速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
はてな

商談前ブリーフ — 相手の課題を3分で仮説化する

私は営業15年目の速水拓真です。前回の第30回では、大きい提案を小さい作業の束に分解して、どれをAIに配るかを決める話を書きました。そのとき末尾で、「第2章に入り、いよいよ局面3(初回商談)の強化。商談の前にAIが何を準備できるのか」と予告しました。今日からその第2章です。

第2章で作るのは2つ。AIがやる「商談の前」の準備と、あなたがやる「商談の中」の動きです。その一本目が、商談の直前に仕上げる1枚の紙です。中には相手の課題の仮説が3つ書いてあります。商談前ブリーフと呼ぶことにします。3分で作れるところまで作ります。

初回商談の直前に、3つの失敗がある

商談前の準備を見ていると、ほぼ3パターンに分かれます。

情報暗記型。 30分かけて相手のWebサイト、プレスリリース、決算資料を読み込みます。読んだ知識の9割は、商談で一度も使いません。初回商談の30分で創業何年の沿革の話になることは、ほとんどないからです。1商談30分、週10商談としてこれを続けると、月に20時間の空振りです。

説明練習型。 自社商品の説明を完璧に仕上げてから商談に入ります。ただ、初回商談で相手が求めているのは商品説明を聞くことではなく、自分の話を聞いてくれる人です。練習した説明は「次回のご提案時に」と持ち越され、練習時間がそのまま空振ります。

ゼロ型。 何も準備せずに入ります。質問は「御社の課題は何でしょうか」の丸投げで、聞かれた相手は「色々ありまして」と濁します。濁された担当者が打てる手は商品説明しか残っておらず、結局は説明練習型に合流します。

3つに共通するのは、相手の課題についての仮説を持たずに商談に入ることです。

仮説は「当てる」ためではなく、「話させる」ためのもの

今日の本論の中で一番大事な場所なので、短く書きます。

仮説がなければ、質問はすべて相手の発言待ちになります。「御社の課題は何ですか」が精一杯の丸投げで、相手は「色々ありまして」の濁しを返し、あなたは次の質問を探す間に沈黙が流れます。

仮説があれば、質問は検証に変わります。「80店舗規模のチェーンですと、シフトは今も店長さんが手作業で組んでいらっしゃるんですか」と聞くのと、「御社の課題は何ですか」と聞くのとでは、相手が話し出す量がまるで違います。仮説が当たっていれば、相手は「なんで分かるんですか」と食いついてきます。外れていれば「いえ、うちは別の仕組みでして」と訂正してくれます。この訂正こそ、丸投げの質問で1時間話を聞いても出てこない情報です。

つまり仮説の役割は、当たることではなく、相手に話させることです。この認識は商談編全体で使うので、先にここを固定しておきます。

商談前ブリーフは、1枚・600字・6項目

ブリーフの中身を、6項目・600字以内と決めます。

  • ① 会社の状況(3行以内。事実のみ)
  • ② 業界に働く圧力(2行以内)
  • ③ 課題仮説 3つ
  • ④ 仮説ごとの確認質問 3つ
  • ⑤ 仮説が外れたときの予備質問 2つ
  • ⑥ この商談で最も聞き出したいこと(1行)

仮説は断定形で書きます。「〜かもしれません」ではなく「〜のはず」です。「かもしれない」は読む側の判断を止める書き方で、外れても外れたと分かりません。外れたと分からない仮説には、検証する価値がありません。「のはず」なら、外れたときに明確に外れます。

作成時間は3分。内訳は入力30秒、AIの生成90秒、あなたの直し60秒です。初回は貼り付けも含めて10分かかりますが、3社ぶん作れば3分に収まります。

3分という短さには意味があります。急に決まった商談、前日夕方に明日の枠へ滑り込んできた商談でも、準備が間に合うからです。大事な一部の商談だけ60分かけて準備するより、全商談に3分の準備が付く方が売上に効きます。作るのは前日夕方か当日朝。ブリーフは鮮度が命で、1週間前に作ったものは作り直します。

なお、第2作『見込み客をAIに探させろ』で扱ったのは、見込み客の公開情報をAIに収集させる作り方です。この節はその1つ先、集めた情報を「仮説」に変換する工程にあたります。第2作をお持ちでない方でも、今日紹介する道具を実行するときにWeb検索をONにすれば、同じ結果を出せます。

道具8: 課題仮説ブリーフ生成プロンプト

道具8です。中身の理屈は読み飛ばして構いません。コピーして、入力欄を埋めて、投げる。黒箱のままで動きます。AIは、これまでの連載で使ってきたAIと同じ画面で構いません。道具は一度どこかに保存すれば、以後は貼るだけです。

あなたは20年の経験を持つ法人営業のコンサルタントです。
次の入力情報から、初回商談用の「課題仮説ブリーフ」を作成してください。

【入力情報】
- 相手会社名:{例:みなとフーズ}
- 業界と規模:{例:飲食チェーン、80店舗、従業員約1,200名。分からない欄は「不明」}
- 商談のきっかけ:{例:紹介。「◯◯の相談が届いている」など。文面があれば原文を貼る}
- 会う人:{役職と部署。分からなければ「不明」}
- 自社の商品・サービス:{1〜2行で}

【出力形式】
1. 会社の状況:3行以内。数字と事実のみ。推測を含めない
2. 業界に働く圧力:2行以内。人手不足、法規制、原材料高など、その業界全体が今さらされている変化
3. 課題仮説:3つ。各仮説は「◯◯(根拠となる事実)のため、◯◯(誰)は◯◯(困りごと)のはず」の形で書く
4. 確認質問:仮説1つにつき1問、計3問。はい/いいえで終わる質問は禁止。相手が事情を話したくなる質問にする
5. 予備質問:仮説3つがどれも外れていそうなときに使う質問を2問
6. この商談で最も聞き出したいこと:1行

【ルール】
- 事実と推測を区別し、推測部分には(推測)と付ける
- 「〜かもしれない」ではなく「〜のはず」で書く
- 自社商品の宣伝文句は一切入れない
- 数字に自信がない場合は数字を出さず「近年」「相当数」で書く

使い方は30秒・90秒・60秒の3工程

工程1(30秒):入力欄を埋める。 分からない欄は、空欄にせず「不明」と書きます。空欄のままだとAIが埋めたくなって、架空の事実を作ります。

工程2(90秒):AIに生成させる。 Web検索をONにしてから投げてください。検索へ切り替えるのは、AIの画面の切替1箇所だけです。公開情報が拾えれば「1. 会社の状況」に反映されます。

工程3(60秒):直す。 直し方の型は、後の見出しで書きます。

出力例 — 飲食チェーン80店舗のケース

きっかけ欄に「紹介。シフト作成の工数を何とかしたいとの話が本社から届いている」、会う人に「本社管理部 部長」、自社商品に「クラウド型の勤怠・シフト管理システム。多店舗の一元管理と法改正対応が特徴」と埋めた場合の出力を、要約して示します。

    1. 会社の状況:飲食チェーン80店舗を展開。従業員約1,200名(推測:アルバイト比率が高い)
    1. 業界に働く圧力:飲食業界の人手不足の長期化。最低賃金の毎年改定と、勤怠まわりの法定要件の強化
    1. 課題仮説:
  • 仮説1:「シフト作成の工数」という発言があるため、店長がエクセル等で手作業のシフト作成をしており、現場離れの原因になっている(推測)
  • 仮説2:店ごとのシフトが一元化されていないため、本社は店舗別の人件費を月末まで把握できず、早めの対策が打てない(推測)
  • 仮説3:最低賃金の毎年改定を80店舗ぶん個別に管理しているため、時給の見直し漏れや割増し賃金の計算漏れが、賃金未払いのリスクになっている(推測)
    1. 確認質問:
  • 「シフトは今、どなたがどんな形で組んでいらっしゃいますか」
  • 「店舗ごとの人件費が本社で見えるまで、どのくらいのタイムラグがありますか」
  • 「賃金改定のとき、80店舗ぶんの時給の見直しはどこでチェックされていますか」
    1. 予備質問:
  • 「管理部の業務の中で、いちばん時間を取られているのは何ですか」
  • 「今回お話が進んだ経緯を伺ってもいいですか」
    1. 最も聞き出したいこと:シフト作成に月何時間かかっており、誰がやっているか

1点だけ、強い注意があります。AIは事実を捏造します。 出力に「◯◯年に新工場」のような、聞いたことのない固有名詞や数字が出たら、商談の場で断定して使わないことです。事実が違えば、その質問だけで信頼を失います。出てきた事実は「◯◯と伺っていますが、違っていたら教えてください」の確認形で使う。これを徹底すれば、捏造が出ても商談は壊れません。

直しの60秒 — 削る、並べる、直す、足す

道具8の出力は8割方そのまま使えます。残り2割を直すのが、あなたの60秒です。

削る(20秒)。 あなたの業界知識で、明らかに外れている仮説を消します。AIは業界横並びの一般論で仮説を出すので、現場を知るあなたの方が正しい箇所が必ずあります。ただし、「外している」と断定できない仮説は消しません。断定できない仮説は、検証する価値があるからです。

並べる(20秒)。 残した仮説を当たっていそうな順に並べ替え、最初の1つに印を付けます。商談は30分しかなく、全部の仮説は確かめられません。最初に検証する仮説を1つ決めておくことが、商談中のブレを止めます。

直す(20秒)。 確認質問を口に出して読み、硬い言い回しを自分の言葉に直します。AIの質問文をそのまま読むと、商談ではなく面接になります。「シフト、今どなたがどんな形で組んでますか」くらいの崩しで構いません。

最後に1行だけ足します。自社の類似顧客で知っている実例です。たとえば「同規模のチェーンは、店長のシフト作成が月20時間を超えていた」のような、AIが知らないあなたの持ちネタ。仮説の中でもっとも強い武器は、AIの一般論ではなく、あなたが知る実例の1行です。

道具9: きっかけ文面の裏を、先に読ませる

初回商談には、たいてい「きっかけの文面」があります。問い合わせメール、紹介元から回ってきたメモ、展示会で受け取った要望メモです。文面には表の用件と、裏の事情の二層があります。原文をそのまま道具8のきっかけ欄に貼るより、先に裏まで読ませた出力を貼る方が、仮説の精度が上がります。

道具9です。番号は道具8の2つ後ですが、使う順番は逆。道具9で文面を整理し、その出力を道具8のきっかけ欄に貼り、道具8を実行します。

あなたは法人営業のコンサルタントです。
次の文面は初回商談のきっかけです。表の用件と、裏に読める事情を分けて整理してください。

【文面】
{メール全文、またはメモの全文をそのまま貼る}

【出力形式】
1. 表の用件:相手が表向きに言っていること(1行)
2. 裏に読めること:3つ。各1行。根拠となった文面の表現を「」で引用して付ける
3. 深刻度:今すぐ困っているのか将来に備えているのか。根拠とともに1行で判断
4. 相手が気にしているはずのこと:価格、導入期間、他社事例など判断材料にしやすそうな項目を3つ
5. 商談で触れない方がよさそうなこと:文面から読み取れる、相手が避けていそうな話題を1〜2行

【ルール】
- 引用のない推定は書かない
- 2.の3つのうち1つは楽観の読み、1つは悲観の読みを含める

たとえば、きっかけが「お見積もりをお送りいただくことは可能でしょうか」の1行だけだったとします。道具9に貼ると、こう返ってきます(要約)。

    1. 表の用件:見積もりの受領
    1. 裏に読めること:
  • 検討が社内で前向きに進んでいる(楽観の読み。根拠:初回連絡で「見積」という具体的な成果物を指定している)
  • 依頼者は窓口で、内部に話の主がいる可能性(根拠:先方の事情や課題が一文も書かれていない)
  • 要件が固まらないまま価格比較になっている恐れ(悲観の読み。根拠:利用人数や現在の環境の記載がない)
    1. 深刻度:判断できない。緊急性を示す表現がなく、炎上案件の様子ではない
    1. 相手が気にしているはずのこと:価格表、導入期間、同業他社の導入事例
    1. 触れない方がよさそうなこと:予算と決裁権の直撃質問。窓口の立場を慮って、2回目以降か紹介元経由で確認する

この「2. 裏に読めること」を道具8のきっかけ欄に貼って実行すると、仮説の根拠が「文面の引用」に変わります。引用ぶんの根拠を持つ仮説は外れにくい。道具8単体でも仮説は出ますが、道具9を1回通すだけで、初回商談の質がもう1段上がります。

3分を守るための2つの決めごと

決めごと1: ブリーフは600字以内。 AIは書きすぎます。600字を超えたら「600字以内に削って。削れない項目の優先順位も付けて」と1行で返すだけで十分です。1枚に収まらないブリーフは、商談の場で読まれません。

決めごと2: 仮説の正解率を追わない。 初回の正解率は3つ中1つで十分です。外れた仮説の訂正は商談メモに残しておき、同じ相手との2回目の商談前に、道具8へ「前回の仮説と検証結果」を貼って作り直します。これでブリーフは相手ごとに育っていきます。仮説の精度を上げるのはAIではなく、商談の結果を見て削る・足すを続けるあなたです。

受け取り時刻を決めておく

第30回では、AIが作った提案資料の受け取り時刻を決めておく話を書きました。金曜の夕方に週ぶんを受け取って、翌朝2分の通しで始動する、月曜の報告前の5分で目を通す、という型です。

商談前ブリーフにも、受け取り時刻を決めてしまいます。

  • 前日夕方に商談が決まったときは、その夜の枠で道具8を実行する
  • 当日に入る商談は、朝の最初の10分に生成と直しを置く

3分(初回は10分)の作業を時刻として固定しておくと、急な商談でも準備が実行されます。決めごとにしていないと、前が混んでいるときに限って準備が削られやすいので、ここも道具と同じで「いつ・どこでやるか」まで決めてしまいます。

なお、商談の5分前に読む1枚としては、読者特典③の商談前メモ5箱テンプレート(第16回で書いた型)があります。役割は分けてください。ブリーフが「相手の課題を先に読む」1枚、メモ5箱が「自分が聞いて返す」照合用の1枚。前日にブリーフを作り、5分前はメモ5箱を開く。この2枚で初回商談の入りは固まります。

今日やること

  1. 来週入っている初回商談を1つ選び、道具8を貼って入力欄を埋めて実行します(初回は10分見てください)。過去の商談の相手でも構いません。ゴールは「ブリーフ1枚」です。出力が600字を超えていたら「600字以内に削って」と返すだけで構いません。
  2. 出てきた仮説3つに、削る・並べる・直す・足すを通します(1分)。最初に検証する仮説1つに印を付けるまでがゴールです。
  3. 商談のきっかけの文面(メールや紹介メモ)があるなら、先に道具9を通してから道具8のきっかけ欄に貼ってください。1行だけの文面でも構いません。文面がなければ、今日は道具8だけで大丈夫です。

次回は、この1枚を商談の中でどう使うかです。ブリーフをどう持って入るか、相手の訂正をどう拾うか、商談中のメモをどう取るか。使い方が悪いと「質問リストを読み上げるだけの商談」になってしまうので、そこを次に作ります。

🎁 読者特典3点セット(無料)
- ① 提案書3層プロンプト — 40分で6枚の提案書を出す、貼って動く完全版
- ② 調査カード3分プロンプト — 1社30分の企業調査を3分に(5社まとめ処理つき)
- ③ 商談前メモ5箱テンプレート — 商談5分前に読める1枚(AI整形プロンプト+記入例つき)

メールアドレスだけの登録で3点すべてすぐ受け取れます(解除はいつでも)。
→ 読者特典3点セットを受け取る(無料)

📗 商談をAIに鍛えさせろ(Amazon・Kindle・読み放題対象)

📗 シリーズ全3冊: 営業の仕事をAIに任せろ ・ 見込み客をAIに探させろ ・ 商談をAIに鍛えさせろ

📚 この連載の他の媒体: note(物語編) ・ Zenn(技術編)

営業×AI実践シリーズ 全3作

Kindle Unlimited 読み放題対象 — 追加料金なしで読めます

← 記事一覧へ

← 商談を「書ける作業」に分解する — 大きい提案を…商談中の使い方 — ブリーフを「5個の質問」に変… →