速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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「部下やメンバーに勧めたのに、使ってくれない」に答える — 見せる順番と、1本だけ約束させる型

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私は営業15年目の速水拓真です。

第55回では「道具が多すぎて、どれから始めればいいか分からない」に、最初の1本の選び方で答えました。第56回では「始めたのに、3日で続かなくなった」に、意志ではなく道具の置き場所で答えました。この順番で読んでくださった方なら、次に来る質問の見当はもうついているかもしれません。Q&Aを始めて3回目の今日は、その3つ目に先回りしてお答えします。

今回の質問

「自分は使い始めて、効果が出てきた。だから部下やメンバーにも勧めた。でも、形だけやる人と、まったく手を出さない人が出た。どう勧めればいいのか」

(この連載に届いた声をそのまま引用するのではなく、前回・前々回の流れで次に来ると見込まれる質問として、想定して設定しています。)

自分ひとりで回し始めた人が、次にぶつかるのはたいていこの壁です。私自身、チームに広げようとしたときに同じ失敗をしました。あのとき私が言われた一言は「忙しくて、そこまで手が回りません」でした。当時は相手のやる気のせいだと思っていましたが、後から分かったことは逆です。使ってくれない理由は、たいてい3つに絞られます。しかも3つとも、相手のやる気の問題ではありません。「指示のしかた」「見せかた」「型の置き場所」——こちら側の設計の問題です。

  1. 指示が「全部やりなさい」型になっている
  2. 数字で見せていない
  3. 型があなた個人の手元に留まっている

以下、順番に直し方を書きます。

理由①:指示が「全部やりなさい」型になっている

私の著書3冊には、72本の道具(プロンプトとテンプレート)があります。「全部やっておいて」と言われた人は、何から始めていいか分からなくなって、結局何も始めません。第55回で書いたとおり、迷いの正体は物差しのなさです。あなたが「どれから始めるか」で迷ったのと同じ場所に、勧められた側も立たされているのです。

しかも「全部」は、人間の仕組みに反します。全部を書き出したTODOリストは、2週間で誰も見なくなると第45回で書きました。3冊のあとがきにある教えも同じです——全部を一度に回そうとしない(第54回)。ひとりで回す人に効いた「全部」は、複数人に回す瞬間に毒になります。

直し方は、2つだけです。

  • 最初の1本に絞る。 第55回の物差しを使って、その人の「いちばん重い仕事」から1本だけ選びます。見込み客探しで困っている人にはリスト収集の1本、商談の中身で困っている人には事前ブリーフの1本、文章づくりで困っている人には提案書の1本。選ぶのは本人です。あなたは一緒に選ぶだけです。
  • 「毎日」を約束させない。 第56回のとおり、道具は商談にくっつけます。商談の前夜3分、直後60秒、金曜の10分、月曜の10分。この並びに「毎日」はひとつもありません。「毎日やる」を人間の意志に課すと3週間で廃れる(第53回)——だから約束させるのは「毎日」ではなく「商談の横」です。数える物差しも「毎日書けたか」ではなく「今月、商談の前夜に何回書けたか」に取り替えて渡してください。

ここで勧める側がやりがちな失敗が、もうひとつあります。「1本だけ」と言ったのに、翌週には「これもいいよ」と2本目、3本目を足してしまうことです。1本目の循環が回り始めるまでは、追加は禁物です。自分に効いた感動を、まだ回っていない人に先に渡さないことです。

理由②:数字で見せていない

「便利だから使ってみて」という勧め方は、数字のない勧め方です。営業は数字で動く生き物です。チームに広げたいなら、便利さではなく、数字で見せること。見せかたには順番があります。

  • 部会の冒頭15分で、実演する。 第50回で書いたロールプレイの時間です。実演5分、AIの採点3分、講評7分。AIロールプレイは50点満点で採点し、40点以上で本番に出せる形にしてあります。導入週の最初の実演の採点は38点でした(第50回)。完璧な実演を見せることではなく、採点される側の席にまず座ることのほうが、チームは動きます。2週目から若手が「今日はやらせてください」と言い出すのは、この順番だからです。
  • 1on1では、掛け声ではなく数字を1つ見せる。 (1on1=上席と部下が週1回などで行う1対1のミーティング。)第46回の商談KPIで、止まっている段(初回商談→2回目以降→提示→受注の3段漏斗のどこか)を特定します。「頑張りましょう」よりも「あなたの段2が47%だから、今月はここを直そう」のほうが、はるかに効きます。数字の前では、努力の話はいらなくなります。
  • 物差しを持ち寄る。 第22回で書いた物差しの共有化です。半年1,200通の例では、アポ率2.5%のやり方と1.0%のやり方では、月3件・半年で18件の受注差が出ます。この数字の差を、各自15分で持ち寄って60分で揃えるのが、3〜6人のチームならちょうどよく回ります。道具の前後に、自分の数字を置いて見せる——それが「便利」と「自分ごと」の違いです。
  • 月の宣言を1つにする。 「数字を意識しよう」ではなく、「今月は関門2の月だ」と宣言する(第48回)。関門とは、アポ成立から成約までの6つの通過点のことです。漠然とした掛け声と、一点集中の宣言との差は、四半期で必ず数字に出ます。

理由③:型があなた個人の手元に留まっている

理由①②をやっても、まだ広がらないことがあります。道具が「あなたの手元」で完結していると、あなたが忙しい週に全部止まるからです。チームで回すとは、型を紙の外に出すことです。

  • 回答集とSOP3文書を作る。 第51回の3文書です。文書1は商談の流れ(6〜8工程、6ページまで)。文書2は回答集(初期20行、週2〜3行ずつ足して、3ヶ月で60行を超えるころには出てくる断りの型が出尽くします)。文書3は案件管理(2ページまで・5段階)。この文書があると新人が戦力になるまで約3ヶ月、なければ6ヶ月超かかります。「メンバーが使ってくれない」の裏側は、実は「メンバーが参照できるものが、まだどこにも存在しない」であることが多いのです。
  • リストの管理を週の定時に乗せる。 第23回のとおり、月曜10分・金曜10分の定時メンテナンスで、二重着手と眠るリストを防ぎます。「誰かがいつか更新する」は、複数人では必ず機能しません。曜日と分数で置く。
  • マネージャーは、自分の商談記録を最初に見せる。 第54回で書いたとおり、部下に書けと言う前に、自分の1枚を見せます。型は言葉ではなく実物で伝わります。見せられた側は、まず1ヶ月そのまま真似てから直してよい。直すのは四半期に1回で十分です(第49回)。

最後にひとつだけ書いておきます。「やる気がないから使わない」という結論は、この3つのどれにも当てはまらない場合にだけ、最後の最後に考えてください。私の経験では、指示のしかたと見せかたを直した3週間後には、その「やる気」の話は消えていました。

今日やること

  • 次の部会で、自分の商談記録を1枚だけ見せる(ブリーフ1枚でも、3行メモでもよい)。道具を勧める前に、実物を見せる順番に変える
  • メンバーをひとり選んで、第55回の物差しで「その人の最初の1本」を一緒に選ぶ。選ばせるのは本人、絞るのはあなた
  • 約束は1本だけ。「毎日」を入れず、商談にくっつける(第56回)。2本目は、1本目が回り始めるまで禁物
  • 3週間は待つ。人間に課すものは3週間で廃れる(第53回)ので、その間に足すものはゼロ
  • あなたのチームの「最初の1本」が決まったら、この記事のコメントで教えてください。3つの理由のどれに当てはまったか。それがこの連載の次のテーマになります

道具は、回している人から見ると効率の話に見えます。でも回してもらう側から見ると、それは「自分の商談のやり方を変えろ」という話です。変えた商談は、最初は必ず気持ち悪いものです。だから、見せる順番と、1本という小さな約束で足場を作る。効果の数字は、その後から付いてきます。

自分の1枚を見せて、最初の1本を約束させた今日は、ここまでで合格です。

この記事の元になった書籍では、チームに広げる章で、回答集・文書化・ロールプレイ・物差しの共有化まで、「人に勧めて回す」ための道具を扱っています。


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