「AIの文章が自分の言葉じゃないようで、そのまま送れない」に答える — たたき台で直す60秒と、持ちネタ1行の型
私は営業15年目の速水拓真です。
第55回では「道具が多すぎて、どれから始めればいいか分からない」に、第56回では「始めたのに、3日で続かなくなった」に、第57回では「部下やメンバーに勧めたのに使ってくれない」に、第58回では「会社の規定や機密情報が不安で、AIに仕事を渡すのが怖い」に答えてきました。Q&A形式5回目の今日は、そのどの段階よりも後ろで起きる話です。道具は選べた。回り始めもした。規定の不安もクリアした。なのに、最後の最後で送信ボタンの前に立ったまま動けなくなる——Q&Aの締めくくりにふさわしい、最後の壁の話をします。
今回の質問
「AIに提案書の初稿やお礼メールを書かせてみた。速いのは分かった。でも、出てきた文章が自分の言葉じゃないようで、そのまま顧客に送る勇気が出ない」
(この連載に届いた声をそのまま引用するのではなく、前回までの流れで次に来ると見込まれる質問として、想定して設定しています。)
まず認めておきます。この感覚は、気のせいでも、我慢不足でもありません。AIの初稿には、だれが書いたか分からない一般論が混ざります。15年目の私が読んでも、「これは私が言いそうな言葉だ」とすぐに頷けるものは、まず出てきません。「自分の言葉じゃない」という感想は、正しい。
でも、そこから下す結論が違います。手が止まった人は、だいたい3択のどれかを選んで止まっています。
- 直さずにそのまま送る — 違和感のまま顧客に出すのは怖い
- 直す時間が取れない — なら、とAIを使わず元の手に戻る
- 結局、全部自分で書き直す — 速いはずの仕事が二度手間になる
どれを選んでも、行き着く先は同じです。AIを使わなくなる。正しい結論はこうです。AIの文章は、自分の言葉に直して使う前提で、最初の形をはるかに速く作ってくれる。直し方に型がないから、直す時間の見当がつかない。見当がつかないから止まる。 今日はその直しの型を、この連載ですでに書いたものだけから1本にまとめます。
直しの型①:出力は「完成品」ではなく「たたき台」として受け取る
第35回で書いたとおり、たたき台で3倍速い。 たたき台(たたきだい)とは、最終稿の下になる仮の形のことです。ゼロから書き上げるのと、すでに形のあるものを直すのとでは、かかる時間がまるで違います。提案書が「3時間→40分」に縮むのも(第5回)、初稿をAIが作り、人間が直す側に回るからです。
いちばん直したいのは、AIに「完成品」を期待することです。期待を完成品に置くと、出力の良し悪しを「そのまま送れるか」で判定することになります。その判定基準では、初稿はほぼ確実に不合格で、怖さも最大になります。期待をたたき台に置くと、判定は「直すのに何秒かかるか」に変わります。同じ出力でも、受け取り方ひとつで、送信ボタンの前の怖さの大きさは変わります。
直しの型②:直しは60秒で終わる — 削る20秒・並べる20秒・直す20秒
第31回で、商談前ブリーフ(1枚600字・6項目の準備メモ)の直しの型を書きました。作成3分のうち直しは60秒で、中身は3つに分かれています。
- 削る20秒 — 要らない文を消す
- 並べる20秒 — 順番を入れ替える
- 直す20秒 — 言葉を自分の手に馴染む形に置き換える
この60秒は、ブリーフだけのものではありません。提案書の初稿にも、お礼メールにも、そのまま使えます。「直すのは60秒」という見当がついているかどうか。これが、送信ボタンの前で止まるか、押せるかの分かれ目です。 「直す」と聞くと「書き直し」を想像して腰が重くなるのは、直しの時間の見当がついていないからです。
直しの型③:「自分の言葉」の正体は口調ではなく、持ちネタ1行
ここが今日、いちばん伝えたいことです。「自分の言葉じゃない」を分解すると、2つのズレに分けられます。
- 口調のズレ(文の硬さ、語尾、テンポ)
- 中身のズレ(書いてあることが、自分の現場とつながっていない)
口調のズレは、直す20秒の範囲です。本当に直すのが大変なのは中身のズレで、これは第49回の掟がそのまま効きます。型の品質は、一般論を1行も足さないことで保たれる。 AIの初稿が「自分の言葉じゃない」ように見える最大の原因は、中身が一般論だからです。「コスト削減が可能です」「現場の負荷を軽減します」——こういう文が自分の言葉でないのは当然で、あなたの現場の実例が入っていないからです。
直し方は、第31回の直しの型の最後の一手そのものです。持ちネタの実例を1行足す。 先方が商談で言った言葉、その会社の事情、あなたの現場の数字——1行でいい。持ちネタの1行が入った瞬間、その文はあなたにしか書けない文になります。文章全体を書き直す必要はありません。1行です。
そして持ちネタの原資は、第53回で書いた、商談の出口の60秒3行メモです。温度感・決め手と詰まり・次の一手。この3行を商談のたびに溜めておけば、直しの60秒の最後の1行は、思い出してひねり出すのではなく、メモから選ぶだけになります。
口調も同じです。口ぐせは、第53回の道具72(週次レポートの道具)で、複数の商談記録に同じ傾向が現れたときだけ1つ採る、と設計してありました。1回の商談で思いついた言い回しは口ぐせではなく、その場かぎりの思い付きです。自分の言葉は、その場でひねり出すものではなく、記録から選ぶものです。
直しの型④:先方に関する事実は、文体より先に「確認形」で直す
直す順番にも掟が要ります。第31回で書いたとおり、AIは事実を捏造します。 初稿のうち先方の会社について書かれた部分は、正しいとも間違っているともつかない前提で扱います。だから、先方に関する情報は確認形の「〜と伺っていますが」に置き換えて使う。
文体の違和感で送れないより、事実の違和感で送れないほうが、よほど深刻です。直す順番はこうです。①事実を確認形に直す → ②持ちネタの1行を足す → ③口調を直す。事実 → 中身 → 口調。 この順で直すと、60秒の中でやることが重なりなく決まります。
直す時間がないなら、「商談にくっつける」
直しの60秒は、出力をもらったその場で使います。予約も定時も要らない60秒です。それでも「時間が取れない」と止まる人は、原資を作る側か、直し方を毎回考え直している側の、どちらかが止まっています。そこで、第56回で書いた「商談にくっつける」置き場所を、直しに合わせて並べます。
- 前夜3分 — 明日のブリーフの直し。直しの60秒はここでも使う
- 直後60秒 — 商談の出口の3行メモ。持ちネタの原資はここで生まれる
- 金曜10分 — 週次レポート(道具72)で、今週の記録から口ぐせ1つと持ちネタを選ぶ。見つからなければ「今週は見つからない」で合格
- 月曜10分 — 棚卸しで、選んだ1行を今週の文面に足す約束を1つだけ決める
「毎日、全部の出力を直す」——この選択肢は、ここにひとつもありません。第56回で書いたとおり、続かない原因は意志ではなく道具の置き場所です。意志と根性で続いた習慣を、私はひとつも持っていません。
直しすぎにも線を引く — 型は1ヶ月真似て、直すのは四半期1回
最後に、逆側の失敗も防いでおきます。「自分の言葉にしたい」衝動を、いきなり全部の文面に適用すると、型の品質はむしろ下がります。第49回で書いたとおり、型は1ヶ月そのまま真似てから、それで使いづらいところだけを直す。改訂は四半期に1回。 「自分の言葉っぽく」直した文は、大半の場合、持ちネタのない一般論に戻っています。中身を直すのは持ちネタ1行だけでよくて、残りの直しは口調の範囲にとどめる——この線を引いておくと、冒頭の3択目「結局、全部自分で書き直す」に転がり落ちません。
今日やること
- 明日の1本だけ、直しの60秒を回す(提案書の初稿か、お礼メールか、明日のブリーフか)。削る20秒・並べる20秒・直す20秒
- 持ちネタの実例を、過去の商談メモから1行選んで足す。まだ原資がなければ、次の商談の出口の60秒3行メモから作り始める(第53回)
- 先方に関する事実が1行でもあれば、確認形の「〜と伺っていますが」に直す
- 全部の出力は直さない。直すのは明日の1本だけ
- 「直しの60秒を回しても残る違和感」があれば、この記事のコメントで教えてください。それがこの連載の次のテーマになります
持ちネタ1行が入った文章は、書いた本人にしか書けない文章になります。それが「自分の言葉」というものの正体です。AIの初稿をたたき台にして、60秒の直しと1行の持ちネタを回した今日は、ここまでで合格です。
この記事の元になった書籍では、商談前ブリーフ、議事録のたたき台、お礼メールの章で、直しの60秒と持ちネタ実例1行の考え方を、道具ごとに扱っています。
🎁 読者特典3点セット(無料)
- ① 提案書3層プロンプト — 40分で6枚の提案書を出す、貼って動く完全版
- ② 調査カード3分プロンプト — 1社30分の企業調査を3分に(5社まとめ処理つき)
- ③ 商談前メモ5箱テンプレート — 商談5分前に読める1枚(AI整形プロンプト+記入例つき)
メールアドレスだけの登録で3点すべてすぐ受け取れます(解除はいつでも)。登録完了ページで特典3点セットが即受け取れます。
→ 読者特典3点セットを受け取る(無料)
📗 シリーズ全3冊: 営業の仕事をAIに任せろ ・ 見込み客をAIに探させろ ・ 商談をAIに鍛えさせろ