いちばん重い仕事から手をつけて、AIを2か月開けなかった話
こんにちは。速水拓真です。
前回は、断りの言い分を記事に積み替えて、探す側から選ばれる側へ回した話を書きました。朝6時の表でA判定を付けて、向こうが先に動いてくる。この線はいま、朝から回り続けています。その線が朝から回るようになった裏に、一度まっすぐ倒れてから、順番を引き直した記録があります。昨日の昼、後輩が机に来て、「次は、いちばん時間がかかる仕事から渡しましょうか」と聞きました。1年ほど前の私は、まったく同じことを考え、まったく同じ一手を選び、あれから2か月ぶん道具を開けませんでした。
いちばん重い箱を、最初に選んだ
1年ほど前の手元で、時間をいちばん食っていたのは提案書でした。1枚書き上げるまでに半日が床に落ちる仕事で、ここを潰せば週の姿が変わると計算しました。時間の計算そのものは合っていました。合っていなかったのは、箱の選び方です。過去の提案書を読み込ませて、言い回しと体裁を道具に合わせる調整に2週間。動かし始めると、生成された数字の出所がどこにも残りません。届ける前に毎回ゼロから検算して、直して、また読み返す。手で書いたほうが速い状態が2か月続いて、道具を閉じました。独り言の「AIは営業に向いていない」まで言ったのは、私です。
2か月開けなかったあいだ、手元で動いていたのは昔のやり方だけでした。提案書は半日のまま。商談の翌朝の共有は書けないまま積み上がるまま。私は道具が原因だと思い込んでいましたが、置いていかれていたのは道具ではなく、順番のほうでした。いちばん重い箱は、失敗がお客様の目に届く箱で、検算の手がいちばん重い箱です。時間がかかる仕事は任せる価値が大きく見えます。その見え方が、最初の一歩の判定を丸ごと上書きしていました。
最初の一手は、正解が自分の頭にある箱から
道具を開け直すことになったのは、商談メモを翌朝共有しなければならなくなった日の夜です。手書きのメモをAIに投げて、要点だけ返してもらう。返ってきた文を、頭の中にある本当のことを基準に読み、2行だけ直す。合計で10分が足りました。この箱の特徴は、正解が私の頭の中にあることです。AIの間違いには最初の1分で気づけます。間違えたまま出しても、届くのは私一人です。検算が軽く、失敗が外へ出にくい。最初に渡す箱は、時間の残りが大きい箱ではなく、この2つの条件が揃った箱だと、その夜に引き直しました。
裏を返せば、最後に回す箱も決まります。提案書の中身、見積書の数字、価格交渉の一文。失敗が先方の目に届く箱は、最後の場所で動かします。いま提案書の初稿が商談メモから20分ほどで上がってくるのは、手前の箱たちが先に整っていた結果です。提案書が最後の場所から動くかわりに、朝の時間が残る。順番を引き直すと、倒れる場所と戻る場所が両方変わります。
10分を2週数えたら、次の箱へ
進むか、待つかは、感覚でなく数字で判定することにしました。議事録の箱に置いた条件は、商談1件あたりの確認が10分以内で済むこと、それが2週連続であること。2週目を切った日をメモに書いて、調査の箱へ移りました。移るときの条件も先に決めてあります。先方に「その数字はいつ時点のものですか」と聞かれて、答えに詰まる回数がゼロであること。商談で読み上げたひとつが古かった日の記憶があるので、この条件だけは譲れません。
数字で切る理由は2つです。感覚で待つと「まだ」という言い訳が続きます。感覚で進めると「そろそろ」という早すぎが起きます。卒業条件が数字で残っていれば、進むべきか待つべきかが事実で判定できて、他人の進捗と比べる必要ごと消えます。人によって2週で卒業する人も、1か月かかる人もいる。速さは自由で、途中の数だけが拘束です。
戻す日は、先に決めておく
戻すときの基準も、はじめに紙に書いておきました。検算と直しに手作業と同じかそれ以上かかる状態が2週続いたら、その箱は手作業へ戻す。卒業条件の数字を2週連続で下回ったら戻す。そして、どの箱にも、AI化する前の手作業の手順を箇条書き5行でメモして置いてあります。戻す作業が5分で終わるためです。手順のメモがないまま戻ると、「あのころどうやって書いていた」を思い出す工程から始まって、戻る気力ごと削れます。戻す日を先に決めておくのは、負けを予約しているのではありません。気分で粘るか、数字で退くかを、良い体調の日に決めておくことです。
戻した箱に、提案書がありました。2か月閉じた箱は道具も進歩していて、その後に開け直したら、普通に動きました。手作業へ戻すことを挫折と呼ばない理由はここです。戻すは閉じるではなく、時期を遅らせる。再挑戦の日程も、失敗の種類も、そのまま導入設計の一部としてメモに残ります。
後輩には、重い箱を渡さずに始めさせている
後輩へ渡した順番も、同じ原則で組んでいます。最初に渡したのは、当たる条件の4列の定義書と、朝の表の受け取り方だけ。議事録が確認10分で済んでいるのを隣で見て、自分から毎朝6時の登録を済ませてきてくれたのは一昨日のことで、提案書を渡しましょうという相談は、昨日のあの一言でした。布教は説明で行えていないことを、私は20年で知っているので、説明は最小にして実物を置くだけにしています。いちばん重い箱を先に渡すと、最初の失敗が相手の名前で届きます。それは次の箱を任せたい人間に、いちばん重く掛かる。順番は、任せた本人のためにも、先に決めておくものです。
任せる線
手元の箱の一覧を並べ替える下調べ(どの箱が検算しやすく、失敗がどこに届くか)、卒業条件の数字の集計(10分を切った日が2週並んだかを数える)、戻す時期の見張り、がAIに渡った仕事です。最初の箱を決めること、卒業を認めること、戻すことに署名すること、そして戻した箱をいつ開け直すかは、私のままです。AIは箱の中を速くしますが、箱の順番で私の名前で説明する資格は持っていません。順番を間違えた日は、速さも根拠も一緒に倒れます。順番の設計は、任せる仕事の外側にあって、まだ人間の仕事です。
今週、ひとつだけ試すなら
手元の仕事を紙に2列で書き分けてください。左は失敗が自分の目の中で完結する箱、右は失敗がお客様の目に届く箱。書き分けられたら、左の列から1つ、AIに渡します。渡す箱の、AI化する前の手順を5行だけメモにして置いておく。いちばん時間がかかる仕事は、早く任えるほど倒れやすいので、最後の場所に置いておくだけで足ります。順番が決まると、重い箱は負担から、順に取り返す在庫に変わります。
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