速水拓真 営業×AI 実践シリーズ
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断られたら黙っている、が20年の癖だった話

初出: note

こんにちは。速水拓真です。


前回は、商談に向かう電車の中でAIを動かす話を書きました。今回は商談が完全に終わってから届くメールの話です。それも、いちばん終わりに近い断りの話です。「今回は見送らせていただきます」。この一文が届いたとき、私は20年、返信を書かずに閉じてきました。失注そのものを振り返る話は前に書きましたが、今回は断りの次の日の返信の話です。その癖を壊した先週の話を置きます。


断りの翌日だけ、机の上が早い20年だった


断りが届くと、20年前から変わらず、私は早い。案件のフォルダを閉じて、顧客リストの行に印を付けて、次の商談の資料を開く。沈黙は礼儀だと思っていた。相手が思い切って出した結論を、こちらが粘って引き返させるのは失礼だ。そういう美談のかたちで、この癖は20年守られてきました。


書かなかったのではなく、書けなかったのだが。断りの直後に返信を書こうとすると、必ず「大変残念です」が1通に3回入り、どこかに値引きの匂いのする1文が紛れ込み、締めが「ご都合のよろしいときに」に崩れる。上げたものがどれも薄汚れるので、書かないほうが潔いという結論に、20年のあいだ到達し続けていた。


同僚にこの話をしたら、「お前、断られた案件の話って、いつもいちばんさばさばしてるな」と言われた。言われて思い出した。断りが届いた日の午後は、次の商談の準備がやけに捗っていた。振り切るための早さだった。その早さの中で、行は1行だけの記録に戻り、相手の社内に残した提案書も、届いた断り文の言葉も、どこにも保存されない。


断り文は、3つの型にしかならなかった


先週、過去の見送り文をまとめてAIに貼った。棚卸しのつもりで、断り文を何十件か並べさせて分類させた。出てきたのは、3つの型だけだった。


  • 時期と予算の型。「来期にまた」「予算の関係で」。断りの理由が、提案の中身の外側にある

  • 競合の型。「他社にお願いすることになりました」。決まった先が見えている

  • 内部の型。担当が変わった、返信が途絶えた。理由が読み取れないものは、ここへ全部入れる


並べ終えて最初に思ったのは、負けの形というのが思ったより少なかったということだ。そして、次のチャンスの落ちている場所が、この3つのどこかで決まっている。予算の型は年度が回ってくる日。競合の型は契約が満期を迎える日。内部の型は人事が動く日。断り文には、もう次の日付が書いてあった。20年、私はその日付を読まないまま、行を閉じていた。


分類が先で、文面はそのあと。ここから先をAIに任せた。断りの直後の文章は感情で汚れる。その切り離しが、AIに外注する価値のある仕事だった。


返信が、失注を「終わっていない案件」に変えた


型が分かれば、送る文面は3本に決まる。届いた当日の1通は、相手の判断をそのまま認めて、提案書を手元に置いてもらって、次の連絡を日付付きでこちらから宣言する。AIが指摘したのは、「また何かあったらご連絡ください」で終わる返信は、返事が来る見込みのない挨拶だということだった。連絡する側に自分を置いて、予算が固まる3月に行くと書く。この1文で、リストの行に日付が戻った。


数か月後に送る1通では、詫びない。ご無沙汰の謝罪は、相手の中で前回の断りが「悪いこと」に変わってしまう。連絡しなかったのは結果として両方の判断で、謝る事柄ではない。それから、最後に3択を渡す。改めて話すか、資料だけ送るか、今回は見送るか。3番目をわざわざ書くのが肝で、断る口実を先に渡してあると、返ってくる言葉が形式的なものではなく本音に戻る。


そして、その3択に「話す」が1件、返ってきた。去年の秋に自分で閉じた案件だった。返信に気づいたのは金曜の昼で、社内の食堂で昼食の盆を持ったまま立って読んだ。1行目に、4月から新年度の体制が固まったので、まずはお話だけでも、とあった。30秒で読める返信だった。たったこれだけの行が、20年で1度も戻ってこなかった場所から、初めて戻ってきた。


この数字が手元に1つもなかったのが、20年分の沈黙の実費だった。一度でもやり取りした相手の行は、新しい名簿の行よりずっと温かいはずなのに、私は断りが届くたびに、温まった行を自分の手で冷ましていた。


空白の箱は、もう1つあった


前回、移動の中の空白に気づいた話を書いたが、空白の箱はもう1つあった。断りのあとだ。どちらも、渡すことを考えていなかった空白である。AIへ渡す手順の話は世の中に多いが、この連載で書いてきたのは、その前の話だ。20年前からある前提が箱を塞ぐ。断られたら静かに閉じるのが大人だという前提のように、リストをつくる段階から1行で外れていた。


いまの決まりは、2行だけ残す。断りが届いたら、型を1つ決めて、次の日付を1つ書く。その2行だけは手でやる。あとの文面は、AIに切り離してもらう。終わりに見えた日から、案件はまた始まる。断りが届いたその日が、その案件の次の開始日である。


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