算なのですから。

罠3:診断結果を商談メモの外に置く

道具4の「弱点局面・根因・修正行動」の3行は、商談メモの先頭に貼ってください(商談前メモ5箱型は第16回)。毎週金曜に道具3で全案件の現在位置を確認するとき、必ずその3行が目に入る位置に置く。読んで終わる診断は、読まなかった診断と同じです。診断は、毎週の作業の隣に置いて初めて機能します。

3道具の運用サイクルは、こう固まります。

  • 道具3:毎週金曜、全案件の現在位置(昨日の記事)
  • 道具4:四半期に1回、弱点パターンの再診断。商材や担当が変われば、落ちる場所は移ります
  • 道具5:道具4の直後、1位の弱点の根因を掘る

ここまでで「商談を7つの局面に分けて・毎週位置を確認し・四半期で弱点点数する」基礎工事が終わります。次章からは、いよいよ局面3(初回商談)の強化に入ります。

今日やること

  1. 経緯を書く(50分):失注案件と2か月以上の停滞案件を合わせて10件、日付付きの時系列で書き出す。1案件5分。今日50分が取れない人は、まず5件から。昨日道具3を回した3件の経緯はそのまま使えます。書き出しの途中で「その後、何もしていない」に気づいたら、それがこの時点での停滞の証拠です
  2. 道具4に貼る(10分):出力の「弱点局面・根因・修正行動」の3行を商談メモの先頭に貼る。2位以下には手を出しません。48時間以内にやるのは、修正行動の1行だけです
  3. 道具5で根因掘り(10分):「わからない」と答えた質問をメモに書き写し、次の商談で同じ質問を先方に投げる

弱点の診断に、才能は要りません。必要なのは、正直に書いた経緯10件と、1時間です。


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(本記事は書籍『商談をAIに鍛えさせろ』1-2「商談の弱点診断」の内容をもとに、速水拓真が加筆したものです)

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