「上司に『AIって、うちの商談で本当に効くのか』と聞かれて、数字で答えられなかった」に答える — 82分の差と、週1枚のレポートで説明を終わらせる
こんにちは、私は営業15年目の速水拓真です。
前回は「AIの文章が自分の言葉じゃないようで、そのまま送れない」に答えました。AIの出力は完成品として受け取らず、たたき台として扱う。直しは60秒。そして自分しか書けない持ちネタを1行足す。送信ボタンの前で止まらなくなる話でした(第59回)。
今日はQ&A形式の第6回です。連載を回していると、後半でぶつかる質問が決まってきます。前の5回が「どれから始めるか」「3日で続かない」「メンバーに使ってくれない」「規定や機密が不安」「文章が自分の言葉じゃない」でした。今回はその先、回り始めたあとに来る質問の想定で書きます(届いた実コメントの主張を代弁するものではなく、想定をこちらで補って誠実に並べる形です)。
「上司に『AIって、うちの商談で本当に効くのか』と聞かれて、数字で答えられなかった」
個人の作業は回り始めている。商談前の準備、メモの整理、お礼メールの下書き、そこは「楽になった」と自分でも実感している。なのに上司が「で、うちの商談の本数や受注はどうなってるんだ」と聞いたとき、口から出てくるのが「速くなった気がします」だけだった。気持ちを返すだけでは、上司の物差しの上に数字が載りません。この答えは、数字がゼロの答えとして置かれてしまいます。
まず結論からです。
効果の説明に必要な数字は、1つでよい。おすすめは「商談前の準備時間の差」です。
立派な月次レポートを新規に作って取り戻そうとしないこと。全部を一度に作ろうとする仕事は後ろから走ってくる負担になります。全部リストのTODOは2週間で誰も見なくなり(第45回)、人間に課す運用は3週間で廃れます。1人の仕事ですから、まず差の数字を1つ。それから、その数字を週1枚に乗せて、口頭の説明を短くしていく。この順番で並べます。
説明を終える1行目が、日々の差
まず、差に書ける数字の候補を挙げます。全部、この連載で前に登場した数字の使い直しです。
- 商談前の準備: 手作業は1件25分。商談4件ある日は100分。前夜3分と当日朝15分に置き換えると合計18分。4件ある日の差は82分(第52回)
- 準備ができたまま商談に入れた割合: 約4割から9割超(第52回)
- 提案書: 手書きで半日〜3時間の仕事を、たたき台で40分に(第5回)
- 企業調査: 1社30分を3分に(第4回)
- 商談記録の入力: 1件20〜30分を5分に(第53回)
この中から1つ選び、手元で確認できる形にしたものを1行にして上司に渡します。たとえばこうです。
「商談前の準備は、4件ある日に100分から18分になりました。差は82分です」
「準備が済んだまま入れる商談が、4割から9割に動きました」
「速くなった気がします」が「100分から18分」に変わるだけで、話の種類が変わります。気持ちの報告から、日々の仕事の記録の報告へです。上司が本当に聞いているのは、努力の気持ちではなく、時間と数字の動きです。ここは、がんばって上手な説明を書く手間を、差の1行に置き換える作業です。
「本数や受注を聞かれたら」は、速度計と位置表示の2枚で返す
差の数字が「じゃあ本数は増えたのか」と言われると、個人準備の話はここが薄い。そこで商談KPIの設計に戻ります。商談を初回商談、2回目以降、提示、受注の3段に分け、段の移動を4カウントで数えると、速度計になります。
以前連載に書いた例です。初回商談40本、2回目に進んだのが24本、提示まで行ったのが16本、受注6件。転換率は順に60%、67%、37.5%、全体で15%です。この計算から、受注1件に必要な初回商談が約7本だと数えられます。段ごとの健康ラインは、段1が50%台、段2が60〜70%台、段3が30〜40%台でした。
もう1枚は位置表示です。停滞している案件の数と滞在日数を並べる、位置の確認の方です。
この2枚があると、上司の「AIって効くのか」への答え方が変わります。「今月の段3が37.5%と下寄りです。提案の機会に決裁されている方に同席をいただけないかという一手を打つので、来月この数字を出します」。感想を語る報告ではなく、運転の記録の報告になります。「効くのか」という問いは、そもそも運転の記録を置く場所に置くべき問いです。数を増やすのか、転換を上げるのか、どこを直すのか。そこに数字を並べた瞬間、AIの効果は「うちの商談の中の、弱い段をどう直したか」という話に変わります。
週1枚のレポートで、口頭の説明を終わらせる
自分の商談の数字が数えられるようになったら、週次商談レポートの型に乗せます。この回の考え方は「数字はもう書いてある」です。日々の商談から4つのカウントが集まっていれば、週報の9割はすでに出来上がっている。新規に書く部分はありません。
作成の負担も既出の通りです。月曜は棚卸し10分、レポートの作成3分、追記1分で合計14分。これを4週と、月次用の5分で月間61分。書き方を作文型に保つと週40分、年50週で約29時間、丸3日分になります。部会では、作文型の報告は感想の語りに1時間取れていた場面が、数字に置き換えると20分で終わりました。
上司への説明も同じ原理です。口頭でがんばって説明するかわりに、数字の入った1枚を部会に置いておく。置いておけば説明が終わるので、残りの時間は「来月どこを直すか」の1件に使える。報告が短くなるのは、減るものを減らしたからではなく、すでに書いてある数字に説明を引き受けさせたからです。
個人の手柄でなく、チームの物差しにして長くする
回り始めた数が1人分しかないと、上司の頭の中ではまだ個人のこだわりです。数字は、チームの物差しの共有化に置くと長持ちします。
この回の型は、3〜6人で持ち寄り60分。各自15分で自分の数字を持ってくる。チームの物差しの更新は月1回、差し替えるのは最大3個です。半年で1,200通の初回文面を使った事例では、アポ率2.5%と1.0%で、月の商談3件、半年では18件の受注差が出ました。
「AIってうちの商談で本当に効くのか」に対し、1人で言い張る形と、3〜6人の物差しとして月1回更新される形では、寿命がまったく違います。上司が聞いているのは「あなたが楽になったか」ではなく「部の勝率が動くか」です。物差しに置いた瞬間、答えの置き場所が正しくなります。
崩れを毎週見つけておくと、根拠を聞かれても負けない
数字を出し始めると「それ、何に基づいた数字なんだ」と、根拠を聞かれる番が来ます。ここでその場で思い出していると、数字の信用が揺れます。週次改善ループの勝敗の記録は、この答えを先週分まで置いておく仕組みです。
同じ5行の表に、毎週実質3回の貼り付けで週の数字が並びます。在庫、稼働、転換の3つのラインで崩れを判定し、接触の前週比マイナス30%のような形が1つでも出たら、「要対応」として1段だけ直す。根拠を聞かれたときの答えは、「毎週この表が更新されています」の1文と、その表になります。数字は、出した後の見方を先に揃えておくと、質疑の時間も減ります。
関門の数字が動けば、上司の質問の質が変わる
最後は、改善ループの話です。商談の通過を、アポ成立から成約まで6つの関門に分けて測り、落ちる場所を数字で特定します。連載で書いた佐藤さんの3カ月の例では、関門4、つまり見積を提出した後に決裁者との面談まで進められない場所の通過率が28%と、目安の50%を大きく下回っていました。落ちた13件のうち、理由C、決裁者に会えなかった案件が8件。そこで、見積を出す場面で、決裁者の面談を次のアポとして同時に取る一手を打った。翌月には28%が44%になり、成約率も約5%から約8%に動きました。
数字を語れるとは、「弱い場所はここ、手は1つだけ、翌月44%」と1行で言えることです。説明の語彙が、気持ちの語彙から数字の語彙に置き換わる。3カ月たたないうちに、上司の質問は「本当に効くのか」から「今月の弱い関門と来月の手は?」に変わります。効果の説明で勝ち続ける必要はなく、運転の記録を続けるだけで、質問する側が数字の会話に乗ってきます。
今日やること
- 今週だけ、商談前の自分の準備時間を手で記録する。前夜に書けたか、当日朝に何分かかったか。手でつけないと差は出ません
- 来週、手作業のときの数字と並べて、差を1行にします(例: 商談4件ある日は準備100分から18分、差は82分)
- レポートを新規に作り直しません。もう形式が決まっているなら週次商談レポートの形のまま、次の部会に1枚置くだけです
- 数字は1つから始める。2つ目は段の転換率、3つ目は関門の通過率と、後から足せばよい
- 上司の質問には感想ではなく差の1行で返す。返し切れなかった質問は、次の関門測定の材料にする
「あなたの部では、上司への説明にどの数字を使っていますか。差の数字がまだないなら、この記事の元になった書籍のどの章から始めるかと合わせて、コメントで教えてください。それがこの連載の次のテーマになります。」
感想のかわりに差の数字。口頭の説明のかわりに部会に置く週1枚。「効くのか」という問いを、がんばりの会話から数字の会話に置き換えた今日は、ここまでで合格です。
この記事の元になった書籍では、発掘KPIと商談KPIの章、週次レポートの章で、数字の数え方と一覧表の作り方を、道具ごとに扱っています。
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