商談を「書ける作業」に分解する — 大きい提案を小さい作業の束に直してAIへ配る
こんにちは。営業15年目の速水拓真です。
前回は、商談の7つの局面のうち、あなたの商談がどの局面で落ちているのかを、AIに数え上げさせて特定する「弱点診断」を書きました。感覚で語っていた「うちの商談は弱い気がする」を、失注件数と落ちている局面の順位に置き換えて、1位の潰しに集中する話です。
→ 前回:あなたの商談は、どの局面で落ちますか(第29回・商談の弱点診断)
この診断をしたあと、必ず壁にぶつかります。
「落ちている局面が分かった。じゃあ、何をAIに渡せばいいんだ?」
今回がその答えの回です。元ネタである『商談をAIに鍛えさせろ』の1-3節「役割分担の設計」は、この問いに1枚の表で答えています。そして、この1枚で元ネタ第1章の基礎工事が終わります。
先に要約を書いておきます。
商談という「大きい仕事」を、そのままAIに渡すか渡さないかで悩んでも、答えは出ません。まず商談を小さい「書ける作業」の束に分解します。分解した1つ1つを、2つの質問(型・信頼)で仕分ければ、「AIに渡せる仕事」のほうが案外多い、という構造です。
失敗は2種類しかない
元ネタには、利用者からの失敗談が2つ並んでいます。細かいものを除くと、AI営業の失敗はこの2種類に集約されるそうです。
1つ目は「任せすぎ」です。機械部品の法人営業をしている読者が、AIに書かせたフォローメールを確認せず、そのまま送信しました。先方の名字が1文字違いのまま残っていた。先方は以降、返信をよこしません。2回の商談で築いたものが、送信1回で消えた。この読者はその後3か月、AIを開いていないそうです。
AIは「確かに読める文章」を作るので、間違いが間違いに見えない。元ネタはこの失敗をこう切り分けています。任せすぎの正体は、AIへの過信ではなく、確認時間を設計していないことです。
2つ目は「渡さなさすぎ」です。もう1人の読者は、導入から3か月、AIにやらせているのは日程調整メールの下書きと、長い資料の要約だけ。「何を渡していいか分からないので、とりあえず文面だけ」という状態で、週のAI利用時間は30分。道具に慣れるための時間のほうが、浮かぶ時間より大きくなります。
私もどちらも経験があります。導入直後は確認をはしょった文面を1回、まともな返事を失ったことがあり、そこから「確認の工程を先に書いてから使う」に変えました。逆に渡さなさすぎで成果が出ず、AIそのものを疑いかけていた時期もあります。どちらも「基準がなかった」のが原因です。渡せるかどうかをその場の判断に任せていると、日によって答えが変わる。そこで、判断そのものを2つの質問に置き換えます。
2軸で決める — 「型」と「信頼」
質問は2つだけです。
質問1:その仕事に「型」があるか
型とは、過去3回以上ほぼ同じ手順でやったことがあり、手順を他人に口で説明できる状態のこと。商談メモの清書には型があります。初めて扱う商材の競合比較には型がありません。型のある仕事はAIに渡せます。同じ手順を踏ませれば、AIは安定して同じ品質を出すからです。
質問2:その仕事で「信頼」が動くか
成果物を先方が直接見る・聞くもので、失敗が先方との関係に残る仕事は「信頼が動く」。提案書、見積回答、断られた案件への返しは信頼が動きます。一方、案件リストの社内整理や日報は動きません。
この2つの答えを交えると、すべての仕事は次の4つの場所のどれかに置けます。
- A(型あり・信頼が動かない)=AIが全部やる。 人間は結果を5分読むだけ。例:案件の現在位置整理(道具3)、商談メモの清書、社内報告のサマリー。
- B(型あり・信頼が動く)=AIが下書き、人間が仕上げる。 例:提案書、フォローメール、見積回答案。人の仕上げは読み直し3分で足りて、確認すべき点は3点だけ。①宛名と役職、②数字、③前回の約束。
- C(型なし・信頼が動かない)=人間が一度、やり方を決める。 決めた直後に型化して(この後に書く道具7)、翌月からAIへ。例:初めて出る展示会の名刺整理、初めての商材の競合表。
- D(型なし・信頼が動く)=人間だけ。 例:商談のその場での判断、断られた直後の返し、値引きの最終判断、クレーム対応。
この4分類には、2つの大事な性質があります。
1つ目、分類は固定ではありません。Cの仕事を一度こなして型にすると、その仕事はAかBに移ります。つまり、AIに渡せる仕事は毎月少しずつ増える設計です。役割分担は一度決めて終わりではなく、毎月線を引き直す作業だと元ネタは言います(引き直しの仕組みが後述の道具7)。
2つ目、判断に迷ったら人間側に置きます。疑わしきは人間の控え。この1文を守るだけで、「任せすぎ」の事故は構造的に起きなくなります。
なお、前回の道具5(1位の弱点の根因を掘るインタビュー)のように「AIが質問を出し、人間が答える」道具は、この4分類の外側に置きます。渡す/渡さないではなく「思考の補助」という別の型の道具で、これをA〜Dに数えると表が曖昧になるからです。
道具6:タスク仕分け表 — 今週の仕事を15分で4分類に置く
理屈はここまで。ここからは、自分の実際の仕事を4分類に置いていく道具です。プロンプトの中身を読む必要はありません。黒箱のまま貼って動かしてください。動いたら勝ちです。
入力の準備(15分)
- 今週やった仕事と来週やる仕事を、カレンダーとタスク管理アプリ(なければ頭の中)を見ながら、1行1仕事で書き出します。目安は30行。
- 各行の末尾に、週あたりの所要時間を分で書きます。「商談メモの清書 90」のように、半角スペースを空けて数字だけを置く。
「30行も書けない」と思う人もいるかもしれませんが、書き出すと必ず埋まります。メール処理、社内会議の準備、上司への報告、リスト更新、経費処理。元ネタは「仕事が少ない人はいません」と断言しています。
プロンプト(コピー用)
あなたは法人営業の業務設計の専門家です。私のタスク一覧を、次の2軸で仕分けてください。
軸1「型」:過去3回以上、ほぼ同じ手順でやった仕事は「型あり」。それ以外は「型なし」
軸2「信頼」:先方が直接見る・聞く成果物で、失敗が先方との関係に残る仕事は「信頼が動く」。社内処理と自分用の資料は「信頼が動かない」
分類は4つです。
A:型あり・信頼が動かない(AIが全部やる)
B:型あり・信頼が動く(AIが下書き、人間が仕上げ)
C:型なし・信頼が動かない(人間が型を作る。翌月以降AIへ)
D:型なし・信頼が動く(人間だけ)
出力は表で、列は次の5つです。
1. タスク名
2. 分類記号(A〜D)
3. 判断理由(25字以内)
4. AとBに限り、AIに渡すときの最初の指示文を、そのまま使える1文で書く
5. 週あたりの所要時間(私の申告値)
ルール:
- 判断に迷うタスクは、信頼が動く側(BまたはD)へ置く
- 表の後に、A分類の合計時間と、B分類の申告時間の6割(AIが下書きを担う分)を、分で集計して示す
=== タスク一覧(1行に1つ、半角スペース、週あたりの分数)===
(ここに貼る)
出力のサンプル(元ネタ記載の例のまま)
30行のうち、次の5行はこう置かれます。
- 商談メモの清書 → A(型あり・社内処理)。指示文:「以下の文字起こしから商談メモを時系列で作ってください」/週90分
- 案件一覧の週次更新 → A(型あり・社内処理)。指示文:「以下の経緯から各案件の現在位置を1行で」/週40分
- 初回商談の提案書 → B(型あり・先方が見る)。指示文:「以下の商談メモから提案書の構成案を作ってください」/週120分
- 展示会の名刺整理 → C(型なし・社内処理)。次回、型化してから/週60分
- 断られた案件への返信 → D(型なし・信頼が動く)。人間が書く/週30分
出力の読み方
この例だと、Aの2業務(90分+40分)で週130分がほぼ丸ごと浮き、Bの提案書は下書き6割ぶんの約70分が浮きます。合わせて週3時間強です。
Bが出力した行に付いてくる指示文は、そのまま下書きの依頼文として使えます。指示文のあとに、商談メモなどの元資料を貼るだけです。
30行のうち、A分類に振れるのは経験上8〜12行。初回の削減は週2〜4時間が現実的な数字です。ただし、元ネタは「これを成果として祝ってはいけない」と言います。半年後の目標は週5時間で、その差分は次の道具7で埋めるからです。
なお、前作『営業の仕事をAIに任せろ』で作ったリサーチ道具(社名を入れると、事業内容・最近のニュース・接点候補を1社5分でまとめる道具)をすでに運用している人は、その運用もこの表に1行として載せて、A分類に置いてください。前作と本書の道具が、同じ1枚の表で回るようになります。
道具7:型化ツール — 「自分にしかできない仕事」を月4個減らす
C分類(型なし・信頼が動かない)は、「今はまだあなたにしかできないが、来月にはAIに渡せる」仕事です。そこからA/Bへ移すための道具が道具7。やることは、仕事をしながら3分喋るだけです。
手順(1回8分)
- C分類の仕事を実際にやるとき、スマホのメモアプリで音声入力を起動します。録音ではなく音声入力です。喋ったことがそのまま文字になるので、文字起こしの工程が要りません。
- 作業しながら喋ります。「今、名刺の会社名を一覧の2列目に入れた。次に、その会社のWebサイトを開いて業種を確認した。業種が複数あるときは、直近のニュースで判断した」——何を見て、何を開き、何順で入力し、どこで自分が判断したか。これで3分です。
- 喋った文章を、次のプロンプトに貼ります。5分で3点セットが出ます。
プロンプト(コピー用)
私は法人営業です。以下は、私が行った業務の口述メモです。このメモから、次の3点を作ってください。
1. 手順書:次回からこの業務をAIにやらせるための手順。番号付きのStepにして、各Stepには「何を見るか/何を入力するか/どこで判断するか」を入れる。口述に含まれていない判断基準があれば、その箇所に[要確認]と付ける
2. 再利用プロンプト:手順書を、次回から私がAIに渡す指示文に書き直したもの。私が入力する箇所は === === で囲む
3. 人間が残す判断点:この業務で人間が必ず確認すべき箇所を3つ以内で。理由も1文ずつ付ける
=== 口述メモ ===
(ここに貼る)
出てきた手順書と再利用プロンプトは、メモアプリでもメールの下書きフォルダでもいいので、「手順書」という1つの置き場所に保存します。翌月、同じ仕事を再利用プロンプトでAIに投げる。それでその仕事はもうCではなくAです。
ペースは週1個。3分喋って5分待つだけなので、誰でも守れます。月4個、半年で24個の仕事がCからA/Bへ移る計算です。移った仕事は道具6の表で自動的にAに再分類されるので、分担表を手で更新する必要はありません。
1つだけ注意があります。口述には顧客の金額や社内の機密が出ることがあります。貼る前の置換ルールは前作と同じです。社名は「◯◯社」、金額は「□□万円」に書き換えてから貼る。手順の再現性は社名を伏せても落ちないので、迷ったら伏せて貼る、で統一してください。
受け取り時刻と、浮いた時間の行き先
分担表で一番抜けやすいのが「受け取り」の設計です。
AIは依頼すれば何時間でも働きますが、成果を受け取る人間の時間が決まっていないと、出力は読まれないまま溜まります。読まれないAIの仕事は、やっていないのと同じです。
だから、A分類の仕事には必ず受け取り時刻を書きます。
- 案件の現在位置整理(道具3)→ 金曜16時に5分読む
- 商談メモの清書 → 商談翌朝に2分読み、不足を1行追記する
- 週次報告のサマリー → 月曜朝、報告の5分前に読む
受け取り時刻を書けない仕事は、今週はAに移さずBに置きます。「いつ受け取るか決まっていない仕事」は、例外なく塩漬けになるからです。
そして、浮いた時間の行き先を先に決めます。AI化で週2時間が浮いたなら、その2時間を何に使うか、先にカレンダーに入れてください。入れなければ、浮いた時間は即座に別の雑務に吸われます。
元ネタの約束は「AIに渡した分、商談とその準備に厚みを移す」ことです。厚みの受け皿はD分類、つまり商談の現場と商談前の準備に固定します。
私は第27回に「商談の勝敗は、会う前に9割決まっている」という話を書きました。準備の時間が90分→20分に縮まった人と、成約率が上がった人の共通点は、縮めたぶんを他の雑務に溶かさず「会う前」に注ぎ込んでいたことでした(→ 第27回:商談の勝敗は、会う前に9割決まっている)。A分類に仕事を渡して浮いた時間の行き先が、この「会う前」の厚みです。商談前の5分で「何を渡すか」を先に決める話とも、そのままつながります(→ 第16回:商談が始まる前の5分で決めていること)。
チームで回すときは、1on1で2つだけ見る
この4分類は、チームの共通語としてそのまま使えます。メンバーに道具6を週1回回してもらい、1on1で表を見せてもらう。見るポイントは2つです。
1つ目、D分類の合計時間。Dは商談・判断・人間関係に使う時間なので、合計が週20時間を切るメンバーは、商談より事務処理をしています。表を読み返すと、Aに置ける仕事がDに残っていることが多く、だいたい週3〜5時間ぶん見つかります。
2つ目、C分類の滞留。Cに置かれたまま2か月動いていない仕事は、型化されていない仕事です。理由を聞くと「手順が自分でも言葉にできない」と返ってきます。そこで、その場で道具7の口述をやらせてみてください。「言葉にできない」と言っていた人が、3分で喋れてしまうことが多い。型化が止まっている原因は能力ではなく、開始の1分です。
数字で言うと、5人チームで1人あたり週2時間のA移管が起これば、チームで週10時間、月40時間です。ほぼ1人ぶんの稼働になります。残業の削減ではなく、商談時間への振り替えに使うのが本書流です。
今日やること
- 今週やった仕事と来週やる仕事を30行、各行に週あたりの分数を付けて書き出してください(15分)。書けたら道具6に貼り、A分類の指示文から2つ選び、今日、実際にAIに投げてください。今日のゴールは「AIに渡した仕事2つ」です。1つでも構いませんが、0ではこの節が絵に描いた餅になります。
- C分類の仕事から1つ選び、「次にやるとき、スマホで3分喋る」と自分のメモに1行書いてください。道具7に貼るのは次回です。今日は宣言だけで結構です。
- A分類のすべての仕事に受け取り時刻を書いてください。金曜16時、商談翌朝、月曜朝、何でも構いません。時刻を書けない仕事は、今週はBに置きます。
まとめ
元ネタの締めに、こうあります。「役割分担の設計にセンスは要りません。必要なのは、タスク30行と15分、そして受け取り時刻だけです」。
私もこの連載30回を書きながら、似た結論に届き続けています。商談をAIに鍛えさせたいなら、まず商談を「書ける作業」の束に分解する。分解した1つ1つを、型と信頼の2軸で仕分ける。渡せるものはAIへ、残るものは商談の厚みへ。判断に迷ったら、疑わしきは人間の控え。
これで元ネタ第1章の基礎工事は、今度こそ完成です。次回からは第2章に入り、いよいよ局面3(初回商談)の強化です。商談の前にAIが何を準備できるのか、商談という場で自分が何をやるのか。連載も、いよいよ「会って話す」ことの世界に入っていきます。
🎁 読者特典3点セット(無料)
- ① 提案書3層プロンプト — 40分で6枚の提案書を出す、貼って動く完全版
- ② 調査カード3分プロンプト — 1社30分の企業調査を3分に(5社まとめ処理つき)
- ③ 商談前メモ5箱テンプレート — 商談5分前に読める1枚(AI整形プロンプト+記入例つき)
メールアドレスだけの登録で3点すべてすぐ受け取れます(解除はいつでも)。
→ 読者特典3点セットを受け取る(無料)
📗 シリーズ全3冊: 営業の仕事をAIに任せろ ・ 見込み客をAIに探させろ ・ 商談をAIに鍛えさせろ
【第2作までの連載を読む】
第1〜8回が『営業の仕事をAIに任せろ』の4領域(リスト収集・企業調査・文書作成・フォローアップ)の実録ログ、第9〜26回が『見込み客をAIに探させろ』の発掘の深掘り、第27回から本作『商談をAIに鍛えさせろ』の現場に入っています。商談の7局面に分解する話は以下から。