速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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20年ためた決め手を、初めて点数に直した話

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こんにちは。速水拓真です。


前回は、作った道具を人に渡す前に、まず本人が2週間を使いきる話を書きました。今日はその前の工程にもどります。機械に会社を選ばせるための表を、どんな材料から作るかの話です。その材料を、つい昨日まで私は「自分の決め手」と呼んでいました。昨夜から「記録」と呼んでいます。呼び名を替えた昨夜の話です。


手帳の1行目は、「決め手」として20年書いてきた


15年前、私は手帳に一枚の表を挟み始めました。見出しは「当たり筋」。会社を選ぶときに見る条件を、一行づつ書き込む表です。


書き方は、あとから足す形でした。受注した日の夜、その会社の何に引かれたか。一言だけ書きます。「若い社長が突っ走っていた」。それが1行目になりました。翌年の当たりには「現場の目が生きていた」。負けた年には「社長が代わっていたので、うちに話す番が回ってこなかった」。気が向いた年には「なぜか縁を感じた会社」。


この表と並べて、別の1冊には打ち合わせのあとのメモ、送った文の写し、あの方の言葉を写した1行が積もっていきます。20年で何百行になったか、数えたことはありません。書いたのは全部、その日の私で、その日の自分が読むための文です。読めるのは、その年の私だけの文。


「若い社長が突っ走っていた」の「若い」を、外のどこで測るのか。この20年、手帳は一度もその問いを発しませんでした。


5年前の当たりが、今日の点数表に乗れていない


1年前、リストを機械に作らせるようになったとき、私は手帳の「当たり筋」を読み上げて点数の表を作りました。条件は10行。どれも20年来の決め手の文から、やわらかい骨だけを残した形でした。


表はそのあとずっと、リストの中心にありました。ただ、上位に来る会社の型が、だんだん1つに偏っていました。動きの大きい会社。発表の多い会社。新しい計画を次々に載せる会社。そして15年前に初受注をくれた型の、静かな会社が、機械に選ばせてから一度もいません。


昨夜、5年前の受注のノートを開きました。静かな当たりです。決め手はこう書いてありました。本社の機能が、工場のある町へ引っ越してきた。受注の原因の1行でした。点数の表をなぞってみます。どの行にも、1つも当たりません。5年前の当たりが、20年ぶんの決め手を持つ今日の表で、見つけられない設計になっています。


手帳の表が悪いのではありませんでした。表の材料が、記憶だったのです。記憶はこの3年を厚く拾い、大きな案件を大きく数え、ドラマのあった年を前に出します。地味な当たりは静かに抜け落ちる。それを1年ぶん、点数に乗せ続けていました。


記録は、1件3行で書き出した


昨夜の続きです。机にノートを並べて、案件を1件3行の形に書き出しました。1行目は業種と規模。2行目は受注額、外れた案件ならその理由の1行。3行目には、決め手を事実の一文で書きます。


ここが、20年前からの決め手のメモと、真っ先に違う場所です。事実の一文は「熱意が伝わった」ではなく「既存の装置が10年目を越え、消耗品の伝票が毎期増えていた」の形。原因を推さず、外から見えるものだけを書く。


当たり5件、外れ2件の計7件に絞りました。当たりの1件には、あの5年前の静かな受注を入れました。表が拾えていない受注は、検査に使ってはじめて役に立ちます。書き出すのに45分。この1枚を渡して、こう頼みました。過去の受注そのものから、当たる条件を引き出してください。点数にもしてください。


機械は「熱意」を外のどこでも見つけられない


返ってきた第一表には、条件が13行。その中に「社長の方柄」「相性」「空気感」がありました。私はここで、自分の書き方の癖を、機械の向こうからはっきり見ました。


決算短信に「熱意」という文字は、どこにも載らないのです。


私の観察の言葉は、外の記録では読めない言葉でした。機械へ渡す条件は、翻訳が必要です。翻訳先は5つ。決算。求人。プレスリリース。補助金の採択一覧。登記。この5つで見られない条件は、機械には使えません。


  • 「社長の危機感」は、決算の経営者の分析の欄に、競争・採用・老朽化のどれかの語が入る形に

  • 「現場が追い詰められていた」は、同じ職種の求人が90日以上出続けている形に

  • 「動き出す直前の会社」は、役員変更か本店移転が直近6か月以内の形に

  • 「縁を感じた」は、翻訳できません。番外です


20年ぶんの決め手のメモを翻訳し直すと、通ったのは5行。残りはすべて、番外になりました。番外の行は捨てませんでした。面と向かう席で使う値として、手帳の余白に置いてあります。機械の表に入らないだけで、20年ぶんの値が消えた話ではないのです。


逆転した1件は、条件が1つ足りなかった


13行のうち、当たり2件しか該当しない行を消して、7行まで絞りました。外れ2件と合う行には印を付けました。ほかの業者の導入例を発表している行。ここは外しの証拠として、いちばん重く使う行です。


そして採点表を、私の7件に当てました。合格の形は1つ。当たり5件が上位に並び、外れ2件が下位に沈むことです。


最初の並べでは、当たりの最低48点が、外れの最高57点の下に沈みました。順序が1か所だけ、逆っています。


48点の当たりを開き直すと、決め手の3行目にこうありました。本社の機能が、工場のある町へ引っ越してきた。表には登記の行がありませんでした。機械に1文送ります。役員変更か本店移転が直近6か月以内、を15点で追加して、7件をもう一度並べてください。2度目の並べで、その当たりは63点に浮かびました。当たりの最低が外れの最高の上にもどり、隙間は6点。狭い。ただ、順序は守れています。


逆転は、条件が1つ足りない合図でした。表を優しくする話ではなく、表に書いていない事実を、記録の3行目から1つだけ移す話です。


2周で切り上げる


57点の外れは直しません。失注の理由は、既存の専属業者より4割高かった。価格で負けた会社を、表で直す場所はありません。あの会社は、当たりやすい型だったのです。


直すのは、逆転の1か所だけ。ここで2周目を終えました。3周目からは、7件という小さな母数の癖に、表を合わせ込みはじめます。母数に合わせ込んだ表は、新しい会社に対してむしろ当たりが落ちます。2周で切り上げるのは手を抜く話ではなく、これから先の当たりを守る話です。


記憶と、記録


記憶に書いた決め手は、その年の自分のための文でした。記録に書く決め手は、翌年を読む私でもない誰かのために書く文です。機械が読めるのは後者だけ。


2週間ほど前に書いた、物差しを文章の形にして渡す話は、人間が読む表の話でした。本回はその反対側です。機械が読む表は、私の口からではなく、私の記録からはじまります。何を重く見るかを自分で決めて列を足した話も、以前書きました。本回の向きはその反対で、過去の受注に聞いて、当たる条件を機械に引き出させる抽出の側です。表は1枚に見えて、材料で2つあります。手帳の表は人間用に残り、記録の表は機械用として並ぶ。


任せる線


1件3行で記録を書くのは人間。決め手を事実の一文に置き換えるのも人間。条件の抽出、当たり率、点数、逆転の検出と再並べ替えは機械。翻訳先の5つを定める、低信頼の行を消す、逆転を直すかどうか、2周で切り上げる判断は、全部人間のまま動かしていません。


記憶の表には、20年ためた値が番外として残っています。消さずに置くかも決めるのは人間です。機械に渡す表から「熱意」を抜くことと、自分の手帳から「縁」を消すことが、同じにはならない。その線の位置は、15年前に書いた表の残す側から教わりました。


今週、ひとつだけ試すなら


手元の決め手のメモを一行あけてください。そして外から見える形に、一行だけ直してみる。直せたなら、それは点数にできる行です。直せなかったなら、その行は番外。メモの余白に置いて、ほかの行から始めます。20年前の私には、どの行が点数にできるのか、確かめる場所が一つもありませんでした。今週は、その確かめ場所を一つだけ手に入れてください。


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