「最初の1本を始めたのに、3日で続かなくなった」に答える — 意志ではなく、商談にくっつける
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私は営業15年目の速水拓真です。
前回は「道具が多すぎて、どれから始めればいいか分からない」という声に、最初の1本の選び方で答えました。そして、選び方の次に決まって来るのがこの質問です。いただいた声の型をそのまま使って、こう設定します。
先週の記事を読んで、事前ブリーフを始めてみました。1日目は10分かけて書けたのに、2日目は忙しくて飛ばして、3日目にはもう書かなくなっていました。自分は意志が弱いタイプなんだと思います。このやり方は、私に合っていないのでしょうか。
まず最初にはっきり言っておきます。続かなかったあなたは、何も間違えていません。意志の問題でもありません。 間違っているのは道具の置き場所です。事前ブリーフを「毎日やること」の欄に置いた。それだけが、続かない原因です。道具は「毎日」にくっつけるものではなく、「商談」にくっつけるものです。今日は、この置き場所を直します。
「3日で続かない」には、理由が3つ決まっている
15年営業をやってきて、新しい仕組みを3日でやめてしまう人を何人も見てきました。理由は、いつも次の3つのどれかです。道具が悪いのでも、AIが悪いのでもありません。
原因①:元資料がないまま、書こうとする
2日目に書けなくなった人の前には、たいてい何もありません。白い画面の前に腰を据えて「よし、書こう」とする。ここが最初の罠です。
第31回に書いた原則を思い出してください。AIは事実を捏造します。 元にする情報を渡さずにブリーフを書かせると、相手の会社の状況や課題を、AIがそれっぽくでっち上げて600字に整形して返してきます。読みたくなるくらいきれいな文が返ってくる。でも中身が空なので、商談で一度も役に立たない。役に立たなかったものを、人は何日も続けません。
直し方は簡単です。書く前に、元資料を貼る。 先方のウェブサイトの一文、ニュースリリースひとつ、前回の商談の議事録。それを30秒でコピーして、ブリーフの前に置くだけです。ブリーフの作成時間は、入力30秒・生成90秒・直し60秒の3分(初回は10分。第31回)ですが、この最初の30秒が、3分のなかでいちばん効きます。
元資料を貼ることには、もう一つ効果があります。裏読みです(第31回)。先方が本当に書いた文面をAIに渡すと、仮説の根拠が「AIの想像」から「先方の言葉の引用」に変わります。仮説は外れにくくなる。元資料の貼り忘れは、仮説が宙に浮く原因そのものです。
そして、議事録を忘れないでください。第35回の原則がここで効きます。議事録に残っていないことは、聞けていないのと同じ扱い。 前回の商談の議事録を一度も開かないまま今回のブリーフを書くと、それは「続き」ではなく「1からのやり直し」になります。ブリーフの仮説3つは、前回聞けなかったことから作るものです。
原因②:出力をそのまま使う
「1日目は10分かけて書けた」という人は、たいていこちらにはまっています。AIの出力を、直さずにそのまま使った。 出てきた600字を読んで「なんとなく違う気がする。でも直すのは面倒だ」。そこで終わらせると、ブリーフはずっと「AIが書いた他人の文」のままです。自分の商談に地がついていないから、読み返す気になれない。だから2日目に開かなくなる。
直し方は第31回のとおり、60秒で足ります。 削る20秒・並べる20秒・直す20秒。余分な一文を削り、聞きたい質問を上に並べ、言い回しを自分の口に直す。この60秒で、文は「AIの初稿」から「自分のブリーフ」に変わります。
第35回に書いたとおり、たたき台を直すほうが、白紙から書くより3倍速い。 この原則は、続けるための原則でもあります。直すのは面倒な後処理ではなく、道具が自分のものになる瞬間だからです。直すときの掟は第49回と同じです。一般論を1行も足さない。 足していいのは、自分の現場の一言だけ。削るのは、AIの一般論のほうです。
原因③:1本で全部やろうとする
3つ目が、いちばんよくある原因です。最初の1本が決まった勢いで、全部を毎日やろうとする。 ブリーフも、議事録も、SFA(案件の記録を管理する社内システム)の入力も、週次レポートも、毎日。「毎日全部」と決めた瞬間に、その計画の失敗はもう確定しています。
- 3冊のあとがきに書いた大原則です(第54回)。全部を一度に回そうとしない。
- 全部入りのリストは、誰も見なくなります。第45回に書いたとおり、全部リストのTODOは、2週間で誰も見なくなる。
- 振り返りを「意志」として人間に課すと、3週で廃れる——第53回の警告です。
直すのは道具ではなく、置き場所
ここまでの3つを並べると、気づくことがあります。直すべきなのはブリーフの書き方ではなく、道具の置き場所だということです。
「毎日続ける」は意志の仕事です。意志は、忙しい週に必ず負けます。その一方で、「商談の前夜」「商談が終わった直後」「金曜の退勤前」「月曜の朝」——この4つは、意志が弱くても必ず来ます。商談は予定表に書いてあるからです。道具をここに置けば、「今日やるか、やめるか」という判断そのものが消えます。
私が3冊で設計した置き場所を、もう一度並べます。
- 商談の前夜:3分で翌日のブリーフ1枚(600字・6項目)。慣れれば朝15分で、4件ぶんの準備が整います。手作業で1件25分×4件=100分かかっていた準備が、前夜3分+朝15分の18分に変わる設計です(第52回)。
- 商談の直後:出口で60秒の3行メモ(第53回)。SFAへの記録も道具に任せれば、1件20〜30分が5分に縮みます。
- 金曜の退勤前:10分で一週間の記録を読み、指示文に一行を足す(第53回)。
- 月曜の朝:棚卸し10分。止まっている案件を洗い出します(第45回)。
見てください。この並びに「毎日」はひとつもありません。 商談のある日にだけ、商談の前後で2回。週の定点は、月曜と金曜の10分ずつ。これで循環は回ります。第55回で書いたとおり、商談がある日にだけ商談にくっつける。商談がなければ、やらない。 それで正しいのです。
「商談がない週が続いたら、循環は死ぬのでは」と心配になるかもしれません。死にません。3週間ブリーフを書かなくても、次の商談の前夜に3分書けば、循環はまた動きます。三つの土台(準備書・応答集・商談記録)は、毎日の積み上げではなく、商談の数だけ積み上がるものだからです。あなたが週3本商談を持つなら、ブリーフも週3枚で十分です。
最後に、物差しも取り替えてください。「毎日書けたか」で自分を裁くのはやめて、「今月、商談の前夜に何回書けたか」で数える。週1回しか書けなくても、商談の数だけ前夜が守られていれば、道具は着実に資産になっています。続くかどうかは、意志ではなく、置き場所と数え方で決まります。
今日やること
- 詰まっていた原因を、3つから1つだけ選んで直す(①元資料を30秒で貼る ②出力を60秒直す ③1本だけに絞る)
- 「毎日やる」は今日でやめる。代わりに「商談がある日にだけ、商談にくっつける」と決める
- 明日以降の商談を1本選ぶ。前夜に3分(初めての1回目なら10分)で、ブリーフ1枚・600字・6項目。仮説3つ、質問3つ
- ほかの道具は、この循環が回り始めてからで遅くありません
- それでも詰まったら、この記事のコメントで教えてください。「3つの原因のどれで、どこで詰まったか」。それがこの連載の次のテーマになります
意志が弱くて続かない営業は、いません。続かなかった道具は、置き場所が悪かっただけです。始めたのに3日で止まったあなたは、失敗したのではなく、「毎日」という間違った場所に道具を置こうとしただけです。商談の横に置き直す。それだけで、明日からは意志の話ではなくなります。
商談の横に置き直した今日は、ここまでで合格です。
この記事の元になった書籍では、道具を「毎日続けるもの」ではなく「商談にくっつけるもの」として、事前ブリーフから週次の棚卸しまで、全工程に位置を配置してあります。
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